魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -
京香の異変4
「あれは京香くんが抑えていた魔力が一気に解放された魔法だよ」
と説明する学園長に俺が口を挟む。
「ちょっと待て。魔法学では一定以上体内にM原子が蓄積されたら自然と調整して、減らすんじゃないのか?」
「それがね、ケンジくん……」
何やらメモ用紙を持っている三縁が恐る恐るといった感じでそのメモに書かれている事を言う。
「あるんだって、そういうの。異常なパラメータを持つ人はたまに魔法を使わないと魔力が蓄積され続けるって……。もう世界では数件見られている症状らしいよ」
「いや、それはおかしくないか? だって京香は普通に魔法を使っていたぜ?」
稽古。あの時だって炎系魔法は制限していたものの、その他のものは使っていいという事でやっていたはずなんだ。
と、そんな俺に遊楽太一郎は首を横に振る。
「あの子の場合は違う――それが炎系魔法限定なんだ」
「なっ……!?」
「よくわからないけど、あの子の魔力パラメータは今まで見たこともない、異常な数値だった。彼女の得意な魔法は火炎系。それを抑えていて、体内にある火炎系の影響で熱が発症した――筋は通っていると思うよ?」
「おい、それだと魔力自体に火炎系の魔法が含まれているみたいじゃないか。魔力っていうのはそういうモノじゃない筈だろ?」
今の学園長の言うことだと魔力自体が魔法と化しているような、そういう言い方なのである。
だが、それは矛盾している。魔力と魔法陣で、初めて魔法が生まれるのだ。
「でも、そうじゃなかったらそれ以外の説明はつかない。……論より証拠ってやつだよ」
と、吐き捨てるように言う学園長の言葉が俺に重くのしかかる。
論より証拠……。
それはまるで見たもの全てが正しいような。
そんな感じに聞こえ、何故かイラッとしてしまった。
「……なあ、このままだと京香はどうなる?」
「この予想はおそらく当たる――当たって欲しくない予想だ。このままだと京香くんの行く道は『自滅』だ」
「――!」
「自分の出した魔法に燃やされ続けて何もかもが跡形もなく消し炭になる――」
「――なら、それを止めればいいんでしょ」
遊楽太一郎のセリフを遮るように言い、炎の前に立ったのは、通常のハードカバーの本の、一回りほどの大きさの本を取り出した豊岸だった。
「この炎を消せば、篠崎さんは助かるのよね」
そういう彼女の手元にある本のページには――。
「魔法陣――!」
つまりその巨大な本自体が彼女の魔法道具。
「直接書き込み、すぐに出せる――今までの魔法道具の2つのタイプの中間を取ったモノよ。まあ直接魔法陣に触れなくちゃいけないから、ページを捲っている間が命取りなんだけどね」
と、豊岸が説明している間に、本は青白く光りだす。
そして周りには。
「水……」
「そう、私の得意な魔法は水系。篠崎さんと相性が悪いのよ――まあそれが有利に働くわけだけど」
魔法によって作り出された水はどんどん集まっていき、やがて豊岸の頭上に一つの巨大な水の渦が作り出された。
本がまた青白く輝き――水の渦は空を切るようなスピードで炎に迫っていく。
そうして彼女の水で炎を消すかと思えた――その時。
「っ!?」
豊岸の放った水は――触れるか触れないかの一瞬で消えたのだ。
それは炎の熱が高すぎて水が一瞬で蒸発した様子ではなく。
まるでそこになかったかのように――文字通り、『消えた』のである。
この現象にここにいる誰もが目を見開いていたが――
「『反魔力魔法』――!?」
誰よりも驚いていたのが学園長だったといえよう。
表情では軽く驚いているように見えるのだが――手が、声が少しばかり震えている事に気がついた。
「おい、なんだ。その『反魔力魔法』っていうのは」
「……文字通りだよ。『魔力での攻撃を無効化する』。要は魔法を使ったモノが触れた瞬間、それは触れた魔法をM原子に分解する力だ」
「なっ……!?」
魔力を無効化する。
聞いたことないぞ、そんなの――!
「……これはちょっとやばいね。理事長がいれば解決なんだけど、生憎彼女は仕事で出張中でね……」
「そんな……!」
「……こればっかりは僕の魔法も役に立たない」
頭を必死に抱えるようにする学園長を――俺はどん底に落とされた気分だった。
つまり――為す術がない。
俺のせいで。
俺が火がトラウマだと言ってから京香は一切炎系の魔法を使わなくなった。
そのせいで――京香は苦しんでいたのだ。自分の行為を制限されていて。
そういえばあの時から数日経ってのところからやけに頬を染める事が多かった気がする。
それは今になってようやく理解出来る。あの時からこうなって行く事は予想できたのだ。
完全に俺のせいだ――!
やっと。やっと、解決すると思っていたのに――!
俺の頭の中が再びあの十日間の記憶を思い出させる。
先の見えない、闇。絶望の中に彷徨っているような感覚――生きている気がしない、現状。
そんな感覚が俺の全身を蝕むように駆け巡る。
もう、手はないのか――。
「俺のせいで、俺があんな制限するような事を言ったせいで――」
「――それは違います!」
と、俺に言い放ったのは――さっきまでずっと黙っていた優梨だった。
「京香ちゃんだって――ケンジくんに嫌われたくないから、自分から制限したと思うんです」
「優梨……」
「だって、そうでしょう? 自分の友人に『嫌われるような行為』は普通、したくないでしょう?」
「――!」
「だから、ケンジくんのせいではないですよ?」
それに、と優梨が怒るように大きな目を吊りあげる。
「まだ助かる手があるかもしれないのに――そんな諦めたような顔をしないでください」
「…………。……そう、だな」
俺は自分の中にあった負の感情を消し去るように、自分の両頬を叩く。
そうだ、ここで逃げてどうする。
さっき決めていたじゃないか。
ここに逃げるなんて選択肢はないのだ、と。
俺は改めて目の前で燃え続ける炎と向き合う。
「だが、どうすればいい!? ここからの打開策など何も――」
「……一つだけ、ある」
と、焦るシュウの言葉を遮ったのは――さっきから悩ましげに、何か考えている学園長――遊楽太一郎だった。
「ケンジくん。君のマジックデバイスだ」
「マジックデバイス――!?」
「勘が当たっていればなんだけど、君のマジックデバイスは多分電源が入っているはずだ」
その勘は実際に当たっていて、俺はデバイスをずっと握りしめていたのだ。
「確かに起動しているが、それが――」
「それがどうした、だって? 君が一番それの使い方を知っているはずだろう?」
「ただこれは近くにある魔法陣を自動で読み取って――」
と、そこまで言ったところで俺はようやく理解をする。
デバイスの画面を見ると、二つの魔法陣が。
一つはさっき豊岸が発動した魔法。そしてもう一つは――!
「京香が発動した魔法……!」
「そう。その魔法は反魔力魔法――つまり今、目の前にある炎と同じ魔法だ」
「つまりこれがぶつかり合えば」
『魔力』を基とした――『反魔力』の魔法同士がぶつかり合えば。
「どちらとも消滅する。――まあ仮定だけどね」
僕もそれ以上の事はわからない、と学園長は俺の方を向く。
「ただね、ケンジくん。これについては僕は君の安全を保証出来ないんだ。だから本当ならやって欲しくない、危険行為なんだけど――」
「……やるよ。京香を助けられる方法なら、なんだって!」
「――そう言ったら君は言うことを聞かないんだよね」
はあ、と困った風にため息をつく学園長。
俺はデバイスを弄り、発動準備に備える。
「みんな、下がってくれ。この魔法は規模が大きいから――近くにいたら巻き込まれるぞ」
「――ケンジくん!」
と、優梨が俺に叫ぶ。
「きっと……きっと助かりますよね!」
その問いに俺は笑って返す。
「ああ、必ずなんとかしてみせる」
「じゃあ……約束してください。二人共無事に帰ってくる、という事を」
「……ああ」
という俺の答えに満足したらしい優梨はニッコリと笑う。
「志野くん。私は何も出来なくてごめんなさい……頑張ってね」
「必ず無事に帰ってこい、我が友人よ」
「京香っちを助けてあげて、ケンジくん!」
というクラスメイトの言葉に、俺は
「みんなありがとう。後は任せてくれ」
と、俺は返事をした。
「僕からは、もう言うことはないかな」
「ああ、助かったよ。ありがとう」
学園長のいつもの軽い口調に俺はしっかりとお礼をする。
そうして、みんな俺からだんだんと遠ざかっていき、米粒程小さくなった距離までに達すると、俺は魔法を発動する。
マジックデバイスから、さっきの京香のように無数の魔法陣が今いる場所の周りを描いていく。
瞬間――!
「う、うううううううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
俺を包んだのは――燃えるような感覚だった。
熱い。
熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い――!
全身が、何もかも全てが燃えるように火が灯されていく。
京香はこれに耐えてきたのだろうか。
何日も、何週間も。
「――!」
俺は――それでも歯を食いしばり、前へ、前へと進んでいく。
本当は怖い。怖いのだ。
自分を覆っているこの火が、目の前で燃え続ける巨大な炎が。
だけど。
「だけど――大事な友達を失うより、ずっとマシなんだよおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そして俺が発動させた炎がどんどん大きくなり、京香が発動させた炎に触れた瞬間――。
パァンッ!と弾けるような音を立て――二つの炎は消えた。
学園長の読みは正しかったのだ。
お互いが『干渉』しあい、『消滅』すると。
消えた巨大な炎は無数な火の粉となり、それは宙に舞っていき消えていく。その光景は神秘的にも見え、これが夜ならもっと綺麗だったのになとまだ一時限目も始まったばかりの時間を指してる時計をチラリと見る。
俺はフラフラと歩いていき――。
目の前でうつ伏せに倒れている赤髪の少女に近づく。
さっきのパジャマが半分焼き焦げていて、大半の背中や太ももなどが露わになっていて普通なら非常に目を合わせられない姿だった。
俺はよろめきながらも京香が無事か顔を見てみると。
彼女はすう……と目を閉じながら軽い吐息をしていた。
どうやら、気絶しただけらしい。
「よかった……本当に……よかっ……た……」
そういえば、厳密に言うと違うのだが――厳密に言わなくても明らかに違うのだが――ある意味の捉え方だが。
京香に勝ったのはこれが初めてだった。
こっちは禁止されてた魔法を使っちゃったけど――それはお互い様だよな。
一気に安心感が俺を包み込み――そこから俺の記憶は途切れる。
俺も京香と同じように膝を付き、その場に横たわるように倒れたのだから――。
と説明する学園長に俺が口を挟む。
「ちょっと待て。魔法学では一定以上体内にM原子が蓄積されたら自然と調整して、減らすんじゃないのか?」
「それがね、ケンジくん……」
何やらメモ用紙を持っている三縁が恐る恐るといった感じでそのメモに書かれている事を言う。
「あるんだって、そういうの。異常なパラメータを持つ人はたまに魔法を使わないと魔力が蓄積され続けるって……。もう世界では数件見られている症状らしいよ」
「いや、それはおかしくないか? だって京香は普通に魔法を使っていたぜ?」
稽古。あの時だって炎系魔法は制限していたものの、その他のものは使っていいという事でやっていたはずなんだ。
と、そんな俺に遊楽太一郎は首を横に振る。
「あの子の場合は違う――それが炎系魔法限定なんだ」
「なっ……!?」
「よくわからないけど、あの子の魔力パラメータは今まで見たこともない、異常な数値だった。彼女の得意な魔法は火炎系。それを抑えていて、体内にある火炎系の影響で熱が発症した――筋は通っていると思うよ?」
「おい、それだと魔力自体に火炎系の魔法が含まれているみたいじゃないか。魔力っていうのはそういうモノじゃない筈だろ?」
今の学園長の言うことだと魔力自体が魔法と化しているような、そういう言い方なのである。
だが、それは矛盾している。魔力と魔法陣で、初めて魔法が生まれるのだ。
「でも、そうじゃなかったらそれ以外の説明はつかない。……論より証拠ってやつだよ」
と、吐き捨てるように言う学園長の言葉が俺に重くのしかかる。
論より証拠……。
それはまるで見たもの全てが正しいような。
そんな感じに聞こえ、何故かイラッとしてしまった。
「……なあ、このままだと京香はどうなる?」
「この予想はおそらく当たる――当たって欲しくない予想だ。このままだと京香くんの行く道は『自滅』だ」
「――!」
「自分の出した魔法に燃やされ続けて何もかもが跡形もなく消し炭になる――」
「――なら、それを止めればいいんでしょ」
遊楽太一郎のセリフを遮るように言い、炎の前に立ったのは、通常のハードカバーの本の、一回りほどの大きさの本を取り出した豊岸だった。
「この炎を消せば、篠崎さんは助かるのよね」
そういう彼女の手元にある本のページには――。
「魔法陣――!」
つまりその巨大な本自体が彼女の魔法道具。
「直接書き込み、すぐに出せる――今までの魔法道具の2つのタイプの中間を取ったモノよ。まあ直接魔法陣に触れなくちゃいけないから、ページを捲っている間が命取りなんだけどね」
と、豊岸が説明している間に、本は青白く光りだす。
そして周りには。
「水……」
「そう、私の得意な魔法は水系。篠崎さんと相性が悪いのよ――まあそれが有利に働くわけだけど」
魔法によって作り出された水はどんどん集まっていき、やがて豊岸の頭上に一つの巨大な水の渦が作り出された。
本がまた青白く輝き――水の渦は空を切るようなスピードで炎に迫っていく。
そうして彼女の水で炎を消すかと思えた――その時。
「っ!?」
豊岸の放った水は――触れるか触れないかの一瞬で消えたのだ。
それは炎の熱が高すぎて水が一瞬で蒸発した様子ではなく。
まるでそこになかったかのように――文字通り、『消えた』のである。
この現象にここにいる誰もが目を見開いていたが――
「『反魔力魔法』――!?」
誰よりも驚いていたのが学園長だったといえよう。
表情では軽く驚いているように見えるのだが――手が、声が少しばかり震えている事に気がついた。
「おい、なんだ。その『反魔力魔法』っていうのは」
「……文字通りだよ。『魔力での攻撃を無効化する』。要は魔法を使ったモノが触れた瞬間、それは触れた魔法をM原子に分解する力だ」
「なっ……!?」
魔力を無効化する。
聞いたことないぞ、そんなの――!
「……これはちょっとやばいね。理事長がいれば解決なんだけど、生憎彼女は仕事で出張中でね……」
「そんな……!」
「……こればっかりは僕の魔法も役に立たない」
頭を必死に抱えるようにする学園長を――俺はどん底に落とされた気分だった。
つまり――為す術がない。
俺のせいで。
俺が火がトラウマだと言ってから京香は一切炎系の魔法を使わなくなった。
そのせいで――京香は苦しんでいたのだ。自分の行為を制限されていて。
そういえばあの時から数日経ってのところからやけに頬を染める事が多かった気がする。
それは今になってようやく理解出来る。あの時からこうなって行く事は予想できたのだ。
完全に俺のせいだ――!
やっと。やっと、解決すると思っていたのに――!
俺の頭の中が再びあの十日間の記憶を思い出させる。
先の見えない、闇。絶望の中に彷徨っているような感覚――生きている気がしない、現状。
そんな感覚が俺の全身を蝕むように駆け巡る。
もう、手はないのか――。
「俺のせいで、俺があんな制限するような事を言ったせいで――」
「――それは違います!」
と、俺に言い放ったのは――さっきまでずっと黙っていた優梨だった。
「京香ちゃんだって――ケンジくんに嫌われたくないから、自分から制限したと思うんです」
「優梨……」
「だって、そうでしょう? 自分の友人に『嫌われるような行為』は普通、したくないでしょう?」
「――!」
「だから、ケンジくんのせいではないですよ?」
それに、と優梨が怒るように大きな目を吊りあげる。
「まだ助かる手があるかもしれないのに――そんな諦めたような顔をしないでください」
「…………。……そう、だな」
俺は自分の中にあった負の感情を消し去るように、自分の両頬を叩く。
そうだ、ここで逃げてどうする。
さっき決めていたじゃないか。
ここに逃げるなんて選択肢はないのだ、と。
俺は改めて目の前で燃え続ける炎と向き合う。
「だが、どうすればいい!? ここからの打開策など何も――」
「……一つだけ、ある」
と、焦るシュウの言葉を遮ったのは――さっきから悩ましげに、何か考えている学園長――遊楽太一郎だった。
「ケンジくん。君のマジックデバイスだ」
「マジックデバイス――!?」
「勘が当たっていればなんだけど、君のマジックデバイスは多分電源が入っているはずだ」
その勘は実際に当たっていて、俺はデバイスをずっと握りしめていたのだ。
「確かに起動しているが、それが――」
「それがどうした、だって? 君が一番それの使い方を知っているはずだろう?」
「ただこれは近くにある魔法陣を自動で読み取って――」
と、そこまで言ったところで俺はようやく理解をする。
デバイスの画面を見ると、二つの魔法陣が。
一つはさっき豊岸が発動した魔法。そしてもう一つは――!
「京香が発動した魔法……!」
「そう。その魔法は反魔力魔法――つまり今、目の前にある炎と同じ魔法だ」
「つまりこれがぶつかり合えば」
『魔力』を基とした――『反魔力』の魔法同士がぶつかり合えば。
「どちらとも消滅する。――まあ仮定だけどね」
僕もそれ以上の事はわからない、と学園長は俺の方を向く。
「ただね、ケンジくん。これについては僕は君の安全を保証出来ないんだ。だから本当ならやって欲しくない、危険行為なんだけど――」
「……やるよ。京香を助けられる方法なら、なんだって!」
「――そう言ったら君は言うことを聞かないんだよね」
はあ、と困った風にため息をつく学園長。
俺はデバイスを弄り、発動準備に備える。
「みんな、下がってくれ。この魔法は規模が大きいから――近くにいたら巻き込まれるぞ」
「――ケンジくん!」
と、優梨が俺に叫ぶ。
「きっと……きっと助かりますよね!」
その問いに俺は笑って返す。
「ああ、必ずなんとかしてみせる」
「じゃあ……約束してください。二人共無事に帰ってくる、という事を」
「……ああ」
という俺の答えに満足したらしい優梨はニッコリと笑う。
「志野くん。私は何も出来なくてごめんなさい……頑張ってね」
「必ず無事に帰ってこい、我が友人よ」
「京香っちを助けてあげて、ケンジくん!」
というクラスメイトの言葉に、俺は
「みんなありがとう。後は任せてくれ」
と、俺は返事をした。
「僕からは、もう言うことはないかな」
「ああ、助かったよ。ありがとう」
学園長のいつもの軽い口調に俺はしっかりとお礼をする。
そうして、みんな俺からだんだんと遠ざかっていき、米粒程小さくなった距離までに達すると、俺は魔法を発動する。
マジックデバイスから、さっきの京香のように無数の魔法陣が今いる場所の周りを描いていく。
瞬間――!
「う、うううううううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
俺を包んだのは――燃えるような感覚だった。
熱い。
熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い――!
全身が、何もかも全てが燃えるように火が灯されていく。
京香はこれに耐えてきたのだろうか。
何日も、何週間も。
「――!」
俺は――それでも歯を食いしばり、前へ、前へと進んでいく。
本当は怖い。怖いのだ。
自分を覆っているこの火が、目の前で燃え続ける巨大な炎が。
だけど。
「だけど――大事な友達を失うより、ずっとマシなんだよおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そして俺が発動させた炎がどんどん大きくなり、京香が発動させた炎に触れた瞬間――。
パァンッ!と弾けるような音を立て――二つの炎は消えた。
学園長の読みは正しかったのだ。
お互いが『干渉』しあい、『消滅』すると。
消えた巨大な炎は無数な火の粉となり、それは宙に舞っていき消えていく。その光景は神秘的にも見え、これが夜ならもっと綺麗だったのになとまだ一時限目も始まったばかりの時間を指してる時計をチラリと見る。
俺はフラフラと歩いていき――。
目の前でうつ伏せに倒れている赤髪の少女に近づく。
さっきのパジャマが半分焼き焦げていて、大半の背中や太ももなどが露わになっていて普通なら非常に目を合わせられない姿だった。
俺はよろめきながらも京香が無事か顔を見てみると。
彼女はすう……と目を閉じながら軽い吐息をしていた。
どうやら、気絶しただけらしい。
「よかった……本当に……よかっ……た……」
そういえば、厳密に言うと違うのだが――厳密に言わなくても明らかに違うのだが――ある意味の捉え方だが。
京香に勝ったのはこれが初めてだった。
こっちは禁止されてた魔法を使っちゃったけど――それはお互い様だよな。
一気に安心感が俺を包み込み――そこから俺の記憶は途切れる。
俺も京香と同じように膝を付き、その場に横たわるように倒れたのだから――。
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