勇者な俺は魔族な件
第二十七話 そして『実践』へ
まだほとんどの人が寝静まっている早朝。
一人の青年が木造建築の宿から出てくる。
その男は十代後半といった年齢で、ひょろりとした全身を黒鎧で覆い黒髪黒目をしているのだ。
魔族の象徴である黒を身につけ、あまつさえ髪色や瞳色までもが黒色に染まっているという、人族にとってあり得ない色をしている男ははたから見れば不気味の他なかった。
男はブゾウテナの東側から昇ってくる日差しに目を細めながら、大きく伸びをする。
すると、膝を曲げたり伸ばしたりを繰り返すという奇妙な動きを始めだした。
それだけではなく、他にも奇妙な動きを十五秒ほど繰り返すと、また違う動きをし始める。
男はこれを『ストレッチ』と呼んでいるが、そのような文化はこの世界には存在しておらず、他の人から見ればただただ不気味でしかなかった。
三分ほどして、一息ついた男は次に軽く町を走り始める。
これはこの世界でも知られている、極めて普通の訓練だ。
ストレッチと呼ばれるものを三分、軽い走りを七分。
この計十分間がブゾウテナに来てから男の日課となっていた。
そしてこの事は早起きの住民だけではなく、冒険者の間でも知れ渡っている。
「よう、今日も訓練か? ご苦労なことだなぁ」
走り終えて深呼吸をしている男に話しかけてきたのは冒険者三人組。
三人のうち、先頭にいるのはガタイの良い、三十代くらいの男の獣人族。燃えるような赤髪と金色に輝く瞳。
胴体の赤い鎧に青のハーフパンツ、肌が露出しているところからは筋肉が隆々と盛り上がっている。
髪型がまるで獅子の立て髪のようになっており、背中に背負っている金の大剣が特徴的だ。
獅子男の後ろにいるのはでっぷりと太った三十代後半くらいの男、こちらも狼耳がついた獣人族である。
緑に染めた短髪に、青い瞳。全身を緑の鎧で包んでいるのだが、それでも体の太さは隠せないようで、全体的に太ったイメージだ。
そして最後の一人。
狐耳と尻尾が生えている二十代後半と思われる女性の獣人族である。
金髪を肩の辺りまで伸ばし、赤い目で黒鎧の青年を睨むように見ている。
こちらは二人と違って、革の服に金の胸当てとガントレットという軽装備である。
まるで信号機みたいな配色だなと黒鎧の青年は内心考えながら、軽くため息をつく。
「俺に何か用か?」
青年は訝しげに三人組を見る。
先頭の赤獅子がニヤニヤとしながら青年の肩を掴む。
「いやいや、お前の実力を見込んで頼み事があるんだよ」
「……頼み事?」
青年が警戒するように身体に力を入れると、黄色狐が囁くように青年の耳に口を近づける。
「あなた、自分を評価してほしいんでしょう? 毎回、見せつけるようにA級以上の魔獣を狩ってきたりして」
「…………」
青年はその言葉に反応しない。
いや、近づいてきた黄色狐の女から、やや距離を空けるような動作をしたが。
「だから俺たちがその実力を評価してやるから……一緒にクエストに出て欲しいだけだ」
緑狼がニタニタと笑いながらそう告げると、青年はもう一度ため息をついた。
「どういうことだかよくわからないが、断る。関わったらロクなことにならなそうだしな」
そう言って青年は、肩を掴む赤獅子の腕を払って去ろうとする……が。
「まあ待てよ」
赤獅子は青年の肩を力強く掴むと、後ろから肩を組むように腕を回してくる。
「お前も自分のパーティーの奴らに危害は加えられたくないだろう?」
その言葉にピタリと足を止める青年。
「……脅しか?」
「人聞きが悪いな、ただの取り引きだ。どうするかはお前次第だがな」
そう言うと、赤獅子は声を一段低くする。
「……言っとくが、妙な真似はするなよ? お前の仲間の部屋の中には既に俺たちの仲間が一人二人配置されている。俺たちに危害を加えたら……どうなるか、わかってんだろうなぁ?」
「…………俺は何をすればいいんだ?」
青年──アズマは渋々了承すると、赤獅子ことレットたちはにんまりと笑う。
「俺たち三人のSS級昇格試験──これに協力してもらおうか」
* * *
冒険者の昇格試験は、ギルドから発注するクエストをこなすことによって昇格することが出来るシステムである。
しかし昇格試験には人数の条件などがあり、レットたちが受けるSS級昇格試験は『S級冒険者三人によるフォレスタイガー三体討伐』だ。
赤獅子レット、黄色狐イエンロウ、緑狼グリーフ。
この三人は共にS級冒険者であり、同じパーティーでもある。
ブゾウテナ内でも有名で、彼らは注目の的だった。
──そう、アズマが来るまでは。
F級冒険者なのに、S級魔獣を狩ることが出来る程の力──人気はともかく、彼は今現在注目の的である。
一部の冒険者──ゴーラやアーミャたちはアズマを同じ冒険者として認め始めていて、レットたちは焦った。
このままではいずれ自分たち以外の冒険者たちをも取り入れて、自分たちを超えるのではないかと。
そこで思いついたのが、アズマを自分たちの昇格試験に協力させるという案だった。
別にアズマがいなくとも、三人の実力であれば昇格試験はクリア出来るだろう。だが、彼らは考えたのだ。
それでは“印象が弱い”と。
そこで、如何にも自分強いぜアピールしまくるアズマを協力させることで、フォレスタイガーを三体以上討伐する。
アズマはF級冒険者である為に、自分も協力したのだと公言できない。
故に、人々の認証は「彼ら三人だけでやった」ということになるのだ。
幸いなことにアズマ以外の冒険者はただのC級冒険者二人とF級冒険者一人。
実際のところ、目立っているのはアズマだけであり彼らが何かしたということは聞いたことがない。
つまり、人質として機能することが出来るということだ。
レットたちはギルドに手続きを終えると、村の入口に向かっていく。
そして、そこで待機していたアズマと合流した。
「よう、待たせたな」
「……手短に済ませるぞ」
「うふふ、そう怖い顔しないの」
レットの言葉に大剣を肩に担いでいるアズマはふんと鼻息を鳴らし、イエンロウが宥める。
しかし、その心理にあるのは利用してやろうという黒い感情だけで、三人はアズマを連れて森の中へと入り込んで行った。
一人の青年が木造建築の宿から出てくる。
その男は十代後半といった年齢で、ひょろりとした全身を黒鎧で覆い黒髪黒目をしているのだ。
魔族の象徴である黒を身につけ、あまつさえ髪色や瞳色までもが黒色に染まっているという、人族にとってあり得ない色をしている男ははたから見れば不気味の他なかった。
男はブゾウテナの東側から昇ってくる日差しに目を細めながら、大きく伸びをする。
すると、膝を曲げたり伸ばしたりを繰り返すという奇妙な動きを始めだした。
それだけではなく、他にも奇妙な動きを十五秒ほど繰り返すと、また違う動きをし始める。
男はこれを『ストレッチ』と呼んでいるが、そのような文化はこの世界には存在しておらず、他の人から見ればただただ不気味でしかなかった。
三分ほどして、一息ついた男は次に軽く町を走り始める。
これはこの世界でも知られている、極めて普通の訓練だ。
ストレッチと呼ばれるものを三分、軽い走りを七分。
この計十分間がブゾウテナに来てから男の日課となっていた。
そしてこの事は早起きの住民だけではなく、冒険者の間でも知れ渡っている。
「よう、今日も訓練か? ご苦労なことだなぁ」
走り終えて深呼吸をしている男に話しかけてきたのは冒険者三人組。
三人のうち、先頭にいるのはガタイの良い、三十代くらいの男の獣人族。燃えるような赤髪と金色に輝く瞳。
胴体の赤い鎧に青のハーフパンツ、肌が露出しているところからは筋肉が隆々と盛り上がっている。
髪型がまるで獅子の立て髪のようになっており、背中に背負っている金の大剣が特徴的だ。
獅子男の後ろにいるのはでっぷりと太った三十代後半くらいの男、こちらも狼耳がついた獣人族である。
緑に染めた短髪に、青い瞳。全身を緑の鎧で包んでいるのだが、それでも体の太さは隠せないようで、全体的に太ったイメージだ。
そして最後の一人。
狐耳と尻尾が生えている二十代後半と思われる女性の獣人族である。
金髪を肩の辺りまで伸ばし、赤い目で黒鎧の青年を睨むように見ている。
こちらは二人と違って、革の服に金の胸当てとガントレットという軽装備である。
まるで信号機みたいな配色だなと黒鎧の青年は内心考えながら、軽くため息をつく。
「俺に何か用か?」
青年は訝しげに三人組を見る。
先頭の赤獅子がニヤニヤとしながら青年の肩を掴む。
「いやいや、お前の実力を見込んで頼み事があるんだよ」
「……頼み事?」
青年が警戒するように身体に力を入れると、黄色狐が囁くように青年の耳に口を近づける。
「あなた、自分を評価してほしいんでしょう? 毎回、見せつけるようにA級以上の魔獣を狩ってきたりして」
「…………」
青年はその言葉に反応しない。
いや、近づいてきた黄色狐の女から、やや距離を空けるような動作をしたが。
「だから俺たちがその実力を評価してやるから……一緒にクエストに出て欲しいだけだ」
緑狼がニタニタと笑いながらそう告げると、青年はもう一度ため息をついた。
「どういうことだかよくわからないが、断る。関わったらロクなことにならなそうだしな」
そう言って青年は、肩を掴む赤獅子の腕を払って去ろうとする……が。
「まあ待てよ」
赤獅子は青年の肩を力強く掴むと、後ろから肩を組むように腕を回してくる。
「お前も自分のパーティーの奴らに危害は加えられたくないだろう?」
その言葉にピタリと足を止める青年。
「……脅しか?」
「人聞きが悪いな、ただの取り引きだ。どうするかはお前次第だがな」
そう言うと、赤獅子は声を一段低くする。
「……言っとくが、妙な真似はするなよ? お前の仲間の部屋の中には既に俺たちの仲間が一人二人配置されている。俺たちに危害を加えたら……どうなるか、わかってんだろうなぁ?」
「…………俺は何をすればいいんだ?」
青年──アズマは渋々了承すると、赤獅子ことレットたちはにんまりと笑う。
「俺たち三人のSS級昇格試験──これに協力してもらおうか」
* * *
冒険者の昇格試験は、ギルドから発注するクエストをこなすことによって昇格することが出来るシステムである。
しかし昇格試験には人数の条件などがあり、レットたちが受けるSS級昇格試験は『S級冒険者三人によるフォレスタイガー三体討伐』だ。
赤獅子レット、黄色狐イエンロウ、緑狼グリーフ。
この三人は共にS級冒険者であり、同じパーティーでもある。
ブゾウテナ内でも有名で、彼らは注目の的だった。
──そう、アズマが来るまでは。
F級冒険者なのに、S級魔獣を狩ることが出来る程の力──人気はともかく、彼は今現在注目の的である。
一部の冒険者──ゴーラやアーミャたちはアズマを同じ冒険者として認め始めていて、レットたちは焦った。
このままではいずれ自分たち以外の冒険者たちをも取り入れて、自分たちを超えるのではないかと。
そこで思いついたのが、アズマを自分たちの昇格試験に協力させるという案だった。
別にアズマがいなくとも、三人の実力であれば昇格試験はクリア出来るだろう。だが、彼らは考えたのだ。
それでは“印象が弱い”と。
そこで、如何にも自分強いぜアピールしまくるアズマを協力させることで、フォレスタイガーを三体以上討伐する。
アズマはF級冒険者である為に、自分も協力したのだと公言できない。
故に、人々の認証は「彼ら三人だけでやった」ということになるのだ。
幸いなことにアズマ以外の冒険者はただのC級冒険者二人とF級冒険者一人。
実際のところ、目立っているのはアズマだけであり彼らが何かしたということは聞いたことがない。
つまり、人質として機能することが出来るということだ。
レットたちはギルドに手続きを終えると、村の入口に向かっていく。
そして、そこで待機していたアズマと合流した。
「よう、待たせたな」
「……手短に済ませるぞ」
「うふふ、そう怖い顔しないの」
レットの言葉に大剣を肩に担いでいるアズマはふんと鼻息を鳴らし、イエンロウが宥める。
しかし、その心理にあるのは利用してやろうという黒い感情だけで、三人はアズマを連れて森の中へと入り込んで行った。
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