勇者な俺は魔族な件

風見鳩

第二十話 『F級冒険者』アズマ誕生!

「ご、ご要件は?」

 水色の髪をショートカットにしていて、俺と歳が変わらないくらいじゃないかと思われる顔立ちの受付嬢が、怯えながらも笑顔を作りながら訊いてくる。

 ブルブルと小動物のように震えていて、なんだか見ているこっちも可哀想に思えてきた。

「ああ、冒険者登録したい。俺と後ろの連れを合わせて四人分……」
「あ、いや、兄貴。俺たち二人は既に登録しているんで、兄貴と姉御の分だけでいいっすよ」
「……だそうなので、二人分をよろしく頼む」
「は、はい。冒険者登録ですねっ」

 慌てるように受付の少女が受付カウンターの下から羊皮紙と羽ペンを二つずつ取り出す。

 っていうか、羽ペンを見るのは初めてだな。
 なんだか感慨深いものだ。

「こ、ここに、登録者名と種族と役職を記入してください」
「役職?」

 俺が首を捻ると、受付嬢が丁寧に説明してくれる。

「冒険者と言っても様々な役職が存在します。魔族討伐を主に活動とする冒険者もいれば、未踏の地で探索する冒険者、必要な素材から新たな道具とを作り出すことを目的とした冒険者もいます。また、主に使用する武器や戦闘方法によっても役職は分かれます」
「なるほど、役職として分けることによって冒険者内の関係を円滑にするってわけか。魔法を得意とする人に協力して欲しい時に、登録されている役職から捜せばすぐに見つかるわけだし……」
「はい、その通りです」

 だんだんと話している内に、受付嬢の表情が少しずつ柔らかくなっていく。

 どうやら警戒がだんだんと薄れてきたようだ。

「あー……すまん。俺たち、ちょっと冒険者っていうのに縁がなかったから、どんな役職があるのかわからねえんだ。役職の一覧が見れるようなものがあると助かる」
「ああ、それでしたらこちらをご覧下さい」

 と、受付は再びカウンターの下からA4サイズほどの薄い石版を取り出す。

 手に持ってみると、見た目の割に意外と軽い。
 普通の石ではないのだろうか?

 石版には職業がズラリと人族語で書いてあった。

──────────
剣士
戦士
闘士
魔剣士
槍使い
射手
魔法師
魔術師
鍛冶師
道具師
賢者
探求者
──────────

「なあ、剣士と戦士の違いはなんだ?」

 ふと気になって質問する。

 特に変わりはないと思うんだが……。

「はい、戦闘方法が違います。剣士の場合は文字通り剣を使って超近接戦で戦いますが、戦士の場合は剣以外の武器も使用します。また、魔法や道具なども利用して立ち回りしているところから剣士と戦士は差別化されています」

 要するに剣士は戦闘における近接の重火力で、戦士は戦い方を使い分けるバランス型か。

「魔法師と魔術師の違い……というより、魔法と魔術の違いってなんだ?」

 次に疑問に思った質問をすると、受付嬢は少し驚いた顔をする。

「簡単にいうと魔法は戦闘用で、魔術はサポート用です」
「サポート用?」
「はい、魔法に比べて魔術は魔法陣という術式を使うので、より精密な事が出来ます。例えば地形を変えたりなど」
「へえ」
「魔法による詠唱でも出来ないわけではありませんが……魔法陣を使う方がかなり効率的であると言えます」

 なるほど、つまり魔法師は戦闘面の詠唱魔法を主に、魔術師はサポート面の魔法陣による術式を主に使うということか。

「魔法陣で戦闘用の魔法を発動させたりは出来ないのか?」
「出来ます。ただし魔法陣というものは使い切りのモノでして、一度魔力を込めて使用してしまうとその次は使用できなくなってしまいます。その場合は詠唱魔法の方が効率的です」
「なるほどなあ」
「……というかこれ、誰もが知っていることですよ? その、冒険者関係なく」
「え? ああ、色々と事情があるんだよ、こっちも」

 何でそんなことも知らないのかと不思議がる受付嬢に、手をひらひらさせて誤魔化す。

 まあ、嘘ではないからな。

「そうなると、道具師ってのは何だ? 大抵のことは魔法や魔術でまかなえるだろう?」
「道具師はその名の通り、道具を作る者のことです。えーっと……魔術が効果を作るのであれば、道具はその効果を発揮させるためのモノと言えばわかりますか?」
「ああ、なるほど。大体わかった」

 つまり前にいた世界で言い換えると、道具師はパソコンでいうハード面の分野で、魔術師はソフト面の分野だということだろう。

 その他の役職は大体理解できるので、質問はここで終わりにして役職一覧を睨むように見つめる。

 この中で言ったら……戦士が一番しっくり来るだろう。

 羽ペンを持ち、さらさらと羊皮紙に名前と種族と役職を人族語で書いてく。
 ちなみに言わずもないことだが、種族は『人族』と記入しておいた。

 そういえば今さらっと『人族語で書いてく』と言ったが、こうして文字として書くのは初めてなのだ。
 読めない字じゃないと思うから、多分大丈夫だろう。

 受付嬢は俺とシーナが書いた羊皮紙を受け取ると、手のひらサイズの長方形のカードのような鉄板を取り出す。
 ウラ面の魔法陣に手を触れて何やら表面に記入するような動作を見せる。

 そして一分もしない内に、受付嬢はニコリと笑いかけて俺たちに差し出した。

「こちらが冒険者の証明書となります。紛失や破損してしまった場合は再発行しますので、遠慮なく申し付けてください」

 と、渡された銀色に鈍く光る証明書を見てみる。

──────────
名前:アズマ
種族:人族
役職:戦士
階級:F
──────────

──────────
名前:シーナ
種族:人族
役職:魔法師
階級:F
──────────

 と、こんな簡単なことが刻まれた証明書である。

「階級によって証明書として使用されるモノが変わっていきます。Fから順に、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、クリスタル、ダイヤモンド、プラチナ、ミスリル、アダマンタイト、ダークマテリアとなっています。アダマンタイトのSSS級を目指して頑張ってくださいね」
「は、はいっ!」

 ニッコリと微笑む受付嬢に緊張しながらも返事するシーナ。
 なんだか如何にも新人って感じで微笑ましいな。

「それと冒険者の制度なのですが、こちらに書かれていますので目を通しておいて下さい」

 そう言って差し出されるのは、羊皮紙の束。

 ここに冒険者の制度など、色々と書いてあるのだろう。
 きちんと読んでおかないとな。

「……ありがとな、とりあえず要件はそれだけだ。行くぞ、シーナ」
「えっ、あっ、はいっ」

 証明書を手にしてギルドの出口へと向かっていき、それに続くシーナ。

 俺に集中する様々な視線を全て無視して、俺たちはギルドを後にした。

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