勇者な俺は魔族な件
第十話 迫り来るは『魔の大軍』
「まずは宮殿に戻るぞ」
「で、でも、アズマ様は……」
「そんな事、今は言ってられないだろ? まずは状況を把握するのが先決だ」
「……は、はい」
例の黒煙が上がったのを見た途端、俺たちはすぐに行動に移った。
とりあえずそこの二人は置いといて、宿屋を出る。
街へ出てみると、住人たちも慌てて避難している姿が目に映った。
まず向かうべき場所は宮殿だ。
シルエの無事を知らせて、状況を確認しなくてはいけない。
シルエの手を引っ張り、人ごみをかき分けていってると、銀鎧の兵士たちと鉢合わせする。
「姫様、ご無事で!」
「貴様、シルエ姫をどうするつもりだった!」
「同じ『様』がつくのに、態度は随分と違うな……」
シルエが無事であることに嬉しそうにする兵士と、俺に剣先を向ける兵士。
どうやら、俺の誤解はまだ解けていないよう……って当たり前か。
しかし、こいつらに説明するのは時間の無駄だ。
ここは突っ切って宮殿へと向かうのが先決だろう。
……ん?
いやいや、こいつらから訊けば、いい話じゃねえか。
俺たちと逆方向へ行っている限り、外へと向かうつもりなのだろう。
緊急事態だし、答えてくれるだろうし……よし。
「それは置いといて、だ。今、外はどうなって──」
「置いとくことなんか出来るか! 姫様から離れろ!」
「…………」
作戦失敗。
どうやら質問すらさせてくれないようだった。
仕方ない、とりあえずぶん殴ってでも吐かせてみるか。
今にも飛びかかってきそうに構えている兵士に、拳を固めて歩み寄ろうとしたところで──
「待ってください! アズマ様は私を助けてくれたんです!」
シルエが間を割って入ってきた。
「ひ、姫様……」
「しかし……」
「剣を仕舞え、お前ら」
シルエの予想外の行動に、戸惑う兵士たち。
そこへ、後ろからどこかで見たことがあるような二人が目の前までやってくる。
「アズマ、と言ったな。姫様を助けてくれたというのは、本当か?」
「あ、はい。間違ってません」
「そうか……感謝する。私はシルエ姫専属の護衛兵、レオナードだ」
「同じく、シルエ姫専属の護衛兵のガリウムだ。姫様を助けていただき、感謝する」
と、俺に立て膝をして頭を下げてくるのはイケメン銀狼のレオナードと、残念イケメンロン毛金髪のガリウムだった。
こっちは本物なのだろう。
しかし、動作といい喋り方といい、シルエさえも見抜けなかったというのだから、あいつら相当努力したんだろう。
「礼はいりません、それより外で何かあったんですか? あの煙は緊急事態の合図ですよね?」
そう言うと、レオナードは鋭い視線を俺に向けてくる。
「魔物の大軍がこっちに向かってきている。数は……五千以上」
「っ!」
「国民の混乱を抑えるために、この情報はまだ隠しておいているのだが……どうも、お前はただの国民じゃないようだしな」
そう言ってガリウムは俺の鎧姿を訝しげに見てきた。
「お前が何者なのか、目的はなんなのか。気になる点は多々あるが、今は緊急事態だ。お前は姫様を宮殿まで無事に送り届けてくれ」
「わかりました、けど相手は五千以上って……大丈夫なんですか?」
ちなみに俺とシルエ以外の他人は割とどうなっても構わないのだが、こういうのは一応聞いておくべきなのだろう。
まあ、俺も魔族とは戦ってみたいのだが……今回は数が多すぎる。
多くても十数体でやってみるのが一番いいだろうな。
俺の体質的にいきなり複数とやるのはマズい気がする。
そんな俺の問いに、ガリウムはふっと笑う。
「こんな事は何度もあったさ。少なくとも、お前よりかは上手くやってみせるさ」
「っ──」
「では、姫様を頼んだぞ」
そう言うと否や、兵士たちは俺たちを通り抜けて壁の方へと向かっていった。
「…………」
「……あの、アズマ様?」
その場で動かずに、黙りこくってしまった俺をシルエは不安そうに声をかける。
だがそんな事は一切気にならず、頭の中にはガリウムの言葉が何度も再生されていた。
「お前よりかは上手くやってみせるさ」、「お前よりかは上手くやってみせるさ」、「お前よりかは上手くやってみせるさ」……。
レオナードとガリウムは凄腕の冒険者だったらしい。
だから、シルエの専属護衛に選ばれたのだろう。
なので、どこぞの馬の骨より自分たちの方が自信があるだろうし、俺は一人だけに対してあいつらは数十人の兵士たちを加えての戦力だ。
以上の事を踏まえて、彼が放った言葉は嫌味などではなく、ただ純粋な自信を持った言葉なのだ。
だが。
「……シルエ、とりあえず宮殿を目指そう」
「は、はい」
だが……決め付けるのはよくない。
いつ、俺がお前らに負けた?
いつ、俺の実力を見た?
いつ──俺がお前らより劣った?
数千体なんて数をいきなり相手するのは嫌だったのだが……自分を見下したあいつらに、見せつけないといけなくなったようだ。
そんな決意を胸に、俺はひとまず宮殿へと足を進めていった。
そうして歩くこと十分程度。
ようやくでかい門が見えてきて、それを抜けて宮殿内へと入ったところで。
「貴様あああああああああああ! 私のシルエをおおおおおおおお!」
「…………」
ようやく帰ってきた俺たちを出迎えてくれた声がそれだった。
しわがれた声で白いヒゲを生やした、如何にも偉そうなおっさんが俺たちの前に立ちはだかったのだ。
そのおっさんは高級そうな感じの、床まで伸びる赤いマントを羽織っている。
多分、この人が国王──シルエの父だろう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
どこから持ってきたのか、西洋剣を高々と持ち上げながら俺へと駆け出してくる。
っていうか、乱暴に剣を振り回しながら迫るのはやめろ、危ないだろうが。
「ふっ」
「ぐふっ!?」
俺は不規則に動く剣を片手で掴み、おっさんの首筋に手刀を加える。
おっさんはいとも容易くガクリと膝を床につけ、その場に倒れ込んだ。
「お、お父さんっ」
「大丈夫、気絶しているだけだ」
慌てるシルエを宥め、西洋剣を壁に立てかける。
というか、シルエの父親は親バカかよ。
「さて、お前を無事に宮殿へと送り届けたし……俺は行くかな」
「えっ……?」
任務は終わった。後は俺がどうしようと、関係ない。
「アズマ様、どこかへ向かうんですか……?」
「ん? ああ、ちょっと魔物退治に行ってくる」
「ちょっとコンビニに行ってくる」という軽い感じに返事をすると、シルエがパアッと顔を輝かせる。
「もしかして、助けてくれるんですか?」
「……助ける?」
はたしてあいつらに助力が必要な程、弱いのかどうかは置いといて。
シルエの言葉に反応し、くるりと向き直す。
「勘違いするなよ」
出来るだけニッコリと笑顔を作る。
まるで、どこかのツンデレキャラのような定型文を、まさか俺自身が言うとは思わなかったが。
生憎だが、今の俺にはツンもデレもない。
「俺はな、ただ自分に実力がないとか思われててムカついてるんだよ」
今の俺にあるのは怒りだけだった。
「で、でも、アズマ様は……」
「そんな事、今は言ってられないだろ? まずは状況を把握するのが先決だ」
「……は、はい」
例の黒煙が上がったのを見た途端、俺たちはすぐに行動に移った。
とりあえずそこの二人は置いといて、宿屋を出る。
街へ出てみると、住人たちも慌てて避難している姿が目に映った。
まず向かうべき場所は宮殿だ。
シルエの無事を知らせて、状況を確認しなくてはいけない。
シルエの手を引っ張り、人ごみをかき分けていってると、銀鎧の兵士たちと鉢合わせする。
「姫様、ご無事で!」
「貴様、シルエ姫をどうするつもりだった!」
「同じ『様』がつくのに、態度は随分と違うな……」
シルエが無事であることに嬉しそうにする兵士と、俺に剣先を向ける兵士。
どうやら、俺の誤解はまだ解けていないよう……って当たり前か。
しかし、こいつらに説明するのは時間の無駄だ。
ここは突っ切って宮殿へと向かうのが先決だろう。
……ん?
いやいや、こいつらから訊けば、いい話じゃねえか。
俺たちと逆方向へ行っている限り、外へと向かうつもりなのだろう。
緊急事態だし、答えてくれるだろうし……よし。
「それは置いといて、だ。今、外はどうなって──」
「置いとくことなんか出来るか! 姫様から離れろ!」
「…………」
作戦失敗。
どうやら質問すらさせてくれないようだった。
仕方ない、とりあえずぶん殴ってでも吐かせてみるか。
今にも飛びかかってきそうに構えている兵士に、拳を固めて歩み寄ろうとしたところで──
「待ってください! アズマ様は私を助けてくれたんです!」
シルエが間を割って入ってきた。
「ひ、姫様……」
「しかし……」
「剣を仕舞え、お前ら」
シルエの予想外の行動に、戸惑う兵士たち。
そこへ、後ろからどこかで見たことがあるような二人が目の前までやってくる。
「アズマ、と言ったな。姫様を助けてくれたというのは、本当か?」
「あ、はい。間違ってません」
「そうか……感謝する。私はシルエ姫専属の護衛兵、レオナードだ」
「同じく、シルエ姫専属の護衛兵のガリウムだ。姫様を助けていただき、感謝する」
と、俺に立て膝をして頭を下げてくるのはイケメン銀狼のレオナードと、残念イケメンロン毛金髪のガリウムだった。
こっちは本物なのだろう。
しかし、動作といい喋り方といい、シルエさえも見抜けなかったというのだから、あいつら相当努力したんだろう。
「礼はいりません、それより外で何かあったんですか? あの煙は緊急事態の合図ですよね?」
そう言うと、レオナードは鋭い視線を俺に向けてくる。
「魔物の大軍がこっちに向かってきている。数は……五千以上」
「っ!」
「国民の混乱を抑えるために、この情報はまだ隠しておいているのだが……どうも、お前はただの国民じゃないようだしな」
そう言ってガリウムは俺の鎧姿を訝しげに見てきた。
「お前が何者なのか、目的はなんなのか。気になる点は多々あるが、今は緊急事態だ。お前は姫様を宮殿まで無事に送り届けてくれ」
「わかりました、けど相手は五千以上って……大丈夫なんですか?」
ちなみに俺とシルエ以外の他人は割とどうなっても構わないのだが、こういうのは一応聞いておくべきなのだろう。
まあ、俺も魔族とは戦ってみたいのだが……今回は数が多すぎる。
多くても十数体でやってみるのが一番いいだろうな。
俺の体質的にいきなり複数とやるのはマズい気がする。
そんな俺の問いに、ガリウムはふっと笑う。
「こんな事は何度もあったさ。少なくとも、お前よりかは上手くやってみせるさ」
「っ──」
「では、姫様を頼んだぞ」
そう言うと否や、兵士たちは俺たちを通り抜けて壁の方へと向かっていった。
「…………」
「……あの、アズマ様?」
その場で動かずに、黙りこくってしまった俺をシルエは不安そうに声をかける。
だがそんな事は一切気にならず、頭の中にはガリウムの言葉が何度も再生されていた。
「お前よりかは上手くやってみせるさ」、「お前よりかは上手くやってみせるさ」、「お前よりかは上手くやってみせるさ」……。
レオナードとガリウムは凄腕の冒険者だったらしい。
だから、シルエの専属護衛に選ばれたのだろう。
なので、どこぞの馬の骨より自分たちの方が自信があるだろうし、俺は一人だけに対してあいつらは数十人の兵士たちを加えての戦力だ。
以上の事を踏まえて、彼が放った言葉は嫌味などではなく、ただ純粋な自信を持った言葉なのだ。
だが。
「……シルエ、とりあえず宮殿を目指そう」
「は、はい」
だが……決め付けるのはよくない。
いつ、俺がお前らに負けた?
いつ、俺の実力を見た?
いつ──俺がお前らより劣った?
数千体なんて数をいきなり相手するのは嫌だったのだが……自分を見下したあいつらに、見せつけないといけなくなったようだ。
そんな決意を胸に、俺はひとまず宮殿へと足を進めていった。
そうして歩くこと十分程度。
ようやくでかい門が見えてきて、それを抜けて宮殿内へと入ったところで。
「貴様あああああああああああ! 私のシルエをおおおおおおおお!」
「…………」
ようやく帰ってきた俺たちを出迎えてくれた声がそれだった。
しわがれた声で白いヒゲを生やした、如何にも偉そうなおっさんが俺たちの前に立ちはだかったのだ。
そのおっさんは高級そうな感じの、床まで伸びる赤いマントを羽織っている。
多分、この人が国王──シルエの父だろう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
どこから持ってきたのか、西洋剣を高々と持ち上げながら俺へと駆け出してくる。
っていうか、乱暴に剣を振り回しながら迫るのはやめろ、危ないだろうが。
「ふっ」
「ぐふっ!?」
俺は不規則に動く剣を片手で掴み、おっさんの首筋に手刀を加える。
おっさんはいとも容易くガクリと膝を床につけ、その場に倒れ込んだ。
「お、お父さんっ」
「大丈夫、気絶しているだけだ」
慌てるシルエを宥め、西洋剣を壁に立てかける。
というか、シルエの父親は親バカかよ。
「さて、お前を無事に宮殿へと送り届けたし……俺は行くかな」
「えっ……?」
任務は終わった。後は俺がどうしようと、関係ない。
「アズマ様、どこかへ向かうんですか……?」
「ん? ああ、ちょっと魔物退治に行ってくる」
「ちょっとコンビニに行ってくる」という軽い感じに返事をすると、シルエがパアッと顔を輝かせる。
「もしかして、助けてくれるんですか?」
「……助ける?」
はたしてあいつらに助力が必要な程、弱いのかどうかは置いといて。
シルエの言葉に反応し、くるりと向き直す。
「勘違いするなよ」
出来るだけニッコリと笑顔を作る。
まるで、どこかのツンデレキャラのような定型文を、まさか俺自身が言うとは思わなかったが。
生憎だが、今の俺にはツンもデレもない。
「俺はな、ただ自分に実力がないとか思われててムカついてるんだよ」
今の俺にあるのは怒りだけだった。
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