適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第29話 えっ……?

 俺たち四人の実施試験も終わり、順番的にまだ終わってないスズの方へ応援に向かうと、観戦しているところから意外な人物を見つける。

「あら、実施試験お疲れ様」
「っ!!」

 そこにいたのは燃えるような赤いストレートと刃のように鋭く水色の瞳を持つ女子生徒、ルノア先輩だった。

 ルノア先輩が俺たちに気が付くとにこやかに声をかけ、俺の隣にいたリリヤの表情が豹変する。

「あら、今ここで暴れたら大切な友人の試合を台無しにしてしまうかもしれないわよ? いいの?」
「………………チッ」

 リリヤの考えはお見通しだったルノア先輩が半分脅迫のような抑え方をすると、悔しげな表情をして小さく舌打ちするリリヤ。

 ……リリヤって、たまに口調とか態度とかが男らしくなるよな……思い返せば、初めて会った時もそうだったし。

「スズさん、だっけ?次、出番よ。相手はダルケ家らしいけど」

 とルノア先輩の説明を訊く限り、まだスズはスタンバイしている状態らしい。

 少し背伸びをして辺りを見回すと……いた。
 前方で観戦しながら待機している、紫色の頭の女子生徒が。

「よう、スズ」
「わひゃうっ!?」

 人ごみをかき分けて後ろから声をかけると、スズがびくりと肩を揺らす。

 どうやら相当緊張しているようだ。

「あっ、ハ、ハルさん? それに、リリヤちゃんも」

 見ると、リリヤも後ろからついてきていた。

 リリヤはスズの前まで出てくると、拳を突き出す。

「名家だかなんだか知らないけど、あんな奴はスズの相手じゃない。勇者になりたいんだったら……私とハルが最終目標なんだから」

 彼女なりの緊張の解し方なのだろうか。

 緊張しているスズに、そんな言葉をかけたのだ。

 ……まあ、同じ教官だった俺も何か言わなきゃな。

 リリヤと同じく拳を前に突き出す。

「そう固くなるな。スズはスズの戦い方を──スズの『無限剣技』を見せればいいんだ」
「……! はいっ!」

 スズは嬉しそうに返事をすると、拳を突き出してゴツンと当てた。

「次っ!」
「……では、行ってきます!」
「おう、行ってこい」
「行ってらっしゃい」

 これで少しは緊張も解せただろうか。

 少し不安になってチラリとリリヤを見るが、彼女が満足げな表情をしているのだから、大丈夫だろう。

「……この勝負、どうなると思う?」

 と、いつの間にか隣に迫ってきていたルノア先輩が、薄い笑みを浮かべながら俺の方を見ていた。

「俺はスズの方が勝つと思います……が、それは絶対じゃないですから、正直に言うとわかりません」
「あら意外。てっきり、絶対スズさんが勝つと断言すると思ったのに」
「勝負は力だけではありません。戦闘する場所や状況、他にも戦略や知識、コンディションなども勝敗を大きく変える要因ですから」

 だから──絶対にスズが勝つとは限らないのだ。

「けど、これだけは断言できます。単純な力勝負であるのなら、スズの方が上です」
「……その根拠は?」
「それが、彼女の『無限剣技』だからです」

 という俺の答えに、ルノア先輩は「ふーん」と目を細める。

「スズさんの『無限剣技』がなんなのか知りたいところだけど……この戦闘で見れるのを楽しみにしてるわ」

 視線をステージの方へ向けると、スズの前にいつしかの金髪巻き毛の女子が余裕そうな顔をして立っていた。

「逃げずに来たことだけは褒めてあげますわ」

 そう言って金髪巻き毛が腰に収めていた剣を抜く。

 非常に細長い形をして真っ黒な宝石がはめ込まれている、いかにも高級そうな剣だ。

「あれは……」

 とルノア先輩が何かに気がついたように、目を鋭くさせた。

「見せてあげましょうスズさん──私、ロズレイ・ダルケと貴女の格の違いを」

 金髪巻き毛──ロズレイの言葉にスズは何も反応せず、黙って短剣を構える。

 よし、挑発には乗っていないようだ。

「開始!」
「──っ!!」

 審判の合図と共に、まず動いたのはスズだった。

 大きく一歩踏み込むと、勢いよくロズレイへ踏み込む。

「はあっ──!」

 短剣を構え、ロズレイの懐めがけて一閃した。

 だがその動きは想定済みだったようで、ロズレイは身体を捻らし──タンッ。

 くるくるとコマのように回転しながらスズの攻撃を躱す。

「っく!」

 その回転と共に剣を構えて攻撃してくるのを察したスズは、短剣で受けながら後ろへ下がる。

「あら、危機察知能力も高いのね、意外ですわ」

 まさか防御されると思わなかったのか、少し意外そうな声でロズレイが回転をやめる。

「……なら、これはどうかしら?」
「っ!」

 そう言うと、ロズレイは宙へ飛び上がった。

 そしてそのまま回転しながらスズへ迫る。

 スズが短剣で攻撃を防ぐ、が──。

 弾き返されたロズレイは回転したまま、再びスズへ迫っていく。

「こ、のっ──!」

 連続して攻撃を繰り出すロズレイに、スズが思いっきり振りかぶる。

 だが、回転を利用したロズレイがスズの攻撃を躱し、背後へ回り込んだ。

「うっ!?」

 いち早く察したスズは慌てて床へ転がり、繰り出される横薙ぎを間一髪といった感じで躱す。

「あれが……」

 あれが──ロズレイの無限剣技。

 回転を利用した剣技か。

 なるほど、回転することを上手く利用して、連続的に動いたり攻撃を躱したりできるんだな。

「まだまだ、私の攻撃は終わりませんわよ?」

 再び攻撃を仕掛けてくるロズレイに、スズが素早く起き上がって応戦し始めた。

「……どうしてスズは反撃しないのだ?」

 と、横で見ているユアンが首を捻る。

「ああ、それはな。相手の攻撃パターンをよく見ておくように、って教えたからだ」

 『実施試験に向けて強くなりたい』というのは、あくまでスズの一時的な目標に過ぎない。

 勇者になりたいと思う彼女の最終目標は『誰よりも強くなる』ということなのだから、敢えてそういう教え方をしている。

 相手の動きをよく見るというのは、学習にもなるからな。

「で、攻撃パターンを見切った上で、完全な隙をつく」

 それが、今スズが攻撃パターンをよく見ている理由だ。

 連続攻撃から逃れるようにして、スズが場内の位置まで下がっていく。

「これで終わらせてあげますわ!」

 ロズレイがそう言って回転しながらスズに攻撃を仕掛けてくる。

 それが、スズの狙いだった。

「っ!!」
「なっ……!?」

 短剣を前に構え、ロズレイの回転に合わせて側面に当てていく。

 ガリガリという音を立てて──ロズレイの回転が止まった。

 さっきまでなら、ロズレイがスズの後ろを取ったような形。

 だが、今はロズレイの攻撃が止まり、スズの身体はロズレイの真正面へ向いていた。

 つまり、一瞬にて完全な隙。

 これで勝負が決まる──!

 しかし。

 その一瞬を見逃すことはなかった。

 ロズレイが薄気味悪い笑みを浮かべていたことを。

「ヴィンドッ!!」

 スズがゼロ距離で風魔法を放ち、ロズレイの身体を吹き飛ばす。




 ……はずだった。


「えっ……?」

 そこには依然としてロズレイが立っている。

 まるで、魔法の攻撃が食らわないかのように。


 いや、違う。


 スズの魔法が──発動してないのだ。

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