適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第28話 勝たなくてもいいんだぞ

 剣と剣がぶつかりあう音が聞こえてくる。

 金髪の男子生徒は、銀色の大剣に力を込めて相手を押し返そうとするが、相手をなかなか押し返せない。

 岩をも砕きそうなゴツい大剣に対し、手のひらより少し大きいくらいの短剣で対抗する紫髪の女子生徒──スズ。

「こっ……のっ……!」

 一見すれば一目瞭然の勝負のはずなのに、決着がつかないことにイラつきだした男子は全体重を込める。

 流石に耐えられないのか、スズの身体が少しばかり後ろへずり下がった。

「ヴィンドっ!」

 力勝負は勝てないと判断したスズは、相手の足元に向けて下級の風を打ち付けた。

「うおっ──!?」

 全体重を乗せていたせいで、足を滑らせた男子の身体はそのまま転んでしまう。

「くっ!?」

 隙だらけの敵に容赦なく攻撃を繰り出してくるスズに、男子はゴロゴロと転がって回避行動を取る。

 スズとの距離を取った男子は慌てて起き上がる頃には、既にスズは動いていた。

「フランバル!」

 素早く火球を作った金髪男子へと放つ。

 男子は横へ回避しようとする、が……。

「ヴァッサーバル!」
「なっ!?」

 スズは水球を発動させると、空中を浮遊する火球にぶつける。

 要するに、自分の魔法に自分の魔法を打ち付けたのだ。

 ジュッという音がし、白い煙のようなものが男子を包み込む。

 水が一気に蒸発したことに起こる、水蒸気というやつだ。

「……っ!」
「っ!! しまっ……!」

 一瞬視界を奪われたのが金髪の命取り。

 スズは素早く男子の背後に回ると、短剣を男子の首に打ち付ける。

「がはっ!」

 金髪男子は勢いよく吹っ飛んでいき──木彫りの床に描かれている赤い線を越えていった。


「そこまで!」

 フィールド上から出たことを確認した審判……もとい剣技学科の先生は右手をあげて勝負の終了を宣言する。

 勝者はスズに決まった。

「……あれが彼女の『無限剣技』というわけか」

 と隣で観戦していたユアンが感嘆な声をあげる。

「下級魔法だけだが、超短読詠唱ができることを上手く活用し、魔法を組み合わせる剣技……なるほど、遠近共に扱える戦術だな」
「ええ、最初は本当に酷かったって聞いてたから不安だったけど……これなら安心だわ」

 更にその横にいるルミも、うんうんと満足げに頷く。

 うーん、まあ俺も良いとは思うが……。

「リリヤはどう思う?」

 ちらりともう一人の教官に目を向けると、リリヤは不満げそうな表情をしていた。

「水蒸気を利用した技なら、火と水の複合魔法の方が手っ取り早いのに……」
「いや、あいつ複合魔法をそんな短読で読めないだろ」

 というかそれ、お前基準で評価してんじゃねえか。

「そういうハルも浮かない顔しているが……何か不満なのか?」

 ユアンは俺の顔を見るなり、不思議そうに問いただしてくる。

「うーん、不満というかなんというか……まだスズの実力の半分しか見れてないって感じだから、もう少し相手が強ければなあって……」
「実力の半分……あれでか?」

 ユアンとルミはたまにしか特訓を見に来たことがないからわからないと思うが、スズの本当の力はこんなものではないのだ。

 もっとこう、あいつの力は──

「おいお前ら。そろそろ、うちの学科も試験が始まるぞ」

 そんなことを悶々と考えていると、後ろから声をかけられる。

 振り返ると、いつの間にかガドラが俺たちの後ろに立っていた。

「あれ、わざわざ呼びに来てくれたのか?」
「……まあそれもあるが、俺もちょっと違うところに行っててな……」
「? 違うところ?」
「あー、なんでもない。忘れてくれ」

 そういえばガドラは、気が付くとどこかへ行っているのをたまに見かけたりしている。
 俺たちみたいに、他の学科に知り合いでもいるのかな?

「……ハル、私たちも試験だから行こう」
「ん、そうだな」

 まあ今は置いておこう。

 俺たちも実施試験を受けなくてはいけないからな。


 * * *


 実施試験について、簡単な説明をしておこう。

 今回行われるのは三人とのランダムマッチで、対戦相手はあらかじめ掲示板に掲載される。

 勝敗のつき方は大きくわけて二つ。

 相手を動けなくするか、場外に出すかだ。

 試験に使う会場には五メートルの正方形で出来た枠があり、そこから出ると場外で失格になる。

 他にも相手が自ら負けを認めるギブアップや、反則負けなどもあるのだ。

「よろしくね、適性ゼロくんっ」

 俺の一回目の相手は、赤髪をポニーテールにまとめている女子だった。

 はにかむような笑顔の持ち主から、結構明るい人なのだろう。

「本当、まじで私が勝てそうなのって君ぐらいしかいないから……よろしくね、適性ゼロくん」
「…………」

 前言撤回。

 外面と正反対に、内面は後ろ向きなのかもしれない。

 まあだからと言って、手を抜くわけではない。
 それじゃ、自分とこの人のためにもならないしな。

「開始!」

 俺たちが定位置についたのを確認した審判……魔法学科のナミア先生が、あげた右手を勢いよく振り下ろす。

「ヴァッサーバル!」

 先手必勝とばかりに、赤ポニテの女子が杖から魔法を繰り出してくる。

 まっすぐ飛んでくる水球を横ステップで躱す。

「まだまだ! ヴァッサーバル!」

 逃すまいと、連続して水球を放ってくる赤ポニテ。

 ふむ、連続して発動する速さはあるが……。

「しっかりと形は保たせた方がいいぞ」

 そう言うと、やや形が崩れた水球を殴って吹き飛ばした。

「なっ……!」

 まさか殴って攻撃を無効化するとは思わなかったようで、赤ポニテは絶句している。

 今度はこっちの番だな。

「求めるは風なり……」
「っ! ヴァッサーバル!」

 詠唱を始めた俺にはっとした赤ポニテは、慌てて攻撃を再開する。

「我が手に集い、一点を吹きとばせ……」

 飛んできた水球に半身をずらして躱しながら、詠唱を終える。

「ヴィンド!」
「ッ!!」

 魔法を発動したことによって警戒する赤ポニテだが。

「…………え……?」

 自分の手の甲に小さな竜巻を起こしている俺を見て、目を丸くする。

 相手から……いや、この場のほとんどの人からしたら何をやっているのかわからないかもしれないだろう。


 ……よし、刺さったかな。

 バレないように糸を軽く引き、先端の針が天井に刺さっていることを確認する。

「な、なんだかよくわからないけど……チャンス! ヴィンド!」

 攻撃をミスしたのだと思ったのだろうか、攻撃を仕掛けてきた。

 俺はそのまま地を蹴って

「えっ!?」

 地面を滑るように躱したのだ。

 天井に針を打ち付けたことを利用したことにより、身体を浮かせながら移動するという簡単な原理だが。

 それに気がついてない相手からしたら、不思議な動きであることに仕方がないだろう。

「求めるは風なり、我が手に集い……」
「フ、フランバル!」

 再び詠唱を始めた俺に、慌てて赤ポニテは魔法を発動させる。

 糸を利用して、また地面を滑るように躱して詠唱を続ける。

「一点を吹きとばせ、ヴィンド!」

 今度は逆回転!

 発動させると同時に、地面を思いっきり蹴って。

「なっ!?」


 そのまま、勢いよく天井へと移動したのだ。

「ちょ、ちょっと! あれは場外なんじゃ!?」
「え、ええと……」

 赤ポニテが困ったような顔をするナミア先生に詰め寄るが──それはない。

 一応ルールを確認したが、高さの基準はなかったしな。

「求めるは風なり……」

 相手が攻撃しないうちに、次の攻撃を仕掛ける。

「風よ我が手に集え、一つの玉となりて一点に撃ち放て……」

 手の甲に発動させていた竜巻が消えると、俺の身体はそのまま重力に従って自由落下していく。

「ヴィンドバル!」

 風の中級魔法『ヴィンドバル』。

 それを足元に発動させると、赤ポニテに向けて蹴りを放つ。

「くっ!」

 慌てて相手は後ろへ下がる。

 ……が、そんなことは想定済みだ。

 そのまま勢いに乗って地面に向かって蹴りを繰り出し──足元にあった風の玉を踏み砕いた。

「っ!?」

踏み砕いた途端、強烈な風が足元を中心に起こる。

「うわっ!?」
「っとと……」

 一番近くにいた俺も当然爆風によって吹き飛ばされるが、天井につけていた糸を利用して、天井へと踏みとどまる。

 対して相手の赤ポニテは……そのまま場外へと吹き飛ばされていた。

「そこまで!」

 ナミア先生の右手があがり、勝敗が決したのを確認すると、天井につけた針を抜いて床へ降り立つ。

「……あはは、魔法面ではダメなのに、戦闘には強いって本当だったんだね……」

 場外に飛ばされた赤ポニテはゆっくりと起き上がると、苦笑しながら俺の方へ向かってくる。

「やっぱり私じゃ勝てないか……あーあ、いい成績を残したかったんだけどなあ」
「あっ、いい成績を取りたいのか? なら、勝たなくてもいいんだぞ?」
「えっ?」

 俺の言葉に女子が驚いたように顔をあげる。

「いいか、この実施試験で見るのは勝敗の決し方だけじゃない。魔法学科の場合は魔法の発動速度や練度といった基礎面、あと短読詠唱とかの応用技術が採点になるんだ」
「そ、そうなの?」
「ああ、だから負けたとしてもきちんと基礎と応用が出来るところを見せれば、いい成績っていうのは取れるぞ」

 細々と採点方法について説明をしているが……正直言って、これは俺の憶測に過ぎない。

 しかし実施試験となると、この辺を見るのではないかというのは安易に予想できる。

「そっか、ありがとう……適性ゼロくんって、優しいね」
「ん、どういたしまして……あと赤ポニテよ、俺の名前は適性ゼロじゃない、ハルだ」

 そう言って握手のために右手を前に出すと、赤ポニテの女子は少し嬉しそうに手を握った。

「私も赤ポニテなんて変な名前じゃないし……ライリよ、よろしくねハルくん」
「ああ、よろしくライリ」

 勝負の後でもこうして相手と仲良くなれるのはいいものだなと、赤ポニテ──ライリの笑顔を見るなり、そう思ったのだった。

「……やっぱりハルは優しすぎ」

 俺の番は一回終わりなので部屋の端の観客するところへ戻ると、リリヤがため息をつきながら出迎えてくれた。

「あんなの、別に言わなくてもいいのに」
「いや、言わなくていいって……そっちの方が気持ちいいだろ? お前がスズにあれこれ言ってるようなものだ」
「スズは別。あの子は自分で考えて行動してるんだから」

 いい例えをしたつもりだったが、逆にむっとした表情に変えて反論するリリヤ。

「スズは他の人と違って……きちんと考えて動いてるの」
「…………」

 へえ。
 リリヤがそこまで言うのか。

 あの、なかなか人を認めないリリヤが。

「次、私の番だから……行ってくる」
「おう、行ってらっしゃい」

 リリヤが踵を返すと、そのまま人をかき分けて前へと出ていく。

 もしかしたら彼女は俺が想像している以上に成長しているのかもしれない。

 スズという友達と出会って、少しは他人に優しく……

「開始──あっ!?」
「うわあああああっ!?」

 ……優しくなんてなかった。

 開始一秒で上級魔法を繰り出して勝負を決めたリリヤの鬼畜さを目の当たりにし、ため息をつくしかなかった。

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