適性ゼロの魔法勇者
第26話 次は本気で狙う
無限剣技については前にも説明した通り、その人独自の剣技である。
と言っても、剣を持って振り回すことができれば良いというものではない。
剣技にも基本の型というのがあり、その基本の型を独自に応用することが出来れば、無限剣技を習得したと初めて言えるのだ。
習得の判断は無読魔法と違って曖昧なので、「これが俺の無限剣技だ」と言い張れば習得してしまうものだったりする。
だが、独自の剣技と言っても動きが被ることもあったりするらしい。
まあ細部は違うものの、同じ剣士だから被るってことは稀ではないしな。
そして、俺とリリヤの生徒、スズが習得した無限剣技の特徴は──
「あら、ハルくん。こんにちは」
と。
俺が掲示板とにらめっこをしている中、後ろから声をかけてくる人がいた。
「……ルノア先輩」
赤髪のロングに水色の鋭い瞳をした、大人びた黒ローブの女子生徒はルノア・ベルンヘルト先輩。
リリヤとは姉妹の関係だが、母親が違うらしい。
「こんなところにいるなんて、珍しいですね」
「ちょっと剣技学科にいる友人に用事があってね。それに、こんなところにいて珍しいのはハルくんもでしょ?」
「…………」
そう、今俺たちがいる場所は剣技学科棟一階にある掲示板の前。
魔法学科にいる人間からしたら、一生利用することがないはずなのだ。
「ちょっと他の学科がどんな情報を持っているのかと思いまして。情報収集ですよ」
「ふうん。で、剣技学科の子の特訓はどうなっているの?」
さりげなく誤魔化したつもりなのに、全く誤魔化しきれてなかった。
というか、スズのことも知られているし。
「……今のところ、順調ですよ。これなら、試験も大丈夫だと思います」
知られているなら今更隠しても意味がないだろうと思ったので、今度は誤魔化すことなくスズの進捗を話す。
「ふうん、そうなの。ま、私にはどうでもいいんだけど」
「…………」
それなら、どうして訊いてきたのだろうかこの人……。
「あ、今『なら、どうして訊いてきたんだろう。頭悪いんじゃないか、この人』って思ったでしょ」
「いや、そこまでは思ってないです」
しかしどうしてわかったのだろうかと考えていると、ルノア先輩はふふんと得意げな顔をする。
「私、人の表情から心を読み取るのは得意なのよ。昔から必死に訓練したんだから」
「へえ、なんで訓練したんですか?」
「相手が私の悪口を言ってないか、確かめるために」
「…………」
堂々と言うルノア先輩の理由に思わず黙ってしまう。
なんだろう、ルノア先輩は少し被害妄想気味な気がする。
「それにしても、スズちゃんの試験は大丈夫ねえ……でも、それは相手次第じゃないかしら?」
「というと?」
「魔法学科でリリヤが優秀と言われているように、剣技学科も優秀な人がいるわけで──」
「おい、ハル!」
と、ルノア先輩と会話している最中、いきなり後ろから声をかけられた。
「えっ、ガドラ? なんでお前がここにいるんだ?」
剣技学科に知り合いなどスズ以外はいないはずなので、自分が声をかけられたことを疑問に思いつつ振り向くと、これまた珍しいことに同じ魔法学科であるガドラが息を切らしながらそこに立っていたのだ。
それにしても、なんでガドラがここにいるのだろうか。
ルノア先輩と同じく剣技学科に知り合いがいる、とか?
しかし、予想していた答えとは大きく異なっていた。
「はあっ……はあっ……お前を捜してたんだよ……」
「俺を?」
どういうことだろうか?
「今……うちの学科の棟に剣技学科のやつらが来てて……スズってやつと揉めてんだよ」
* * *
俺たちがいつも利用している訓練室へ向かった時には、既に周りの連中がざわつきを始めていた。
何十人ものの魔法学科の生徒が第5訓練室を取り囲んでいて、何が起こっているのか見たさそうに覗き込んでいる。
群がる人を掻き分けていき訓練室の入口まで進むと、そこには怯えているようなスズの前に毅然と立っているリリヤ、ユアン、ルミの三人と、リリヤたちと睨み合う三人組がいた。
髪がロングとショートの男子二人の間に立っているのは金髪の女子。
なんかこう、髪をグルグルと巻きまくっているものすごい髪型の女子だった。
金髪巻き毛の女子はスズを睨むと、馬鹿にするかのように口元を吊り上げる。
「栄光なる剣技学科が、こんな底辺学科の訓練室に通っているだなんて大恥ですわ!」
そして、明らかにプライドが高いお嬢様だということが一瞬でわかるような一言だった。
なんか笑う時は、ものすごい高笑いしてそう。
「ああ、それともスズさん。剣技学科の底辺である貴女だから、底辺学科の施設を使っているのかしら?」
挑発するかのような巻き毛女の言葉にスズの頭が揺れるが、その前にリリヤの口が開く。
「誰がどこの施設を使おうと関係ない。ここの生徒なら、その全員に使用権が与えられているのだから」
「お黙りなさい、底辺学科の意見なんて聞いてませんわ」
巻き毛女はリリヤの返答に聞く耳を持たないようだ。
一方のリリヤは眉をピクリと動かすも、黙って巻き毛女を睨む。
あのリリヤも我慢強くなったものだと感心していると、次にルミが口を開く。
「それで? ダルゲ家の長女は何をしたくてここに来たのかしら」
「あら、ルクネス族の継承者さん。きちんとした用事ではないと来てはいけませんの?」
ん? ルミとは知り合いなのだろうか?
「私はたまたま誇り高き剣技学科がこんなところに来ているのを見て、気になって来ただけですわ。特訓か何か知りませんが、あまり剣技学科の顔に泥を塗るような行為はやめてくださる?」
「言わせておけば……!」
挑発に乗りやすいユアンが眉を吊り上げて一歩前に出てくる。
それに合わせ、巻き毛女の両脇にいる男子二人の腕が動いた。
……ここだな。
「まあまあまあ、穏便に済まそうぜ?」
今まさに乱闘が起ころうとする直前、にこやかにリリヤたちと巻き毛女たちの間に割って入った。
突然出てきた俺に、髪の毛がロングの方の男子が不快そうな表情をする。
「なんだお前は」
「そう怒るなって」
そして背を向けているユアンから不満の声が聞こえてくる。
「なんだハル! 邪魔をするな!」
「うるせえ。お前は我慢って言葉を覚えろ」
「何故僕には当たりが強いのだ!?」
それはユアンだからとしか言い様がない。
「ハルって……貴方、あの『適性ゼロ』ですの?」
巻き毛女は俺の名前を聞くと、少しばかり目を見開く。
やはり剣技学科でも俺の名前は有名になっているようだな、全然嬉しくないけど。
「ああ、そうだが?」
「………………ぷっ」
別に隠す必要はないので肯定すると、巻き毛女はニマニマとした目つきで俺を見て吹き出した。
「おーっほっほっほ! スズさん、貴女はこんなのとつるんでいますの!?」
おお、予想した通りすげえ高笑いするなこいつ。
と感心しているのも束の間。
「底辺の中の底辺とつるんでいるだなんて、貴女の底辺っぷりも相当なものですわ……」
突如、パァンッと巻き毛女の横から小さな爆発が起こった。
突然の出来事に、面白そうに見ていた野次馬から悲鳴が漏れる。
「……今のは警告。それ以上喋ると、次は本気で狙う」
ゾクリとするような殺気が後ろから立ちこもる中に聞こえてくるのは、いつもより声の低いリリヤの声。
冗談に思えないような口調に、思わずこっちも身構えそうになるほどだ。
「……ふ、ふん! 試験では覚えてなさい! こんなことをしても無駄だということを証明してあげますわ!」
怖気づいたのだろうか、巻き毛女は若干震える声でそう言うと、そそくさと取り巻きを連れて訓練室内から出て行った。
とりあえず一段落ついたことで、野次馬たちもゾロゾロと離れていく。
そしてようやくいつものメンバーだけになったところで、安堵するかのようにため息をついてリリヤを見る。
「あのなあリリヤ……いきなり攻撃することはないだろ」
「恋人が馬鹿にされて怒らない人なんていない」
攻撃を仕掛けたリリヤを叱ると、リリヤは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「それに、私の友達を馬鹿にしたことも許せない」
「…………」
そう言われると、返す言葉がない。
「ご、ごめんなさい。私のせいで……」
「スズは何も悪くないから、大丈夫」
「そうよ。悪いのはダルゲ家のあいつなんだから」
申し訳なさそうに身を縮めるスズに、リリヤとルミが優しく声をかける。
ダルゲ家というのはどこかの貴族の家だろうか、それにしても何処かで聞き覚えのあるような……。
「……あっ」
ダルゲという言葉にようやく思い出した俺は、思わず声をあげてしまう。
「対戦相手だ」
「へ? ハルさん、何がですか?」
「だから対戦相手。スズの実技試験で戦う相手なんだよ、あいつ」
と言っても、剣を持って振り回すことができれば良いというものではない。
剣技にも基本の型というのがあり、その基本の型を独自に応用することが出来れば、無限剣技を習得したと初めて言えるのだ。
習得の判断は無読魔法と違って曖昧なので、「これが俺の無限剣技だ」と言い張れば習得してしまうものだったりする。
だが、独自の剣技と言っても動きが被ることもあったりするらしい。
まあ細部は違うものの、同じ剣士だから被るってことは稀ではないしな。
そして、俺とリリヤの生徒、スズが習得した無限剣技の特徴は──
「あら、ハルくん。こんにちは」
と。
俺が掲示板とにらめっこをしている中、後ろから声をかけてくる人がいた。
「……ルノア先輩」
赤髪のロングに水色の鋭い瞳をした、大人びた黒ローブの女子生徒はルノア・ベルンヘルト先輩。
リリヤとは姉妹の関係だが、母親が違うらしい。
「こんなところにいるなんて、珍しいですね」
「ちょっと剣技学科にいる友人に用事があってね。それに、こんなところにいて珍しいのはハルくんもでしょ?」
「…………」
そう、今俺たちがいる場所は剣技学科棟一階にある掲示板の前。
魔法学科にいる人間からしたら、一生利用することがないはずなのだ。
「ちょっと他の学科がどんな情報を持っているのかと思いまして。情報収集ですよ」
「ふうん。で、剣技学科の子の特訓はどうなっているの?」
さりげなく誤魔化したつもりなのに、全く誤魔化しきれてなかった。
というか、スズのことも知られているし。
「……今のところ、順調ですよ。これなら、試験も大丈夫だと思います」
知られているなら今更隠しても意味がないだろうと思ったので、今度は誤魔化すことなくスズの進捗を話す。
「ふうん、そうなの。ま、私にはどうでもいいんだけど」
「…………」
それなら、どうして訊いてきたのだろうかこの人……。
「あ、今『なら、どうして訊いてきたんだろう。頭悪いんじゃないか、この人』って思ったでしょ」
「いや、そこまでは思ってないです」
しかしどうしてわかったのだろうかと考えていると、ルノア先輩はふふんと得意げな顔をする。
「私、人の表情から心を読み取るのは得意なのよ。昔から必死に訓練したんだから」
「へえ、なんで訓練したんですか?」
「相手が私の悪口を言ってないか、確かめるために」
「…………」
堂々と言うルノア先輩の理由に思わず黙ってしまう。
なんだろう、ルノア先輩は少し被害妄想気味な気がする。
「それにしても、スズちゃんの試験は大丈夫ねえ……でも、それは相手次第じゃないかしら?」
「というと?」
「魔法学科でリリヤが優秀と言われているように、剣技学科も優秀な人がいるわけで──」
「おい、ハル!」
と、ルノア先輩と会話している最中、いきなり後ろから声をかけられた。
「えっ、ガドラ? なんでお前がここにいるんだ?」
剣技学科に知り合いなどスズ以外はいないはずなので、自分が声をかけられたことを疑問に思いつつ振り向くと、これまた珍しいことに同じ魔法学科であるガドラが息を切らしながらそこに立っていたのだ。
それにしても、なんでガドラがここにいるのだろうか。
ルノア先輩と同じく剣技学科に知り合いがいる、とか?
しかし、予想していた答えとは大きく異なっていた。
「はあっ……はあっ……お前を捜してたんだよ……」
「俺を?」
どういうことだろうか?
「今……うちの学科の棟に剣技学科のやつらが来てて……スズってやつと揉めてんだよ」
* * *
俺たちがいつも利用している訓練室へ向かった時には、既に周りの連中がざわつきを始めていた。
何十人ものの魔法学科の生徒が第5訓練室を取り囲んでいて、何が起こっているのか見たさそうに覗き込んでいる。
群がる人を掻き分けていき訓練室の入口まで進むと、そこには怯えているようなスズの前に毅然と立っているリリヤ、ユアン、ルミの三人と、リリヤたちと睨み合う三人組がいた。
髪がロングとショートの男子二人の間に立っているのは金髪の女子。
なんかこう、髪をグルグルと巻きまくっているものすごい髪型の女子だった。
金髪巻き毛の女子はスズを睨むと、馬鹿にするかのように口元を吊り上げる。
「栄光なる剣技学科が、こんな底辺学科の訓練室に通っているだなんて大恥ですわ!」
そして、明らかにプライドが高いお嬢様だということが一瞬でわかるような一言だった。
なんか笑う時は、ものすごい高笑いしてそう。
「ああ、それともスズさん。剣技学科の底辺である貴女だから、底辺学科の施設を使っているのかしら?」
挑発するかのような巻き毛女の言葉にスズの頭が揺れるが、その前にリリヤの口が開く。
「誰がどこの施設を使おうと関係ない。ここの生徒なら、その全員に使用権が与えられているのだから」
「お黙りなさい、底辺学科の意見なんて聞いてませんわ」
巻き毛女はリリヤの返答に聞く耳を持たないようだ。
一方のリリヤは眉をピクリと動かすも、黙って巻き毛女を睨む。
あのリリヤも我慢強くなったものだと感心していると、次にルミが口を開く。
「それで? ダルゲ家の長女は何をしたくてここに来たのかしら」
「あら、ルクネス族の継承者さん。きちんとした用事ではないと来てはいけませんの?」
ん? ルミとは知り合いなのだろうか?
「私はたまたま誇り高き剣技学科がこんなところに来ているのを見て、気になって来ただけですわ。特訓か何か知りませんが、あまり剣技学科の顔に泥を塗るような行為はやめてくださる?」
「言わせておけば……!」
挑発に乗りやすいユアンが眉を吊り上げて一歩前に出てくる。
それに合わせ、巻き毛女の両脇にいる男子二人の腕が動いた。
……ここだな。
「まあまあまあ、穏便に済まそうぜ?」
今まさに乱闘が起ころうとする直前、にこやかにリリヤたちと巻き毛女たちの間に割って入った。
突然出てきた俺に、髪の毛がロングの方の男子が不快そうな表情をする。
「なんだお前は」
「そう怒るなって」
そして背を向けているユアンから不満の声が聞こえてくる。
「なんだハル! 邪魔をするな!」
「うるせえ。お前は我慢って言葉を覚えろ」
「何故僕には当たりが強いのだ!?」
それはユアンだからとしか言い様がない。
「ハルって……貴方、あの『適性ゼロ』ですの?」
巻き毛女は俺の名前を聞くと、少しばかり目を見開く。
やはり剣技学科でも俺の名前は有名になっているようだな、全然嬉しくないけど。
「ああ、そうだが?」
「………………ぷっ」
別に隠す必要はないので肯定すると、巻き毛女はニマニマとした目つきで俺を見て吹き出した。
「おーっほっほっほ! スズさん、貴女はこんなのとつるんでいますの!?」
おお、予想した通りすげえ高笑いするなこいつ。
と感心しているのも束の間。
「底辺の中の底辺とつるんでいるだなんて、貴女の底辺っぷりも相当なものですわ……」
突如、パァンッと巻き毛女の横から小さな爆発が起こった。
突然の出来事に、面白そうに見ていた野次馬から悲鳴が漏れる。
「……今のは警告。それ以上喋ると、次は本気で狙う」
ゾクリとするような殺気が後ろから立ちこもる中に聞こえてくるのは、いつもより声の低いリリヤの声。
冗談に思えないような口調に、思わずこっちも身構えそうになるほどだ。
「……ふ、ふん! 試験では覚えてなさい! こんなことをしても無駄だということを証明してあげますわ!」
怖気づいたのだろうか、巻き毛女は若干震える声でそう言うと、そそくさと取り巻きを連れて訓練室内から出て行った。
とりあえず一段落ついたことで、野次馬たちもゾロゾロと離れていく。
そしてようやくいつものメンバーだけになったところで、安堵するかのようにため息をついてリリヤを見る。
「あのなあリリヤ……いきなり攻撃することはないだろ」
「恋人が馬鹿にされて怒らない人なんていない」
攻撃を仕掛けたリリヤを叱ると、リリヤは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「それに、私の友達を馬鹿にしたことも許せない」
「…………」
そう言われると、返す言葉がない。
「ご、ごめんなさい。私のせいで……」
「スズは何も悪くないから、大丈夫」
「そうよ。悪いのはダルゲ家のあいつなんだから」
申し訳なさそうに身を縮めるスズに、リリヤとルミが優しく声をかける。
ダルゲ家というのはどこかの貴族の家だろうか、それにしても何処かで聞き覚えのあるような……。
「……あっ」
ダルゲという言葉にようやく思い出した俺は、思わず声をあげてしまう。
「対戦相手だ」
「へ? ハルさん、何がですか?」
「だから対戦相手。スズの実技試験で戦う相手なんだよ、あいつ」
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