適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第24話 私と勝負しない?

「そういえばハルさんの『適性ゼロ』って、どうしてそう言われてるんですか?」
「ん? ああ、それはな……」

 特訓の休憩時間中に床に座り込んでいると、スズからそんな質問をされる。

 どうやら『適性ゼロ』は知っていても、詳しい事情までは知らないらしい。

 別に隠すこともないので、自分の不思議な体質についてを話す。

「そうだったんですか……」

  説明を聞いたあと、スズは眉間に皺を寄せながら何か考え込むように手を当てていた。

「でも、そしたらなんで魔法学科に入ったのですか?」
「別に俺の魔法適性がゼロだと決まったわけじゃないだろ? もしかしたら俺でも魔法を使えるかもしれない──だから勇者になるため、この魔法学科に入ったんだよ」

 前にユアンやルミ、あとルノア先輩にも言った理由を言うが、スズの表情は納得しないといった感じだ。

「それっておかしくないですか? 別に魔法が使えないからって勇者だと認められない、というわけじゃないですよね?」
「…………」
「それに、勇者の武器といえば剣です。もしハルさんが私と同じく勇者になりたくてこの学校に入ったのなら、剣技学科に入ると思うんですけど」

 何か言おうと口を開くが、スズの言うことは最もであり、何も言い返すことができない。

 俺がわざわざ魔法学科を選んだ理由。
 それは──

「……もしかして、他にも理由があるんじゃ」
「スズ」

 と。
 いつの間にか隣まで来ていたリリヤが、スズのジャケットの裾を掴みながら首を振った。

「ハルにだって、言いたくないことはある」
「あっ……ご、ごめんなさい! ハルさんを詮索するようなことをしてしまって」

 リリヤの言葉にはっとしたスズは、座ったまま頭を下げてきた。

 ……言いたくないこと、か。

「俺には姉貴が一人いる」

 気が付けば、口が勝手に動いていた。

「七歳年上の姉でさ、割と仲は良い方だったんだ」

 リリヤは何か言いたげそうに俺を見るが、黙って聞いてくれている。

「スズは知ってるだろ? 俺が近距離戦を得意としていること」
「は、はい。魔法を使うというより、肉弾戦をしていることは知っています」
「姉貴はその逆」

 小さい頃から、俺は近距離での戦いだった。
 その時は魔法の適性云々ではなく、魔法より拳で戦う方が好きだったから。

「姉貴は魔法面を得意としていたんだ。だからこの学校でも魔法学科に入ってた」
「へえ、ハルさんのお姉さんもこの学校にいたんですね。七歳年上、ということは……去年卒業されたんですか?」

 ああ、そうか。
 そう考えると、確かに姉貴は去年卒業したということになるんだな。

「いや……四年前に姉貴はいなくなった」
「えっ……」


 それは姉貴が四年生の時だった。

 当時の姉貴は魔法学科でも非常に優秀な成績を残していた。

 それに対し、当時の俺は魔法で戦うことなんて微塵も考えていなく、ただただ肉弾戦を自主練している日々。

 別に姉貴に対して劣等感は感じていなかったが……いつか追いつきたい存在でもあった。

 そんな時、いつもとは少し違う出来事があった。

「ねえハル。私と勝負しない?」
「勝負?」

 休暇で姉貴が家に帰ってきていた時、自主練していた俺に声を掛ける姉貴。

「そう、勝負。あそこにある一本の木に、どっちが早く攻撃を当てることができるか」
「攻撃って……姉貴、無読魔法を使えるじゃん。勝てるわけねえだろ」
「ハンデとして全読詠唱してあげるからさ」

 この時、既に違和感を感じていた。

 まず、姉貴は勝負事を好んでいなかったこと。
 そして、ハンデをつけることもつけられることも嫌っていた姉貴が自らハンデをつけてきたこと。

「……まあ、いいけど」

 でも、その時は「姉貴に勝てるチャンス」という思考がよぎり、それ以上考えることができなかった。

 これまで何度か姉貴と勝負をしてきたが、一度も勝ったことがなかったのだ。

 これなら姉貴に勝てるかもしれない──そんな期待を抱いていた。

 俺と姉貴から指定した木までの距離は約五十メートル。
 全力で走れば、七秒で届きそうな距離だった。

「じゃあ、行くよ? よーい……」

 ──最上級魔法は広範囲だが、全読詠唱をするのに時間がかかる。逆に下級魔法は時間が短縮できるが、範囲が狭い。ということは……。

「どん!」
「──っ!」

 次の瞬間、夢中になって駆け出した。

「求めるは水なり。水流よ、我が手に集え……」

 そして姉貴も詠唱を始める。

 ──そう、俺と同じく走りながら。

「やっぱりな!」

 予想通りの行動に、俺は思わず笑みを浮かべた。

 時間短縮が出来るなら範囲を自力で縮めてしまえばいい。

 姉貴は魔法を得意としているが、別に運動神経が悪いわけではない。むしろ、かなり良い方だ。

 だからハンデつきでも走れば勝てるかもしれない。

 相手が俺じゃなかったらな!


 何年も肉体を鍛えていた為、姉貴より運動神経は良い方だという自信はあった。
 その証拠に、姉貴とは結構な差をつけて俺が前に走っていた。

「全てを貫く槍となりて、一点を撃ち放て……」

 詠唱から聞くと、姉貴が撃とうとしているのは『ヴァッサーシュペア』。
 水の中級魔法で、範囲は十五メートルといったところ。

 一方、今の姉貴の立ち位置から推測して木から約三十メートル。

「『ヴァッサーシュペア』!」

 これなら、木に届くことがない!

 自分の勝利を確認した──はずだった。

 そう、姉貴の作ったヴァッサーシュペアが指定しているのとは別の、近くの木に放たれていなければ。

「なっ──!?」

 バキリと嫌な音を立てて、木が斜め前に倒れてくる。

 結果、俺の進路に大木が倒れてきた。

「ひ、卑怯だぞ!」
「相手の進路を阻んではいけない、なんて誰が言ったかな?」

 姉貴は薄い笑みを浮かべると、次の詠唱に入る。

「求めるは豪炎なり」
「──!」

 まずい。

 次に放つのは、明らかに広範囲である上級以上の魔法だ。

「炎よ我が手に集え」

 倒れてきた大木に向かって走り、大きな幹を登る。

「火炎にて全てを吹き飛ばせ」

 この木を越えたら、距離は約十五メートル。
 木を登ると、そのまま転がるようにして降りていく。

「一点にて爆散せよ」

 ──ダメだ、間に合わない!

 今から走っても負けるのは、明白だった。

 いくら足が速いとはいえ、魔法が発動する速度の方が速いのは俺でも知っていた。

「『エクス──』」
「くっ……そおおぉ!」

 無意識に足元の小石を掴むと、そのまま投石する。

 小石は綺麗な放物線を描いていき──。

 軽い音を立てながら、木に弾き飛ばされた。

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