適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第19話 一緒に特訓してください

「そういえばハル。試験に向けて、きちんと勉強しているか?」
「え? 試験?」

 あれから半年後。

 だるような空気が流れる毎日が始まり、一般的に『夏』と呼ばれる時期の始まりだ。

 本日の授業が全て終了し、荷物をまとめている教室内でのことだった。

「その様子だと、試験の存在すら知らないようだな……」

 何も返事を出来ずにいると、俺の目の前に現れた友人、ユアンは深くため息をつく。

「試験って意味くらいは知ってるぞ。俺はそこまで馬鹿じゃない」
「僕が言っているのはそういうことじゃない……」

 ムッとして言い返すが、どうやらその答えは的外れだったようで、更にユアンを呆れされてしまった。

「もうすぐ学校が長期休暇に入るのは知ってるだろう? それまでの復習として、試験が2つ行われるのだ」
「えっ、長期休暇? 学校に長い休みがあるのか?」
「それさえも知らなかったのか!」

 長期休暇があるということも初耳だったので素直に驚くと、俺よりも愕然とした表情をするユアン。

「……仕方ない、ハルは馬鹿だから」

 と、後ろから近づいてくる灰色の髪をカールのように巻いた魔族の女子生徒。

 ユアンよりも付き合いが長いリリヤで……俺の恋人、ということになってる。

 ちなみに、彼女曰く「これはカールじゃなくてくせ毛」らしい。
 俺もリリヤが髪をセットしたところを見たことがないし、多分本当だろう。

「おいおい、別に馬鹿は関係ないだろ。俺は学校なんて初めてなんだ、知らなくて当然だろ?」

 言われっぱなしもなんか癪に障るので、ムッとして反論する。
 そういう学校の情報は聞いたことないから、知らなくても仕方ないだろう。

「私は知ってたのに?」
「…………」
「最初の時に、先生から説明があったはず」

 しかし俺の反論は自身の愚かさを証明したような、残念な結果になってしまった。

「ま、まあ俺が馬鹿かどうかはさておき」
「……自分から突っ込んできたくせに」

 それはさておき。

「試験が2つあるって言ったよな。なんで2つに分かれてるんだ?」
「ああ、それは筆記試験と実践試験に分かれてるのよ。要は内容が違うテスト、ってことね」

 と、俺の質問に答えてくれたのは、青髪をボブカットにした少女。
 頬や腕の甲にタトゥーが描かれているのが見える、ルミという子だ。

「筆記試験と実践試験?」
「そう、筆記試験はそのまんまの意味、実践試験は学科内の1年同士で実際に戦闘を行うの。ランダムで三人と戦闘を行うわ」
「……!」
「おお、なるほどな」

 割とわかりやすいルミの説明に、思わず感心してしまう。

「ルミ、お前……なぜハルにはそんな優しいんだ? それなら、少しは僕にも優しくしてくれても」
「あら、何か言ったかしら? よく聞こえなかったんだけど」

 ルミの冷たい視線に、ユアンは体を縮める。


 どうやらこの2人、小さい頃からの知り合い……いわゆる幼馴染みらしい。

 思い返してみれば入学式からよく一緒にいたような気がする。

 ルミはユアンに対して氷のように冷たく、ユアンも頭が上がらないようなのだが……。

 すごく仲が良さそうに見えるのは気のせいだろうか?


「それにしても筆記試験って、何をやるんだ?」
「今まで授業で習ったことだ。まあ普通に授業を受けているのであれば、そこまで問題じゃないと思うが……」
「……ハルの頭は普通じゃないから、心配」
「リリヤ、それは俺を馬鹿だと言いたいのか?」

 何が「ハルの頭は普通じゃない」だ、全く。
 俺だって勉強くらいできるぞ。

「……まあ筆記試験ならば、いくらでも対策はできる。そんなわけで皆で勉強会を開こうと思うんだが、どうだ?」

 なるほど、試験対策の勉強会か…………勉強会、って何するんだ?

「私は構わないわ」
「……私も」
「俺も別にいいぜ」

 勉強会というものがなんだかよくわからないけど、リリヤたちも首を縦に振っていることだし、俺も頷いておこう。

 ……あ。

「ガドラ。お前も一緒に勉強会しないか?」

 ちょうど横を通りかかった筋肉質の大男に声を掛ける。

 灰色の髪をオールバックにしたいかつそうな雰囲気を醸し出しているのは、俺のルームメイトのガドラだ。

 ガドラはチラリと俺たちの方を見るが、即座にそっぽを向く。

「いや、遠慮しとく。お前らだけで仲良くやってろ」

 ……ふむ、なるほど。

「というわけで、ガドラも参加するそうだ。ユアン、いいか?」
「あ、ああ、僕は構わないが」
「おい、俺の話を聞いてなかったのかお前!?」
「まあまあ、そう照れずに」
「照れてねえよっ!」

 ガドラはあれだ、昔のリリヤに似ている。
 ひねくれているところが特に。

「……何か失礼な想像してなかった?」
「いや、別にしてないぞ?」

 俺の心情を読んだのか、リリヤが不快そうな表情で俺を睨んでいた。

 なぜこいつには俺の心情がわかるのやら。


 リリヤには第六感でも持っているんじゃねえかと恐ろしい想像をしながらも、五人で勉強会の日程について話していると。

「あ、あの!」

 ふと背後から声をかけられ、後ろを振り向く。

 そこには腰まで伸ばしている紫色の髪、パッチリとした碧色の瞳の少女が立っていた。

 一見するとどこにでもいそうな普通の生徒だが、この場においては異様さを発揮している。

 彼女の制服は白のインナーに黒のジャケット。
 つまり、剣技学科の制服なのだ。

 なぜ、魔法学科の教室に剣技学科の子が来ているのだろうか?

 ふとした疑問は、次に発した少女の言葉で真相が明らかとなる。



「私の実技試験まで、一緒に特訓してください!」

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