適性ゼロの魔法勇者
第17話 そういう関係じゃ、ないの
しかしこれで終わったかと思われたが、そうでもなかった。
「お願いします、リリヤさん! 僕に戦闘を教えてください!」
「……そんなことを言われても」
もうこれで何回目だろうか。
あの話があってから数日後、リリヤに頭を下げる男子生徒を見て思わず苦笑いしてしまう。
「私は教える立場とかじゃないし……そういうのは、困る」
と、リリヤも困ったような表情をして断る。
「で、でも! こいつには教えているそうじゃないですか!」
やや食い下がりつつも、男子生徒が俺を指差す。
「いや、だから……」
「リリヤ。俺はいいから」
そしてこう言われたのも何度目だろうか。
むっとしたリリヤが言い返そうとするが、それを引き止める。
何度言おうが誰にも信じてもらえなかったしな。
「……とにかく、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げて断るリリヤ。
男子生徒はリリヤが首を縦に振ってないことに残念そうな顔して、チラリと隣にいる俺を見てから肩を落として去っていった。
「……はあ。このやり取り、もう疲れた……」
男子が去った後、顔をあげたリリヤがうんざりした表情でため息をつく。
「まあ、あの話は有名になっちゃったからな。仕方がない」
「それなら、ハルも認められるはずなのに」
「だから、それは無理な話なんだって」
不満そうに口を尖らせるリリヤをなだめる。
あの話、というのはもちろんユアンが剣技学科二年の連中に喧嘩をふっかけた話である。
観戦している魔法学科の人が俺たちの他に十数人はいたそうで、その噂はあっという間に広まってしまった。
『適性ゼロと天才の魔法学科一年二人組が剣技学科二年のトップクラスとその集団を打倒した』と。
つまり、俺があの赤髪男を倒したというのは正確に伝わっているのだ。
それならば、何故みんなはリリヤばかりに教えを乞うのか?
それは俺が『無能』として認識されているから、としか言いようがない。
『既に落ちこぼれ認定されている奴が、実は実践向きでめちゃくちゃ強かった』というのと。
『落ちこぼれといつも一緒にいる天才が、落ちこぼれに戦い方を指導したから落ちこぼれでも勝てた』というの。
この二つ、どちらが説得力があるかと問われると、やはり後者になってしまうだろう。
いや、確かにたった数日程度でそこまで一気に上がるなんておかしな話だが、天才と呼ばれながら集団を一瞬で片付けたと認識されているリリヤになると別だ。
傍から見ればリリヤの方が魔法面が強い上に、『一瞬で複数人を倒した』というインパクトもある。
ということは俺とリリヤを比較すると、リリヤの方が戦闘力が高いように思われるのだろう。
「そうなると『ああ、だからあいつはあの子に戦い方を教えてもらったからこそ、勝てたんだ』……そう考えるのが普通だ」
俺たちは昼食をとるために、食堂へと足を運ばせていた。
で、どうも納得出来ないのか、スプーンでスープをかき回しながら一向に口に運ばないリリヤに、俺がパンをかじりながらその理由を教えているという最中だ。
「どうやら俺たちの特訓も結構目撃されてたようだし……そういうところから信憑性が繋がる」
「……なら、私がハルに勝負で負ければいい」
リリヤはスープの中にある具材をスプーンで叩きながら頬杖をつく。
……今この場に母さんがいたら『お行儀が悪いからやめなさい!』って言いそうだなあ。
「いや、だからな。そもそも俺は自分自身がここで評価されるためにこの学校に入ったわけじゃないんだ。俺は強くなりたいからこの学校に入ったのは、お前が一番知ってるだろ?」
「そう、だけど……」
別に評価されようがされまいが構わない。
俺は強くなって、いずれは勇者になる──その一心でここに来たのだから。
「やあ、ハルに……リ、リリヤ。隣に座ってもいいかい?」
と、後ろから声をかけられ振り向いてみると、オボンを持ったユアンとルミがそこにいた。
「ああ、いいぜ」
別に訊かなくてもいいのにと思いながら、手をヒラヒラさせて答える。
「で、まだその話をしてたの? いい加減諦めたら?」
席についたルミが、数日間同じ話を続けるリリヤに呆れた表情をする。
「別に他の人に認識されなくてもいいじゃない。少なくとも、私たちはわかってるんだから」
「そ、そうだぞ! 僕だって、リ、リリヤの考えはよくわかるっ!」
ルミの言葉に続いてユアンもリリヤの方を向いて、若干頬を赤らめながら答える。
というかここ数日間見てて思ってたんだが、ユアンのこの反応って……。
ここまで来ると露骨すぎて、察せない方がおかしいよな。
リリヤは微塵も察してないようだけど。
「リ、リリヤさんっ」
さて、どうしたらリリヤに説得したらいいものかと考えながら口を開いた途端。
またもや後ろから声をかけられて、振り向いてみると。
今度は魔法学科の男子の集団がそこに立っていた。
「お願いします、どうか俺たちに戦い方を教えてください!」
「「「お願いします!」」」
「……………………」
なんとまあ、しつこいことだろうか。
わざわざ食堂にまで追いかけてきて、集団で頭を下げる連中に、もはや感心を覚えてしまった。
で、お願いされているリリヤというと、これまた顔を引きつらせながら頭を下げる連中を見ている。
まあ、こんなにもしつこくお願いされると、そんな顔にもなるか。
「…………何度も、本当に何度も言ってるんだけど、私はそういうの募集してないから」
と本当にうんざりしたような口調で、リリヤは拒否をする。
「で、でも! こいつに教えているとも聞きましたよ!」
「だから……」
「こんな奴がよくて、なんで俺たちはダメなんですか!」
これではキリがない。
「……………………全員、死ねばいいのに」
流石に頭にきたのか、誰にも聞こえないような声でボソリとリリヤが呟く。
こらこら、そういう物騒な発言はやめなさい。
しかし、本当にこのままだとこんな日常が毎日になってしまう。
そうなればリリヤだってストレスが溜まるだろう。
なら、いっそのこと全員に教え始めるというのはどうだろうか。
しかし、これまでリリヤに頼み込んだ奴らは何人いた?
リリヤは何人を教えなくてはならない?
ダメだ、この解決法だとリリヤに負担がかかりすぎる。
──こんな奴がよくて、なんで俺たちはダメなんですか!
ふと、さっき男子がそう言ったセリフを思い出す。
……なるほど、そういうことか。
こんなにもしつこいのは、俺がいつもリリヤの近くにいるのが原因なのだ。
だからいくら否定しようと、「じゃあ何でこいつだけ特別扱いなんだ」と思うだろう。
つまり、この場合の最善策は……。
「……リリヤ」
あまりやりたくない手だけど……仕方がない。
リリヤは席を立った俺を見てピクリと眉毛を動かす。
もしかして、なんて言おうとしてるのか、察したのだろうか。
「……悪いけど、俺とこいつはそういう関係じゃ」
「──そういう関係じゃ、ないの!」
と俺が男子集団に言おうとした時。
ガタリと椅子を鳴らしながら、俺と同じく席を立ったリリヤが腕を絡ませてくる。
……ん? 絡ませてくる?
「わ、私たちは、こ、こここここ、恋人! 恋人同士だから! この人だけは……ハルだけは、特別なのっ!」
投下される爆弾発言。
あろうことか、今まで聞いたこともないようなリリヤの大声のせいで、男子集団のみならず、食堂にいたほぼ大半の人の耳にも届いてしまっていた。
少しばかり騒がしかった食堂が一瞬の静寂に包まれる。
そして。
『え、えええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?!?』
ほぼ全員が大きく開けて驚きの声をシンクロさせ、食堂じゅうに響かせた。
その全員の中に俺も含まれていることを、忘れてはならない。
「お願いします、リリヤさん! 僕に戦闘を教えてください!」
「……そんなことを言われても」
もうこれで何回目だろうか。
あの話があってから数日後、リリヤに頭を下げる男子生徒を見て思わず苦笑いしてしまう。
「私は教える立場とかじゃないし……そういうのは、困る」
と、リリヤも困ったような表情をして断る。
「で、でも! こいつには教えているそうじゃないですか!」
やや食い下がりつつも、男子生徒が俺を指差す。
「いや、だから……」
「リリヤ。俺はいいから」
そしてこう言われたのも何度目だろうか。
むっとしたリリヤが言い返そうとするが、それを引き止める。
何度言おうが誰にも信じてもらえなかったしな。
「……とにかく、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げて断るリリヤ。
男子生徒はリリヤが首を縦に振ってないことに残念そうな顔して、チラリと隣にいる俺を見てから肩を落として去っていった。
「……はあ。このやり取り、もう疲れた……」
男子が去った後、顔をあげたリリヤがうんざりした表情でため息をつく。
「まあ、あの話は有名になっちゃったからな。仕方がない」
「それなら、ハルも認められるはずなのに」
「だから、それは無理な話なんだって」
不満そうに口を尖らせるリリヤをなだめる。
あの話、というのはもちろんユアンが剣技学科二年の連中に喧嘩をふっかけた話である。
観戦している魔法学科の人が俺たちの他に十数人はいたそうで、その噂はあっという間に広まってしまった。
『適性ゼロと天才の魔法学科一年二人組が剣技学科二年のトップクラスとその集団を打倒した』と。
つまり、俺があの赤髪男を倒したというのは正確に伝わっているのだ。
それならば、何故みんなはリリヤばかりに教えを乞うのか?
それは俺が『無能』として認識されているから、としか言いようがない。
『既に落ちこぼれ認定されている奴が、実は実践向きでめちゃくちゃ強かった』というのと。
『落ちこぼれといつも一緒にいる天才が、落ちこぼれに戦い方を指導したから落ちこぼれでも勝てた』というの。
この二つ、どちらが説得力があるかと問われると、やはり後者になってしまうだろう。
いや、確かにたった数日程度でそこまで一気に上がるなんておかしな話だが、天才と呼ばれながら集団を一瞬で片付けたと認識されているリリヤになると別だ。
傍から見ればリリヤの方が魔法面が強い上に、『一瞬で複数人を倒した』というインパクトもある。
ということは俺とリリヤを比較すると、リリヤの方が戦闘力が高いように思われるのだろう。
「そうなると『ああ、だからあいつはあの子に戦い方を教えてもらったからこそ、勝てたんだ』……そう考えるのが普通だ」
俺たちは昼食をとるために、食堂へと足を運ばせていた。
で、どうも納得出来ないのか、スプーンでスープをかき回しながら一向に口に運ばないリリヤに、俺がパンをかじりながらその理由を教えているという最中だ。
「どうやら俺たちの特訓も結構目撃されてたようだし……そういうところから信憑性が繋がる」
「……なら、私がハルに勝負で負ければいい」
リリヤはスープの中にある具材をスプーンで叩きながら頬杖をつく。
……今この場に母さんがいたら『お行儀が悪いからやめなさい!』って言いそうだなあ。
「いや、だからな。そもそも俺は自分自身がここで評価されるためにこの学校に入ったわけじゃないんだ。俺は強くなりたいからこの学校に入ったのは、お前が一番知ってるだろ?」
「そう、だけど……」
別に評価されようがされまいが構わない。
俺は強くなって、いずれは勇者になる──その一心でここに来たのだから。
「やあ、ハルに……リ、リリヤ。隣に座ってもいいかい?」
と、後ろから声をかけられ振り向いてみると、オボンを持ったユアンとルミがそこにいた。
「ああ、いいぜ」
別に訊かなくてもいいのにと思いながら、手をヒラヒラさせて答える。
「で、まだその話をしてたの? いい加減諦めたら?」
席についたルミが、数日間同じ話を続けるリリヤに呆れた表情をする。
「別に他の人に認識されなくてもいいじゃない。少なくとも、私たちはわかってるんだから」
「そ、そうだぞ! 僕だって、リ、リリヤの考えはよくわかるっ!」
ルミの言葉に続いてユアンもリリヤの方を向いて、若干頬を赤らめながら答える。
というかここ数日間見てて思ってたんだが、ユアンのこの反応って……。
ここまで来ると露骨すぎて、察せない方がおかしいよな。
リリヤは微塵も察してないようだけど。
「リ、リリヤさんっ」
さて、どうしたらリリヤに説得したらいいものかと考えながら口を開いた途端。
またもや後ろから声をかけられて、振り向いてみると。
今度は魔法学科の男子の集団がそこに立っていた。
「お願いします、どうか俺たちに戦い方を教えてください!」
「「「お願いします!」」」
「……………………」
なんとまあ、しつこいことだろうか。
わざわざ食堂にまで追いかけてきて、集団で頭を下げる連中に、もはや感心を覚えてしまった。
で、お願いされているリリヤというと、これまた顔を引きつらせながら頭を下げる連中を見ている。
まあ、こんなにもしつこくお願いされると、そんな顔にもなるか。
「…………何度も、本当に何度も言ってるんだけど、私はそういうの募集してないから」
と本当にうんざりしたような口調で、リリヤは拒否をする。
「で、でも! こいつに教えているとも聞きましたよ!」
「だから……」
「こんな奴がよくて、なんで俺たちはダメなんですか!」
これではキリがない。
「……………………全員、死ねばいいのに」
流石に頭にきたのか、誰にも聞こえないような声でボソリとリリヤが呟く。
こらこら、そういう物騒な発言はやめなさい。
しかし、本当にこのままだとこんな日常が毎日になってしまう。
そうなればリリヤだってストレスが溜まるだろう。
なら、いっそのこと全員に教え始めるというのはどうだろうか。
しかし、これまでリリヤに頼み込んだ奴らは何人いた?
リリヤは何人を教えなくてはならない?
ダメだ、この解決法だとリリヤに負担がかかりすぎる。
──こんな奴がよくて、なんで俺たちはダメなんですか!
ふと、さっき男子がそう言ったセリフを思い出す。
……なるほど、そういうことか。
こんなにもしつこいのは、俺がいつもリリヤの近くにいるのが原因なのだ。
だからいくら否定しようと、「じゃあ何でこいつだけ特別扱いなんだ」と思うだろう。
つまり、この場合の最善策は……。
「……リリヤ」
あまりやりたくない手だけど……仕方がない。
リリヤは席を立った俺を見てピクリと眉毛を動かす。
もしかして、なんて言おうとしてるのか、察したのだろうか。
「……悪いけど、俺とこいつはそういう関係じゃ」
「──そういう関係じゃ、ないの!」
と俺が男子集団に言おうとした時。
ガタリと椅子を鳴らしながら、俺と同じく席を立ったリリヤが腕を絡ませてくる。
……ん? 絡ませてくる?
「わ、私たちは、こ、こここここ、恋人! 恋人同士だから! この人だけは……ハルだけは、特別なのっ!」
投下される爆弾発言。
あろうことか、今まで聞いたこともないようなリリヤの大声のせいで、男子集団のみならず、食堂にいたほぼ大半の人の耳にも届いてしまっていた。
少しばかり騒がしかった食堂が一瞬の静寂に包まれる。
そして。
『え、えええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?!?』
ほぼ全員が大きく開けて驚きの声をシンクロさせ、食堂じゅうに響かせた。
その全員の中に俺も含まれていることを、忘れてはならない。
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