適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第14話 謝るのは、お前だろうが

「なっ……!」
「なんだ、お前は」

 突然出てきた俺にボロボロのユアンは驚き、赤髪の大男は怪訝そうな顔をする。

「いや、こいつの友人だ。悪いが、友人の敵は俺の敵なんでな」

 軽く首を鳴らしながら前に出る。

「や、やめろ! これは僕が仕掛けたしょう──ごふっ!?」
「お前の敵は俺の敵だって言ってるだろうが、いいから黙ってろ」

 未だ戦おうとするユアンの顔を軽く殴って黙らせる。

 悪いなユアン。
 今はそこで大人しくしておいてくれないか。

「おいおい、加勢だなんて卑怯じゃねえか」

 と、赤髪の男は大きなため息をつく。

「これだから魔法学科は──」
「なんだ? 俺に勝つ自信がなければ、はっきりそう言えばいいんじゃないか?」

 こいつの話なんて微塵も聞く気がないので、男の言葉を遮って挑発する。

 すると、男の眉がピクリと動いた。

「……随分と威勢がいいじゃねえか、ああ?」
「はっきり言って、俺は負ける気がしないからな」

 赤髪男が声を低めて威圧してくるが、気にせずに準備に入る。

「それに、お前がこいつと喧嘩していた理由はなんだ?」
「はあ? こいつが生意気だったからに決まってんだろうが」
「じゃあ問題ないだろ? 生意気な奴がもう一人出てきただけだ」

 ポケットから指ぬきグローブを取り出して両手にはめ、構えを取った。

「俺と1対1でお前が勝てばいいんじゃねえか?」
「……舐められたもんだな、俺も」

 赤髪の男はガシガシを頭を掻くと、西洋剣を俺に向ける。

「お前、さっきの金髪と友人ってことは一年なんだろ?」
「まあな」
「俺は二年。しかも、剣技学科でトップクラスの成績なんだぜ」

 ああ、なるほど。
 だからあんなに戦闘に慣れた動きをしていたのか。

「一応そこの金髪にも教えてやったのだが……馬鹿な奴だ、それでも勝負を挑んできやがった」

 どうやらユアンは相手が実力者だと知っていて挑んだようだ。

 勝ち目がないをわかっている戦いなのに。

「だが、お前ならさっきの戦いを見てわかっただろう? 今すぐ謝るって言うんだったら、許してやるよ」
「……馬鹿はお前の方だよ」

 ユアンがそれでも勝負を挑んできたのは、別に馬鹿だからじゃない。

 ──彼女に謝るまでは……絶対に、許さない!

 あいつは、自分で信じた道を貫いたからだ。

「謝るのは、お前だろうが」
「…………はあ」

 赤髪の男はそんな俺を見てため息をつくと、構えを取る。

「ぎゃはははは、また魔法学科の恥さらしが増えたぞっ!」
「馬鹿だなあ、勝てるわけがねえのに!」

 と男の後ろで観戦している集団からの声。
 そういえば、集団でいじめていたとかどうとか言ってたな……。

 なるほど、この赤髪男とあいつらが吊るんでいるってことなのかな?

「本当に馬鹿な奴らだな!」
「っ!」

 次の瞬間。

 男の姿がぶれ、突如として横薙ぎされてきた西洋剣を屈んで躱す。

「へっ、いい反応じゃねえか!」

 続いて男が西洋剣を振りかざしてくる。

 俺は屈んだ体勢のまま、地面を転がってそれを回避した。

「さっきよりは楽しめそうだな!」

 ──やはり速い。

 詠唱する時間がないので、魔法は使えそうにないようだ。

 立ち上がり、男の鋭い突きに半身をずらして躱す。
 そして、そのまま拳を男の顔面めがけて殴りにかかった。

 だが……。

「──!」
「おせえよっ!」

 いつの間にか後ろに回り込んだ男の横薙ぎ。

 脇腹に西洋剣がぶち当たり、吹っ飛ばされた。

「ああ、怪我は心配しなくていいぜ? この剣には無刃むは魔法をかけている」

 無刃魔法。
 確か、剣の切れ味を無くすという特殊な魔法だ。

「生徒同士の人殺しは、校則違反だからな!」
「っ!」

 勢いをつけて向かってくる赤髪男に、俺は横へ飛んで距離を取る。

 しかし、男は信じられないような速度で俺と急接近してきた。

「おらぁっ!」
「ぐっ!」

 男の振りかざしてくる剣を、間一髪で躱す。

「まだまだぁっ!」

 男の攻撃は終わらない。

 地面に叩きつけた剣を、凄まじい速度で振り上げてきたのだ。

 後ろへ一歩下がって避け、攻撃に転じようとする。
 だがそれより先に、男の足が俺の腹めがけてめり込まれた。

「……っ!」

 またしても後ろへ吹っ飛ばされる。

五芒星ヘルツの一つ、無限剣技。俺はその使い手なんだよ」

 地面へ転がる俺を見下すように、赤髪男がニヤリと笑う。

 無限剣技。

 名の通り、無限に剣技がある。
 逆を言うならば──剣技なんて一つもない。

 つまり固定した剣技があるわけではなく、自分が生み出した剣技こそが無限剣技。
 個々の完全なオリジナル技なのだ。

「俺の剣からは逃げきれねえ!」

 なるほど、これがやつの剣技ということか。
 つまり、即座に近距離へ持ち込む剣技。

 だから、魔法を主に使うユアンは手も足も出なかったということか。
 あいつは中距離を主として戦いそうだからな。

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