適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第11話 感謝もしている

 午後は歴史の授業ということで、俺にとって大変興味深い授業だった。

 というのも歴史の大半に勇者は出てくるので、勇者に憧れる身としては天国のような時間だったからである。
 逆にリリヤは苦痛でしかなさそうだったけどな……。


 放課後になって、俺はそそくさと教室を出て行く。
 すると、リリヤが後ろからついてきた。

「ハル、私も行く」
「……ああ、いいぜ」

 ここに来る前も、リリヤと一緒にしていたことだし……特に問題ないしな。

「場所は?」
「学生寮に裏庭があった。あそこでやるぞ」

 そう言ってやや早足で廊下を駆け抜けていく。

 「早くやりたい」という急かす気持ちはやがて早足から駆け足となり、寮まで全力疾走することになった。

 そして裏庭に着く頃には身体は十分に温まっていて、俺はゆっくりと深呼吸をする。

「ハルっ……はあっ……速すぎっ……はあっ……」

 と、数分遅れて息を切らしながらリリヤが走ってくる。

「ったく、相変わらず体力はないなリリヤ。そんなんじゃ、勇者になれないぜ?」
「……そんなのにっ、なるつもりなんてないからっ!」

 疲れていながらも、勇者に関してはしっかりと反応するリリヤ。

 まあ勇者になろうと思わなくても、体力は必要だと思うんだが。
 魔力量とかは申し分ないのになあ。

「じゃあ……早速始めるか」

 リリヤの体力が回復するのを待つ間に、軽く準備運動しておく。

 今俺たちがいる裏庭らしき場所は、二つの学生寮の間に挟まれた正方形のような大きさのスペースである。
 辺りは雑草が生え、奥の方には木が数本並んでいるのが見えた。

「火系統の魔法は使えないな。火事にでもなったら大変だし」
「……うん」

 体力が回復したのか、リリヤが懐から愛用の杖を取り出す。

 俺も準備運動を終えたところで。

「よし、始められるか?」
「うん、大丈夫」

 俺の問いにリリヤはコクりと頷き、ある程度距離を取った。

 それじゃあ……。

「……!」

 リリヤの魔力が杖に集まっていくのが見える。

 次の瞬間、水の中級魔法『ヴァッサーシュペア』が三本生み出された。

「──っ!」

 襲いかかる三本の水槍をフットワークで躱していく。

「求めるは風なり。我が手に集い、吹き飛ばせ『ヴィンド』!」

 一節を抜いて、詠唱を綴る。

 だが、風の下級魔法『ヴィンド』は生み出されることがなかった。

「……!」

 やはり駄目か。

 心の中で舌打ちをしながら、一直線に向かってくる水の下級魔法『ヴァッサーバル』を躱す。

「ふうっ──」

 リリヤは大きく息を吸って、魔力を杖に込めていく。

 そして杖を頭上に振るうと、水の竜巻が起こり始めた。

 水と風の複合中級魔法『ヴァッサーヴィンド』である。

「求めるは風なり。我が手に集い、一点を吹き飛ばせ……」

 それに対応するべく、今度は省略せずに詠唱する。

「──はあっ!」
「『ヴィンド』!」

 リリヤがヴァッサーヴィンドを振りかざしてくると同時に、俺は横へ避けながらヴィンドを水竜巻へ放つ。

「──!」

 生み出した風により、水竜巻を擦るように攻撃を躱す。

 そしてそのままの勢いでリリヤに接近していく。

「求めるは水なり。水流よ、我が手に集え。全てを貫く槍となりて、一点を撃ち放て……」
「っ!」

 接近しながら詠唱すると、リリヤも魔力を込める。

「『ヴァッサーシュペア』!」
「はあっ!」

 生み出した水槍を接近したリリヤに放ち、リリヤはそれに対応するように風の上級魔法『ヴィンドホーゼ』を生み出す。

 下級魔法のヴィンドで生み出す竜巻とは違い、上級魔法の竜巻ヴィンドホーゼは大きさも威力も違う。

 リリヤの起こした竜巻は水槍を飲み込み、俺へと襲いかかる。


「ぐっ──!」

 急接近したせいで避けきれず、竜巻に飲み込まれる。

 すると、バヂリと嫌な音が聞こえ、青白い光が見えた。

「──っ!」

 地を蹴り、慌てて竜巻から脱出する。

 次の瞬間、竜巻全体が一瞬の閃光を放った。

 リリヤが雷の下級魔法『ブリッツ』を竜巻内に起こさせたからだ。
 しかもヴァッサーシュペアを飲み込んだ作用で、竜巻内に雷が通りやすくなっている。

「殺す気かっ!」

 本能的に危機を感じたので、思わずそう叫んでしまう。

「このくらいでハルが死ぬとは思えないんだけど……」

 なんだろう、リリヤは俺のことを化物か何かと勘違いしてないだろうか。

 お前の魔法威力は常人の数倍だから、下手したら丸焦げになるところだったんだぞ。

「続けるか?」
「……勿論!」


 この学校に入学する前も、俺たちはこうやって特訓をしてきた。

 俺は全読詠唱でも上手く立ち回るような訓練、リリヤは無読詠唱で如何に素早く魔法を撃てるかの訓練。
 どちらとも、実践的な内容だと言えよう。

 俺の場合は自身にかかっている体質の対策だが、リリヤに関しては疑問に思う人もいるだろう。

 無読詠唱と言っても、魔法の階級が上がるほど生成が難しくなる。
 なので発動させるのに時間がほとんど掛からない無読詠唱でも、魔法を生成させるために必要な魔力を込めたりと時間が掛かってしまうのだ。

 今のリリヤだと下級中級魔法の生成は一瞬だが、上級以上の魔法や複合魔法になると発動に五秒は掛かる。

 これでも平均より早い方なのだが……彼女の中ではどうも納得がいかないらしい。


 俺はひたすら全読詠唱で立ち回るように意識している。
 たまに一節省いて、短読詠唱を試みるのだが……未だに上手くいった試しがない。


 それから一時間経った後。

「少し、休憩するか……」
「……うん」

 ずっと撃ち合いを続けているのは流石に疲れたので、休憩をはさむことにした。

「リリヤは魔法を作る形が適当なんだよ。だから、効果が十分に発揮しない」
「逆にハルは丁寧に作りすぎ。バカ正直に綺麗な形を作る必要ないの、知ってる?」
「あと、何回か魔力を集めるのに手間取っただろ」
「ハルは接近戦の持ち込みが悪い。突進してくるって、猪みたいな方法しかできないの?」
「それに自分も巻き込むかのような威力を近距離で出すんじゃねえ」
「ハルは頭悪すぎ。脳筋になりたいの?」
「さっきからやたらと馬鹿にしてないか!? というか、今のはただの悪口じゃねえか!」

 と、休憩の間に両方で感じたことを指摘しあう。

 こうすることによって、自分でも気がつかなかったことを理解できるのだ……最後のリリヤの指摘はともかくとして。

「……ん」

 そうして休憩をしていると、リリヤが何か気がついたように視線を俺から外す。
 思わずリリヤの視線の先を辿ってみると、金髪碧眼の男──ユアンが立っていることに気がついた。

「よう、どうした?」

 何か用事でもあるのだろうか。
 そう思って声を掛けてみると、彼はびくりと肩を震わせた。

「えーっとだな……く、訓練したいのなら、わざわざここじゃなくても、ちゃんと申請すれば学校の施設を使用することが出来るぞ」
「あっ、そうだったのか」

 てっきり授業以外では使っていけないと思ってたんだが。
 そうか、申請すれば使えないことはないんだな。

「ありがとな、今度利用することにする」
「そ、それと!」

 ユアンは声を荒らげて、少し目線を逸らす。
 まだ何かあるのだろうか。

「き、昨日は、すまなかった……あと、感謝もしている……」
「え?」
「い、い、以上だ!」

 少し聞き取りにくかったのだが……もしかして、謝罪したのか?

 もう一度声を掛けようとしたが、ユアンは逃げるかのように去ってしまっていた。

 ……なんだったんだ、あいつ。

「適性ゼロの魔法勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く