適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第8話 私に嘘はつかないで

「んっ……」

 金髪の少年、ユアン・カルパスクが目を覚ますと、何故か白い毛布が上にかけられていた。

「起きた?」

 と、ユアンの顔を覗くのは青髪の少女。

「ルミ……ここは?」
「医務室。運ぶの大変だったんだから」

 ユアンの幼馴染であるルミと呼ばれた少女はそう言って深いため息をつく。

「……カッコ悪い」
「っ!」
「自分から喧嘩売って、あっさり負けちゃうなんて……本当、ダサい」

 冷たいルミの言葉にユアンの身体が強張る。
 歯が軋む音が聞こえてきそうな勢いで歯ぎしりするユアンを見て、ルミは再びため息をついた。

「まあ……彼に感謝することね」
「? ……どういうことだ?」


 * * *


「どうして人気の少ない場所を選んだの?」
「ん?」

 あれから数十分後。
 他の場所も回ってみる相談したが、今日はもう疲れたので断念することにした。

 俺とリリヤの今日の予定は、あとは学生寮へと向かって自分たちの部屋番号を確認するだけだったので、学生寮へと向かっている途中である。

 そんな中、ふとリリヤが疑問に感じたように俺に質問してきた。

「どうしてって……そりゃあ、あまり大事にしたくなかったからだよ」
「それだけ?」

 最初にルノア先輩に説明した通りの答えをしたが、リリヤは納得してないようだ。

「……ハル。あの女どもに嘘つくのはいいけど、私に嘘はつかないで」
「あの女どもって」

 何もしてない青髪の少女まで思いっきり敵視されている……。

「いや……あれだよ。俺だって本当にあいつに勝てるかどうかわからなかったからな。変に目立つ場所でもし負けてみろ? 初日から大恥かくことになるんだぞ?」
「それ、向こうにも言えること」
「…………」

 まさしくその通り。
 思わずリリヤから目を背けてしまう。

「……まあ、目的はあいつに恥をかかせたいとかじゃなかったし。馬鹿にされて、少しムカついただけだし」
「ふうん……」

 言い訳にしか聞こえないような理由に、リリヤはジトっとした目つきで俺を見ていた。

「ハルはお人好しすぎ」
「やられてもないことを倍返しにするつもりはないだけだ」

 向こうは別に俺を晒し者にしたいわけじゃなかったんだから、それ以上のことをするのはどうも罪悪感がするのだ。
 だって、普通そうだろ?

「じゃあ、私はこっちだから」
「おお、また明日な」

 と、校舎を抜けて石畳の整備された道が枝分かれしているところで、リリヤは左へ歩いていった。

 アースヘルト勇者学校は完全な寮制である。
 なので、この学校に入学した者は全員学生寮へ入ることとなるのだ。

 どうやら左方向が女子寮で、右方向が男子寮らしい。

 俺は右方向の少し遠くにある濃い茶色の建物に向かって歩きだす。

「えーっと、俺の部屋は……と」

 寮の玄関口に貼ってある『新入生部屋割表』から自分の名前を探し出す。

「……あっ、見つけた」

 ズラリと並ぶ名前の一覧を、目を凝らして見つけ出す。

 2037号室……って、めっちゃあるんだな部屋。

「で、同じ部屋の人の名前はガドラって人か……あれ?」

 どこかで聞いたことがあるような名前な気がする。
 よほどの有名人か、それともどっかであったことがある人のような……。

 まあ会ってみればわかることか。
 2037というと、二階だな。

 荷物は既に部屋へ送られているので、重い荷物を引きずりながら移動しなくていいというのは正直助かる。

 木製の階段を登っていき二階へと移動していくと、横に広がる長い廊下にぶつかった。
 しかし、こうして廊下に何十にも並ぶドアの数を見ると、この学校の生徒の多さが改めて実感させられてるな……。

 2037号室と書かれているドアを見つけると、まずは軽くノックする。

 俺みたいに出かけてなければ、相手はもう既にいることになるからな。

 ノックをしてみると、「おう」と低めの短い返事が聞こえてくる。

 ドアノブを捻って開けてみると。
 そこには藍色の髪のオールバック、灰色に光る瞳をした体格のいい男子がベッドに座り、荷物を整理している姿が飛び込んできた。

「……あれ?」
「やっぱり、てめえか」

 どこかで見覚えのある姿に首を捻ると、ガタイのいい男──ガドラは軽いため息をつく。

 入学式の時、隣に座っていたガドラである。

「おおっ、なんだガドラじゃん」

 知り合いがルームメイトであるなら、お互いに気が楽そうだ。

 だがガドラは気が重そうで、再びため息をつく。

「はあ……面倒な相手になっちまったな」
「おいおい、そんなつれないこと言うなよ。俺とお前の仲だろう?」
「会って間もないてめえに、どの仲があるんだよ」

 睨むように見てツッコミを入れるガドラ。

「まあいい奴そうだなあって思った時点で、俺はそいつを友達の部類に入れるからな」
「……ありえねえよ、その発想」

 そうか? 至って普通の考えだと思うんだが……。

「それにてめえ、俺をいい奴そうだって思ったのか? こんな見た目なのにか?」
「まあ確かに最初はどこの不良だよって思ったけどな。なんか話しかけてみたら、そんな悪い奴には感じなかったし」

 要は中身の問題だ。

「そういうことだから、これから一年間よろしくなガドラ!」

 ガドラは少しポカンと口を半分開け、顔を背けてしまった。

「……本当、面倒な相手になっちまった」

 だが、何故だろうか。
 さっきと同じことを言ったはずのガドラの表情は、どこか嬉しげなのは。

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