適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第3話 自分の名前を学校名にするとか

 アースヘルト勇者学校。
 それは勇者に憧れる若者たちが、勇者を目指すために集う学校。

 『剣技学科』、『魔法学科』、『使獣学科』の三つに分かれ、それぞれが五芒星ヘルツを習得し、勇者を目指す道へ進む第一歩。

 そんな学校に、

「……自分の名前を学校名にするとか、なんて図々しい勇者」

 アンチ勇者の少女が入学してきた。

 少女の名はリリヤ。
 鼠色のウェーブがかかったようなロングに、水色に輝く瞳を持った少女だ。
 制服である大きな黒ローブを羽織っていて、小柄な彼女とは不釣り合いである。

 彼女は目の前に広がる、まるで都市をそのまま入れ込んだようなアースヘルト勇者学校に向かって、仁王立ちしながら鼻を鳴らしていた。

 しかし彼女が背が低いせいで、その姿は『勇者を馬鹿にする、嫌な女性』というよりも『勇者を馬鹿にすることによって、一生懸命背伸びしている小さな女の子』であり、見ていて何か微笑ましいものがある。

「そうか? 俺は好きなんだけどな」

 元々勇者に憧れている俺が何気なくそう呟くと、はたして彼女は不機嫌そうに頬をプクッと膨らませた。

「ハルは私の敵なの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
「じゃあ、敵の味方なんてしないでよ」

 いや、敵の味方って……別にそういうわけじゃないんだが。

「ったく……二年前から変わんないな、お前は」

 ため息をつく俺にリリヤは再びふんっと鼻を鳴らした。

 このやり取り、もう何度目なのだろうか。
 二年前からリリヤは「勇者は嫌い」の一点張りであり、その気持ちはこの学校に入ることになったとしても、変わらないようだ。

 ──なら、警戒はするべきだな。

 俺は密かにそんなことを考えながら、青銅で出来ている巨大な正門をくぐっていく。

 そう、今日から俺とリリヤはアースヘルト勇者学校へと入学するのだ。

 学費を二人分と、両親には無理をさせてしまった。
 だが、両親はそんなことを気にせず『しっかりと学んで来い』とだけ言って、送り出してくれたのだ。
 このことに関しては、いつもより感謝しなければいけないだろう。


 しかし世界的に有名な学校なだけあって、毎年三百人以上が入学してくるとは流石としか言い様がない。
 大講堂に集まる見たこともない人数を目の当たりにし、思わず感嘆な声を上げてしまったほどだ。

 そして大講堂に並べられている木の椅子。
 どこかに座れということだろう。

 特に指定されているわけではないので、近くの適当な椅子に座る。

 やや真ん中だが、どちらかというと後ろ側のような場所。
 これより後ろはほぼ埋まっていたし、ほとんど誰もいない一番前に行くというのも、なんだか気が引けるためにこの場所を選んだ、というわけだ。

 リリヤもそれに習い、俺の左隣に座した。

 ふと右隣を見てみると、黒ローブの上からわかるほどのがっしりとした体格の男子生徒が座っていた。
 藍色の髪をオールバックにし、灰色に光る瞳。
 他に特色がないところから、俺と同じ人族なのだろう。

 見るからにしてめっちゃいかつそうな男子だ。
 なんかいかにも不良って感じで、常に喧嘩してそう。

「あ、あそこにいるのって、カルパスク家の……」
「あのタトゥー……ルクネスの一族か」

 何やら後ろからヒソヒソとした会話が聞こえてくる。
 よく見てみると、他の生徒たちも最前列に座っている五人の後頭部に視線を向けていた。

 『カルパスク家』と『ルクネスの一族』って……確か、ベルンヘルト家と関わりがある名家だったような。

 隣に座っているリリヤをチラリと見て、彼女に気がつかれないように右隣に座っている男子生徒に声をかける。

「なあ、ちょっといいか?」
「あぁ?」

 一声かけてみると、男は睨むようにして俺の方を見てくる。
 彼の声は一段と低く、今にも喧嘩がぼっ発しそうな雰囲気だ。

「あの前の五人って、名家の奴らなんだろ?」

 だが別に喧嘩する気はないので、普通に質問してみると、不良男は少し間を空けた後に「ああ」と短い返事をする。

「俺さ、名は知っていても人物はよく知らないんだ。あの五人の事を知ってたら、ちょっと教えてくれないか?」

 というお願いに、彼は少し不思議そうな顔で俺を見て、やがて口を開く。

「……左からカルパスク、ルクネス、リーリヘイト、マクンベス、ダルゲ。ここにいるってことは、あいつらも同じ新入生ってことだろう。知っているのはこれだけだが」
「いや、どの名家かさえわかればいいんだ。ありがとな」

 俺は笑みを浮かべてお礼を述べる。

「そんなことを聞いてどうするんだ?」
「いや、こっちの事情だ。気にしなくていい」

 やたらと不思議がる不良男に手をヒラヒラさせる。

 まあ、あそこにベルンヘルト家の人間がいないってことだ。
 少し安堵して再びリリヤの方を見ると、彼女とバッチリ目が合う。

 リリヤは「?」という感じに小首を可愛らしく捻るが、俺は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化しておく。

「喧嘩売るんだったら、やめといた方がいいぜ。名家だけであって、既に相当な腕だぞ」
「いやいや、そういうつもりじゃねえよ」

 物騒な警告に、俺は手を横に振る。

 別に喧嘩するつもりじゃねえし。
 というか、お前は俺がそう見えるのだろうか。

「俺はハルってんだ」
「……ガドラだ」

 ここで隣り合ったのも何かの縁。
 そう思って自己紹介をすると、嫌々でありながらも不良男──ガドラは返事をしてくれた。

「そのローブを羽織っていることは魔法学科なんだろ? これからよろしくなっ」

 そう、この学校は学科ごとによって制服が違う。

 剣技学科は白のインナーに黒のジャケット、使獣学科はボタンが五つもある詰襟の黒服。
 そして魔法学科の制服は黒ローブ姿であるのだ。

「……お前は不思議に思わないのか? その、こんな体格で魔法学科に入ろうとしているだなんて」
「え? ああ、俺も同じようなものだしな」

 確かにガドラの体格からすると、魔法で戦うより剣で戦う方が容易に想像できるだろう。
 だが、それは俺にも言えるようなことなのだ。

 ガドラは特に気にしてない俺を不思議そうに見て、興味を失った風に視線を前に戻した。

「ハル、ハル」
「ん?」

 クイクイとローブを引っ張られた方を向くと、左隣に座っているリリヤがステージの上を指差す。

「もう少しで入学式が始まるみたい」
「おお、そうなのか」

 見てみると、新入生はほとんど座っていて、周りは徐々に静まり返っていた。

 まあ、入学式くらいはしっかりと話を聞いておこう。
 俺は姿勢を正し、今まさに始まる学園生活に心を踊らせながら開式の言葉を待った。

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