適性ゼロの魔法勇者
第1話 勇者に憧れる少年と勇者を恨む少女1
「えーと……」
もしもの話をしよう。
もしも森の中を歩いていて、突然草むらから魔物が飛び出してきたら?
答えは簡単。人に害を及ぼす魔物は倒すのみだ。
だが、もしも突然草むらから女の子が飛び出してきたら?
これは答えが即座に出てこないだろう。
助ける助けない以前の問題に、何があったのかを考えてしまうからだ。
今、俺はそんな状況下に置かれていた。
太陽がてっぺんに昇る中、俺は突然草むらから飛び出してきたと思いきや、地面にうつ伏せで倒れた少女を今一度確認する。
鼠色のウェーブがかかったようなロング。
顔からして俺より年下という感じの幼い顔で、背丈は俺より結構低いくらい。
ボロボロになった黒い布らしきものを羽織っているが、ところどころ破けているせいで各箇所の肌が見えてしまっている。
そして極めつけは、頭に生えている小さな角と、若干露出されている背中から見える小さな翼。
その特徴からして、この子が魔人族だという事を理解した。
しかし、おかしいな。
このくらいの歳だと、既に魔人族の角や翼は結構大きいものだとおばあちゃんから聞いたんだが……。
「おい、大丈夫か……?」
とりあえず声をかけてみる。
いつものように鍛錬しようと山の中に入って、まもなくしない内にこの子が飛び出してきたのだ。
たまに魔物と遭遇することはあるが、こんなことは初めてである。
少女は俺の声に反応することなく、ピクリとも動かない。
……ふむ。
とりあえず、安全な場所まで運ぶか。
少し考えて、導き出した結論はそれだった。
安全な場所というと……森の中は安全だとは言いにくいから、俺の家か。
未だ横たわっている少女を背負う。
自慢ではないが、俺は結構鍛えているほうなので、こういうのは得意だ。
と思ったのだが。
うおっ、めっちゃ軽いなこいつ……。
少女をおんぶしてみると、とても人を背負っているような重さがないことに驚く。
このくらいの体重なら、別に鍛えてなくても楽に運べそうだ。
魔人族の少女は未だ目を開けない。
ところどころ身体じゅうに傷がついていて、なんだか疲弊しているようにも見える。
しかしこの子、顔立ちも整っていてなかなか可愛いな。
背負ったことにより俺に近づいた少女の顔を見ながらそんなことを考え、今来た道を引き返そうとした直後。
背後から、草むらをかき分けるような音を聞き取る。
「──っ!」
俺は即座に距離を取り、後ろを振り向く。
この感覚は、間違いなく魔物!
「グルゥゥゥ……!」
飛び出してきたのは、灰色の毛並みを持った狼。
唸る口からは巨大な牙がはっきりと見える。
……ガンウルフか。
この森の中で最も多く生息する魔物だと確認すると、膝立ちしながら少女を道の脇に寝かせる。
背負ったままだと戦えないしな。
「ガアッ!」
と、俺が背を向けて少女を下ろした途端に、ガンウルフが襲いかかってきた。
「ちょっとぐらい待ってくれたっていいだろ?」
ガンウルフが飛びかかってきたタイミングに合わせ、身体を捻らして躱す。
そのまま空を切ったガンウルフの腹に向かって、思いっきり足を振り上げて蹴りを放った。
「ギャンッ!」
そんな悲鳴と共に、ガンウルフは地面を転がっていく。
拳を握りしめ、ガンウルフに向かって構えを取る。
「求めるは火なり」
魔力が俺の拳に集まるのが伝わってくる。
「我が手に集い一つの球となりて、一点に撃ち放て……」
詠唱を続けていると、再び立ち上がったガンウルフが俺に向かって再度牙を剥いてきた。
拳を力強く握り、迫り来るガンウルフに向かって拳を放つ。
「『フランバル』!」
次の瞬間、放った拳から真っ赤な炎の球体が現れた。
「グルァッ!?」
ガンウルフは素早く反応すると、右へと躱す。
火の下級魔法『フランバル』は三十センチも飛ばない内に消えてしまう。
「チッ、避けたか……」
軽く舌打ちをして、次の攻撃に備える。
「求めるは風なり……」
「ガアアッ!」
再び詠唱を始めると、待っていられんとばかりにガンウルフが襲いかかる。
「──っ!」
俺は詠唱を中断し、ガンウルフの突進を避けた。
今時になって魔術を『全読詠唱』で扱う奴など、俺しかいないだろう。
『短読詠唱』という詠唱を省略できるような技術が発達している今、魔術師は誰だって短読詠唱で魔術を扱う。
そりゃそうだ、『短読詠唱』の方が隙が少ないし、誰でも扱えるのだから。
……そう、俺以外は。
「求めるは風なり。風よ、我が手に集え」
詠唱を口にすると、ガンウルフが再び突進してくる。
その攻撃を避け、詠唱を続ける。
「全てを切り裂く鋭き三つの刃となりて、周囲に撃ち放て……」
そして、攻撃を躱されたガンウルフに向かって手をかざす。
「『ヴィンドキリング』!」
放たれるのは風の中級魔法『ヴィンドキリング』。
こぶし大くらいの三つの刃が出来上がり、それぞれ一メートル弱にいるガンウルフに向かって撃ち放たれる。
風の刃の一つがガンウルフに向かって襲いかかる……が。
「……っ!」
ヴィンドキリングは一メートルもしない距離で消え失せ、ガンウルフに当たらない。
他のヴィンドキリングは別の方向へと放たれてしまった。
普通の中級魔法『ヴィンドキリング』なら、十メートルほどの範囲であるのだが。
何故か俺が放つと、その十分の一ほどまでに範囲が狭まってしまうのだ。
俺が攻撃を失敗したことにより、ガンウルフは好機とばかりに俺に口を開けて襲いかかる。
「……だから、こうするんだよ」
次の瞬間、ガンウルフの頭上から巨大な大木が倒れてきた。
「ガッ!?」
予想外の攻撃にガンウルフは対処出来ず、大木の下敷きとなってしまう。
それは、さっき放ったヴィンドキリングによって切り裂いた大木だった。
「全読詠唱しなくちゃいけなければ、時間を稼げばいい。範囲が十分の一なら、近くで放てばいい」
相手が動くのならば、止めてしまえばいい。
何とか脱出しようともがくガンウルフに向かって拳を固める。
「求めるは雷なり。我が手に集い、一点に撃ち放て」
詠唱を唱え、ガンウルフの顔面に向かって殴りかかる。
「『ブリッツ』!」
一瞬の閃光。
ガンウルフの顔面にめり込んだ拳から、雷の下級魔法『ブリッツ』がゼロ距離で放たれる。
ガンウルフは口から煙を吐いたまま……ピクリとも動かなくなった。
「……ふう」
ガンウルフが死んだことを確認すると、全身の力を抜いて少女の元へと戻り、再びおんぶをする。
さて、この子を一旦安全な場所に運ばないとな。
もしもの話をしよう。
もしも森の中を歩いていて、突然草むらから魔物が飛び出してきたら?
答えは簡単。人に害を及ぼす魔物は倒すのみだ。
だが、もしも突然草むらから女の子が飛び出してきたら?
これは答えが即座に出てこないだろう。
助ける助けない以前の問題に、何があったのかを考えてしまうからだ。
今、俺はそんな状況下に置かれていた。
太陽がてっぺんに昇る中、俺は突然草むらから飛び出してきたと思いきや、地面にうつ伏せで倒れた少女を今一度確認する。
鼠色のウェーブがかかったようなロング。
顔からして俺より年下という感じの幼い顔で、背丈は俺より結構低いくらい。
ボロボロになった黒い布らしきものを羽織っているが、ところどころ破けているせいで各箇所の肌が見えてしまっている。
そして極めつけは、頭に生えている小さな角と、若干露出されている背中から見える小さな翼。
その特徴からして、この子が魔人族だという事を理解した。
しかし、おかしいな。
このくらいの歳だと、既に魔人族の角や翼は結構大きいものだとおばあちゃんから聞いたんだが……。
「おい、大丈夫か……?」
とりあえず声をかけてみる。
いつものように鍛錬しようと山の中に入って、まもなくしない内にこの子が飛び出してきたのだ。
たまに魔物と遭遇することはあるが、こんなことは初めてである。
少女は俺の声に反応することなく、ピクリとも動かない。
……ふむ。
とりあえず、安全な場所まで運ぶか。
少し考えて、導き出した結論はそれだった。
安全な場所というと……森の中は安全だとは言いにくいから、俺の家か。
未だ横たわっている少女を背負う。
自慢ではないが、俺は結構鍛えているほうなので、こういうのは得意だ。
と思ったのだが。
うおっ、めっちゃ軽いなこいつ……。
少女をおんぶしてみると、とても人を背負っているような重さがないことに驚く。
このくらいの体重なら、別に鍛えてなくても楽に運べそうだ。
魔人族の少女は未だ目を開けない。
ところどころ身体じゅうに傷がついていて、なんだか疲弊しているようにも見える。
しかしこの子、顔立ちも整っていてなかなか可愛いな。
背負ったことにより俺に近づいた少女の顔を見ながらそんなことを考え、今来た道を引き返そうとした直後。
背後から、草むらをかき分けるような音を聞き取る。
「──っ!」
俺は即座に距離を取り、後ろを振り向く。
この感覚は、間違いなく魔物!
「グルゥゥゥ……!」
飛び出してきたのは、灰色の毛並みを持った狼。
唸る口からは巨大な牙がはっきりと見える。
……ガンウルフか。
この森の中で最も多く生息する魔物だと確認すると、膝立ちしながら少女を道の脇に寝かせる。
背負ったままだと戦えないしな。
「ガアッ!」
と、俺が背を向けて少女を下ろした途端に、ガンウルフが襲いかかってきた。
「ちょっとぐらい待ってくれたっていいだろ?」
ガンウルフが飛びかかってきたタイミングに合わせ、身体を捻らして躱す。
そのまま空を切ったガンウルフの腹に向かって、思いっきり足を振り上げて蹴りを放った。
「ギャンッ!」
そんな悲鳴と共に、ガンウルフは地面を転がっていく。
拳を握りしめ、ガンウルフに向かって構えを取る。
「求めるは火なり」
魔力が俺の拳に集まるのが伝わってくる。
「我が手に集い一つの球となりて、一点に撃ち放て……」
詠唱を続けていると、再び立ち上がったガンウルフが俺に向かって再度牙を剥いてきた。
拳を力強く握り、迫り来るガンウルフに向かって拳を放つ。
「『フランバル』!」
次の瞬間、放った拳から真っ赤な炎の球体が現れた。
「グルァッ!?」
ガンウルフは素早く反応すると、右へと躱す。
火の下級魔法『フランバル』は三十センチも飛ばない内に消えてしまう。
「チッ、避けたか……」
軽く舌打ちをして、次の攻撃に備える。
「求めるは風なり……」
「ガアアッ!」
再び詠唱を始めると、待っていられんとばかりにガンウルフが襲いかかる。
「──っ!」
俺は詠唱を中断し、ガンウルフの突進を避けた。
今時になって魔術を『全読詠唱』で扱う奴など、俺しかいないだろう。
『短読詠唱』という詠唱を省略できるような技術が発達している今、魔術師は誰だって短読詠唱で魔術を扱う。
そりゃそうだ、『短読詠唱』の方が隙が少ないし、誰でも扱えるのだから。
……そう、俺以外は。
「求めるは風なり。風よ、我が手に集え」
詠唱を口にすると、ガンウルフが再び突進してくる。
その攻撃を避け、詠唱を続ける。
「全てを切り裂く鋭き三つの刃となりて、周囲に撃ち放て……」
そして、攻撃を躱されたガンウルフに向かって手をかざす。
「『ヴィンドキリング』!」
放たれるのは風の中級魔法『ヴィンドキリング』。
こぶし大くらいの三つの刃が出来上がり、それぞれ一メートル弱にいるガンウルフに向かって撃ち放たれる。
風の刃の一つがガンウルフに向かって襲いかかる……が。
「……っ!」
ヴィンドキリングは一メートルもしない距離で消え失せ、ガンウルフに当たらない。
他のヴィンドキリングは別の方向へと放たれてしまった。
普通の中級魔法『ヴィンドキリング』なら、十メートルほどの範囲であるのだが。
何故か俺が放つと、その十分の一ほどまでに範囲が狭まってしまうのだ。
俺が攻撃を失敗したことにより、ガンウルフは好機とばかりに俺に口を開けて襲いかかる。
「……だから、こうするんだよ」
次の瞬間、ガンウルフの頭上から巨大な大木が倒れてきた。
「ガッ!?」
予想外の攻撃にガンウルフは対処出来ず、大木の下敷きとなってしまう。
それは、さっき放ったヴィンドキリングによって切り裂いた大木だった。
「全読詠唱しなくちゃいけなければ、時間を稼げばいい。範囲が十分の一なら、近くで放てばいい」
相手が動くのならば、止めてしまえばいい。
何とか脱出しようともがくガンウルフに向かって拳を固める。
「求めるは雷なり。我が手に集い、一点に撃ち放て」
詠唱を唱え、ガンウルフの顔面に向かって殴りかかる。
「『ブリッツ』!」
一瞬の閃光。
ガンウルフの顔面にめり込んだ拳から、雷の下級魔法『ブリッツ』がゼロ距離で放たれる。
ガンウルフは口から煙を吐いたまま……ピクリとも動かなくなった。
「……ふう」
ガンウルフが死んだことを確認すると、全身の力を抜いて少女の元へと戻り、再びおんぶをする。
さて、この子を一旦安全な場所に運ばないとな。
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