適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第2話 勇者に憧れる少年と勇者を恨む少女2

 そうして山を降りていっている途中。

「んっ……」

 という可愛らしい声が背後から聞こえる。

「あれ、私……」
「おっ、目が覚めたか?」

 どうやら目を覚ましたらしく、俺は気さくに声をかけてみる。

 うっすらと開かれる水色の瞳。

 綺麗な瞳だ、と素直にそう思った。
 そういえば、『勇者』も水色の瞳をしていたとかなんとか……。

「……っ!」

 すると、少女は思い出したかのように目を見開き、突然暴れだしたのだ。

「お、おい!?」
「離してっ!」

 手足をばたつかせ、俺に向かって攻撃を加え始める。

「待て待て、落ち着け! お前、もう動けないんだろ?」
「そんなの、関係ない!」

 暴れる少女をなんとか宥めようとするが、静かになる様子はない。

「いやいや、関係大アリに決まってんだろ。怪我人を放っておくわけにはいかないし」
「いいからっ!」

 なんとかして離れようとする少女。

「離してっ! 離してよっ! 離せっ! 離せっつってんだろ!」
「だんだん乱暴な物言いになってきてる……」

 だがその抵抗力からして、俺が離すことはないだろう。
 それほど強くないし……


「──いいからっ!! 離せぇぇっ!!」


 しかし、次の瞬間。
 俺の背中で爆発が起きた。

「づっ!?」

 その破壊力に、俺はたちまち少女を離して地面に転がってしまう。

 今のは……火の上級魔法『エクスプロジオン』か?
 その上級魔法をこいつ、詠唱なしで放ったということは。

 『五芒星ヘルツ』の一つ、『無読詠唱』の使い手か!?

「あっ……!」

 俺から離れた少女は地面に着地しようとするが。
 バランスを崩してしまい、奇妙な声を上げながら顔面を地面に思いっきり打ち付ける。
 ……見ているこっちも痛い。

「ぐっ……痛ってえな」

 俺は燃えるような熱を帯びた背中をさすってみると、ものの見事に後ろのシャツの生地がなくなっていることがわかった。

 くそ、これ俺のお気に入りの服なのに。
 覚えてろよ、こいつ。

 立ち上がると、顔を抑えてうずくまっている少女の腕を掴む。

「嫌っ! 触らないで!」

 しかし、それでもと少女は俺を拒絶する。
 掴まれた腕を思いっきり振って、離れようとするのだ。

「いや、だからもう動けないんだろ? 放っておくわけにはいかねえって」

 実際、少女はバランスを崩してコケた。
 ということは、もう立つ力さえ残ってないのだ。

「大丈夫、だからっ!」

 だというのに、この少女は必死にもがく。

 もう抵抗力の少ない腕を、壊れるかのように振って。
 もう立つことさえ出来ないような足で、懸命に立ち上がろうとして。

「ったく、なんだって言うんだよ」

 その尋常じゃないような動きに、俺はため息をつく。
 そこまでしたことか……あ。

「もしかして、この国にいるベルンヘルト家に用があるとか?」

 ベルンヘルト家。
 誇り高き『勇者の末裔』の名家として、この国のみならず世界中の誰もが知っているような一族なのだ。

 そうだ、この少女はさっき上級魔法を無読詠唱で使えた。
 ということは、実はすごい魔術師じゃないのか?

 だったら、ベルンヘルト家から呼ばれているという線もあるということか。

「──っ!!」

 だが、そうではなかった。
 少女は『ベルンヘルト』という言葉にビクリと身体を強ばらせる。

「あんな奴らに! 用なんてあるかぁぁっ!!」
「っ!」

 少女の魔力が急速に膨らみ始め、俺は慌てて距離を取る。

 次の瞬間、もの凄い勢いの風が襲いかかってきた。

「うっ、おおっ!?」

 大地が割れ、木がなぎ倒され、葉が全て吹き飛ばされて周囲を丸裸にしていく。
 俺もその威力には耐えられず、後方へと吹き飛んでしまう。

 やがて暴風は引き止み、普通に立ち上がることができるようになる。

「はあっ……はあっ……!」

 少女は息を切らしながら、その場で膝立ちしたまま動かない。
 いや、もう完全に動けないんだろうな。

 俺は再び少女の元へと向かう。

「わ、わたし、はっ……」

 じわりと目元に涙を浮かべながら、少女は視線を空に向けたまま語る。

 そして、信じられないような一言を放ったのだ。

「──私は、ベルンヘルト家に復讐しなくちゃいけないのっ!!」
「…………え?」



 とある冒険者アース・ヘルトが魔王の脅威を退けてから、既に百年が経った。
 人類最大の敵である魔王を封印したとして、アース・ヘルトは『勇者』として人々から称えられたのだ。

 しかし、これで人類の脅威が終わることはなかった。

 世界的に有名な占星術者の予言が人々の不安を駆り立てる。

『遠くない未来、再び人類最大の脅威が降りかかってくる』

 その時、既にアース・ヘルトはこの世界にいない。
 占星術者はそう告げたのだ。

 これを『アーリルの大予言』と呼び、人々はいつかやってくる脅威に備え始めた。
 勇者が持っている五大能力を『五芒星ヘルツ』と名づけ、幾多の冒険者はこれを習得することに励んだ。

 そして成人していない子供たちは、立派な『勇者』になるため、『五芒星ヘルツ』を学ぶ場として建設された場所へと通っていった。
 それは今も受け継がれており、世界で一番有名と言われている、次世代の勇者へと育成する学校。

 『アースヘルト勇者学校』だ。


 その誰もが認める勇者の末裔を、この少女は『復讐する』と言ったのだ。

 これがごく普通の人族である俺、ハルと勇者に復讐を誓う少女、リリヤの出会いである。

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