クチナシ魔術師は詠わない

風見鳩

洞窟(1)

 そして今に至る、というわけである。

 バッグを落下途中で手放してしまったのか、谷底に落ちたときには三人とも持ってなかった。確かあそこには緊急用の魔護符マギドがあったはずなのに……これでは助けを呼ぶことすら出来ない。

「にしても、随分深いところに落ちたなあ……」

 とカイルは暢気そうに空を見上げている。

 同じようにして見上げてみると、どう考えても登れなさそうな絶壁と絶壁の遙か彼方に青空と太陽が見えた。

 岸辺から迷いの森までゆったりとした上り坂となっているから、ここまで高低差があるのだろう。そのことを踏まえると、この先はおそらく海へと出る……はずだ。

「えっ、シルバくん……こっちに行くんですか?」

 延々と続く道に視線を向けると、ラフィが素早く反応する。

 まあここでじっとしてたって、助けなんて来るはずがない。それなら、自分たちで行動した方がなんとか合流できると思う。

 ……という意味合いでラフィに親指を立ててみると、どこまでわかったのだろうか、

「わかりました! カイルくんも行きましょう!」

 と、同じく親指を立ててきた。

 ぶっちゃけ、反対方向に海があるかもしれないけど……まあ何かしらにぶつかるだろう。

 その時はその時。

 どっか進んでいれば、いずれわかる道までぶつかると思う。


 ***


 とか思っていた、数十分前の自分を殴りたい。


 あの後、僕たちはひたすら続く一本道を歩いていき……予想通り、何かしらにぶつかった。

 ここで問題なのが、『その何かしらが何なのか』である。


 ダンジョンだ。

 渓谷の突き当たりにあったのは洞窟……いかにも怪しげな洞窟ダンジョンの入り口だった。


 どうしよう、ダンジョンにぶつかっちゃったよ。

 確かに、『ライルク島自体がダンジョン』ってカイルから聞いてたけど……こんなところにダンジョンがあるなんて。


 ダンジョンというのは未知数の場所だ。

 何が起こるかわからないし、どこまで続いているのかもわからない。

 ダンジョンなんて潜ったこともない僕だが、確実に言えることが一つ。


 まだ未熟者である僕たちが、ダンジョンに足を踏み入れてはならない。

 荷物は全員持ってないし、何より危険すぎる。

 よって、この洞窟には入らないのが一番の選択肢──

「おお、ダンジョンじゃねえか! 初めて見たぜ!」
「なんか凄いです! 行きましょうシルバくん!」

 だというのに、なんで横の二人は入る気満々なのだろうか。

 おかしい、この二人だってダンジョンの危険性は知ってるはずだ。つい先日、授業でも習ったんだし。

 僕が二人の手を掴み、道を引き返そうと意思表示するが。

「なんだ? もしかしてシルバ、怖いのか?」
「大丈夫ですよシルバくん。私たち三人が一緒なら百人力です!」

 なんでこういう時だけ、僕の気持ちが伝わらないんだろう。

 こうなったら筆記してでもこの二人を止めるべきなのだろうが……その前に、僕は両腕を掴まれ、何も出来ない状況となっていた。

 ……ええい、どうにでもなれ。

 どうせ逆に行っても行き止まりになってるかもしれない。
 それに運が良ければ、森へと戻れる道が繋がってるかも知れない。

 ぶっちゃけて言ってしまえば、もう考えるのが面倒だ。こうなれば、なるようになるしかない。

 賽を投げるような気分で、ダンジョンへと足を踏み入れる。

「とは言ったものの、結構暗いな……」

 そりゃ当然だ、洞窟内なんだから。

 先が真っ暗で何も見えず唸るカイルに、ラフィが得意げな表情をこちらに向けてくる。

「ふふっ。こんな時こそ、私の魔法の出番ですよ……≪リート≫!」
「……おおっ」

 そう言って杖を振るうと一つの光が現れ、カイルは感嘆の声を漏らした。

 光魔法の初級魔法、≪リート≫。まあ、光を出すという効果だけの魔法である。

「唯一の得意魔法がこんな時に役立つなんて……やめてくださいよう、シルバくん! そんな熱烈な目で私を見ないでくださいよう!」

 ……………………。


 パチリ。


「あっ、あっ! やめてください、シルバくん! 私より強い光を出しちゃ、私の存在意義が失われちゃうじゃないですか!」

 慌てて僕の出した光の玉を抑え込むラフィに、ため息を一つついて光の玉を消す。

 しかし、見た限りだとそこまで複雑な洞窟でもないようだ。道が枝分かれしているわけでもなく、細い一本道が続くばかり。

 これなら迷うこともない心配もないだろう。

 ……でもこれ、どんどん下がっているように見えるんだけど。大丈夫かな。

「行きましょう、目指すは未踏の地です!」

 頼むから地上うえを目指してくれ。

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