クチナシ魔術師は詠わない

風見鳩

偽りのレイス・ラミテッド

 レイス・ラミテッド。

 元僕の名前で、現目の前にいる男の名前。

 つまり僕の替え玉で、養子であることから僕の義弟だ。

「昔から悪名高いラミテッド家の長男、レイス様です……なんでも自分と同い年の貴族たちと喧嘩をしまくって、周りから畏怖される存在となっているんです」

 とラフィが小声で説明してくれる。

 いや、喧嘩って。元僕の名前で何してくれてんのあの男、しかも畏怖されてるって事はほぼ勝ってるってことかよ。

 まあ、その名前は捨てた身だ。そういう事に関しては現レイス・ラミテッドの自由だし、当主である父から命令されたのかもしれないと思うと、何も言えない。


 しかし……僕は今一度、義弟の姿を見る。

 同じ黒髪に、同じ髪型、同じ青色の瞳。更にはどことなく僕の顔にも似てる気がする。よくこんだけのそっくりさんを両親は見つけたな、と思わず感心してしまうくらいだ。


 でも、なんか顔が僕と比べて凜々しい気がするのは何故だ? 自分の顔に自信があるわけじゃないけど、弟の方がかっこいいというのはどうかと思う。

 なんか顔立ちも整ってるし、目も大きいし、顔を引き締めてる表情はなんかかっこいいし……。


 これ、本当に僕の替え玉?

 僕の顔ももっとかっこよくしてくれてもいいんじゃない?


 色々と不満が募るが、口には出せない。喋られないからね。

「そういえばシルバくんって、どことなくレイス様にそっくりですよね……ま、まさか、ラミテッド家の関係者だったり、しますか?」

 僕とレイスの顔が似ていることに気が付いたラフィが、急に怯えたように顔を青ざめて訊いてくるが、これには慌てて首を横に振った。

 関係者というか、元レイスは僕であるのだが……先程のレイスの素行を見る限り、正直に頷いても良いことはなさそうだし、向こう側からしても僕という存在は既に抹消されているはずである。

「そ、そうですか……」

 ほっと一息つくラフィ。よかった、他人のそら似と思ってくれたみたいだ。

「とりあえず舟に乗り込んじゃいましょう。もうすぐ出航時間なんで」

 と言うラフィに続き学校の関係者と思わしき人に手紙を見せて、現レイス・ラミテッドに背を向け舟に乗り込んだのだった。


 ***


「わぁ……改めて見ると、大きい島ですねえ。こんな大きな島をまるまる1つ学校にしちゃうなんて……」

 舟に乗り込んで15分。だんだんと近づいてくる島に、ラフィが思わず感嘆の声を漏らした。

 確かに大きい島だ。数百の舟も用意出来たり、貴重な羊皮紙を大量に使えることも含めて、この学校はやはりお金を持っているというのがわかる。

「この学校の創設者がライルク島にあるダンジョンで財宝を手に入れて、それで島ごと学校にしたらしいぜ」

 と、僕たちの会話(最も、僕は喋ってないが)を訊いていたのか、僕の隣に座っている男が得意げに話してきた。

 海のような蒼い髪を短めに切っている赤目の男。

 男前な顔とローブの上からもわかるようながっしりとした体格から、如何にも男らしい男である。

「あっ、いきなり口挟んでわりいな。俺、カイルっていうんだ」
「私はラフィです。こっちはシルバくんで……この子、声が出ないんです」

 青髪男……カイルが自己紹介すると、さっきの土の板を生成する前にラフィが僕の分まで紹介してくれる。

 声が出ないというところだけ、声を小さめにして話してくれるところに彼女の優しさが出ているんだけど……。

 今、『この子』って言われたような。思いっきり子供扱いされたような気がするのは、はたして僕の気のせいだろうか。

「へえ、そりゃ大変だな」

 目を丸くして驚くカイルに、曖昧な笑みを返す。

「何か助けが必要なら声かけてくれ。力になるからさ」

 どうやら僕の周りは優しい人ばかりのようだ。こんなにも助けになってくれる人がいるだなんて、なんて恵まれているんだろう。


「俺、力には自信があるからよ。困ったときは力になるぜ」

 へへっと照れくさそうに笑う彼を見て、いい人だなと思う。

 こんな僕に力を貸してくれるのは、師匠以来だ……いや、この数年間は師匠以外の人とまともに接したことないから、あれだけど。


 と。

 二人の優しさに思わず感動していると、舟が大きく揺れた。

「きゃっ……!」

 前の席に座っているラフィがバランスを崩し、咄嗟に手を伸ばして支える。

 10人以上は乗れる舟とはいえ、さすがに屋根等はついてない。その為に、大きな水しぶきがあがり、周りから悲鳴が洩れた。

「あ、ありがとうございますっ」

 揺れが収まると、ラフィがお礼を言ってくる。

 僕たちも例外なく水しぶきを浴びていて、ラフィも全身がずぶ濡れだ。


 水滴がラフィの綺麗な黒髪からゆっくりと首筋へしたたり、それが至近距離にいる僕からしたら妙に艶っぽく見え……。


 うん、このままじゃまずいな。色々と……本当に、色々と。


 ポンポンと、ラフィの両肩を叩く。

「へっ……? ふひゃあぁっ!?」

 いきなり肩を叩かれて疑問符を浮かべたラフィだったが、次の瞬間身体中に起きた温風により思いっきり悲鳴を上げた。

 今のは僕がにわか雨などの時に使う技で、体に温度調節した風魔法を送り込み服をある程度乾かすのだが……迂闊だった、いきなり強烈な風が送り込りこまれたら、誰でもこんな反応するじゃないか。

「あ、ありがとう、ございます……」

 顔を真っ赤にするラフィ。ああ、しまったなあ……僕のせいで、彼女に恥ずかしい思いをさせるなんて。

 師匠に訊かれたら説教されそうだなと思いながら、黙ってラフィに向かって頭を下げた。


 ***


 さて、数十分もしない内にライルク島へ到着したわけだが、どうやら『振り分け試験』というのがあるらしい。

 『新入生』である僕たち生徒がどのくらいの実力なのかを計り知るというもので、それによってクラスというグループに振り分けるのだそうだ。

 正直、誰よりも優秀というわけではないだろうが……魔法面ではそこそこの自信がある。でないと、あんなにまで稽古してくれたミスレア師匠の顔が立たないからね。

 魔術学校と呼ばれていることから、十中八九で魔法の試験だろう。

 隣にいるラフィは不安そうな顔をしているけど……さあ、どんな試験だろう。火、水、風、土、光……属性であれば、僕はすべてを実践レベルで使うことが──


「えー、皆さんには火の初級魔法である≪フラムバル≫を詠唱・・してもらいます。ただ、発動すればいいだけではなく、形状や動作なども試験の対象に──」



 ごめん、師匠。僕、最低点を取りそうだよ。

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