クチナシ魔術師は詠わない

風見鳩

迷宮(ダンジョン)の学校

 ライルク島迷宮ダンジョン魔術学校。

 その名の通り、ライルク島という孤島に存在する……というか、ライルク島の敷地内全部を学びの舎としている魔術学校である。

 街十個分以上はありそうな巨大な学校で、15歳となった僕は入学することになった。

 魔術師に憧れるすべての人が集まるような島でもあることから、人口もかなり多い。島中が人で賑やかになっているだなんて、ここぐらいだろう。

 このライルク島は『ダンジョン』と呼ばれる地下迷宮が存在していて、島自体がダンジョンとも言われているそうだ。

 ちなみに15歳になると魔術学校から招待状が来るが、入学資格があるのは12歳から。ただし15歳未満の場合は、確かな実力を認められていたりなど、特別な許可がないと入学するのは難しいと聞いている。


 島1つを学校にしてしまうなんて相当お金があるんだなと、ライルク島行きの舟がいくつも並ぶ港に群がる黒ずくめの生徒達を眺めながらそんなことを思った。

 それにしても、この学校指定の『制服』っていうのは着ていて疲れるな。ローブが邪魔だし、全身黒色だからあっついし。

 師匠は「案外似合ってるじゃないか。これでまた私に一歩近づいたね」なんて嬉しそうに言ってたけど、そもそも全身白じゃないか、あんた。


 さて、これから舟に乗り込むわけだが、どうやら番号で一人一人割り振られているようだ。確か手紙の書いてあった舟番号は──


「あ、あの!」

 と。

 いざ指定されている舟の場所まで歩こうとしたところ、突然後ろから声をかけられる。

 振り返ってみると、そこには一人の女性が不安げな表情をしながら僕の方を見ていた。

 黒ローブ黒装束の僕と同じ制服。違う点と言えば、相手がスカートである点だろうか。
 ぱっちりとした碧眼に、幼さが残る童顔。艶のある漆黒の髪は腰くらいまで伸びている。


「す、すみません! わ、私、新入生で……この舟の番号っていうのがわからないんですが、この番号がどこにあるのか、わかりますか?」

 と、女性が羊皮紙を見せてくる。

 なるほど、この人も新入生なのか。見た目からして同じ15歳だろう。…………でも僕よりちょっと背高いのはなんで? これ、僕が背低いの?

 えーっと……ああ、この番号、僕と同じ舟じゃないか。なら一緒に行けば済む話じゃないか。

 番号からして、ここを真っ直ぐ行けば舟があるはず。

 「こっち」と伝えるために、進むべき方向に向けて指さす。

「?」

 しかし上手く通じてないのか、女性は首をかしげた。

 ……もう一度指さしてみる。

「???」

 …………。

 あーもう、めんどくさい。

「きゃっ!?」

 これでは無駄な時間を潰すばかりなので、女性の腕を掴んで進行方向へ進む。


 改めて思うけど、声が出せないって不自由だ。


 ***


「えっと、意外に強引なんですね……びっくりしちゃいました。あっ、でも、ありがとうございます」

 無事目的の舟の前にたどり着き、自分も同じ舟に乗ることを伝えるために手紙を見せると、黒髪の女性は苦笑しながらもお礼をしてきた。

 まあ自分でも強引なやり方だなと思ったけど、伝わらなかったのだから仕方ない。

「あっ、私ラフィと言います。よろしければお名前を教えてくれませんか?」

 女性──ラフィが自己紹介をし、僕の名前を訊いてくるが、声が出ない僕は返答することが出来ない。


 そんな時はこれ。

 パンッと両手を打ち、魔法で土製の板を作り出す。

 壊れやすいが、表面をなぞることによって堀を作り出せるのが土製の板の特徴だ。

「……えっ?」

 板の上を指でなぞり、文字を書いていく。

 書いた文字は『シルバ』……これで伝わるだろう。というか、さっきもこうやって伝えればよかったんだ。

「え、えっと……シルバくんって言うんですか?」

 と確認してくるラフィに、首を縦に振って頷く。

 しかし彼女が浮かない顔をしえいるのはどうしてだろうか。

「あと、一つ訊きたいんですけど……どうして声を出したがらないのですか?」

 ああ、そういうことか。彼女にとって、頑なに声を出そうとしてない僕が不思議で不思議でたまらなかったんだ。

 一度書いた文字を手で消して、声を出さない理由を書く。

「えっと、『生まれつき声が』……あっ!」

 僕のなぞった文字を半分くらいまで音読したラフィは、気が付いたように顔を上げた。

「も、申し訳ございません! 失礼な質問をしてしまい……!」

 そして思いっきり頭を下げてくる彼女に、気にしてないという意思表示で手を横に振る。

 まあ実際どうでもいいし、過度に気を遣われてもどうすればいいかわからないしね。

「ところでシルバくん、さっきのって──」


 とそこまで言いかけたところで、ラフィは何かに気が付いて僕の腕を引っ張ってきた。

「め、目を合わせないようにしてください、シルバくんっ」

 えっ、何が?

 小声で慌てたように告げてくるラフィの視線の先を追ってみる。



 そこには、僕と顔が瓜二つの男子が歩いてきていた。

 初めて見たけどわかる──あの男はレイス・ラミテッドである、と。

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