クチナシ魔術師は詠わない

風見鳩

階級制度

「シルバくんやカイルくんと同じクラスで、少し安心しました」

 割り振られたクラスの教室で、ラフィはほっと胸をなで下ろしそう言った。

「私、魔法があまり得意じゃなくて……だからこの学校に入るってなった時も不安だったんんです」
「俺も火魔法はなあ……土魔法だったら、まだ可能性があったのに」

 ラフィにうんうんと頷くカイル。


 確かに、二人の魔法はお世辞にも上手いと言えるものではなかった。

 火の初級魔法である≪フラムバル≫はいわゆる火球だ。大きさだけでなく、如何に形状を保っていられるか等も魔法の上手さがわかる。

 ラフィの≪フラムバル≫は通常よりも小さく、形状もすぐに崩れてしまっていた。流し込む魔力が不足している、ということである。

 対して、カイルの方はまったくの逆。火球を爆発させるなんて、どんだけ魔力を流し込んでいるんだと言いたい。


 ……まあ、最下位の僕が言える意見じゃないんだけどね。喋られないし。

「あ、あの、シルバくん。そんなに落ち込まないでください」
「そうだぞシルバ。人には得手不得手があるんだから」

 僕が落ち込んでいるのが態度に出ていたのか、二人が励ましてくる。


 魔法を詠唱しなくてはいけない試験……まあ声が出ない僕は詠唱なんて出来るわけもなく、曖昧な笑みを浮かべて終わったという、なんとも悲しい結果になってしまった。

 結果だけであれば、本当はもっとマシな結果は出せる。
 でもそれは条件を無視した結果であり、ルール違反だ。僕だけの特権、というわけにもいかない。


 でもなあ。これ、師匠になんて伝えればいいのかなあ……。

 一番下の4クラスの中の、更に最底辺だなんてことがバレたらなんと言われるか。

「はーい、席につけー」

 と、ひょろりとした背の高い女性が教室内に入ってくる。

 ちなみに席は指定されてないからどこでもいいらしく、僕ら三人は近くの長机に固まっていた。

「あー……4クラスの教師となったユキリア・レイドレインだ。よろしくー」

 ボサボサの茶髪をポニーテールにして、眠そうな半目の女性。
 やる気の無いような声で自己紹介すると、教卓の横にあった椅子にドカッと座り込む。

「緊張してんのはわかんだけどさー……あたし、堅苦しいの嫌いなんだよねー。だからあんたらも楽にしなよー」

 手をひらひらさせて思いっきり足を伸ばすユキリア先生。

 ……なんか師匠と似てる雰囲気の人だなあ。

「まー今日は授業しないからさー。あたしも楽なんだよねー」
「あの……先生」
「んー?」

 おずおずと手を上げるラフィに、ユキリア先生が顔を向ける。

「えっと、あんたはラフィちゃんだっけ……どしたのー?」
「はい。今日授業はありませんが、確か担任から学校の制度などを説明していただくことになっているような……」
「あっ、そうだったそうだった。いやあ、最近忘れっぽいからさー」

 この先生、大丈夫だろうか。教師として色々と欠落している気がする。


「えーっと……施設は色々巡る時に学べ。制度は時間が教えてくれる。以上」

 おい教師。

「というのは冗談で。学校制度……階級制については説明するよ」

 そう言って、ユキリア先生は懐から一本の杖を取り出すと、

「≪アイルドラウ≫」

 詠唱を唱える。

 ≪アイルドラウ≫……風の中級魔法で、対象物を引き寄せる魔法だ。

 次の瞬間、ドアを勢いよく吹き飛ばしながら巨大な石版が寄ってきた。

「あっ、やべ、壊しちゃった……ま、いっか」

 よくないだろ。

「えっと、この学校に在籍している間は魔術師としての腕を示す階級を上げられるの。第10級から第1級まであって、昇級試験に合格すればいいわけ」

 石版には各階級の説明が書かれている。

「まあ第5級まで上がれば、それなりの魔術師として認められるから。あたしも第3級だし、将来も困らないと思うよ」

 なるほど、第5級でそれくらい認められるということは、上級魔法を扱えるくらいの実力をつけているということか。

「第2級になれば超一流の魔術師だけど超難しいし、第1級はもはや化け物しか取れないと思うから、無理して狙わなくていい」
「あのー……第1級の魔術師ってそんなにやばいんすか?」

 と、カイルが陽気に手を挙げて質問する。

 そんなカイルにユキリア先生はニヤリと笑った。

「そうだねぇ……有名どころの人物で例えるならば、『奇跡の魔術師』くらいの腕がないとなれないと思うよ」

 『奇跡の魔術師』。

 その単語が出た瞬間、周囲がざわつく。

 それもそのはず。『奇跡の魔術師』と呼ばれているのは、この世でたった一人しかいない超がつくほどの有名人だから。


 ミスレア・ミストレイ。

 あらゆる魔術の常識を覆した、異形の魔術師。

 彼女に憧れて魔術師を目指す人も少なくないだろう。

 だが、そんな凄腕魔術師と同じくらいの腕になれるかどうかは別問題。


 つまり第1級になるということは、それくらい難しいということを──ユキリア先生は言っているのだ。



 ……毎日ゴロゴロしてばっかで、まったく働かない人だと言ったら、みんなどんな反応するんだろう。

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