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風見鳩

10 裏切りのリリカ 前編

「リリカさん……ここで、決着をつけましょう」

「……ええ、そうね」


 風に煽られ葉が揺れる音が響く大森林――『マイラダンジョン』。

 陽の光が空の頂点で燦々と輝く中、二人の女性が野原を中心に対立していた。


 一人は騎士のような女性。金のボタンがついている黒い上着に黒のスラックス、その凜々しい顔立ちと大人びた雰囲気からは『大人の女性』といった感じだ。

 対するもう一人はへんてこな服を着ている推定十歳の少女。薄そうな真っ白な服を半袖にして、膝上までしかない黒のスカートを履いている。まだあどけない顔は女性というより少女と呼ぶ方がふさわしい。


「私たち……どうして、こうなってしまったんでしょうね」

「そんなの決まってるじゃない……お互い、最初から考えてることが違っていただけよ」


 二人の会話は重々しく、それ以上の会話は続かなかった。

 それでも、お互い睨み合う。

 お互いの関係を確かめ合うように。

 お互いの思い出に終わりを迎えるように。

 お互いの決着を――今ここで、決めるように。



「――いくわよ、ナフィ」

「はいっ!」



 二人の合図と共に――刃が抜かれ、大地が割れた。








「……はい、外れ。また私の勝ちね」

「うぎゃあああああああっ! 今度こそ当たりだと思ったのにぃっ!」


 リリカが得意げな顔をして抉れた地面を指さすと、ナフィリアはその場で転げ回った。


「もうちょっと! もうちょっとだけ掘ってみましょうよ、リリカさん!」

「この深さまで掘って何も出ないんだから、もう出てこないわよ」

「もしかしたら、ひょっこり現れるかもしれないじゃないですかっ!」

「いや、生き物じゃないんだから……」


 騒ぎ立てるナフィリアに、やれやれとばかりにリリカはため息をつく。



 『石版』を探し始めて十数日程度。現在、ナフィリアとリリカは南の方角にある『石版』を探索していた。

 どうやら『石版』は全部で8つあるらしい……というのも、リリカがそう言っているだけなので、その情報が本当かどうかは定かではないが。

 しかし、そんな曖昧な情報でさえも無意識に信じられるまで、二人の仲は深まっていた。


 そんなわけで南の方角にある『石版』を探していた二人だが……この探索をする前に、ふとリリカが提案をしてきたのが始まりだった。


「ナフィ、賭け事をしましょう」

「賭け事?」


 ナフィリアが首を捻ると、リリカはいくつもの『×』印が描かれた地図を見せつける。


「今から行く方向に『石版』がありそうなところを選択して。もしあったらナフィの勝ちで、なかったら私の勝ち。どう?」

「えぇー……別にそんなことしなくても――」

「負けた人は何でもするってことで」

「受けて立ちますっ!」



 ……とまあ、こんな感じでナフィリアとリリカの勝負が始まったのだ。

 結果、ナフィの4連敗。よくよく考えてみれば、完全にリリカの方が有利じゃないかと、今更過ぎる後悔に唇を噛んだ。


「さて、楽しい罰ゲームの時間よ」

「あ、あのー……リリカさん? こう言っちゃなんですけど、私の格好を剥げる箇所なんてもう残ってないんじゃないかなー、って……」


 探索に出る前の姿と比較すると、ナフィの戦闘服もだいぶ変わってしまった。

 紺のブレザーは脱がされ、膝丈までのスカートは超短くなり、長袖の白いシャツは半袖にされていまっている。

 ルーヤの故郷である『正装』の一つだそうで、今までの中でも割とまともな衣装で安心しきっていたのだが……。


「それもそうね。じゃあナフィ、そのリボンを取ってくれるかしら?」

「えっ、あっ、はい」


 リリカの指示通り、襟元に付けていた赤いリボンを取る。


 なんだ、もっと過激なことをされるかと思ったけど……今までのに比べたら大したことじゃなかったな――と安心したのも束の間。


「…………へっ?」



 リリカの剣が抜かれ……前開きである白シャツの、上ボタン二つがこぼれ落ちる。


 それはつまり、ナフィリアの胸元を大きく開けることであり……。


「な、ななななにするんですかぁっ!」

「何って、罰ゲームよ」


 慌てて胸元を隠そうとするナフィリアを、リリカは強引に手首を掴んで阻止した。


「駄目よ。隠さずにその格好のまま帰りなさい」

「こ、こんな格好してるのなんて、露出狂ぐらいだけですっ!」

「大丈夫よナフィ。夏によく出没するギャルっぽいJKも同じ格好してるから」

「言っている意味がわかりませんっ!」

「でもまあ……これだけ露出しても色気がないなんて、見ていて悲しいわね」

「バカにされてるってことだけはわかりましたっ!」


 そもそもこの正装は15歳前後の女性が着るものであり、ナフィリアにはまだ早いのだ。


「でもまあ、流石にやり過ぎたわね……スキルレベルも減少しているだろうし……」

「えっ、減少?」

「あら、知らないの?」


 首を捻るナフィリアに、リリカが意外そうに声を上げる。



=====

名前:ナフィリア
性別:女
年齢:10
階級:第10級
レベル:30
体力:125
筋力:40
敏捷:110
魔力:140
 運:1500
スキル
【地図化Lv.1】【夜目Lv.3】【隠密Lv.2】【回避Lv.3】
ユニークスキル
【ラッキー確率】
エクストラスキル
 ―

=====


 慌ててナフィリアがステータスカードを確認すると、果たしてリリカの言う通りスキルレベルが下がっていた。

 それに下がっているだけではない。【攻撃上昇Lv.20】に至っては綺麗さっぱりなくなっているのだ。


「スキルを付与する対象物はネックレスなどが一般的だけど……リュウヤくんの場合、服自体にスキルが付与されているのよ」


 驚くナフィリアに、リリカが説明を入れる。


「じゃ、じゃあ、服を脱いだり、破けたりしたら……」

「ええ、スキルレベルが減少するわ。今こうして私が貴女の衣服を千切った布を回収しているけど」

「……これがもし、敵だったら」

「そう。ナフィはスキルを奪われたも同然なの」

「……………………」


 リリカが断言すると、ナフィリアは黙り込んでしまう。


 自分の弱点に絶望したからではない。

 それより先走る感情を、抑えるので必死だったからだ。

 もしすぐ近くに水面があったのならば、彼女は迷わず覗き込んで自分の顔を確かめていただろう。


 自分が今、どんな表情をしているのか。


 悲哀に満ちた顔? それとも現状の過酷さに覚悟を決めた顔?


 ――否。


 水面を覗き込まなくても、わかっていた。



 ナフィリアは怒りで爆発しそうなところを必死に笑顔で取り繕いながら、今一度リリカの顔を見る。


「えへへー……リリカさん」

「なに?」

「ちょっと怒っていいですか? …………ルーヤさんにむかって」

「どうぞ」


 許可は得た。


 ナフィリアは大きく息を吸い込むと、天に向かって大声で叫ぶ。


「ア、アホかああああああああああああああああっ!!」


 マイラダンジョンじゅうに轟くような彼女の怒声には、ありったけの感情が込められていた。


「鎧ならともかく、すぐ破れそうな服を弱点にするとか、どうかしてるっ! ルーヤさんのバカ! アホ! くきぃっ!」

「……ナフィの気持ちはわかるわ。あの男、昔から馬鹿なことばっかしてきて散々振り回されてきたんだから」

「一体、何考えてるのよっ!」

「何って……そりゃ、一つしかないでしょ」


 リリカの指摘にナフィリアが渋い顔をする。彼女の言ってることが理解できたからだ。


 そして二人で合わせて、答えを言い当てる。


「「可愛い格好で戦う姿を見たいから」」


 一字一句揃った答えに、リリカが苦笑した。


「貴女もリュウヤくんのことをだんだん理解してきたわね」

「今まさに被害遭ってる身ですからね……嫌でもわかってきますよ」


 うんざりとした表情のナフィリアに、リリカはふと思い出したかのように「でも」と声をあげる。


「逆に破れた方がいい場合もあるのよ」

「……えっ?」

「スキルが付けられる数は最大で5つってことは、ナフィも知ってるわよね?」


 ユニークスキルとエクストラスキルを除くスキルは、最大でも5つまでしか付けることができない。

 スキルを5つ付けている人を『フルアーマー』と呼ぶのは、その為だ。


「でも、厳密にはそうじゃないの。5つしか反映されないのよ・・・・・・・・

「反映……?」

「つまり、1つスキルがなくなったら6つ目のスキルが発動するみたいな、そんな感じ」

「えっ、そうなんですか!?」

「スキルって希少なものだから、誰も試したことがなかったのよ……彼以外は、ね」


 リリカの言う『彼』とは……言わずもがな、ルーヤのことである。


「確か『布面積が広い方が優先的に反映される』とか言ってたわ」

「へぇ……そうなんですか」


 つまり衣服の上に衣服をつけることで5つ以上スキルを装備して、もし上に着ている衣服が破れるなりなんなりしてしまっても、下に着ている衣服のスキルが発動するという仕組みになるのだろう。


「まあその仕組みが利用された衣装はもうあるんじゃないかしら。何せリュウヤくんが教えてくれたんだし」


 しかし残念ながらこの衣装はそうではないらしく、ナフィリアのスキルが減っていることには変わりない。


「まあ……ルーヤさんがアホなのは今に始まったことじゃないですよね……というわけで、はい」

「……その手はなに?」


 流れるような動作で手を突き出したナフィリアに、リリカは怪訝そうに眉をひそめた。


「なにって……上着ですよ、上着。斬られちゃった部分は仕方ないとして、【攻撃上昇Lv.20】が付与された紺色の上着は脱いだだけですよね? こんなステータスじゃあ、まともにモンスターの対処ができないじゃないですか。だから、上着だけでも返してください」

「はあ……ナフィ。私が言ったこと、忘れてるわけじゃないでしょうね?」


 リリカは大袈裟にため息をつくと、ナフィリアに向かって指を突きつける。




「その格好のまま、今日は帰りなさい」

「………………………………マジですか?」

「マジよ」



 一切の躊躇いもなく言い放つリリカ。


 ナフィリアはしばらく絶句し、大きく深呼吸をする。


 そして自身を落ち着かせる。たかがこの格好のままで帰るだけじゃないか、と。


 何が起こるかわからないと言われるマイラダンジョンで、ロクなスキルもない状態で帰るだけに、一体何の問題があるのだろうか?








 ――落ち着いて考えてみた結果、やっぱり問題大アリだった。


「いやいやいやいや! 無理ですってば! こんな低いステータスでモンスターに遭遇したらどうするつもりなんですか!? 無理無理無理、ぜっっったい、無理ですっ!!」

「……はあ、ナフィは仕方ないわね」


 ナフィリアの必死な説得にリリカも観念したのか、諦めたかのように何かを投げる。



 いくら鬼畜なリリカでも、流石にこのままでは危険なことを理解してくれたようだ。


 内心ほっとしたナフィリアはリリカが投げたモノをつかみ取る。





 ――つかみ取ったのは、手のひらサイズの角笛だった。


「この角笛を使えば、いつどこにいてでも私が駆けつけてあげるわ」

「そういう意味じゃなくってええええええええええっ!」

「何よナフィ。私の言ってることが信じられないの?」

「そうじゃない! そうじゃないんですリリカさん! 私が言いたいのはそういうことじゃないんです! 大体、リリカさんが近くにいるんだったら、角笛の意味ないじゃないですかっ!」

「あ、それもそうね。うっかりだったわ」

「うっかりじゃないですよっ! 早く私の上着を……って、あれ!? リ、リリカさんっ!? どこ行ったんですか!? ちょっ、まっ……待って待って! 別にリリカさんを疑ったわけじゃないですよ!? わざと隠れて実践しなくてもいいんですよ!? これを吹けばリリカさんが駆けつけてくれるって、私嘘だと思ってませんからね!? ほらっ!」



 ブォーッ。



「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………リリカさんの嘘つきぃぃぃっっ!!」



 いくら待っても現れないリリカに、思わず角笛を投げそうになる。

 だがモノに八つ当たりしても意味がないとすんでのところで止め、代わりに大きなため息をついた。



「はあ……………………さっさと帰ろう、うん」



 ダンジョンに入ってから初めての一人。



 何も起こらず帰れるよう、少女はただただ切実に願うばかりであった。

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