セクハラチートな仕立て屋さん - 如何わしい服を着せないで -

風見鳩

02 仕立て屋とラッキーアイテム

「いやあ、助かったよ、ありがとう。……いやほんと、マジで助かったよ。あのまま僕死んじゃうかと思った。マジありがとうっ、ありがとうっ……!」

「や、やめてくださいっ。そんな頭を下げないでくださいっ」


 日が完全に落ちた夜、チャラい格好をした男が今にも泣きそうな表情をしながらテーブルに額をこすりつけ、茶髪の少女が慌てて止めようとする。


 あの後、廃屋となった建物に身を隠していたところ、「夜になったら僕の屋台に移動しよう」というイケメン(ただし顔はめっちゃ腫れてる)のチャラ男の提案により、彼の屋台へと移動していた。



 屋台と言ってもかなり大きい。普通の家のリビングぐらいはあるのではないだろうか。


 屋台の中は数十以上に及ぶ、色とりどりの衣服が並んでいる。他にそれらしい商品がないことからこの男は仕立屋なのか、と少女は推理し安堵した。



 ――見渡す限り女性ものしかないことは、少し気になったが。



「僕はルーヤ・キュロス。仕立屋をしている」


 チャラ男――ルーヤは気を取り直してそう言うと、手のひらサイズの羊皮紙を差し出す。

 少女がおずおずと受け取ると、紙には『仕立屋 ルーヤ・キュロス』と書かれていた。



「ええと、私は――」
「ナフィリアちゃん、だろ? またの名を『ラッキーアイテム』」
「……………………はい」


 少女が自己紹介する前に、ルーヤが言い当てる。

 そうか、もうそこまで有名になってるんだ――と、少女ナフィリアは顔を伏せ、小さく返事をした。


「君の噂はかねがね聞いてるよ。なんでも君を連れてダンジョンに行くと、希少価値の高いモノがドロップしやすいとか」


 ダンジョンというのは未踏の地。

 この世界には『五大ダンジョン』と呼ばれるダンジョンがあり、その内の一つである『マイラダンジョン』がこの街のすぐ近くに存在しているのだ。



「ナフィリアちゃんと一緒に行くと……ええと、10倍だっけ?」
「……100倍」


 と、ナフィリアが訂正を入れる。


「約100倍で……ドロップするアイテムに『スキル』が付きやすい、です」


 約100倍。


 つまり、このナフィリアという少女がいるだけで、ダンジョンからドロップするアイテムに希少な『スキル』が手に入りやすいというのだ。

 そのことからナフィリアについた別名が……『ラッキーアイテム』。


 『戦闘には使えないお荷物だが、いてくれるとすごく幸運に恵まれる』という意味合いを込めた、彼女の名称である。


「そう、君の生まれ持ったユニークスキル……【ラッキー確率】のおかげで、君といるとスキルのついたアイテムが手に入りやすいというわけだね」


 ユニークスキルというのは、神々に与えられた恩恵ステータスでつく能力のことだ。

 ユニークスキルは大半の人につくものなので珍しくないのだが……【ラッキー確率】という能力は大変珍しいユニークスキルであり、10年に1人レベルの珍しさである。



「まあ、冒険者たちの気持ちもわかるよ。珍しいアイテムが約100倍の確率で手に入りやすくなるんだから。効率厨も万々歳だね」

「…………」

「いやさ、僕も目当てのアイテムがたくさん欲しい時もあったんだ。そんな時、思ったんだよ。『こんな作業ゲー、やってらんねえ』と」

「…………」

「だから確率変動が出来るというのは大変素晴らしい。数年前の僕なら、喉から手が欲しいくらいまでにね。というか、全ゲーマーなら絶対欲しがる。運営の悪意に満ちた0.02%という確率をぶち壊せるスキルが手に入るんだったら、誰だって欲しがるだろうさ」



 ――話、長えよ。


 涙混じりに語るルーヤの体験談らしき話の半分以上がナフィリアには理解できず、機関銃のごとく喋るルーヤにうんざりとしてしまう。


「ああ、そうだ。確率と言えばね、『確率2倍』とかいう詐欺まがいの売り文句があって――」
「あのっ!」


 尚もペラペラと語り始めるルーヤに耐えきれなくなったのか、とうとうナフィリアは顔を上げ強い口調で彼の言葉を遮った。


「用件は――なんですか」

「…………」



 彼女にはもうわかっていた。

 彼が何故ナフィリアを助けたのか。


 あの時こそ救世主のように思えたナフィリアだが……よくよく考えてみれば、答えはただ一つしかないのだ。



 ――お前の能力はな、俺たちみたいな冒険者からすれば宝の地図みたいなものなんだよ。



 日中の大男の台詞が蘇る。

 その言葉はやはり正しく、逃げ切れたと思えばまた同じ繰り返しだ。


「……ふむ。じゃあ直球にお願いする」


 この運命から逃れることは出来ないのか――ナフィリアはもう笑うしかない。


 ――そうだ。


 ――【ラッキー確率こんなもの】があるから……私は不幸なんだ。


 ――それだったら、こんなわけのわからない男と一緒にいるより……あの忌まわしいS級冒険者の下にいた方が幸せなんじゃないか。




 ナフィリアにある選択肢など『不幸』しかない。



 『どの不幸が一番幸せなのか』――だったら。





「ナフィリアちゃん……君には僕の嫁になってほしい」


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?」




 長い沈黙。


 チャラ男、ルーヤの爆弾発言に思考停止したナフィリアは、やがて意味がわからないという風に首を捻った。


「ええと、すみません……もう一度」

「僕の嫁になってほしい」

「…………………………………………頭おかしいんですか?」

 真面目な表情で言うルーヤが理解できず、思わず本音が漏れる。


「いやあ……実を言うとさ、僕って弱いんだよねえ」

「……実を言うも何も。あれだけ並の冒険者にボコボコにされてたら、普通弱いって、誰でもわかると思うんですけど」

「実を言うとさっ! 僕って弱いんだよねっ! ……いや、お願いです、そんな可哀想な目で見ないで。僕だって男だし、少しくらい見栄を張ってもいいじゃないかっ……!」


 そう言いながらポケットからステータスカードを取り出したルーヤは、ナフィリアに見せる。



=====

名前:ルーヤ・キュロス
性別:男
年齢:19
階級:第6級
レベル:45
体力:100
筋力:35
敏捷:66
魔力:100
 運:10
スキル
【攻撃上昇Lv.5】【速度上昇Lv.3】【硬化Lv.2】【チャージLv.2】【チャージ短縮Lv.1】
ユニークスキル
【スキル付与】
エクストラスキル
【衣装変身】

=====



 ルーヤの言う通り、お世辞にも彼のステータスは強いと言えなかった。


 というより。


「なんか私と変わらないような……」

「やめてえ! なんとなく感じてたけど、指摘しないでぇ!」


 ナフィリアの何気ない一言に、身を悶えるルーヤ。


「ま、まあいくら40レベル台だろうと……こんなステータスじゃ、ダンジョンの最奥部になんて行けないんだ」


 ルーヤじゃなくてもダンジョンの最奥部に行ける人は少ないんじゃないか――と思ったナフィリアだが、それよりも気になることがあった。


「あの……」
「ん?」
「ルーヤさんが持ってるスキル、多すぎませんか?」


 そう、ルーヤの持つスキルは彼の実力に大して多すぎる。


 ルーヤ以上の実力を持つ第5級以上の冒険者でも、スキルレベルは良くて1つや2つしかない。

 【硬化】、【チャージ】、【チャージ短縮】なんてレアスキルを3つも持っているなんて、あり得ないと言っても過言ではない。


 「そうかな?」とルーヤは首を捻るが、やがて「あぁ」と手を打った。


「このスキルは貰ったんだ」

「も、貰った……?」

「うん、ちょっとした知り合いにね。……まあそいつ、『騙された』とか泣きながら出て行って、二度と来なくなっちゃったけど。騙される方が悪いよね」



 ――最低だ、この人。


 ナフィリアが蔑むような目でルーヤを見るが、彼はそれに気がつかない。


「人からスキルを奪ったんですか……?」

「奪ったなんて人聞きの悪い。言葉を巧みに使って、勝手に貰っただけだよ」

「尚悪いです! ……それに、ルーヤさんのユニークスキルとエクストラスキルなんですけど、こんなスキル見たことないような……?」

「うーん……それに関しては実際に試す方が早いかな」


 そう言って、彼が懐から取り出したのは――裁ちばさみ。


「ナフィリアちゃん、ちょっと立ち上がって、ここまで来てくれる?」

「えっ? あ、はい」

「ちょっとだけ、動かないでね」

「へ?」



 ルーヤの言っていることが理解できてないナフィリアに――一陣の風が吹く。




 瞬間。



 彼女の身を覆っていた唯一の布がバラリと・・・・細切れになった。



「……………。……………~~~~~ッ!!!」



 何が起きたのかわからずポカンとしていた真っ裸のナフィリアだが、みるみる顔を赤くさせてその場で屈んだ。


「な、なななななっ……!」


 顔を真っ赤にさせ、身体をわなわなと震えさせる。


「何するんですかっ!」

「何って……これが僕のスキルなんだけど」

「ひ、人の服を切り裂いて裸にして、辱めを受けさせるのがあなたのスキルなんですか!? とんだ変態ですねっ!」

「いやいやナフィリアちゃん」


 ルーヤは笑みを浮かべると、ナフィリアを指さす。



「今のナフィリアの格好が、なんだって?」

「何って……!」


 とルーヤに指摘されて、ナフィリアもようやく気がついた。


 バラバラにされたナフィリアの服が……元に戻っている。


 いや、戻っているだけではない。


 服と呼んでいいのかわからないようなボロい布切れが――青と白を基調とした、おしゃれなミニドレスと変貌していたのだ。


「で、これが今の僕のステータス」


 呆然とするナフィリアに、ルーヤがステータスカードを見せる。


=====

名前:ルーヤ・キュロス
性別:男
年齢:19
階級:第6級
レベル:45
体力:100
筋力:25
敏捷:60
魔力:100
 運:10
スキル
【速度上昇Lv.3】【硬化Lv.2】【チャージLv.2】【チャージ短縮Lv.1】
ユニークスキル
【スキル付与】
エクストラスキル
【衣装変身】

=====


「……え? なんで?」


 ルーヤについてたはずの【攻撃上昇Lv.5】が……なくなっているのだ。

 そして、筋力の数値も10下がっている。


「君のステータスを見てごらん」


 と、ルーヤに言われるがままに、ナフィリアはおそるおそる自分のステータスカードを確かめた。


=====

名前:ナフィリア
性別:女
年齢:9
階級:第10級
レベル:12
体力:85
筋力:120
敏捷:55
魔力:100
 運:1500
スキル
【攻撃上昇Lv.5】
ユニークスキル
【ラッキー確率】
エクストラスキル
 ―

=====


「――!」
「おお、思った通りだ」



 ナフィリアはスキルが付与されている装飾品など持っていない。全て他の冒険者へ渡っているからだ。

 なのに、今のナフィリアにはスキルが付与されている。

 更に言うと、彼女の通常ステータスの筋力は20。しかし、【攻撃上昇Lv.5】がついたことにより、数値が100も上昇している。


「これが僕の【スキル付与】と【衣装変身】だよ」

「まさか――【衣装変身】で再構築した服に、【スキル付与】を使って……【攻撃上昇Lv.5】を付与したんですか?」


 信じられないような目をするナフィリアに、ルーヤは「理解が早くて助かるよ」と笑みを浮かべる。


「更にこの【スキル付与】、同じ内容のスキルを合わせるとレベルをあげることだって出来るし、分割することも出来るんだ」

「そ、そんなことっ……」


 ――そんなめちゃくちゃなユニークスキルがあるだなんて、聞いたことがない!


「あと、これは小耳に挟んだ情報なんだけど……スキルには魔力の波動が流れてるんだってね?」

「は、はい。スキルには魔力の波動が流れていて、【ラッキー確率】はその波動を持つモンスター……つまりスキル付きのモンスターを引き寄せやすくなるんです」


 ナフィリアの説明に、ルーヤはうんうんと頷く。


「そう、【ラッキー確率】のナフィリアちゃんが言うのならば真実だ。スキルには魔力の波動が流れてる」

「……それがどうしたっていうんですか」

「これは想像なんだけど、その魔力の波動というのを感じ取れる人ほど、スキル効果が出やすいと思うんだ」

「……まさか」

「現に、僕が持っているよりステータス値が大きく上昇している」


 つまり、魔力の波動など全くわからないルーヤは筋力が10しか上昇しないが。


 微弱な魔力の波動でもわかるナフィリアは筋力が100も上昇するというわけだ。


「さて、ここからが本題」


 未だ夢でも見ているかのようなナフィリアに、ルーヤは指を一本立てる。


「誰よりもスキルを活用出来るナフィリアちゃんに僕の嫁……まあ、僕の作る衣装を着て、色んなスキルを集めて欲しいんだ」

「えっ……」

「ナフィリアちゃんは冒険者志願だったんだろう? でも、今のパーティーでは荷物持ちに近い存在になってる」


 そう、ナフィリアは元々冒険者志願だった。


 だからこそ第1級冒険者がいるパーティーから誘われた時は嬉しかった。『自分も凄腕の冒険者になれる』と、信じていたのだ。


 だが、そんなことはなかった。


 ナフィリアは単なるスキル集めの効率化に過ぎず、戦闘員どころか荷物持ちの雑用でしかなかった。



 スキルがついたアイテムが手に入るまで、何度もダンジョンに連れ回された。


 目当てのスキルが手に入らないと、他の冒険者から八つ当たりされた。


 欲しいモノがあっても、買って貰えなかった。


 食料も他の冒険者と比べて明らかに少なかった。


 結局ナフィリアは『都合の良い道具アイテム』でしかなく、自分が思っていた未来と大きく食い違っていた。


「……どうして、私なんですか」



 だから。


 こんな過去があったからこそ――ナフィリアは意地悪な質問をしてしまった。



 結局のところ、ルーヤが求めているのはナフィリアのユニークスキルだ。


 それはもう仕方ないことだし、彼女自身も納得せざるを得ない。




 ルーヤもナフィリアの能力だと答える他ない。





「可愛いから」

「…………えっ……?」




 しかし、想像していた返答と大きく違っていた。


 彼は【ラッキー確率】ではなく――ナフィリア自身を指したのだ。


「可愛いからだよ。要するに、一目惚れした」

「なっ、何言って……!」



 生まれてから男性にこんなことを言われたのは初めてで、ナフィリアは大きく動揺する。




「さっき、僕は『色んなスキルを集めてほしい』って言ったよね? それはナフィリアちゃんにとってのメリットで、僕のメリットじゃあない」

「……き、希少なスキルを集めて強くなりたいんじゃないんですか?」


 ナフィリアの質問に、ルーヤは鼻で笑う。



「自分が強くなるなんてことに興味ないね」

「……さっき、私に弱いって言われて泣きかけてませんでしたか?」

「やめて、そのことは蒸し返さないで。僕、メンタルも弱いんだ」



 今さっきの余裕ぶった態度はどこへ行ったのか、ナフィリアに指摘されて若干涙目になりかける。




 でも――もし、ルークが言っていることが本当ならば。



 この男は『自分の為にスキルを集めたいのではなく、ナフィリアの為にスキルを集めたい』と言っているのだ。



「それに……悔しくないのかい?」

「――ッ」



 ルーヤの言葉がナフィリアの胸を射貫く。


 ――そうだ、悔しい。



 人前で自分の弱いところを決して見せまいとしていたが……限界だ。



 ――戦闘員として扱われなくて、悔しい。



 肩が震える。



 ――ただの道具扱いされて、悔しい。



 下唇を噛みしめる。



 ――悔しい、悔しい、悔しい!



 そして……少女の目から、涙が零れる。



「僕には夢がある。でも僕一人じゃ、叶えられない夢だ」



 ルーヤはナフィリアに手を差し伸べた。



「君の力だけじゃない……君自身も、必要なんだ」



 そう言うルーヤの口調は……とても優しくて穏やかな口調だ。



「僕が君を凄腕冒険者にしてみせる。その代わり――僕の嫁になってほしい」



 男の言っていることは滅茶苦茶だ。



 けど、どうしてだろうか。



 こんなにも温かい言葉だと思うのは。



「はいっ……っ……!」



 ボロボロと涙をこぼしながらも、ナフィリアは……ルーヤの手を取った。







 しかし――ナフィリアはこの選択肢を生涯後悔することとなる。



 こんな男と共にするんじゃなかったと。

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