セクハラチートな仕立て屋さん - 如何わしい服を着せないで -

風見鳩

01 奇妙な仕立て屋さん

「はぁっ……はぁっ……!」


 ――薄暗い路地裏を少女が駆けていく。



 見るからに10歳と思われるような幼児体型をボロボロの布で身を包み、その身体に不釣り合いな大きなバッグを背負っている。


 重い荷物を運ぶのに慣れているのか、狭い道を難なくスイスイと移動していく。


 だが……少女の息は荒く、体力は限界へと近づいていた。


「はぁっ……はぁっ……!」


 それでも少女は足を休めることなく、ブラウン色の髪をなびかせながら右へ分かれる道を曲がる。



 もう、限界だったのだ。


 自分が生まれ持った忌まわしい能力のせいで、こうなったのだ。



 ――こんな能力を持ったって、不幸になるだけだ。



 だから、少女は逃げ出した。


 今の日常を抜け出したくて、逃げ出したのだ。



「――ッ!?」


 だが、運命というのは残酷なものである。

 逃げたくてたまらない少女の前に立ちふさがるのは……巨大な建物の壁。


 つまり、袋小路だ。



 ――しまった!


 慌てて元来た道へ戻ろうとするが……。


「きゃっ!」


 直後、現れた巨大な影に小さな身体を突き飛ばされる。


「ようやく追い詰めたぜ……ちょこちょこ逃げやがって……!」


 尻餅をつく少女に、影は荒々しい声を出した。


 影の正体は大男だ。銀の鎧から溢れんばかりの筋肉をつけた大男が、苛立ったような顔をしながら少女を見下ろす。


 そして、大男の仲間と思われる同じ格好をした男二人も現れる。


「ったく、なんのつもりだか。荷物持って、いきなり逃げ出すなんてよ」

「……も、もう……」

「あん?」

「も、もう、あなたたちには協力しませんっ! この力は自分のために使いますっ!」


 声を震わせながらも、強気な態度を取る少女。

 そんな少女を見て、男はあっけらかんとし……やがて口を大きく開けて笑い出した。


「はははははっ! 自分のために使う、だあ? お前、それで本当に自由になれるとでも思ってるのかぁ?」

「な、何がおかしいんですかっ!」

「いいか小娘。お前の能力はな、俺たちみたいな冒険者からすれば宝の地図みたいなものなんだよ。もし無事に逃げ出せたとしても、他の奴らに狙われるだけだぞ? そうなれば、同じ事の繰り返しだぞ?」


 大男の言うことは尤もであり、少女も口を紡いでしまう。


「まあ、あいつのユニークスキル、滅多に見たことないからな……」

「そりゃ冒険者からすれば、欲しくて堪らないだろ。あんなガキでも」



 と後ろにいた男二人もうんうんと頷く。


「だから、大人しく帰るぞ。なあに、謝れば団長だって許してくれるはずだ」

「い、嫌です! 私は、絶対、帰りませんっ!」

「はぁ~……だから、ガキっていうのは嫌いなんだよ」


 尚も意地を張る少女に、めんどくさそうにため息をついた大男は拳を固める。


 実力行使で連れて帰るつもりだ、と少女は息を呑み込んだ。


 小さな女の子と大柄の男。どちらが強いかなど歴然であり、真っ向から立ち向かうなど無謀だ。


 額に冷や汗を流しながら、少女は必死に打開策を考える。



 ――一瞬だけでいい。隙を作ることが出来れば。



「歯ぁ食いしばれっ!」


 大男が拳を構え、少女が思わず目を瞑り、顔の前に腕でガードした時――




「ちょーっと、待った! ストーップ!」


 後ろからそんな声が聞こえ、大男の拳が止まる。


 少女は恐る恐る目を開くと……そこには奇妙な男が立っていた。



 全身を覆うかのような鼠色のローブに針金のような細い身体。


 金髪のストレートヘア、両耳にピアス、首から見えるネックレスと……誰がどう見ても、第一印象は『チャラい』と思われるような男だ。


「あ? なんだ、てめえ」

「ふう、間に合った……いやあ、君たちにはこれっぽちも用はないんだけどね」


 チャラチャラした格好をした男は怯える少女を指さす。


「その子は僕が連れて帰るから」

「……チッ、同業者か」


 大男は舌打ちをすると、金髪男の方に向かって大股で歩いてく。



 どんな見た目をしていようが……今の少女には、突然現れた男が救世主かのように思えた。


 例えるならば、人々を救うかっこいい勇者様。


 確かにチャラい格好をしているが、顔はまあまあ二枚目だし、余裕ぶった態度も爽やかな性格をしていると少女の中で脳内変換される。


「あいつは俺らのメンバーだ。勝手なこと抜かしてんじゃねえぞ」

「いやいや、あの子めっちゃ拒否ってたじゃないか、今にも泣きそうな顔で。……まあ、小さな女の子にそんな厳つい顔で迫ってきたら普通嫌がるか。あっはっは!」

「て、てめえ……!」


 豪快に笑い飛ばすチャラ男に大男は青筋を浮かべる。


「殴られる覚悟は出来てるんだろうなぁ? あぁ?」

「おおっと、暴力かい? そんなすぐに暴力を振るうから、女の子にも逃げられちゃうんだよ?」

「いい加減にっ!」

「でも」


 とうとう沸点が切れたかのように拳を振り下ろそうとするが、チャラ男は表情を変えずに指を一本突き上げる。


「僕に殴りかかるのはやめといた方がいいよ? きっと後悔する」

「なっ……」


 大男はおろか、一緒に着いてきていた兵士二人も、チャラ男の言葉に怯む。


「ハッタリは通じねえぞ……?」

「ハッタリ? いやいや、嘘なんかじゃないって。本当にやめといた方がいいっていう、僕からのありがたい警告だよ」


 余裕そうに笑みを浮かべ、もう一本指を伸ばした。


「君たちじゃ、僕に勝てない」

「……このぉっ!」


 とうとう耐えきれなくなった男の一人が、チャラ男に向かって拳を突き出す――が。



「はあ……警告はしたよ?」



 低く屈んだチャラ男は目を鋭くさせると、力強く拳を振り上げた。



「【攻撃上昇】、【速度上昇】、【硬化】、【チャージ】、【チャージ短縮】」


 両耳のピアスと、首からかかっているネックレスがキラリと光る。


「超・瞬間火力アッパー!」


 果たしてチャラ男の渾身の一撃は命中した。

 拳は的確に相手の顎を打ち抜く。



 ――つ、強い!


 見た目にそぐわぬパワーに、思わず少女は息を呑んだ。


「なっ……て、てめえ!」


 勢いよく後ろに倒れた男を見て、大男は焦った様に距離を置いた。


 ――スキル5つ装備フルアーマーか!


 通常、スキル持ちの装備は2つあれば十分、3つあれば強いと言われる。


 スキルを宿した装飾品は滅多に手に入るモノではないというのに……目の前のチャラ男は5つ、つまり付けられるだけ所持しているのだ。


 確かに喧嘩を売ってはいけない相手だったかもしれない――と、大男から冷や汗が流れる。


「さあ、彼のようになりたくなかったら、大人しく引き下がることだね」


 余裕そうに笑みを浮かべるチャラ男。



 これは確かに一旦引いた方が良さそうだ、と大男が引き下がろうと決意した……その時。




「ちょ、ちょっと待て!」


 見れば、地面に倒れた男が慌てたように起き上がっていた。


「お、お前! 大丈夫なのか!?」

「あ、ああ、大丈夫だ……というより」



 男がチャラ男を指さす。




「こいつ……弱いぞ」

「……………………は?」



 ここにいた誰もがポカンとする。


 攻撃は確かに命中した。


 しかし、肝心のダメージはそこまであるわけでもなかったのだ。


 スキルを5つも発動していたはずなのだが、その力も嘘であるかのようにダメージが与えられてない。



 つまり、このチャラ男はめちゃくちゃ弱いのだ。



 そして当のチャラ男はと言うと、起き上がった男を見て眉をひそめている。



「あれぇ……こういう展開って、僕が勝つ流れじゃないの? 言うならば、お約束――ごふっ!」

「ブツブツ言ってんじゃねえぞ、おらぁっ!」

「さんざん脅かしやがって!」

「ちょ、ストッぶべっ! 僕、そこまで力は、ごばっ! こ、この! 超・かりょ――うごぉっ! いや待って! ちょっと待っ、てばぶっ! ねえ、お願いやめて! 暴力反対! 暴力振るうなんて最低! ぐふぅっ!」

「自分から殴っといて、その言い草か! お前の方が最低だわっ!」



 ――え、えぇ~……。


 三人に寄ってたかって蹂躙されるチャラ男を見て、少女はひどく落胆した。


 それもそうだ。さっきまで少女のピンチを救いに来た勇者のようにかっこよく見えていたのに、中身はそこらの冒険者よりも弱いというのだから。



 ――でも、隙は出来た。


 少女はバッグの中からこぶし大の白い球を取り出すと……地面に向かって投げつけた。


 地面に叩きつけられた球は、勢いよく煙を吹き出す。


「なっ!?」
「しまっ――!」


 男たちが慌てている隙に、少女は煙の中に飛び込む。


 視界が奪われている内に男達の間をすり抜け――ついでに地面に転がるチャラ男の首根っこを掴んで引きずっていく。



 ――一応、助けてもらったしね。


 少女は折角の二枚目をボロボロにした情けない男を見ながら、誰もいない路地裏を駆けていった。




 ここは剣と魔法が支配する世界。


 魔物を狩ることを生業とする冒険者が増える中、とある奇妙な男が噂になっていた。


 曰く、彼は特別なユニークスキルを持っていると。

 曰く、彼は仕立屋であると。

 曰く、彼は――セクハラまがいの女性服しか作らないと。


 これは『スキル付与』というチート能力スキルをセクハラの為だけに無駄遣いする男と、『ラッキー確率』という不幸なスキルを持った少女の物語である。

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