恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜

うみたけ

氷室辰巳の選択~因縁の転校生~1

『努力すれば凡人だって天才に勝てる』
 誰しも、どこかで一度はこんな言葉を耳にしたことがあるだろう。
 しかし、これは必ずしも正解とは言えない。
 なぜなら、天才だって努力するからだ。
 どちらもしっかりと努力したとすれば、よっぽど運が良くない限り、凡人は天才には勝てない。
 なぜなら元々持っているものが違うのだから…。

 それでも、かつて――中学時代までの俺は、『努力すればやり方と運次第で凡人も天才に勝てる』と思うくらいには前向きな性格をしていた。
 …まぁ、様々な策を弄したまっとうな頭脳戦や心理戦なら天才やら金持ちやら権力者にだって負ける気がしないと思い込んでいただけなのだが…。
 中学生時代の俺は、特に頭がいいわけでも、運動神経がいいわけでも、ましてや何かの分野で特別な才能があったわけでもない。
 ただ少し小細工を弄して他人を出しぬくのが上手かったに過ぎなかった。

『世の中やり方次第。持って生まれたものの差なんてやり方一つで簡単に埋められる。』

 当時の俺はそんなことを自慢気に口走っていた。
 “奴”に手も足も出ず、惨敗を喫するまでは…。

「それにしても君みたいな頑張って努力してる凡人は可哀そうだよね。だって僕みたいな『元々持っている人間』が同じように努力したらもう勝てなくなっちゃうんだから。
――君って、僕みたいな『元々いろいろと持ってる』のに努力したり工夫する人間を語る上での最高の噛ませ犬だよね。」

 “奴”は長くサラサラとした長髪をかき上げながら、ニヤニヤしながら人を小馬鹿にしたような嫌味ったらしい口調で貶してきた。
 そして。完膚無きまでに打ちのめされた後に、嘲笑交じりに投げかけられたその言葉は、俺の心をへし折り、俺の性格をさらにひねくれさせるには十分だった……。

※※※※

「――ろ、氷室!!」
「んあ?」

 大声で名前を呼ばれ、急に現実に引き戻される。
 ……しまった、寝てたのか。
 一学期が終わり、夏休み明け初日の授業。未だ夏休み中の自堕落な生活が抜けきっていない俺は、誰もが恐れる大井先生の授業にも関わらず、ガッツリと眠ってしまっていたようだ。
 とりあえず、現状を確認しようと周りを見渡してみよう。

「よお、氷室。私の授業で居眠りかますとは、なかなか度胸があるじゃねぇか!ああ?」

 少し離れた位置には心配そうにこちらを見やる習志野。
 後ろからは呆れた表情でため息を漏らす巨乳…市川。
 そして…目の前には…目を細めて上から睨みを利かせている我らがボス、大井先生の姿が……

「せ、先生、僕はただ少し長めの瞬きをしていただけで、決して寝ていたわけでは…」
「ほう、そうか。それならこの私が直々にもっと長い瞬きができるように手を貸して――」
「すみませんでした!!」

 手をポキポキさせながらさらに目を細めるボスの姿に、勢いよく立ち上がってお手本のような謝罪を繰り出してやった。
――とりあえず謝っておけば被害は最小限に済むはずだ。まぁ、最悪廊下に立たされるくらい――

「謝って住むなら警察なんていらねぇんだよ!」
「ぐはっ!」

 とても教師が発したと思えないセリフを叫びながら、俺の腹に渾身のボディブローを打ちこんできた。
 完全に謝り損だった。

「今回はしっかり謝ったことだし、一発で勘弁しておいてやろう。本来なら病院送りだぞ?――さっさと廊下に立ってろ!」

……マジで謝っておいて良かった!
自分の行動が間違っていなかったことを再確認しながら、俺は授業の残り時間を廊下で過ごした。

キンコーンカーンコーン

 しばらくぼーっとしていると、授業の終わりを告げるチャイムが校舎に鳴り響いた。
教室の中からはガタガタと椅子を引く音が聞こえてくる。
どうやら授業が終わったらしい。

「とりあえず先生に謝りに行っとくか」

 面倒臭いが、あの人の怒りをさらに買うよりはマシだ…。
 そう思い、しぶしぶ教室に入ろうと、扉に手をかけると、

「たっくん!大丈夫ですか!?」

 俺が開く前に扉は勢いよく開かれ、一人の女子生徒が飛び出してきた。

「たっくん、怪我はないですか?痛みは?病院行かなくて大丈夫ですか?」

 その少女、習志野栞は一人テンパりながら俺の体を案じている。

「いや、とりあえず今のお前よりはよっぽど大丈夫だ」
「そうですか!それなら良かったです!」

 普段通りの俺に安心したのか、習志野は少し落ち着いた様子で笑った。
 ――一応皮肉のつもりで言ったんだが…。まぁ、この純粋さがこいつのいいところでもあるんだが。
 そんな自分のパートナーの姿に思わず苦笑してしまう。
 ……ふと、背後から視線を感じ、嫌な予感しかしないが、恐る恐る振り返ってみる。

「氷室、お前はよっぽど私の拳を体感したいようだな!お前は廊下に立ちながら、私を怒らせる方法でも考えてたのか?あ?」

 案の定、そこには冷酷な目をした大井先生が佇んでいた。

「いや、俺は習志野に容態を報告していただけで、別に――」
「黙れ」
「ごふっ!」
「たっくん!!」

 いい終わる前に、本日2発目のボディブローを喰らう派目になった。
 一日二度怒らせると最早言い訳すら許されないらしい。
 この情報はうちのクラスにとっては重要なものになるだろう。

「お前には罰として反省文を書いてもらう」
「反省文って…」

『小学生じゃないんだから』と言おうとしたところで、先生の殺意のこもった目を向けられ、寸前のことろでその言葉を飲みこんだ。

「…すぐに書かせていただきます」
「おう」

 素直に返事をすると、大井先生はカッコよく踵を返して職員室に向かっていった。

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