恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜

うみたけ

男の強さ~戦闘力VS知力4

「ぐっ……。」

 這いつくばってなんとか立ち上がろうとするが、痛みのせいか、立ち上がることすらできない。
 2、3発殴られただけでこの様だ…。こんな奴と殴り合い勝負なんて自殺行為もいいところだろう…。

「おい、いい加減諦めて、習志野さんを渡すか生徒ポイントを渡して退学するか選べよ。まぁ、お前が望むなら、改めてタイマンで勝負してやってもいいけどな!」

 見上げた先には、なかなかギブアップしない俺に少しイラついた様子の行徳拳がこちらを見下ろしていた。
 こちらは既に立ち上がることもできないくらい満身創痍になっているのに対し、行徳は汗どころか息一つ乱れていない、余裕の状態である。

「おいおい、もう少しくらい待てねぇのかよ…。これだから単細胞の暴力バカは…。」

 痛みを堪え、必死に平静を装いながら皮肉る。

(さすがにこれ以上殴られるのはマズイな…。)

 とりあえず、今現在、俺達が取ることのできる選択肢を整理しよう…。

 一つ。俺と習志野の生徒ポイントを差し出す。
 ――考えるまでもなく却下!!ポイントを失えば即退学=俺の『将来働かずに楽してダラダラ生きる』計画が破たんしてしまう。
 二つ。行徳と全生徒ポイントを賭けてタイマン勝負。
 ――却下!こいつと喧嘩して、まず、勝てる気がしない!
 三つ。習志野が生徒ポイントを賭けて船橋と勝負。
 ――これも却下!!ここまでのやり取りを見る感じ、この船橋って女は頭がキレそうだ。そして、何より習志野が一人で勝負をして勝てる気が全くしない!!
 四つ目…。習志野とのペアを解消して、行徳に差し出す…。
 ――…こいつらが約束通り、俺を見逃すかは微妙だ…。だが、俺と習志野の両方が退学せずにこの場をやり過ごすには、これが最善だ。
 しかし……

「もう止めてください!!これ以上やったらたっくんが死んじゃいます!!!」

 視線の先には泣きながら必死に叫ぶ習志野の姿が…。
 確かに、4つ目の選択肢を取れば、俺もこれ以上殴られずに済むし、俺も習志野も退学せずに済む。利害だけ考えればこの選択肢がベストなはずだ!それは俺自身分かってる!
 しかし、それでも、この選択肢だけは選ぶ気にはなれない…。

「おい、早く習志野さんと別れるのか、生徒ポイントを差し出すのか、再戦するのか、選べよ!」

 習志野の様子を見かねた行徳がイラついた様子で、再度俺に選択を促してくる。
 ――誰のせいで習志野が泣いてるかわかってんのか、こいつは?
 そんなことを考えながら、再度それぞれの選択肢を検討する…。
『ペア解消』か、『勝つ見込みのない勝負』か、『ポイントを差し出して退学』か……

「!!」

 そこで、ふと第5の選択肢――起死回生の策を思いついた。
 ――別に『ペアの解消』=『決別』じゃない!!

「おい、習志野!一旦――」

 思いついた策を実行するため、習志野に指示を出そうとした瞬間…

「そうそう。ちなみにだけど――」

 習志野を捕えている人物――船橋舞――が口を挟んできた。

「ちなみに、当然分かってるとは思うけど、一旦ペアを解消して勝負を挑んで、勝負が終わったらペアを組み直すなんて認めないわよ?そんなことされたら、勝ってもあなた達をい退学にもできないし、生徒ポイントも一人分しか手に入らないし、そこの暴力バカがうるさいし。」
「誰が暴力バカだ!」

 ――完全に手の内が読まれている…。
 今、まさに俺がやろうとしたことが船橋舞の口から発表された…。
思わず、彼女の方を睨みつけると、彼女は余裕たっぷりの微笑を返してくる。
 ――お前の考えていることは全てお見通しだ、と言わんばかりの目で……。

 その表情を目の当たりにして、悔しさのあまり、思わず唇を噛む俺……。

(クソッ!他に何か策は……)

 ブーブーブー

 次の策を思案していると、不意に生徒端末のバイブ音が鳴り響いた。

 音のした方を見やると、床に転がっている生徒端末が振動していた。

(俺のか……)

 画面を見ようと、這いつくばりながら端末に手を伸ばすが、

「ぐあっ!」
「おい、何勝手なことしてやがる。」

 伸ばした手は、目の前に立っていた行徳の足に踏み潰された。

「別にいいわよ。あなたの生徒端末なんだし。それに――もしかしたら大事なお知らせが来てるかもしれないしね。」

 船橋がそんなことを言って、意味深にほほ笑む。
 そして、その傍らでは習志野が俯き、力なく船橋に捕まっている。

 そんな二人の様子を怪しく思いながらも、俺は行徳の足を払いのけ、再度生徒端末に手を伸ばす。

「……なっ!?」

 そして、端末の画面を見た俺は目を見開き、絶句した。

「おい、習志野!お前何考えてんだよ!!」

 俺は痛みも忘れて立ち上がり、自らのパートナーに向かって叫ぶ。
すると、習志野は俯いていた顔を上げて、今にも泣き出しそうな顔で悲しげに笑い、

「すみません。私の頭ではこんな方法しか思いつきませんでした……。」

 力なく返答する。
 ――間違いない……。こいつは自分を犠牲にして俺を助けようとしてやがる!!
 習志野の様子を見て、俺は唇を噛み、力いっぱい端末を握りしめた……。
 そして、その手に握る生徒端末の画面には……

『習志野栞様からあなたへペア解消申請がされました。承認される場合は下記の――』

 という文面が表示されていた……。
 端的に言うと、習志野が俺に対してペア解消を申請した、ということ……。

「習志野!お前何考えて――」
「何も考えてません!!」

 俺の言葉を遮り、習志野が叫ぶ。

「私は、ただ、これ以上たっくんが私のせいで気づつけられるところを見たくないだけです。私には普段のたっくんみたいな起死回生の策を思いつける頭なんてありません!それに、大好きなたっくんとペアを解消するなんて死ぬほど嫌です!!でも……大好きな人が傷つく姿を見るよりは100倍マシです!!」

 ――あいつ……ちょっとは自分のこと心配しろよ……!!

 習志野の必死の叫びを聞き、バカみたいに俺の心配ばかりしている彼女についついイラついてしまう……。
 と、同時に習志野にここまでさせてしまっている自分自身への怒りが込み上げてきた。

「まぁ、私達としては最低限の利益は得られたし、何より、隣のクラスの一位ペアを別れさせられたんだから合格点ってところね。この女はうちの行徳のモチベーションとして有効活用しておいてあげるわ。あんたもせいぜい退学にならないようにさっさと他のペア探しなさいよ。――行くわよ、行徳!」

 そう言いつつも、少しつまらなさそうな顔をする船橋。

「俺に指図すんじゃねぇよ!――フン!自分の女を犠牲にして自分だけ助かるなんて……!!習志野さんがホントに不憫だぜ!この不抜け野郎が!!」

 行徳は去り際に俺に軽く蹴りを入れ、一言嫌味を言い残して俺の下を離れようと踵を返す。
 そして、習志野は……

「たっくん…今までありがとう…。これで恋人ではないですが、私はたっくんが大好きです。――今までも、これからも…」

 寂しそうな笑顔で、必死に泣くのを堪えながら、そう言い残し、船橋達に続いてこの場を去ろうと俺に背を向ける。

 ――ふざけんじゃねぇよ!!
 俺の中ではそんな気持ちが溢れだしていた。
 こんな理不尽な形で習志野を奪っていく船橋と行徳に……。頼んでもいないのに、勝手に俺を助けてペアを解消しようとしている習志野に……。そして、何より自分のパートナーを奪われ、敵に好き放題言われても何もできない自分自身の無力さに……。
 そして、俺は必死に指先を動かした。

ブーブー、ブーブー…

 その場に生徒端末のバイブ音が鳴り響く。

「おい、暴力バカ、端末が鳴ってるぞ?」
「んあ?」

 俺の指摘でようやく自分の端末が鳴っていることに気付いた行徳がポケットから端末を取り出して何気なく画面を確認する。

「なっ!?」

 そして、その画面に表示されたメッセージを見て目を見開く。
 そんな彼の様子を不思議に思い、船橋と習志野も足を止める。

「悪いな、習志野。残念ながらお前からの提案は全部却下だ!」
「え?どういう――」
「気に食わねぇんだよ!自分からしつこく告白しておいて自己犠牲精神で勝手にペア解消しようとしてることも……そんなカスみたいな奴らにいいようにやられてる自分自身の無力さも……!!何もかも気に食わねぇんだよ!!」

 気付けば、習志野に向かって叫んでいた。

「てめぇ…調子に――」
「おい、そこの暴力バカ。俺からのメッセージはちゃんと見たんだろ?俺に散々答えを急かせてきたんだ。お前こそさっさと返事しろよ。」

 俺の言葉に怒り、再びこちらに向かってくる行徳の言葉を遮り、俺は行徳に鋭い目線を返す。

「後悔すんじゃねぇぞ…?」

 俺のそんな目線にイラつき歯ぎしりする行徳。
 そして、もう一人。

「本当にいいのね?勝負内容は私達が決める。勿論お互いの全生徒ポイントを賭けてね。」

 もう一人の敵、船橋舞は、行徳に送られた俺からのメッセージを確認すると、真顔で問いかけてきた。

「当たり前だろ?お前らこそ、負けた時に謝ったってもう遅いからな。」
「そう。まぁ、別にいいけど。――勝負は明日の放課後。場所は校庭。ルールはその時に説明するわ。」

(なるほど。ルールを直前に伝えることで、こちらに対策を立てさせないってわけか……。)

「いいぜ。――俺をヤル気にさせたこと、覚悟しとけよ?」

 俺の挑発に黙って一睨みすると、船橋は再びこの場を去っていった。

「度胸だけは認めてやるが、結果は同じだ。俺達が勝ったら習志野さんは俺のもの。お前は一人寂しく退学だ。せいぜい今日のうちに習志野さんと最後のお別れをしておくんだな。」

 そして、行徳は俺にそんな安い挑発を残して船橋の後を追っていった…。
 一方、そんな行徳の後ろ姿を眺める習志野の目は嫌悪感に満ちていた…。
 ――「習志野は俺のもの」宣言しているところ悪いが……あいつは習志野に好かれるどころか底なしに嫌われていることに気付いているのだろうか……。

「あ、あの……。」

 そんなどうでもいいことを考えていると、不意に後ろから声が聞こえた。
 俺は声の主を確認することなく、後ろに自分の生徒端末を放り投げ、

「もし、お前が本当に俺とのペアを解消したいなら、その端末で解消してくれ。俺はお前の気持ちを尊重する。」

 俺は振り返ることなく、そう告げる。

「わ、私だって、できることならたっくんと別れたくないです!でも――」

 涙声で必死に返答する習志野。

「じゃあ、何も心配いらねぇよ。俺が明日の勝負で勝って、それで終わりだ。」
「で、でも……もし……」

 習志野は、俺の言葉に不安そうな声を絞り出す。
 ――まだ、こいつの不安を取り除くには足りないか…。それなら……

「お、お前は自分の好きな男の言うことも信じられねぇのか?」

 俺は習志野と顔を合わせないようにして問う。
 ――自分で言っていてかなり恥ずかしい…。自分でも顔が赤くなっているのがよく分かる。恥ずかしさのせいか、少し声が裏返ってしまった……。
しかし、そんな俺の姿に、習志野は、

「そうですね。私はたっくんのことを信じます!――だって、たっくんのことが大好きですから!!」

そう言ってクスりと笑うと、今度は満面の笑みで答えた。

「お、おう!」

 完全に勢いで勝負を挑んでしまった上に、現時点で対抗策もない。そして、相手が勝負内容を決める以上、こちらの勝機はかなり薄い……。
 普通に勝負すれば十中八九敗北するという、大ピンチ……。
 だが、それでも、不思議と俺の中に勝負を仕掛けたことに対する後悔の気持ちは一片もなく……

「喧嘩は戦闘力だけじゃねぇ。“俺の喧嘩”、みせてやるよ」

 ――この勝負だけは負けられねぇ!!
 そんな想いが漲っていた……。

コメント

  • サク. ap

    これはプロのラノベレベルのピンチ!どうなるか楽しみ!

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