恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜
反撃の策
「あいつら、一体何をしやがったんだ!!」
俺は自室に戻るなり、カバンを叩きつけイライラを紛らわす。
「たっくん…」
同室で一緒に帰ってきていた習志野も心配そうな顔で見ている。
「そ、そんなに慌てなくても、まだ一日終わっただけですし…十分逆転できますよ!」
習志野が苛立ち焦る俺をなんとか励まそうとしているのが伝わってくる。
しかし、現実はそんなに甘くはない…。
実際、オリエンテーションの結果だけなら俺達と葛西達のペアにほとんど差はなかったし、明日からの内容を考えればむしろ俺達の方が優勢だ。
しかし、実際は…
「俺達は現在1位に大差をつけられた2位。一見いい成績に見えるが、葛西と市川が俺達を潰そうとしてきている以上、一位以外は安全とは言えない…。さらに、あいつらには俺競技以外にも得点源がある…。正直言ってこのままじゃ逆転どころか差を縮めることすら不可能だ…!!」
「……で、でも『体力』と『親密度』のゲームで頑張ればなんとか――」
「1ゲームあたりの得点は1000点満点だ。『親密度』がどんなゲームになるのかは分からんが、少なくとも運動能力も高い葛西と市川のペア相手に『体力』で大差をつけるなんてほぼ無理だろう。そして、仮に明日のゲームで300点近くある差を巻き返せたとしてもあいつらには“ゲーム以外の得点”がある。――つまり、現時点では俺達がどんだけゲームで頑張ったところで何の意味もないってことだ。」
「……」
俺の捲し立てるような指摘に習志野は俯いて黙りこんでしまう。
まぁ、言い方は少しきつくなったが、これが現状だ。
(今日中に何か手を打たないとさすがにヤバい!)
正直既にかなり追いつめられている状況だが、このままでは本当に詰んでしまう…。なんとしても早く手を打たないと…!
とりあえず、まずはもう一度状況を整理からやっていこう。
まずはテストの結果…
1位 葛西・市川組(848点)
2位 俺・習志野組(832点)
3位 舞浜・千鳥組(821点)
ここまではかなり僅差で、一位の葛西達とも16点しか離れていなかった。
しかし…
一日目終了時
一位 葛西・市川組(1128点)
二位 俺・習志野組(832点)
三位 舞浜・千鳥組(821点)
その直後発表された結果では俺達は葛西達から300点近く差ををつけられていた。
そして、一番大きな問題はあいつらがどうやって得点を稼いでいるか全く分かってないってことだ。相手がどんな方法をとっているかで俺達が取るべき作戦も変わってくるからな。
「どうやって、競技以外で300点近くも稼ぎやがったんだ…?」
俺は一人呟きながら思考する。
冷静に考えれば、今回のオリエンテーションのルールが『期間中に稼いだポイントのみで競う』というものであった以上、競技以外でのポイント獲得も十分に考えられる。
ただ、一気に300点も稼ぐとなると方法は限られてくるはずだが…
「他の連中で大きくポイント減らしてる奴なんていないんだよな…。」
競技以外で大量に点を稼ぐとなると、他のペアからポイントを奪うしかない。だが、クラスの全ペアの点を見ても前日と点数は変わっていないし、オリエンテーション一日目の結果を見ても点数を奪われたようなペアは見当たらない。(大量にポイントを奪われればそのペアだけ異常に低い点数になるはず…。)
「ああっ!!ダメだ!!全然分からん!!!」
俺はベッドに倒れこみ現実逃避する。
「そうだ!たっくん、他の人にも協力してもらいましょうよ!!」
習志野の方を振り返ると、パンと手を叩いて、会心の閃きをしたかのような目をしていた。
――こういう時、ポジティブなバカってある意味すげぇよな…。
「…お前どんだけ頭の中平和ボケしてんだよ…。このまま放っておけば俺らが葛西達の餌食になるって分かってるのに、リスク覚悟で俺らに協力する奴なんか――!!」
「?どうしたんですか?」
途中で黙ってしまった俺に、習志野が小首を傾げる。
――オリエンテーション開始前と結果発表の時のクラスの雰囲気の差……。テスト結果直後の“二度目の結果発表”の時のクラス内の違和感……。一位だけが突出している点数……。そして、騙し合いや駆け引きが当たり前なこの学校では誰もやろうとしない『他人の協力』…。
「――なるほど。そういうことか!」
俺は勢いよくベッドから起き上がった。
「え?なに??もしかして、何か分かったんですか!?」
急に閃いた俺に習志野が戸惑う。
「ああ。あいつらがどんな方法を使って300点近くも稼いだのか、ようやく分かった!」
「ほ、本当ですか!!」
習志野も飛び上がり、歓喜の声を上げる。
まさか、こんな方法で来るとはな…。まさに俺達だけをターゲットにした作戦だ。
まぁ、誰がこの作戦を考えて、実行したかは言うまでもないけどな…。
――あとは、どうやってこの状況を逆転するかだが……
「まぁ、ちょっと残酷だがこれしかないな…。」
口ではそういいながらも思わずニヤリとしてしま自分に苦笑する。
あいつらもまさかこんな作戦でくるとは思わんだろ。
「い、一体どんな作戦なんですか…?」
習志野が少し後ずさりしながら聞いてきた。
葛西・市川組の負けたときの顔を想像して、ニヤつき過ぎていたらしい…。
「お前の言った通り『みんなに協力』してもらうんだよ。」
「うーん……たっくん、私にも分かるように説明してほしいんですけど……。」
「しゃあねぇな…。いいか?~~~~~~~~」
俺はおそらく葛西達がとったであろう作戦と、俺達が行なう今後の作戦について説明してやった。
「…なるほど。」
説明を聞いた習志野は少し浮かない表情を浮かべる。
「…まぁ、嫌なら無理して協力しなくてもいいぞ?今回は俺一人でも十分できそうだし。」
そんな習志野の表情を見て、一言付け加えた。
今回の作戦、恐らく汚いことをする必要がある。
以前に手を汚す覚悟を聞かせてくれた習志野だが、いざその状況になれば躊躇してしまうのは当然だ。むしろ人間としてはそっちの方が正しい。だから決して無理強いはさせたくなかった。
しかし…
「…やっぱりたっくんは優しいですね。――大丈夫です。私も一緒にやらせて下さい!!」
習志野は微笑みながら礼を言った後、真剣な表情で訴えてきた。
「…分かった。」
その真剣な目を見て、最早彼女を止める言葉は出てこなかった。
「悪いが勝ち残るのは俺達だ!」
少し出遅れながらも、ようやく俺達の駆け引きが始まった。
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