××男と異常女共

双人 シイタ

陰女の秘密のご趣味 6

 いじめを受けているHさんが久々に学校に登校してきた。
 それを見つけたいじめっ子達はしめしめといった感じに登校中のHさんを遠目で見て、なにやら楽しそうに会話に興じていた。
 どうせ次はどんな嫌がらせをしてやるか相談しているのだと思う。
 するとHさんの前にある男子が近寄ってきて話しかけてきた。
 男子は爽やかな笑顔で挨拶をし、Hさんも嬉しそうに挨拶を返す。
 そして、Hさんは男子の腕を組んで談笑しながら歩き始めた。
 まるで二人がカップルのような光景にいじめっ子達は、いや、いじめっ子達だけでなく登校中の周りの生徒達全員が驚きの顔を見せた。
 なぜなら、Hさんに腕を組まれている男子は学校一のイケメンであり、学校一の人気者であり、学校一頼れる存在のKくんだったからだ。

 男子は嫉妬の視線をKくんに送るのではなく、Kくんなら彼女がいて当たり前と思っていた人が大半であるため、面白いものを見るような目でKくん達を見ていた。
 今までいなかったのが可笑しかったのだ、やっとKくんに彼女ができたのか、Kくんなら当然だろうといった感じにKくん達のことを話し合う男子生徒達。
 しかし、女子の反応は男子とはまったく違ったものだった。
 ほとんどの女子が驚愕と困惑の表情を見せ戸惑っていた。
 それもその筈だ。
 KくんはみんなのKくんであり、誰かが独占していいものではない、という暗黙の了解ルールが破られたのだから。
 そんな中違った表情を見せる者がいた。
 Hさんをいじめていた、いじめっ子の一人であるポニーテールの女子だ。
 その表情は憤怒に燃え、ポニーテールの女子はギリギリと歯軋りを立てたながら血走った目でHさんを見ていた。

 いじめっ子達はHさんが教室にやってきて席に着くのを見るとすぐに問い詰めにいった。
 なんでぼっちのお前がKくんと腕を組んで一緒に登校しているのかと。
 周りの人達も気になっていたのか、みんなが聞き耳を立ててくる。
 Hさんはいじめっ子達に臆することなく微笑んで答えた、「そんなの簡単だよ。私がKくんと付き合ってるからだよ」と。
 Hさんの言葉にいじめっ子達も周りの人達も驚いた。
 多分、Kくんのクラスでも同じようなことが起こっているのでしょうね。
 いじめっ子達はその言葉を信じなかった。
 「嘘つけ、お前みたいな陰気な女とKくんが付き合うわけないじゃない」、ポニーテールの女子はHさんの机を叩いて、言い寄った。
 そして、ポニーテールの女子はHさんに顔を近づけて睨め付けると、周りのみんなには聞こえないように小さな声で言った。

「どんな手使ったんだよこのブス」

 ポニーテールの蔑みの言葉をHさんに発したが、Hさんはそれを意に介さない様子でニコリと笑って見せた。
 それをポニーテールの女子は自分をバカにしていると思ったのか、Hさんの胸ぐらを掴んで小声で言った。

「調子にのるなよ」

 掴んでいた服を押し付けて離し、いじめっ子達はHさんから離れて行った。
 それを見ていたクラス内の張り詰めていた雰囲気は先生が来ることで緩和されることになった。

 昼休みになるとHさんはいじめっ子達に呼び出された。
 場所は今は使われてない無人の教室。
 Hさんがそこに行くと教室の中にはいじめっ子三人組と知らない女子があと三人ほどいた。
 合計六人の女子がHさんのことを待っていた。

「こんなところに呼び出して何の用ですか?しかもそんな大人数で」

 六人の中の代表としてポニーテールの女子が一歩前に出てHさんに言った。

「Kくんと別れなさい」

 その最初の言葉から、ポニーテールの女子はHさんに長々と説教を垂れるようにKくんと別れることを強要してきた。
 やれKくんに相応しくない、やれKくんのためにならない、やれKくんは独り占めするような存在じゃない、やれKくんはみんなのKくんである、そんなことを長々と言っていた。

「分かった?Kくんはあんたのような陰気な奴が近寄っていい存在じゃない。分かったら、Kくんとささっと別れなさいよ」

 ポニーテールの女子はそう言って話を締めた。
 そしてHさんは心底うんざりしたような顔で小さくため息を吐いた。
 それを見て、ポニーテールの女子がキレた。

「あんたちゃんと話し聞いてたの!?なによその態度は、ブスのくせに生意気なのよっ!」

 ポニーテールはそう言い放って、Hさんを突き飛ばした。
 Hさんはそのまま地面に倒れてしまうが、そのポニーテールの女子の行動を非難するようなものはいなかった。
 その教室の中にはーー


 ガラガラガラッ

 勢いよく教室の扉が開くと同時に「何をしてるんだお前らっ!」と大声で叫んで男子が教室に入ってきた。
 その声に驚き、女子達の目が一斉にそちらに向く。
 そして入ってきた人物に女子達は目を見開き、ポニーテールの女子は「なんで」と声を出していた。

「なんでKくんが?」

 入ってきた人物は先程話の主題にしていたKくんだった。
 Kくんは倒れているHさんに身を寄せて、Hさんに気遣いの言葉を向けた後、女子達に顔を向けて質問に答えた。

「君たちにHさんが呼び出されたと聞いて、こっそり見守っていたんだ。それより君達はここで何をしていたんだい?Hさんを突き飛ばして何をしていたんだい?」

 Kくんの声はとても静かなものであるが、その表情と纏っている雰囲気からKくんが激しく憤っているのは教室内にいる誰もが理解していた。
 Kくんが人前で怒った姿を見せるのは初めてで、そんな初めて見るKくんの姿に女子達は気圧されて、声を出せずにいた。
 そんな状態からいち早くKくんの問いに答えたのは、女子達の代表者であり、Hさんを突き飛ばしたポニーテールの女子だった。

「わ、私達はHさんと、ただ話し合いをしてただけで……」

 ポニーテールの女子の言葉に後ろの女子達も頷いて賛同する。

「ただの話し合いで、なんでHさんを突き飛ばさなければならなかったんだい?」

「それは……」

 ポニーテールの女子は一瞬迷った様子を見せた後、意を決したように答えた。

「それは、Hさんが私達の言うことを聞かないからよ」

「……聞かないから、突き飛ばしたと?」

「この子は底辺の存在なんだから、それより上の人に従うのが当然でしょう」

「……弱い者が強い者に従うのが当然、か」

 ポニーテール女子の言葉を聞き、Kくんは憐れむような目を向けた。
 するとその目が癇に障ったようで、女子は抗議するように言う。

「そ、そうよ。それが自然なことじゃない、普通のことじゃないっ!」

「……」

「そんなのどこでも行われてることじゃない。なに?文句でもあるわけ?」

「……」

「この子はね、学校に友達もいなければ、クラスで喋る人もいないほどのぼっち女なのよ。自分の意見も言えなければ、周りに流されるだけのモブ野郎のこいつがどう扱われようとあんたに関係ないじゃない!」

「関係なくないっ!」

 Kくんのいきなりの大声にビクリと女子達は身体を震わせる。
 女子達の前に一歩踏み出したKくんは怒った表情のまま喋り出した。

「僕はHさんの彼氏だ。僕の彼女であるHさんがそんな不当な扱いを受けて、文句がないわけないだろっ!」

「……」

「これ以上Hさんに酷いことをするなら、僕が君達を許さない。分かったかっ!!」

 凄まじいKくんの怒気に女子達は気圧され、なにも喋ることができず、泣き出す子まで出てくる状態になってしまっていた。

 その後、Kくんの怒鳴り声でいつのまにか集まってきた野次馬生徒により先生が呼び出され、事情を説明をすることになったが、女子達は何も言わず、Hさんも無言のままだったので、Kくん一人が先生に事情を説明をした。
 しかし、ことをあまり大きくしたくなかったのかKくんは本当のことは言わず、適当な嘘をついて説明した。
 先生はKくんを信頼している一人であったようで、Kくんの言葉の一切を疑わず、もうすぐ昼休みが終わり次の授業が始まるということもあって、その場は速やかに解散させられることになった。

 次の日になると、その騒ぎは完璧人間のKくんが関わっていることもあり、瞬く間に広がって所々で噂されるようになった。
 内容は騒ぎを途中からしか見てなかった人がほとんどのため、Kくんが女子の喧嘩の仲裁役をしていたとか、女子がKくんの取り合いをしていたとか、Kくんが七股をかけていたとか、でたらめなものもいくつかあったが、Kくんが複数の女子から一人の女子を守っていたという真実に近いものもあった。
 だが、でたらめな噂のものはKくんの今までの行いと態度から信じるものはほとんどえず、真実に近い噂だけが一番に信じられていた。

 また、それらの噂で話を聞いた人達が共通して驚いたり興味を惹かれたりする場所があった。
 それは、Kくんに彼女ができたということ、その彼女がいじめられていた陰気な女の子であること、Kくんが人に対してというところであった。
 驚く反応は男子と女子で別れていて、男子は寛容なKくんが怒った姿を想像できずにその姿を一目見たかったと口惜しみ、女子は信じたくなかったKくんに彼女ができたという事実に打ちひしがれ、Kくんに相応しくない彼女Hさんに嫉妬した。
 けれど、彼女達はHさんに嫉妬の目線を見せるだけで何かをしようとはしなかった。
 Hさんに手を出せばKくんに嫌われてしまうから、Kくんの近くにいることができなくなるから、今までと変わらないポジションにい続けるために彼女達はHさん何もしなかった。

 代わりにKくんの怒りを買ったとして、Hさんをいじめていたいじめっ子達と騒ぎの場にいたプラス三人の女子達が被害にあった。
 いじめっ子達とプラス三人は、他の女子生徒達にKくんを怒らせたことを責められ蔑まれ疎まれた。
 そしていじめっ子達とプラス三人は居場所をなくし、特にその中の代表者であったポニーテールの女子はいじめっ子からいじめられっ子に成り代わり、学校に来れなくなった。

 かくしてHさんの復讐は成功したのでした。


***


 騒ぎがあった一週間後の放課後。
 学校の屋上で二人の生徒が向かい合っていた。

「これで、約束通りあの写真と動画を消してくれるんだろうな?」

 Kくんは不安な顔を見せながらHさんに聞く。
 Hさんはその問いに笑顔で答えた。

「まだ終わっていません」

「なっ、ふざけるな!お前の言う通りにしたら消してくれるっていう約束だったじゃないか!」

 Kくんは声を荒げてHさんに言い放ったが、Hさんは意に返さず落ち着いた様子でKくんの言葉を聞いていた。

「はい、確かにそう約束しました。そして私は『私の彼氏役となり私を守ってください』とあなたに言いました」

「そうだ。俺はお前を守った。お前はもう彼奴らにいじめられることもない。もう十分じゃないか」

「いえ、全然不十分ですよ。あのいじめっ子達は確かに私をいじめなくなりました。でも今後何もしてこないとは分からないじゃないですか?」

「それは……」

 Kくんは何も言い返せない。
 Hさんの言う通り、今後いじめっ子だった者達が絶対に仕返しにこないとは言えないからだ。
 だから、Kくんは論点をずらして言い返す。

「そ、そんなこと言ったら、お前が約束を守るかどうかも分からないじゃないか!?」

 HさんはKくんの返答に目をぱちくりとさせたると、途端に顔を下に向けて肩を震わせ始めた。
 Kくんが眉根を寄せてHさんに声をかけようとすると、Hさんがいきなり「あはははは」と声を出して笑い出した。
 Kくんはいきなりのことに困惑し、HさんはそんなKくんに構わずに笑い続ける。

 いったい何がそんなに可笑しいのか?

 Hさんは笑いが収まると顔を上げた。

「……あー、そうですね、確かにそうです。私が約束を守るなんてあなたには分かりませんね。この世に絶対なんていうものはないんですから」

「……」

「では約束を破られないよう、これからも私を守ってくださいね」

 Hさんは徐にKくんに近寄って行く、Kくんは後ずさろうとするが間に合わずHさんに接近を許してしまう。
 HさんはKくんの耳元で囁いた、「私の彼氏として」と。
 HさんはKくんを残して去っていきその顔は喜色満面、裏腹に残されたKくんは顔面蒼白で屋上に一人立ち尽くしていた。

 Hさんは屋上を出た後、スマホを取り出して連絡先が登録されている画面を上から下までスクロールして『くろ神』という名前を探した。
 しかし、『くろ神』という名前はなく電話の履歴も写真と動画が送られてきたメッセージも消えていた。
 写真と動画はすでにパソコンに保存しているため問題ないのだが、いったい『くろ神』とは何者だったのか。
 Hさんは『くろ神』の正体に疑問を抱きながら、その正体を心の底からどうでもいいと思っていた。
 ただHさんの心は『くろ神』さまへの感謝の念でいっぱいだった。

「ありがとう、くろ神さま」

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