××男と異常女共
陰女の秘密のご趣味 1
『影が薄い』『存在感がない』
そんな人っていますよね。
あなたの学校にもクラスの中にも一人や二人いませんか?
クラスでみんなお喋りしている中誰とも話さず一人で静かに座っていて、見た目が暗く自信がなさそうで、周りに目立たないようにしている人。
そんな人は決まって周りからあまり認識されず、存在自体を忘れられ、ふと思い出されるように可哀想な目で見られてしまう。
そんな人っていますよね。
そんな影が薄いと言われる人達も周りからの視線をまったく気にしないということはできないが、仕方がない、自分にはどうでもいい、気にならない、と考えて自分の今の状況を変えようとしない人は多くいると思う。
一人の方が好きで、他人と群れるのはめんどくさくて、今更どうこうしようとも思わない。
自分は不都合と感じていないし、周りにも迷惑をかけてないし、平和でいいじゃないか。
変わらない、変わろうと思わない、変わる努力をしない。
別にそれでもいいと思います。
無理に自分を変えようとしなくても、無理に周りに合わせようとしなくても、嫌々無理をして変わろうとするぐらいならやめた方が絶対に良い。
だって、やりたくないことを無理にやろうとしても変われるわけがないじゃないですか。
だったら、変わらず自分の好きなことをして生きていた方が楽しいじゃないですか。
嫌々無理をして変わろうとする時間は無駄であると私は思う。
変われるのは変わろうと思った人だけ。
決意を決めた人だけが目標に辿り着ける。
周りからの視線が痛いと感じ、自分の恥ずかしいところを見られたくないと思い、自分のすることや考えに自信がない。
それでも自分は変わりたいと本気で思ったら、それは実現できる。
なんでそんなことが言い切れるのかって?
特に根拠というものはないけれど、でも変わろうと思い、変わったと周りに思わせなければ『高校デビュー』や『イメチェン』や『キャラ変え』なんて言葉は生まれてなかったんじゃないでしょうか。
それにそうやって変われる変わることができると信じた方が変わろうと頑張れるじゃないですか。
不安しかない先にほんの少しでも光が見えれば人は意外にもそこまで走っていけるものです。
え?私が変わることができたかどうかですか?
そうですね、正直に言うと……、私は変わることができませんでした。
***
私は何処にでもいる平凡な子に生まれてきたかった。
けれど私は世間一般で言ういわゆる『影の薄い』子でした。
私がそれに気づいたのは他の子より少し早い、小学生の時でした。
昔のことを思い出すとそれだけ早く気付けたのは偶然ではなく必然であったのだと思います。
正直、小学校の頃のことはあまりどころか全くと言っていいほど良いことがありませんでした。
周りが友達を作り元気に会話をし遊んでいる中、私はひとり本に夢中にになっていました。
みんなが元気よく周りに積極的に関わっていく中、私はまったくと言っていいほど周りと関わることがありませんでした。
私はそれが変だとは思っていなかった。
なぜなら、私以外にも本だけを読んで周りと関わらないでいる子がいたから。
私と同じような子がいたから自分が周りと違うとは思わなかった。
だけど、少しして周りの元気な子が私と同じような子に興味を持ったのか話しかけているところを見た。
そして私と同じような子は元気な子達につられて、その子たちと遊ぶようになった。
私と同じような子は、周りと同じ元気な子となった。
私はその光景を見て、私も待っていれば誰か元気な子が私に興味を持ってくれると思い、私は少しワクワクしていた。
私も元気な子に混じって遊んでみたい、という今まで思ってもいなかったことを思うようになった。
だけど、私は元気な子達に話しかけられることはなかった。
いくら待っても、来なかった。
クラス替えがあって、周りにいた元気な子達が少し変わった。
顔を見たことがない元気な子が何人かいて、その中に私と同じように本に夢中な子もいた。
あの子も私と同じように元気な子たちに話しかけられることがなかったのだろう。
私は自分と同じような子がいることに気付き、元気な子達に話しかけられなったことを気にならなくなった。
私がいつものように本を読んでいると私と同じような子が本を手にしながら本を見ないで、周りをキョロキョロしていることに気が付いた。
何をキョロキョロしているのかなと疑問に思い、その子が目を向けているものに私も目を向けるとそこには元気な子達が遊んでいるところだった。
あの子も元気な子達と遊びたいのだろうか?
そう思った矢先に私と同じような子が元気な子達が遊んでいるところに向かって走って行った。
いきなりの行動にいったい何をするつもりなのか気になった私はその子のことを目で追うと、その子は元気な子の一人と何かを話すと、次に元気な子達と一緒に遊び始めた。
私と同じような子はまた元気な子達の仲間入りをした。
それを見て私は目を見張り、そして盲点だったと思った。
元気な子達が来ないのならば自分から行けばいいのだ。
そう気付かされた私は一も二もなく元気な子達が遊んでいる場所に走った。
私はそこに着くと近くの元気な子に話しかけ自分も仲間に入れて欲しいと頼んだ。
元気な子は特に何も言うことなく直ぐに「いいよ」と答えてくれた。
私はそれを聞いてとても嬉しかった、やっと私も元気な子達の仲間入りをすることができたと思った。
それから私は自分から元気な子達に頼み、一緒に遊ぶようになった。
楽しかった、たくさんの子と一緒に走ったり笑ったりするのが、本ばかり読んで一人でいた私には新鮮で面白かった。
そんな楽しい日々がこれからも続く、続いて欲しいと思っていた矢先、私は五日と経たないうちに違和感に気付いた。
それはーー
私と私と同じようだった子との違い。
遊んでいる時の私と他の子達との違いだ。
私と同じようっただった子は元気な子達の仲間になって遊びに誘われるようになったけど、私は遊びに誘われるようなことが一度もなかったのだ。
それを偶然と言うには簡単だけどそうは言えない事情があった。
それがもう一つの違和感だ。
元気な子達が遊ぶお遊びは、大抵が『鬼ごっこ』だった。
私はそれに混じっていつも遊んでいた。
初めは元気な子達と一緒に遊べるようになったことに歓喜して気付かなかったけど、私はすぐにおかしいことに気が付いた。
私は鬼を決める時のじゃんけんで未だ負けたことがなかったため鬼になることがなく、ずっと逃げる子側だった。
だけど、私は鬼に追いかけられことが一度もなかった。
初めは私は逃げるのが得意なのかもしれないと思っていたけれど、私は他の逃げる子達よりも足が遅かったため、鬼からしたら格好の的のはずだった。
なのに鬼は私のことを追いかけることをせず、他の逃げる子ばかりを狙うのだ。
私が立ち止まって鬼が来るのを待っていたとしても、他の逃げる子を追い回すのだ。
その時、私はまるで自分が『透明人間』になったような気分だった。
初めて『鬼ごっこ』の鬼になった。
これで一人取り残されることはないと思い、頑張ってみんなを捕まえようと思った。
でも元気な子達はみんな足が速くて私は捕まえようと走っても追いつくことができなかった。
私が走り疲れて膝に手をついてると他の鬼になった子が逃げる子を追いかけて私の方に来た。
これで挟み撃ちにすれば捕まえられる。
そう思っていると逃げる子を追っていた鬼の子が走り疲れて膝をついて止まってしまった。
けれど逃げる子は後ろを見てその鬼の子を見ているため、私に気付いていないようだった。
私は身構えて逃げる子が来るのを待った。
今だ!
「たっち!」
私は大きな声を出して逃げていた子を捕まえた。
やった、初めて捕まえられたと喜びを感じていると捕まった子が何故か私の方を困惑した顔で見ていた。
私は何故そんな顔をその子がするのか分からずにいるとその子は言った。
「だれだよおまえ!いま逃げてんだからじゃますんなっ!!」
捕まえた子は私の手を払って走って行ってしまった。
私はその場で呆然とした。
いきなり怒鳴られたことにびっくりしたのもあったけどそれだけじゃなかった。
捕まえた子に言われた言葉に衝撃を受けていた。
みんなでじゃんけんで鬼を決めるときに私はさっきの捕まえた子の隣にいた。
鬼が決まった時にお互いに顔も合わせて目も確かに合ったはずなのに捕まえた子は私のことを覚えていなかった。
ショックだった。
私は気を取り直して他の逃げる子を捕まえることにした。
すると木の陰に隠れて鬼をやり過ごしている子を見つけた。
隠れている子は私が仲間に入れてと頼んだ子だった。
私は隠れている子に気付かれないように近づいた。
「たっち!」
私は隠れていた子の背中を叩くとその子はビクッと肩を震わせて、こちらに顔を向けてきた。
「……だれ?」
「え?」
私はまたもや呆然とした。
まさかこの子にもそう言われるとは思ってもいなかった。
隠れていた子は他の鬼が近づいてきたのに気付いて、私を残して走り去って行った。
私はただ呆然と木の前に立っていることしかできなかった。
仲間だと思ってた子達に覚えてもらえてなかったことがとても悲しく泣きそうにだった。
私はその時、元気な子達を遊ぶのをやめようかと思った。
だけど、私は元気な子達と一緒に遊び続けることにした。
せっかく元気な子達と一緒に遊べるようになったのだ。
簡単に手放すことが私にはできなかった。
初めて『隠れんぼ』をすることになった。
じゃんけんで見つける子と隠れる子で分かれることになり、私は隠れる子になった。
初めての『隠れんぼ』に心躍らせながら、私は隠れる場所を探し始めた。
良いところが見つかった。
人が少なくひっそりとしたところで、隠れるにはうってつけの場所だった。
私はそこで身を縮めて隠れながら、見つける子達の様子を伺った。
時間が経つにつれて他の隠れる子達が見つかっていった。
そして見つかった子は隠れる子から見つける子に変わっていき、どんどん見つける子の人数が増えていった。
数人の見つける子がこちら側にやって来た。
私は見つからないように一層身を縮ませた。
見つける子達の声と足音がすぐ近くまで聞こえてきた。
見つかる、と思った瞬間、昼休みの終わりを告げる放送が流れてきて『隠れんぼ』が終了した。
それを聞いた子供達が走って教室に戻って行き、さっきまで近くにあった声と足音が遠ざかっていった。
私は誰にも見つかることなく『隠れんぼ』を隠れきった。
でも、私の心に達成感のようなものは何故か微塵も生まれてこなかった。
それから何度か『隠れんぼ』をすることがあったのだが、私は一度も見つける子達に見つかることがなかった。
そしてだんだんと私の心には言いようのない虚しさが残っていった。
その日、私は『隠れんぼ』で隠れることをやめた。
私は見つける子に見つけてもらえるように、見つかりやすい場所に隠れることにした。
私ははやく見つけてこないかな、と見つけてもらうことを楽しみにした。
「みーっけ!」
「みつかっちゃったー」
他の隠れる子が見つける子に見つかった声がかなり近い場所から聞こえてきた。
はやくはやく、と私は見つける子が待ち遠しかった。
私も早く「みつかっちゃった」と言いたかった。
しかし、近くまで来た見つける子は他の場所を探しに行ったのか私のところには来なかった。
残念と思いながら私は次を待った。
しばらく待ってると、前と同じように見つける子達の声と足音が近くまで聞こえてきた。
確実に私のいるところを探しに来た様子だ。
私はワクワクドキドキしながら待った。
いっそ自分から飛び出てしまいたいという気持ちを抑えて、私は待った。
自分で出てしまったら、「みつかっちゃった」と言えないから。
そして、待ち望んだ瞬間がやって来た。
見つける子達が数人が出てきて、私のいるところ、私の目の前にやって来たのだ。
「みーつけた!」
見つける子達の一人がこちらを指差して言ってきた。
やっと見つけてもらえた。
私は歓喜に胸をいっぱいにし体を震わせながら、私は待ち望んだ言葉を言おうとした。
「みっーー」
「ーーみつかったーっ!!」
けれどすぐ後ろから聞こえてきた大きな声にビックリして、言うことができなかった。
後ろを見るといつのまにか私と同じ隠れる子がそこにいた。
「ちくしょー」
見つかったことに悔しがる見つかった子。
しかし、私はその子に言いたかった言葉を取られて、悔しかった。
私が言うところだったのに。
「じゃあ、これで終わりだな。おまえで最後だし」
……え?
私は私の言葉を奪った子を恨めしく思いながら睨んでいると、見つける子の言葉に呆気にとられた。
「いぇーい、俺が一番だー!」
「つぎは鬼ごっこしよー!」
「いいよー」
そう言って、みんなが走り去って行った。
遠ざかって行くみんなの背中を私は呆然と眺めていた。
「……待って、…………最後じゃ……ないよ……、私が…………いるよ。……ここに……いるよ」
私は涙を流しながら、訴えるようにみんなに言った。
しかし、その声がみんなに届くことはなかった。
それから私は元気な子達と遊ぶのをやめた。
そんな人っていますよね。
あなたの学校にもクラスの中にも一人や二人いませんか?
クラスでみんなお喋りしている中誰とも話さず一人で静かに座っていて、見た目が暗く自信がなさそうで、周りに目立たないようにしている人。
そんな人は決まって周りからあまり認識されず、存在自体を忘れられ、ふと思い出されるように可哀想な目で見られてしまう。
そんな人っていますよね。
そんな影が薄いと言われる人達も周りからの視線をまったく気にしないということはできないが、仕方がない、自分にはどうでもいい、気にならない、と考えて自分の今の状況を変えようとしない人は多くいると思う。
一人の方が好きで、他人と群れるのはめんどくさくて、今更どうこうしようとも思わない。
自分は不都合と感じていないし、周りにも迷惑をかけてないし、平和でいいじゃないか。
変わらない、変わろうと思わない、変わる努力をしない。
別にそれでもいいと思います。
無理に自分を変えようとしなくても、無理に周りに合わせようとしなくても、嫌々無理をして変わろうとするぐらいならやめた方が絶対に良い。
だって、やりたくないことを無理にやろうとしても変われるわけがないじゃないですか。
だったら、変わらず自分の好きなことをして生きていた方が楽しいじゃないですか。
嫌々無理をして変わろうとする時間は無駄であると私は思う。
変われるのは変わろうと思った人だけ。
決意を決めた人だけが目標に辿り着ける。
周りからの視線が痛いと感じ、自分の恥ずかしいところを見られたくないと思い、自分のすることや考えに自信がない。
それでも自分は変わりたいと本気で思ったら、それは実現できる。
なんでそんなことが言い切れるのかって?
特に根拠というものはないけれど、でも変わろうと思い、変わったと周りに思わせなければ『高校デビュー』や『イメチェン』や『キャラ変え』なんて言葉は生まれてなかったんじゃないでしょうか。
それにそうやって変われる変わることができると信じた方が変わろうと頑張れるじゃないですか。
不安しかない先にほんの少しでも光が見えれば人は意外にもそこまで走っていけるものです。
え?私が変わることができたかどうかですか?
そうですね、正直に言うと……、私は変わることができませんでした。
***
私は何処にでもいる平凡な子に生まれてきたかった。
けれど私は世間一般で言ういわゆる『影の薄い』子でした。
私がそれに気づいたのは他の子より少し早い、小学生の時でした。
昔のことを思い出すとそれだけ早く気付けたのは偶然ではなく必然であったのだと思います。
正直、小学校の頃のことはあまりどころか全くと言っていいほど良いことがありませんでした。
周りが友達を作り元気に会話をし遊んでいる中、私はひとり本に夢中にになっていました。
みんなが元気よく周りに積極的に関わっていく中、私はまったくと言っていいほど周りと関わることがありませんでした。
私はそれが変だとは思っていなかった。
なぜなら、私以外にも本だけを読んで周りと関わらないでいる子がいたから。
私と同じような子がいたから自分が周りと違うとは思わなかった。
だけど、少しして周りの元気な子が私と同じような子に興味を持ったのか話しかけているところを見た。
そして私と同じような子は元気な子達につられて、その子たちと遊ぶようになった。
私と同じような子は、周りと同じ元気な子となった。
私はその光景を見て、私も待っていれば誰か元気な子が私に興味を持ってくれると思い、私は少しワクワクしていた。
私も元気な子に混じって遊んでみたい、という今まで思ってもいなかったことを思うようになった。
だけど、私は元気な子達に話しかけられることはなかった。
いくら待っても、来なかった。
クラス替えがあって、周りにいた元気な子達が少し変わった。
顔を見たことがない元気な子が何人かいて、その中に私と同じように本に夢中な子もいた。
あの子も私と同じように元気な子たちに話しかけられることがなかったのだろう。
私は自分と同じような子がいることに気付き、元気な子達に話しかけられなったことを気にならなくなった。
私がいつものように本を読んでいると私と同じような子が本を手にしながら本を見ないで、周りをキョロキョロしていることに気が付いた。
何をキョロキョロしているのかなと疑問に思い、その子が目を向けているものに私も目を向けるとそこには元気な子達が遊んでいるところだった。
あの子も元気な子達と遊びたいのだろうか?
そう思った矢先に私と同じような子が元気な子達が遊んでいるところに向かって走って行った。
いきなりの行動にいったい何をするつもりなのか気になった私はその子のことを目で追うと、その子は元気な子の一人と何かを話すと、次に元気な子達と一緒に遊び始めた。
私と同じような子はまた元気な子達の仲間入りをした。
それを見て私は目を見張り、そして盲点だったと思った。
元気な子達が来ないのならば自分から行けばいいのだ。
そう気付かされた私は一も二もなく元気な子達が遊んでいる場所に走った。
私はそこに着くと近くの元気な子に話しかけ自分も仲間に入れて欲しいと頼んだ。
元気な子は特に何も言うことなく直ぐに「いいよ」と答えてくれた。
私はそれを聞いてとても嬉しかった、やっと私も元気な子達の仲間入りをすることができたと思った。
それから私は自分から元気な子達に頼み、一緒に遊ぶようになった。
楽しかった、たくさんの子と一緒に走ったり笑ったりするのが、本ばかり読んで一人でいた私には新鮮で面白かった。
そんな楽しい日々がこれからも続く、続いて欲しいと思っていた矢先、私は五日と経たないうちに違和感に気付いた。
それはーー
私と私と同じようだった子との違い。
遊んでいる時の私と他の子達との違いだ。
私と同じようっただった子は元気な子達の仲間になって遊びに誘われるようになったけど、私は遊びに誘われるようなことが一度もなかったのだ。
それを偶然と言うには簡単だけどそうは言えない事情があった。
それがもう一つの違和感だ。
元気な子達が遊ぶお遊びは、大抵が『鬼ごっこ』だった。
私はそれに混じっていつも遊んでいた。
初めは元気な子達と一緒に遊べるようになったことに歓喜して気付かなかったけど、私はすぐにおかしいことに気が付いた。
私は鬼を決める時のじゃんけんで未だ負けたことがなかったため鬼になることがなく、ずっと逃げる子側だった。
だけど、私は鬼に追いかけられことが一度もなかった。
初めは私は逃げるのが得意なのかもしれないと思っていたけれど、私は他の逃げる子達よりも足が遅かったため、鬼からしたら格好の的のはずだった。
なのに鬼は私のことを追いかけることをせず、他の逃げる子ばかりを狙うのだ。
私が立ち止まって鬼が来るのを待っていたとしても、他の逃げる子を追い回すのだ。
その時、私はまるで自分が『透明人間』になったような気分だった。
初めて『鬼ごっこ』の鬼になった。
これで一人取り残されることはないと思い、頑張ってみんなを捕まえようと思った。
でも元気な子達はみんな足が速くて私は捕まえようと走っても追いつくことができなかった。
私が走り疲れて膝に手をついてると他の鬼になった子が逃げる子を追いかけて私の方に来た。
これで挟み撃ちにすれば捕まえられる。
そう思っていると逃げる子を追っていた鬼の子が走り疲れて膝をついて止まってしまった。
けれど逃げる子は後ろを見てその鬼の子を見ているため、私に気付いていないようだった。
私は身構えて逃げる子が来るのを待った。
今だ!
「たっち!」
私は大きな声を出して逃げていた子を捕まえた。
やった、初めて捕まえられたと喜びを感じていると捕まった子が何故か私の方を困惑した顔で見ていた。
私は何故そんな顔をその子がするのか分からずにいるとその子は言った。
「だれだよおまえ!いま逃げてんだからじゃますんなっ!!」
捕まえた子は私の手を払って走って行ってしまった。
私はその場で呆然とした。
いきなり怒鳴られたことにびっくりしたのもあったけどそれだけじゃなかった。
捕まえた子に言われた言葉に衝撃を受けていた。
みんなでじゃんけんで鬼を決めるときに私はさっきの捕まえた子の隣にいた。
鬼が決まった時にお互いに顔も合わせて目も確かに合ったはずなのに捕まえた子は私のことを覚えていなかった。
ショックだった。
私は気を取り直して他の逃げる子を捕まえることにした。
すると木の陰に隠れて鬼をやり過ごしている子を見つけた。
隠れている子は私が仲間に入れてと頼んだ子だった。
私は隠れている子に気付かれないように近づいた。
「たっち!」
私は隠れていた子の背中を叩くとその子はビクッと肩を震わせて、こちらに顔を向けてきた。
「……だれ?」
「え?」
私はまたもや呆然とした。
まさかこの子にもそう言われるとは思ってもいなかった。
隠れていた子は他の鬼が近づいてきたのに気付いて、私を残して走り去って行った。
私はただ呆然と木の前に立っていることしかできなかった。
仲間だと思ってた子達に覚えてもらえてなかったことがとても悲しく泣きそうにだった。
私はその時、元気な子達を遊ぶのをやめようかと思った。
だけど、私は元気な子達と一緒に遊び続けることにした。
せっかく元気な子達と一緒に遊べるようになったのだ。
簡単に手放すことが私にはできなかった。
初めて『隠れんぼ』をすることになった。
じゃんけんで見つける子と隠れる子で分かれることになり、私は隠れる子になった。
初めての『隠れんぼ』に心躍らせながら、私は隠れる場所を探し始めた。
良いところが見つかった。
人が少なくひっそりとしたところで、隠れるにはうってつけの場所だった。
私はそこで身を縮めて隠れながら、見つける子達の様子を伺った。
時間が経つにつれて他の隠れる子達が見つかっていった。
そして見つかった子は隠れる子から見つける子に変わっていき、どんどん見つける子の人数が増えていった。
数人の見つける子がこちら側にやって来た。
私は見つからないように一層身を縮ませた。
見つける子達の声と足音がすぐ近くまで聞こえてきた。
見つかる、と思った瞬間、昼休みの終わりを告げる放送が流れてきて『隠れんぼ』が終了した。
それを聞いた子供達が走って教室に戻って行き、さっきまで近くにあった声と足音が遠ざかっていった。
私は誰にも見つかることなく『隠れんぼ』を隠れきった。
でも、私の心に達成感のようなものは何故か微塵も生まれてこなかった。
それから何度か『隠れんぼ』をすることがあったのだが、私は一度も見つける子達に見つかることがなかった。
そしてだんだんと私の心には言いようのない虚しさが残っていった。
その日、私は『隠れんぼ』で隠れることをやめた。
私は見つける子に見つけてもらえるように、見つかりやすい場所に隠れることにした。
私ははやく見つけてこないかな、と見つけてもらうことを楽しみにした。
「みーっけ!」
「みつかっちゃったー」
他の隠れる子が見つける子に見つかった声がかなり近い場所から聞こえてきた。
はやくはやく、と私は見つける子が待ち遠しかった。
私も早く「みつかっちゃった」と言いたかった。
しかし、近くまで来た見つける子は他の場所を探しに行ったのか私のところには来なかった。
残念と思いながら私は次を待った。
しばらく待ってると、前と同じように見つける子達の声と足音が近くまで聞こえてきた。
確実に私のいるところを探しに来た様子だ。
私はワクワクドキドキしながら待った。
いっそ自分から飛び出てしまいたいという気持ちを抑えて、私は待った。
自分で出てしまったら、「みつかっちゃった」と言えないから。
そして、待ち望んだ瞬間がやって来た。
見つける子達が数人が出てきて、私のいるところ、私の目の前にやって来たのだ。
「みーつけた!」
見つける子達の一人がこちらを指差して言ってきた。
やっと見つけてもらえた。
私は歓喜に胸をいっぱいにし体を震わせながら、私は待ち望んだ言葉を言おうとした。
「みっーー」
「ーーみつかったーっ!!」
けれどすぐ後ろから聞こえてきた大きな声にビックリして、言うことができなかった。
後ろを見るといつのまにか私と同じ隠れる子がそこにいた。
「ちくしょー」
見つかったことに悔しがる見つかった子。
しかし、私はその子に言いたかった言葉を取られて、悔しかった。
私が言うところだったのに。
「じゃあ、これで終わりだな。おまえで最後だし」
……え?
私は私の言葉を奪った子を恨めしく思いながら睨んでいると、見つける子の言葉に呆気にとられた。
「いぇーい、俺が一番だー!」
「つぎは鬼ごっこしよー!」
「いいよー」
そう言って、みんなが走り去って行った。
遠ざかって行くみんなの背中を私は呆然と眺めていた。
「……待って、…………最後じゃ……ないよ……、私が…………いるよ。……ここに……いるよ」
私は涙を流しながら、訴えるようにみんなに言った。
しかし、その声がみんなに届くことはなかった。
それから私は元気な子達と遊ぶのをやめた。
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