××男と異常女共
ストーカー女のストーカー 4
俺の休日という一日はひとみというストーカーによって潰されてしまった。
結局というか当然というかカフェ店を出た後、俺はひとみを家に連れて行くことはせず、別のところに行くことを決めた。
ひとみはその決定に少し不満を漏らしていたが駄々をこねるような子供じみたことはしてこなかった。
俺は代替案も決めておき映画でも見に行くかとひとみに提案した。
映画館ならひとみの相手をせずにスクーリーンを見るか睡眠をとるかで二時間も時間を潰すことができるからだ。
我ながら素晴らしい案だと内心思っていたのだが、代替案はひとみによって何故か却下された。
他に案もない俺は考えるのもめんどくさくなりひとみにどこに行って何をするのかを丸投げした。
もちろん俺の家に行くのはなしでだ。
とまあひとみに任せた結果、散々あちこち振り回され休日が休日ではなくなり、まったく休むことができなかった昨日一日日曜日。
今日月曜日でまたつまらない学校というものが始まる日。
やっぱ、関わるんじゃなかった。
と後悔の念に駆られながら俺は一枚のぐしゃぐしゃになった紙に書かれている文字を見て億劫になっていた。
『死にたくなければ彼女に近づくな』
書き殴った文字でそう書かれたこのゴミのような脅迫状は俺の家のポストに入っていたものだ。
間違って入れられたものだと思いたいのだが、間違いなく俺に向けて入れられたものだろう。
だってこれを入れられたきっかけが間違いなく昨日のひとみと行動を共にーー絶対にデートとは言わないーーした所為だから。
というかそれしか思い当たるところがないし、そうでなければここに書かれている『彼女』というのが誰か見当がつかなくなる。
差出人はひとみに好意を寄せてる人物だろうが、こんなものを突き付けてくるあたり、ひとみ対する重度なストーカーなのかもしれない。
あんなものの何がいいのか。それに近ずくなと言われてもあっちから近づいてくるのだから俺にはどうしようもないんだけど。
とりあえず、これの文句は学校ですることにして、俺は脅迫状を元のゴミのようなくしゃくしゃの状態に戻し、ポケットに入れて家を出た。
屋上という場所は学校によっては事故、非行、自殺防止という観点から立ち入り禁止になっていて、生徒が立ち入れられないようになっている。
俺の通う学校も屋上に繋がるドアの鍵がしまっていて普通なら入れないようになっているのだが、俺はそのドアの鍵を持っていたりする。
なんで一生徒である俺が屋上のドアの鍵を持っているかというと、それは隣人の『ゴミ女』御五智姶良に関係がある。
俺が姶良を学校に連れてくるように先生に頼まれ、それを了承した時、
「他の生徒や先生にバレないよう気をつけるように」
そう言って渡されたのだ。
その時は屋上に一人で行くことなんてあるのだろうかと思ったが、意外にも足を運ぶ機会は多かった。
授業や掃除をサボったり、体育祭や文化祭などのイベントの時に暇を潰したり、伸び伸びと昼寝をしに来たり、そしてーー
「呼ばれて飛び出てパンパカパーン。学校一の美少女こと空乃ひとみちゃん参上でーす」
ーー人目を忍んで密談、密会を行なったり。
先生には他の生徒や先生にバレないようにと注意されたが、別にバラしてはいけないとは言われてないし、俺が他の生徒に屋上に行けることを教えても教えたことを先生にバレなければいいだろう。
それに俺はだれかれ構わずにこのことを教えたりしてなければ、何の理由もなしにここに人を呼び出したり連れて来たりはしない。
人を呼び出すときも連れて来るときも、ちゃんと口の硬い奴を選べば、しっかりとした理由も存在する。
特にひとみと学校で会う場合、屋上という場所は実に重宝する。
先ほどひとみは自分のことを学校一の美少女とか言っていたが、別に自称でもギャグでもなんでもない。ちなみに真実でもない。
ひとみは学校の中で一番の美少女なのではないかと大勢の生徒から言われているのだ。
他にも候補のような奴らはいるらしいがそれはどうでもいい。
ひとみがそれだけ目立つ所為で、学校内ではこの人目のつかない屋上でしか俺たちは会話をしない。
挨拶や必要な事柄ならば最低限の会話はするが、二人で長時間話したりはしない。
しつこいストーカー気質のひとみがなぜ学校ではあまり近寄ってこないのか、前にそれとなく聞いたのだが、
「えっ、もしかしてキリヤくん、私に構ってもらえなくて寂しいの?……きゃー、ツンデレきたー」
と意味不明なことを言ってきたのでマジで後悔した。
その後に近寄ってこない理由は教えてくれたが、
「だってキリヤくんに嫌われたくないんだもん」
とか戯れ言を吠えていた。
心配するなひとみ俺はとっくに十分お前のことを嫌っている。
まあ、その戯れ言のお陰で俺は学校ではこいつに付き纏われずにすんでいる。
なので俺とひとみの異常な関係は学校内で誰にも知られていないし、気付かれていない。
このまま、学校の奴らに気付かれないためにも学校でひとみに会う時は、俺はこの場所を使うしかないのだ。
閑話休題。
俺は目の前の自称学校一の美少女にポケットから取り出したぐしゃぐしゃの紙を投げつける。
それをひとみは難なくキャッチし、「何これ?」と言った感じに紙を広げ始めた。
その中身を見たひとみは一瞬だけ目を細める。
「……」
そして、おもむろにそれを破き始めた。
最初は半分にそれをまた半分にそしてまた半分に、そうやって細かくなった紙切れをひとみは風に流してしまった。
風に流され飛んでいく紙切れ。
ちゃんとゴミ箱に捨てろよ。
流されていく紙切れを見ながら俺は姶良がこれを見たらどう思うのかと、そんな的外れなことを考えていた。
「ごめんなさい」
手を合わせて頭を下げるひとみ。
この謝罪がいきなり渡した紙を破り捨てたことに対してでないことは流石にわかる。
やはり今回の件はひとみが一枚噛んでいるのだと俺は謝る姿を見て確信した。
もしひとみがこの件で何も関わっていないのであれば、こいつは頭を下げて謝るなどはしないだろう。
いつものひとみならもっと茶化した感じに謝ってくるはずだ、頭も下げずに。
ひとみは頭を上げた後に昨日のことについての説明を始めた。
「…………要約すると鬱陶しいストーカーをどうにかしたいから、俺に彼氏役みたいなことを勝手にをさせてたってわけだな」
「うん、そう。ほら、最近言う『うそカレ』みたいな」
知るか。
何故か嬉しそうに返事をするひとみ。
悪気があるんならそこはしおらしく返事するところだと思うのだが。
さっきの誠意のこもった謝罪はどこいった。
それはいいとして、ひとみは自分に彼氏がいると分かればそのストーカーも諦めてくれるだろうと踏んで、俺に目的も話さず一日付き合って欲しいと頼み込んできたというわけだ。
「とばっちり、ふざけろ。……てことは、あのカフェ店にそのストーカーがいたってことだよな。俺は彼氏じゃないって否定したはずだが」
「いたよー。私たちから四つぐらい先のテーブルに座ってたから聞こえなかったんじゃないのかな。というか、キリヤくんも気付いてたよね。あれだけ露骨に視線送ってきてたんだし」
「……」
確かに気付いていた。
ひとみと会話している時に誰からの視線かまでは分かっていなかったが、誰かに見られていると確かに感じていた。
だがあの時は誰が視線を送ってきているのか気付かないようにして見ないようにしていた。
気付かず、見向きもせず、波風立てない、どうせ俺には関係ない。
そう決め込んでいたのだが、カフェ店を出ようとした時に俺は最後にいなくなったユウノを探し店内を見回した時に見つけてしまった。
俺のことを睨みつける男を。
目は合わせないようにしたが目の端ではっきりと捉えていた。
「あのメガネをかけた男か」
「そうそう、あの冴えないメガネ」
「……で」
「?」
「お前の所為でこんなことになったんだろ、どうしてくれるんだ。ったく」
俺が恨むような目でひとみに文句を言う。
「それは本当にごめん」
「誤ってすまんせんじゃねぇーぞ」
「だいじょーぶ、ちゃんとけじめはつけるから」
ひとみが楽観的な声音でそう言い終わると、授業終わりを知らせる終鈴の音が聞こえてきた。
「授業サボっちゃったね。……ねぇねぇ、このまま全部サボっちゃって、今日一日屋上で過ごしちゃおっか」
「止めんが俺は教室に戻るぞ」
「えぇー、もちろん一緒にだよ」
「無・理」
ひとみは俺の答えが分かっていたように「だよねぇー」と言って屋上のドアに歩いて行く。
そしてドアの前で立ち止まり、
「キリヤくんは今回の件、もう気にしなくていいからね」
とそれだけ言い残して、ひとみは屋上を出て行った。
結局というか当然というかカフェ店を出た後、俺はひとみを家に連れて行くことはせず、別のところに行くことを決めた。
ひとみはその決定に少し不満を漏らしていたが駄々をこねるような子供じみたことはしてこなかった。
俺は代替案も決めておき映画でも見に行くかとひとみに提案した。
映画館ならひとみの相手をせずにスクーリーンを見るか睡眠をとるかで二時間も時間を潰すことができるからだ。
我ながら素晴らしい案だと内心思っていたのだが、代替案はひとみによって何故か却下された。
他に案もない俺は考えるのもめんどくさくなりひとみにどこに行って何をするのかを丸投げした。
もちろん俺の家に行くのはなしでだ。
とまあひとみに任せた結果、散々あちこち振り回され休日が休日ではなくなり、まったく休むことができなかった昨日一日日曜日。
今日月曜日でまたつまらない学校というものが始まる日。
やっぱ、関わるんじゃなかった。
と後悔の念に駆られながら俺は一枚のぐしゃぐしゃになった紙に書かれている文字を見て億劫になっていた。
『死にたくなければ彼女に近づくな』
書き殴った文字でそう書かれたこのゴミのような脅迫状は俺の家のポストに入っていたものだ。
間違って入れられたものだと思いたいのだが、間違いなく俺に向けて入れられたものだろう。
だってこれを入れられたきっかけが間違いなく昨日のひとみと行動を共にーー絶対にデートとは言わないーーした所為だから。
というかそれしか思い当たるところがないし、そうでなければここに書かれている『彼女』というのが誰か見当がつかなくなる。
差出人はひとみに好意を寄せてる人物だろうが、こんなものを突き付けてくるあたり、ひとみ対する重度なストーカーなのかもしれない。
あんなものの何がいいのか。それに近ずくなと言われてもあっちから近づいてくるのだから俺にはどうしようもないんだけど。
とりあえず、これの文句は学校ですることにして、俺は脅迫状を元のゴミのようなくしゃくしゃの状態に戻し、ポケットに入れて家を出た。
屋上という場所は学校によっては事故、非行、自殺防止という観点から立ち入り禁止になっていて、生徒が立ち入れられないようになっている。
俺の通う学校も屋上に繋がるドアの鍵がしまっていて普通なら入れないようになっているのだが、俺はそのドアの鍵を持っていたりする。
なんで一生徒である俺が屋上のドアの鍵を持っているかというと、それは隣人の『ゴミ女』御五智姶良に関係がある。
俺が姶良を学校に連れてくるように先生に頼まれ、それを了承した時、
「他の生徒や先生にバレないよう気をつけるように」
そう言って渡されたのだ。
その時は屋上に一人で行くことなんてあるのだろうかと思ったが、意外にも足を運ぶ機会は多かった。
授業や掃除をサボったり、体育祭や文化祭などのイベントの時に暇を潰したり、伸び伸びと昼寝をしに来たり、そしてーー
「呼ばれて飛び出てパンパカパーン。学校一の美少女こと空乃ひとみちゃん参上でーす」
ーー人目を忍んで密談、密会を行なったり。
先生には他の生徒や先生にバレないようにと注意されたが、別にバラしてはいけないとは言われてないし、俺が他の生徒に屋上に行けることを教えても教えたことを先生にバレなければいいだろう。
それに俺はだれかれ構わずにこのことを教えたりしてなければ、何の理由もなしにここに人を呼び出したり連れて来たりはしない。
人を呼び出すときも連れて来るときも、ちゃんと口の硬い奴を選べば、しっかりとした理由も存在する。
特にひとみと学校で会う場合、屋上という場所は実に重宝する。
先ほどひとみは自分のことを学校一の美少女とか言っていたが、別に自称でもギャグでもなんでもない。ちなみに真実でもない。
ひとみは学校の中で一番の美少女なのではないかと大勢の生徒から言われているのだ。
他にも候補のような奴らはいるらしいがそれはどうでもいい。
ひとみがそれだけ目立つ所為で、学校内ではこの人目のつかない屋上でしか俺たちは会話をしない。
挨拶や必要な事柄ならば最低限の会話はするが、二人で長時間話したりはしない。
しつこいストーカー気質のひとみがなぜ学校ではあまり近寄ってこないのか、前にそれとなく聞いたのだが、
「えっ、もしかしてキリヤくん、私に構ってもらえなくて寂しいの?……きゃー、ツンデレきたー」
と意味不明なことを言ってきたのでマジで後悔した。
その後に近寄ってこない理由は教えてくれたが、
「だってキリヤくんに嫌われたくないんだもん」
とか戯れ言を吠えていた。
心配するなひとみ俺はとっくに十分お前のことを嫌っている。
まあ、その戯れ言のお陰で俺は学校ではこいつに付き纏われずにすんでいる。
なので俺とひとみの異常な関係は学校内で誰にも知られていないし、気付かれていない。
このまま、学校の奴らに気付かれないためにも学校でひとみに会う時は、俺はこの場所を使うしかないのだ。
閑話休題。
俺は目の前の自称学校一の美少女にポケットから取り出したぐしゃぐしゃの紙を投げつける。
それをひとみは難なくキャッチし、「何これ?」と言った感じに紙を広げ始めた。
その中身を見たひとみは一瞬だけ目を細める。
「……」
そして、おもむろにそれを破き始めた。
最初は半分にそれをまた半分にそしてまた半分に、そうやって細かくなった紙切れをひとみは風に流してしまった。
風に流され飛んでいく紙切れ。
ちゃんとゴミ箱に捨てろよ。
流されていく紙切れを見ながら俺は姶良がこれを見たらどう思うのかと、そんな的外れなことを考えていた。
「ごめんなさい」
手を合わせて頭を下げるひとみ。
この謝罪がいきなり渡した紙を破り捨てたことに対してでないことは流石にわかる。
やはり今回の件はひとみが一枚噛んでいるのだと俺は謝る姿を見て確信した。
もしひとみがこの件で何も関わっていないのであれば、こいつは頭を下げて謝るなどはしないだろう。
いつものひとみならもっと茶化した感じに謝ってくるはずだ、頭も下げずに。
ひとみは頭を上げた後に昨日のことについての説明を始めた。
「…………要約すると鬱陶しいストーカーをどうにかしたいから、俺に彼氏役みたいなことを勝手にをさせてたってわけだな」
「うん、そう。ほら、最近言う『うそカレ』みたいな」
知るか。
何故か嬉しそうに返事をするひとみ。
悪気があるんならそこはしおらしく返事するところだと思うのだが。
さっきの誠意のこもった謝罪はどこいった。
それはいいとして、ひとみは自分に彼氏がいると分かればそのストーカーも諦めてくれるだろうと踏んで、俺に目的も話さず一日付き合って欲しいと頼み込んできたというわけだ。
「とばっちり、ふざけろ。……てことは、あのカフェ店にそのストーカーがいたってことだよな。俺は彼氏じゃないって否定したはずだが」
「いたよー。私たちから四つぐらい先のテーブルに座ってたから聞こえなかったんじゃないのかな。というか、キリヤくんも気付いてたよね。あれだけ露骨に視線送ってきてたんだし」
「……」
確かに気付いていた。
ひとみと会話している時に誰からの視線かまでは分かっていなかったが、誰かに見られていると確かに感じていた。
だがあの時は誰が視線を送ってきているのか気付かないようにして見ないようにしていた。
気付かず、見向きもせず、波風立てない、どうせ俺には関係ない。
そう決め込んでいたのだが、カフェ店を出ようとした時に俺は最後にいなくなったユウノを探し店内を見回した時に見つけてしまった。
俺のことを睨みつける男を。
目は合わせないようにしたが目の端ではっきりと捉えていた。
「あのメガネをかけた男か」
「そうそう、あの冴えないメガネ」
「……で」
「?」
「お前の所為でこんなことになったんだろ、どうしてくれるんだ。ったく」
俺が恨むような目でひとみに文句を言う。
「それは本当にごめん」
「誤ってすまんせんじゃねぇーぞ」
「だいじょーぶ、ちゃんとけじめはつけるから」
ひとみが楽観的な声音でそう言い終わると、授業終わりを知らせる終鈴の音が聞こえてきた。
「授業サボっちゃったね。……ねぇねぇ、このまま全部サボっちゃって、今日一日屋上で過ごしちゃおっか」
「止めんが俺は教室に戻るぞ」
「えぇー、もちろん一緒にだよ」
「無・理」
ひとみは俺の答えが分かっていたように「だよねぇー」と言って屋上のドアに歩いて行く。
そしてドアの前で立ち止まり、
「キリヤくんは今回の件、もう気にしなくていいからね」
とそれだけ言い残して、ひとみは屋上を出て行った。
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