命の重さと可能性の重み

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第四十四話

「グルゥ」

「いたわ…あれがボスーピットよ」

そう言ってエリカが指差した先には、あきらかに2メートルはこえているだろう、巨大な熊のような生き物がいた。

「あれがボスーピットなのか?でかいウサギじゃないのかよ!?」

俺は名前から、スーピットがウサギのような魔物だと考えていたので、ボスーピットは当然でかいウサギだと思っていたのだが、あれでは熊にしかみえない。
唯一ウサギのおもかげがのこっているとしたら、耳が少し長いところだろうか?

「あんなん本当に倒せるのかよ!?素手じゃキツい…ってか無理だろっ!」

「なに言ってるのよ、簡単でしょ?何のために肉体強化魔法を使うと思っているのよっ!…それに、攻撃手段としての魔法だってあるじゃない」

「…それはそうかもしれないが、俺は初めての魔物との接触なんだぜ?…いいたかないが、初心者ビギナーだ。それに、向こうの世界地球では、殺しどころか戦いの経験だってないんだぜ?」

「なに?今更弱気になってるの?…昨日はあんなに「魔法を試すんだー」みたいなことを言ってたのにっ」

「し、仕方ないだろ?あんなにでかいとは思ってなかったんだから…」

「私は依頼を受けるときに、ボスーピットは2メートルくらいだっていったはずよ?でかいのは当たり前じゃないっ」

「そういえば、そうなんだけどさぁ…やっぱり実物を目で確認するとね…なんか圧倒されると言いますか…」

「だらしないわねぇ…シャキッとしなさいよ。シャキッと」

「いや、まぁ、うん。頑張ってみるよ…殺しちゃダメなんだよね?」

「そうよ。殺してしまうと、SランクやSSランクの魔獣が集まってくるからねっ」

「うーん…一つ質問なんだけどさ、その集まってくる理由って確か匂いでだったよね?…つまり、匂いさえ出させなければ、殺しても大丈夫なんだよね?」

「そうだけど…いきなりやる気になってるわね、どういう風の吹き回し?」

「いや、まぁ、ね。…冷静に見てみると、負けそうな気はしないし…あまりこわくもないし…大丈夫かな?っと思って。今は昨日と同じように、魔法を試すのが楽しみなくらいだよっ」

「切り替えはやいわねぇ…いいことだけど」

「ってことで、さっそく試してみるね?」

そう言って俺は、意識を集中させる。

「………「凍れ氷れ、絶対なる温度。すべての動きを止め、その命すらも金縛れ…「アイスエンド」」」

俺が呪文と魔法名を唱えると、ピキッという音がし、次の瞬間には離れた場所にいたボスーピットが氷っており、氷のオブジェとなっていた。

「…ふぅ。思っていたよりも簡単にできたよ。…これで匂いが外に漏れることがないでしょ?」

「それは…そうだと思うけれど、これはさすがに…やりすぎじゃないかしら?」

「そうかな?…確かにこれだと持つのが大変だね。………「重さを無くし、枷を外せ…「フリー」」…っと、これで大丈夫でしょっ」

俺は呪文と魔法名を唱えて、ボスーピットのオブジェを宙に浮かせてコントロールする。

「なんかもう、すごすぎてつっこむのも馬鹿らしいわ…はぁ…」

「そう?魔法はイメージだって言ってたから、その通りにイメージしてみただけだよ?」

「まぁ、たしかにそうなんだけどさぁ…」

「気にしない、気にしないっ。それより、はやく最初の罠を確認しに行ってみようよっ。罠にかかってるかもしれないしっ」

そう言って俺は、来た道を引き返す。

「はぁ…まぁいいわっ。いきましょうっ」

エリカは何かを諦めたように溜め息をついたが、俺の後ろを歩き出した。

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