和食革命 ~異世界料理バトルで和食無双~

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和食革命 ~異世界料理バトルで和食無双~

和食革命 ~異世界料理バトルで和食無双~

「皆様、いよいよ三日後に、港街シークス領主主催の、料理バトルを開催します。このイベントはどなたでも参加できるうえに、領主様に認めていたたければ、店を持つことも可能ですッ!! ぜひふるってご参加くださいませ!!」

 流れ着いた港街で、そんな呼び込みを聞いた俺は、さっそく詳しい話とエントリーのために、領主の館へと向かった。

※※※※※※※※※※※※

「今回のお題はスープである。具は港街なのでな、シーフード限定じゃ。お題にそってさえおれば、何でも良いぞ? 開催は三日後であり、現在のエントリー人数は4人じゃ。そちもエントリーするのか?」

 門の前で料理バトルに参加したいと伝えると、簡単なボディチェックをされてから、中へと通された。
 そしてそこでおそらく領主様なのだろう男から、簡単な説明をうけられた。

「よろしく頼む。この街は初めてで、右も左もわからないが、料理には自信がある。優勝できるかはわからないが、審査員を満足はさせて見せるよ」

 俺自身、ここがなんと言う国かは知らないのだが、故郷くにでは板前をやっていたから、料理には自信がある。
 ここの料理人のレベルがどうかわからないから何とも言えないが、私は料理人だ。
 審査員を満足させる料理を作れば良いのだ。

「ではこちらに手を当ててくだされ」

 説明してくれた領主(?)のそばに仕えていた執事さんが、丸い水晶のようなものを指差す。

「わかった」

 俺が水晶のようなものに手を当てると、執事さんが持っていたカードが輝く。

「名前はカイト・アカモリ、職業はイタマエ……? 初めて聞く職業ですが、まぁ良いでしょう。これで登録は完了です。……最後に料理バトルに参加するための支度金として、銀貨10枚を授けます。今回の料理バトルでは、この渡された銀貨10枚以内で料理を作ってもらいます。よろしいですな?」

 そう言うと執事さんは、俺に銀貨を渡してくる。

「わかった。三日後に材料を用意して、ここに来れば良いのだな? 調理器具はどんなものが使えるんだ?」

「この館のキッチンを使っていただきます。エントリー者を午前と午後に分け、いっぺんに料理していただき、その場で審査します」

 ふむ……それなりに広く、設備は整っていると考えて良さそうだな。
 ……まぁしかし、お題がシーフードのスープだし、作るとしたらあれしかないだろう。
 あれなら包丁と鍋とコンロさえあれば作れるし、問題ないだろうな……。

「すべて承った。それでは今日はこれで失礼させてもらう……」

 俺は二人に頭を下げると、館をあとにした。

※※※※※※※※※※※※

「さてと、それでは宿と料理の材料を探しにいくか……」

 領主の館から出た俺は、まずはほんとうにあれが作れるのかの確認のために、市場へとくり出した。

「ふむふむ、一応生の魚もあるわけだな。貝や海老などもちゃんとある……と。乾物も……干し野菜や干しキノコ、干物があるな」

 順番に様々な店を見ていき、ここの食のレベルを感じていく。

「……ふむ、何故か海草の類いが見つからぬな。これは聞いてみるか」

 海草……特に昆布などは、今回作ろうと思っている料理には不可欠なので、確認しておかなければならない。

「すまんが、少し聞いてもよいか?」

 俺は市場の中でも色々な商品を扱っており、大きいと感じた店の店員に話しかける。

「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

「うむ。海草を探しているのだが、昆布などは売っていないのか?」

 優しそうな店員に、俺はストレートに聞いてみる。

「海草……昆布? でございますか? ……それは、そのぉ、海で網に絡まる、あの海草ですか?」

「あ、あぁ。海に生えている草だな。粘りけがあったりする……」

 ふむ……反応からすると、知ってはいるようだな。

「お客様は、この街は……いえ、やめておきましょう。お客様はあの害にしかならない海草を、本当にお求めなので?」

 …………害にしかならない? なぜだろう? あれはちゃんと使えば有用なのにな。

「うむ。海草が欲しいのだ。それから小魚……鰯や鯵だな。それとマグロなどの大きな魚の骨がほしい。後は干し野菜に干しキノコ。塩と胡椒が少し。全部でいくらくらいになるだろうか……?
 三日後の料理バトルに出るのでな、予算は銀貨10枚なのだが……」

 もしこれらが銀貨10枚で揃わなかったら、別のを考えなければならない。
 ここは大きな店なので、すべてそろうと思うのだが……はたして。

「承りました。海草と骨は、漁師と相談しなければなりませんが、すべて合わせても銀貨5枚くらいだと思われます。……いえ、まぁ、海草と骨については、漁師の方に直接交渉していただけると助かるのですが……」

「ふむ、そうなのか。ではその二つ以外を、サンプルとしてまずは少しずつもらい、明日また改めて注文に来させてもらうよ」

 この街の食材が、俺の知っている食材と同じかわからないからな。
 名前は同じなようだが、なにぶん初めての街なのだ。
 別物が出てきては大変である。

「では少々お待ちください。銅貨50枚分でよろしいですか?」

「あぁ、任せるよ。全部を確かめられれば良いからな」

 銅貨50枚分がどれくらいかはわからないが、任せてしまって良いだろう。
 50枚と言っているのだから、銀貨よりは安いのだろうし。
 俺は銀貨を入れていた袋のまま手渡す。

「…………お待たせしました。サービスで袋につめておきましたよ。またのご来店お待ちしております……」

「ありがとう。また頼むよ」

 俺は商品を受け取って銀貨を渡すと、銀貨が9枚と銅貨が50枚返ってきた。
 つまり銀貨1枚=銅貨100枚ということか、覚えておこう。

「ついでと言っては悪いのだが、漁師への紹介状をいただけるだろうか? このおつりは、そのまま渡すから」

「承りました。少々お待ちください」

 そう言うと店員は、その場で守とペンを取りだし、すらすらとペンを走らせる。

「こちらになります。これを漁師ギルドの受け付けにお出しください。漁師ギルドは、港の真ん前にございますので。どうぞ、今後ともよしなに……」

「こちらこそよろしく頼む」

 俺は頭を下げる店員に軽く会釈すると、その場を去った。

※※※※※※※※※※※※

「さてと、ここが漁師ギルド……か」

 たどり着いたそこは、なかなか大きな建物だった。

「さてと、それじゃあ受け付けに行くか……」

 俺は中に入り、パッと見渡す。
 そして目当ての場所であろう可愛い女の子がいる場所へと向かう。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「これが紹介状だ。三日後の料理バトルのために、海草……とくに昆布と、マグロなどの大きな魚の肉つきの骨がほしい。あぁ、肉つきといっても、こびりついている程度ので良い」

 俺は紹介状を渡しながら、用件を伝える。

「拝見いたします。…………確認いたしました。中へご案内します」

 そう言うと受付嬢は、俺から見て右奥を指差す。

「あの扉の中へ行けば良いのだな?」

「その通りでございます……。あ、こちらはお返しいたしますね。奥の部屋で改めてお渡しください」

 そう言うと受付嬢は、俺に紹介状を返してくる。

「わかった。色々とありがとう」

「今後ともよろしくお願いします……」

 頭を下げる受付嬢を背にして、俺は右奥の扉へと向かう。

「ここからはわたくしが案内いたします……」

 俺が扉の前に立つと、自然と扉が開き、中から美しい女性があらわれる。

「では、こちらにどうぞ……」

 そのまま彼女は俺を手招いて、扉の中へと誘う。

「……………………」

「……………………」

 中に入ってからは、廊下を二人で無言で進む。

「こちらにございます」

 女性がそう言うと、1つの扉の前で立ち止まる。

「ミユリでごさいます。失礼いたします……」

 コンコンコンとノックを三回してから、扉を開けて中に入る女性。

「さぁ、どうぞお入りください」

 そしてそのまま、俺も促す。

「失礼します……」

 俺は多少緊張しながら、中へと入る。
 するとそこには……。

「よく来たな、同郷よ。歓迎するぜ?」

 この街に来てからは見ていなかった、黒髪黒目の男が座っていた。

「お前さん、この街は初めてだろう? というか、この世界が……なんだが」

「どういうことだろうか?」

 この世界が初めて……ということは、ここは地球ではない?

「まぁまずは座ってくれ。最初から説明するからよ」

※※※※※※※※※※※※

 男の説明によると、ここは本当に地球ではないらしい。
 いわゆるファンタジーの世界であり、モンスターなども普通にいるそうだ。
 そして、この世界の文化は中世レベルだが、魔法があるため技術レベルは近代以上だという。

「ってことで、理解できたかい? 俺も十年くらい前にここに来てな? それからは持ち前の知識を武器に、こんな役職につけたわけだ」

「……ふむ。大体は理解したし、正直助かった。その上で相談したいのだが……よろしいか?」

 俺は最初にここに来た目的である、海草と骨のことについてたずねる。

「お前さん……料理人なのか? 俺は漁師だったから、軽い漁師飯は作れるんだがよ、ちゃんとした和食ってのは無理だったから、諦めてたんだよ……」

「私は板前でした。一応……和洋中すべてできますが、和食が一番得意ではありますよ」

 俺は料理そのものが好きだったから、食べ歩きして覚えたり、レシピを聞いたりして、美味しいと思ったものはすべて覚えた。
 なので、和食が一番得意ではあるが、それ以外も作れはする。

「お前さん、料理バトルに出るんだったな? なら、その料理バトルに出すものを、俺にも食べさせてくれないか? そしたら、今回の依頼はただで良いからよ」

「……ふむ。よろしいのですか? 私としては、願ったり叶ったりですが……」

 こっちとしては、協力してくれるだけで万々歳なのだし、料理を振る舞えるのはむしろ嬉しいことだ。

「なら決まりだな。明日また来てくれ。用意しておくからよ」

「わかりました。また明日ですね。よろしくお願いします」

 俺は頭を下げると、その場を後にした。

※※※※※※※※※※※※

「用意できてるぜ」

 翌日の昼前、俺はまた漁師ギルドに来ていた。

「海草……昆布とワカメだな。後は魚のアラがいくつかだ。確かめてくれ」

 そういって彼に手渡されたものの中身を確認する。

「ありかとう。これだけあれば、試作も余裕をもってできるよ」

 袋が小さかったので心配したが、いわゆる魔法の袋らしく、中にはしっかりと海草とアラがわけられて入っていた。

「試作する場所はあるのかい? 俺としては、ここでやってもらうと、すぐ食べられて嬉しいんだが?」

「それはありがたい。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 そして俺は、そのまま彼に案内されて調理場に入った。

「料理バトル当日に使われる機材には負けるが、なかなかのもんなんだぜ? 何か足りないものはあるか?」

 俺は調理場をざっと見渡してから、一つ一つ手にとって確かめる。

「……ふむ、これなら十分すぎるな。ありがとう。早速試作を作り始めるが、構わないか?」

 自分の店で使っていた物にはほど遠いが、一般家庭のキッチンよりはしっかりしている。
 俺は早速作り始めることにした。

「もちろんだ。試作を食べさてくれるんだろ?」

「いや、試作は一杯分しか作らないよ。ちゃんと完成した、明日出せるものを食べてくれ」

 これは俺の料理人としての矜持だ。
 試作は自分が確かめるものであって、他人に食べさせるものではない。

「そうなのか。なら待たせてもらうぜ」

「期待しててくれ。満足させられる物を作ってみせる」

 そして俺は試作を始めた。

※※※※※※※※※※※※

「……うむ、完成だ。これなら明日、自信をもって出せる」

 鍋を複数使い、違う配分で出汁をとりそれに合うだろう味付けする。
 納得できる完成品は、五つ目の鍋だった。
 時間はかなりたっており、昼に始めた試作はが完成した今は、もう夕方だ。

「ってことで、完成だ。夕飯用と明日のシミュレーションに多目に作るから、職員さんたちも呼んできてくれ」

 俺は、結局最後まで作業を見ていたギルドマスターに声をかける。

「わかった。……夕飯ってことは、他にも何か作ってくれるのか?」

「材料さえあれば、作れないこともないが……。試作にそれなりに使ったから、野菜などはもうないぞ?」

 もともと試作用に、少ししか材料を買っていなかったので、何かを作るには心もとない。

「材料はこっちで用意するよ。久しぶりに、ザ和食ってのが食いたいんだ。焼き魚に煮物にお新香、白いご飯と味噌汁かお吸い物。後はおひたしやきんぴらがあれば完璧だな……」

「了解した。買ってほしいものをメモするから、用意してほしい」

 俺は紙とペンを借りると、買い物リストを作る。

「了解だ。少し待っててくれ。用意させる」

※※※※※※※※※※※※

「…………できたぞ。みんなを呼んできてくれ」

 材料を用意してもらってから約一時間。
 俺はリクエスト通り、ザ和食と言える物を作り上げた。

「おぉぅ……軽く感動だぜ。なんせ十年ぶりだからなぁ……」

「これが、ギルマスの故郷の料理なのですか?」

「意外と質素なのですね……」

「でも美味しそうです」

 キッチンそばの食堂に、ここに住んでいる職員や残っていた職員を集め、夕飯をふるまう。

「全員座ったな? んじゃ、いただきます」

「「「いただきまーす」」」

「召し上がれ」

 私の言葉を皮切りに、全員が食べ始める。

「何これっ!? 魚がこんなにやわらかいっ!?」

「野菜のシャキシャキがのこっているのに、味がしっかり染みてるわ……」

「ただの茹でた野菜だと思ってたのに、味がしっかりついてる!?」

「うそっ、ご飯ってこんなに美味しかったの!?」

「スープに色がついてないのに、とっても複雑な味がする……」

 …………うむ、好評なようで何よりだ。

「うめぇ、うめぇよ……。これが食いたかったんだ……」

 ギルマスにいたっては、軽く涙を流していた。

「喜んでもらえるのが、やはり一番嬉しいな。作った甲斐がある……」

 やはり料理を食べて喜んでもらえるのは、料理人にとっての至高だと思う。

「これなら……料理バトル当日も大丈夫そうだな」

 俺は自信を確かにして、自らも食べ始めた。

※※※※※※※※※※※※

「お集まりの皆々様、料理バトルの開催でございます。一般投票券を購入された方は、料理バトルの審査員となれます……。数に限りがございますので、お早めにお買い求めくださいませっ!!」

 料理バトル当日、俺は材料を持って、会場へと来ていた。

「すごい熱気だな……。これだけの人たちを前に料理ができるとは……腕がなるな」

 俺は気持ちを新たにすると、受付をしてから持ち場だと言われた料理場で準備する。

「……さてと、時間制限は一時間だったか。圧力鍋もあるし、事前に用意したものも使える。後は野となれ山となれ……だな」

 両手で頬を叩いて気合いを入れると、材料の確認と機材のチェックを行う。

「すべて問題なし……っと。後は時間が来るまで精神集中……」

 気持ちを落ち着かせて、ベストパフォーマンスを発揮できるように高めていく。

「お待たせいたしました。料理バトル開催でございますッ!! 料理人の皆様は、調理を開始してくださいッ!!」

 ドーーーンと銅鑼がならさせれ、料理バトルが始まる。

「……では、始めようか」

 俺は自分がベストな状態なことを確認すると、調理を開始した。

※※※※※※※※※※※※

 ドーーーン、ドーーーン、ドンドンドンドーーーン

「時間でございますッ!! 調理終了ですッ!!」

 銅鑼の音と共に、終了が告げられる。

「会心の出来だ。これなら自信を持ってふるまえる」

 俺は最後の味見をして出来を確認すると、審査員の数だけ器に注いだ。

「それではこれより、審査を開始しますッ!!」

 ドーーーンと銅鑼がなり、一人目の料理人が審査員に料理を出す。
 俺は五番目で最後らしく、俺以外の料理人が何を作ったかを見物する。

「まず一人目は、優勝候補筆頭ッ!! 街一番の料理店……ココ一番屋店主、イチバ・ココの登場だッ!!」

「「「わぁぁぁッッッ!!」」」

 万雷の拍手の中、紹介された料理人が登場する。

「イチバさん、今日はどんなスープを作ったのですか?」

「魚介のクリームスープだ。貝やイカなどの食感を重視した具材を、ミルクを基本にしたスープで煮たものだな」

 そういってイチバさんが出したのは、クラムチャウダーに似たものだった。

「それでは早速審査と参りましょう。審査員の皆様、どうぞっ!!」

 ドーーーンと再び銅鑼がならされ、審査員が食べ始める。

「……うむ、これはなかなか」

「優しい味ですなぁ」

「魚介の食感が残っているのが良いですねぇ……」

 審査員は口々に料理の感想をのべる。

「それでは皆様、得点の方をお願い致しますッ!!」

 審査員全員が食べ終わったのを確認した司会の人が、審査員を促す。

 ドーーーン、ドーーーン、ドーーーン

 再び銅鑼がならされ、審査員たちが紙に書いた得点をみせる。

「10、9、8、10、10、10、10、9、9、10…………合計95点ですッ!! 早速の高得点……さすがイチバさんですッ!!」

「「「わぁぁぁッッ!ッ!」」」

 再び万雷の拍手に包まれ、イチバさんは退場した。

「続きましては、同じくココ一番屋から……。新人ナンバーワンの実力を持つ、イチバさんの息子、バンバ・ココさんの登場ですッ!!」

「「「わぁぁぁッッッ!!」」」

 バンバと呼ばれた料理人の登場に、会場が再び盛り上がる。

「さてバンバさん、今回はどんなスープを作ったのですか?」

「私は父とは正反対に、辛めのスープを作りました……」

 そういって彼が並べたのは、トムヤムクンに似たものだった。

「辛さの中に美味さがあるので、是非水を飲まずに楽しんでください」

「では、審査員の皆様、よろしくお願いしますッ!!」

 ドーーーンと銅鑼がならされ、審査員が食べ始める。

「うーむ確かに……辛さの中に美味さがありますな」

「辛いっ、美味いっ、辛いっ、美味いっ!!」

「ひーひー……これはまた、病み付きになりそうですな」

「辛いの苦手なんですが、これは食べられますね……」

 審査員は辛さに顔を歪めながらも、美味しそうに食べていく。

「では皆様、得点の方をお願い致しますッ!!」

 全員が食べ終わったのを確認した司会の人が、銅鑼をならす。

「10、10、9、9、10、8、8、8、9、9…………合計90点。またまた高得点ですが、イチバさんなは及ばず……。しかし、イチバさんよりも高得点を出している審査員の方もいますね。さすがですッ!!」

「「「わぁぁぁッッッ!!」」」

 再び会場が盛り上がり、一部からはバンバさんを励ます声も聞こえる。

「さて皆様、次の料理人の登場です。新進気鋭、最近この街に店を出したニューフェイスなベビーフェイス!! 感動亭店主、ドウマ・シズクさんですッ!! 今回唯一の女性でありますッ!!」

「「「うぉぉぉッッッ!!」」」

 先程までとは違い、野太い声が大きく上がる。

「さてドウマさん、今回はどんなスープを作ったのですか?」

「私はシンプルに、塩コショウだけを使ったスープです。魚介そのものの味を楽しんでください……」

 ドーーーンと銅鑼がなり、審査員が食べ始める。

「どこか……懐かしい味です」

「イチバさんよりも優しいですねぇ」

「母の味……というやつですかな」

「家庭的なのに、店で出されても文句なしですな」

 審査員たちは、先程が辛かったこともあってか、全員優しい顔をしている。

「それでは、得点をお願いしますッ!!」

 銅鑼がならされ、審査員が得点をみせる。

「10、9、10、9、9、9、10、10、9、10…………合計95点ッ!! なんと、イチバさんに並びましたッ!!」

「「「うぉぉぉッッッ!!」」」

 これには会場も驚きのようで、再び盛り上がる。

「……では次の方です。隠れた名店と言えば、ここしかないッ!! もはや隠れていない隠れた名店……さと店主、サト・ザトウッ!!」

「「「サトさーんッ!!」」」

「「「こっち向いてェェェッッッ!!」」」

 先程のドウマさんとは真逆に、カン高い声が中心に上がる。

「さてサトさん。今回はどんなスープを作ったのですか?」

「私の料理は、スープであってスープではありません。固形のスープなのです……」

 そういって審査員の前に並べられたのは、確かに固形のものだった。

「こ、これは……スープなのですか!? こんなスープ、見たことないィィィッ!!」

「驚きですな……」

「スープと呼んで良いのですかな……?」

「どんな味なのでしょう……?」

 審査員たちも初めて見るようで、驚いたり怪訝な顔をしたりしている。

「で、では審査員の皆様、審査をお願いしますッ!!」

 銅鑼がならされ、審査員たちは恐る恐るその固形を口に運ぶ。

「こ、これは……ッ!?」

「なんと……なんと濃厚なッ!?」

「これは確かにスープです。……口の中で、スープになるのですッ!!」

「う、美味い……。美味すぎるゥゥゥッ!!」

「これほどとは……ッ!!」

 審査員たちが全員、未知の味と食感に感動している。

「これは……すごい結果が出そうだぞォォォッ!! 審査員の皆様、得点の方をお願い致しますッ!!」

 司会がなんとか審査員たちを持ち直させ、審査員たちが得点をみせる。

「10、10、10、10、10、10、10、10、10、10…………ッッッ!? で、出てしまいました……満点、満点ですゥゥゥッ!!」

「「「うわぁぁぁッッッ!!」」」

「「「うぉぉぉッッッ!!」」」

「「「サトさぁぁぁんッッッ!!」」」

 まさしく会場は絶頂にあった。
 それだけサトという料理人が出した料理が凄かったということか……。

「……で、では皆様、次が最後の料理人ですッ!! 店を持たない流れの料理人で、名はカイト・アカモリ。職業はイタマエと言うそうです。どんな料理を見せてくれるのか……ッ!?」

 ようやく俺の番が来た。
 一人前のサトという料理人が作ったのは、どうやら煮凝りのようだな……。
 何だかんだ、全員かぶらなくて良かった。
 まぁ、ドウマという女料理人の品が近いかもしれないが、かぶりにはならないだろう……。

「よしっ、行くか……」

 俺は一度頬を叩いて気合いを入れ、舞台に上がる。

「ではカイトさん、今回はどんなスープを作ったのですか?」

「魚のつみれのお吸い物です」

 今回俺が作ったのは、昨日ギルマスにふるまったのと同じ、お吸い物だ。

「お吸い物……ですか? それは……どんなものなので? スープの色は透明ですし、具は何かのだんごと少しの野菜……。ま、まぁいいでしょう。それでは審査員の皆様、審査をお願いしますッ!!」

 銅鑼がならされ、審査員たちが恐る恐る食べ始める。

「これは……これはなんと言う味なのだッ!? 甘さではない、しょっぱさでもない。だからといって辛いわけでもすっばいわけでもないッ!?」

「見た目はドウマさんのと変わらないはずのに……味の深みが別次元ッ!?」

「透明ということは、塩が基本のはず……。しかし、何なんだこの強烈な味はッ!?」

「それなのに、どこかホッとする。そしていくらでも食べられる!?」

「スープを飲めば具か欲しくなり、具を食べればスープが欲しくなる……」

「そしてこの具がまた秀逸だッ!! やわらかいだんごのはずなのに、コリコリという食感があるッ!!」

「美味い……美味い、美味いィィィッッッ!!」

 どうやら大成功のようだ。
 これが、和食の基本であり極意……。

「これが旨味ですよ。日本人の研鑽の証であり、努力の結晶。遥か昔から受け継がれてきた、技術の集大成ともよべるものです……」

 旨味というものは、日本人が見つけ、発展させてきたものだ。
 まさしく日本人の心と言えるだろう……。

「基本となる精進出汁には、今回は昆布と干し椎茸、豆類を使いました。そこに味を整える程度の塩と、引き締めるためにほんの少しの胡椒。後は魚のつみれからも出汁が出ますし、少しとろみをつけることで、全体を1つにまとめました……」

 本来の和食として考えるなら、もう少し全体的に控えめに作るのだが、バトルと言うことで今回は、一口目から優しい強烈さを楽しんでもらえるように作った。
 とにかく一口目で出汁の旨味の深さに引きずり込み、しかし優しくすることで飽きさせない。
 具のつみれも、強烈なものと優しいものの二つを作り、食べ終わるまで鷲掴みにしてはなさない。
 更にはつみれにナンコツをまぜることで、やわらかさとかたさの両方を楽しませる。

「お、おかわりはないのかッ!?」

「わ、私も、私もほしいッ!!」

「な、流れではなく、ここに店を出してくれないだろうかッ!?」

 サトという料理人で最高潮だった会場は、審査員のみ盛り上がり、見物人がおいてけぼりになっている。

「し、審査員の皆様、落ち着いてくださいませッ、得点を、得点をお願いしますッ」

 ドーーーンと銅鑼がならされ、審査員も得点を書き始める。

「10、10、10、10、10、10、10、10、10、20…………20ッ!? りょ、領主様、得点は10点満点ですよ!?」

「それだけこの者のスープが美味かったということだッ!!」

「なっ、ずるいぞ、ならば私も20点だッ!!」

「なら私もだッ!!」

「「「私もッ!!」」」

「……こ、これは前代未聞ですッ!! 全員が20点!!」

 会場は驚きを通り越して静まり返っている。

「まぁ、当然結果だろう。他のスープも美味いのだろうが、その美味さの次元が違うからな」

 ここが異世界だとしても、和食の真髄は負けはしない。
 時と場合などによるというが、しかし和食はそのどれにも対応できる。
 その研鑽や姿勢は、外からも貪欲に吸収する姿からもわかる。
 日本人ほど食の質にこだわる存在も少ないだろう……。

「えー……、大波乱だった今回の料理バトルですが、流れの料理人、カイトの圧勝で終わりとなります。皆様お疲れさまでしたッ!!」

 さてと、しばらくはここに店を出して、和食革命など起こしてみるかな……?

「少し楽しくなりそうだ……」

※※※※※※※※※※※※

「という夢を見たんだ」

 一月二日、お正月真っ只中。
 いわゆる初夢として見た内容を、俺は親友に語っていた。

「よくある異世界での料理無双……ってか? あぁいうのって、物語としては結構面白いけど、かなりご都合主義だよな」

 そうなのである。
 料理の技術もそうだが、まず素材のレベルが今と昔では全然違う。
 野菜や肉など、今の美味しさが平均になったのなんて、ここ最近のことなのだ。
 いわゆる普通の中世ファンタジーでは、使える素材の味が違いすぎるはずなのだ。

「まぁでもそこは、だからこそ和食なんだよ。素材の味をどういかすかが基本じゃん?」

「まぁ、確かにな」

 日本人はもっと、和食のすごさを知るべきなのだ。
 日本に来る外国人のほとんどは、日本のご飯の美味さでそのまま滞在を決めたりするそうだし。

「とにもかくにも、和食すげぇってことだよ」

「それは同意するぜ。だからこそ勉強してるんだしな」

 俺たちはまだ料理人の卵だが、いつかは和食を極めてみせる。

「ってことで、夢で作ったのを再現してみたいんだが……協力してくれるか?」

「かまわんよ。……ってかむしろ、聞いてて俺も作りたくなったし」

 新年早々こんな夢を見れるなんて、ついてるのかもしれない。
 これからも精進し続けないとな……。

※※※※※※※※※※※※

「という経緯でうまれたのが、この「和食無双」というお吸い物です。とうぞご堪能ください……」

 この「和食無双」は、うちの店名であり看板メニューだ。
 あの夢から十数年。
 夢で作った理想を追い求め、ついに至ったこの料理。
 しかし、今の俺にはこの先が見えている。
 確かにこのお吸い物は極上だが、ここで満足は絶対にしない。
 日進月歩、日々これ精進。
 俺は決して歩みを止めない。
 時代は変わるのだから、俺も変わっていかなければ……。
 だからこそこの日々は宝物だ。
 これからも俺は、この店で頑張っていく……。

 ──カランカラン

「いらっしゃいませ、和食無双へようこそ」

 さぁ、和食無双の始まりだッ!!

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