欠陥魔力騎士の無限領域(インフィニティ)

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閑話| 彼が彼女になった理由

欠陥魔力騎士36

閑話 彼が彼女になった理由

「オラッ、オラッ、オラァァァッッッ!!」

 トーナメント二日目、俺は試合も見ずに修練をしていた。

「クソッ、クソッ、クソガァァァッッッ!!」

 昨日の試合、俺は確かに負けた。
 それも完全な圧倒的敗北。
 俺の作戦は全く通じず、ボロクソに負けた。

「もっと……もっと強くなってやるッ!!」

 基本の型の反復と、それを応用した技法の反復。
 さらにはフィールドの機能を利用した模擬戦に複数戦。
 やれることをすべてやったら、もう一度最初から繰り返す。

「オラッ、オラッ、オラァァァッ!!」

 そうして繰り返し、何度目か数えるのも忘れた頃、そいつは現れた。

「こんな時間、こんな場所で稽古とは……感心感心。そんなに強くなりたいかい?」

「誰だ、あんた? 見たところ先輩……みたいだがよ?」

 唐突に現れたそいつは、俺の事をジロジロと観察すると、一瞬で近づいて抱きついてくる。

「ッッッ!?」

「ふふふっ、いい反応だ。ますます興味深い」

 そいつを振り払い、俺は外道流の歩法で急速離脱。
 そのまま油断せずに相手の出方をうかがう。

「君……強くなりたいんだよね? その原点と、覚悟を教えてくれないかい?」

「アァッ!? いきなり現れて、名も名乗らねぇ奴に、話すドオリなんかあるかよッ!!」

 目の前のこいつは、はっきり言って得体が知れない。
 ゆらゆらと存在そのものが薄いようで、しかし先程のように唐突に濃くなる。

「あっ、そっかそっか。自己紹介もしてなかったね? ごめんごめん。僕の名前は流鏑馬陵やぶさめりょう。君と同じ名前を持つ女の子で、君と同門。そして位階は『開祖皆伝』だ。つまりは君の上位互換……と言うわけ。わかったかな?」

「ふざけんじゃねぇッ!! 位階が上だからって、俺があわたに劣るだと!?」

 外道流の位階……つまりは強さの階級は、俺よりやつが名乗った「開祖皆伝」の方が高い。
 しかもこの「開祖皆伝」は、事実上の最高階級。
 たがそんなことは関係ない。
 俺が先程の動きにはついていけなかったのも事実だし、相手の強さの底が見えていないのも事実。
 だが、そんなことで勝敗は決まらないッ!!

「勝負しろや先輩ッ!! この俺をなめたこと、後悔させてやっからヨォッッッ!!」

 俺はそう告げると、奴に向かって襲いかかる。

「うんうん、とても良い気迫と技のさえだね。合格だ」

「ッッッ!?」

 襲いかかったのは俺の方なのに、なぜか気づけば俺が倒されていた。

「何を……しやがった!?」

「ふふふっ。とても簡単な事なんだけど、今の君では一生かけても届かない」

「なん……だと!?」

 そう告げるやつの顔は、とても悲しそうで、こちらが悪いことをしたように思うほどだった。
 だが……

「まだ終わっちゃいねぇ……ぞッ!?」

 立ち上がり、やつに向かっていこうとした俺は、しかしそこで体が動かない事に気がつく。

「無駄だよ、完璧に決めたからね。今の君は、首から下を動かせない」

「クッ……そガァァァッッッ!!」

 俺は気合いを入れ直し、体を必死に起き上がらせようとする。

「これは驚いたね。少しだけとはいえ動かせるなんて……。ますます気に入った」

「アァァァァァッッッ!!」

 俺はやつの言葉などに構わず、体を横にしてから起こそうと踏ん張る。

「うわっ、動かしちゃったよ。これは本当に驚きだ。君には確かに資格がある」

 やつはそう言うと、俺の口に飴のようなものを投げ込む。

「んっ!? テメェ、何を飲ませやがったッ!?」

「君が更に強くなるための薬……だよ。外道流の開祖は女性だった。だから君も、女性になってみると良い。名前そのままはあれだから、明日から君は陵子ちゃんだ」

「クッッッ!?」

 その言葉を聞いた瞬間、唐突に体が熱くなり意識が途切れる。

「頑張れよ、後輩君。応援してるからね」

(クソ……が)

………………
…………
……

「はっ!?」

 目が覚めるとなぜか自室で、時間は夜中になっていた。

「ッ!?」

 ふと体に違和感を感じ、まさぐればそこには女の体。

「なんじゃこりゃぁぁぁッッッ!!」

 俺はどうやら、本当に女になったらしい。

「畜生が……ッ!!」

 妙に高くなった声に戸惑いつつ、俺はこうなった原因である、流鏑馬陵とか言う先輩に復讐することを誓う。

「待ってやがれよ……あのヤロー」

 どこか言葉遣いに違和感を持ちつつ、起きるには早い時間だったため寝ることにした俺は、再びベッドへと入り意識を途絶えた。


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