欠陥魔力騎士の無限領域(インフィニティ)

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光の限無の放課後デイズ⑥| 光と限無の過去語り③

欠陥魔力騎士17

光の限無の放課後デイズ⑥ 光と限無の過去語り③

「これは僕が十歳の頃。ちょうど天通流に通い始めた頃の話だ」

 あれは今から約六年前。
 僕が初めて天通流の門を叩いた時の話だ。
 当時の僕は、近所には知らない者がいないレベルの有名人で、とても大事にされていた。

「ほら、ここが今日から通うことになる道場だ」

 そう父に連れてこられた道場は、今までの中で一番大きく、一番すごかった。
 柄にもなく緊張していた僕は、いつもなら中へ駆け出すはずの足が震え、なかなか中へと入れずにいた。

「あなた、入らないの?」

「っ!?」

 なかなか一歩を踏み出せずにいると、突然後ろから声がかけられる。
 凛としていて、それでいてきちんと幼い女の子の声。

「入門希望……なんでしょ? 入らないの?」

「えっ、えっとその、お、俺は……」

 当時の僕は、自分を強く見せるためなどの理由から、一人称を俺にしていた。
 それゆえかはわからないが、話しかけてきてくれる同年代の女の子がほとんどおらず、同世代の女の子と話すというのは、僕にとっては少し苦手な事だった。

────────────────────────

「どうなの? 入らないの?」

「君はここの子なのかな? ならばすまないが、息子の案内を頼めるかな? いつもはもっと堂々としているのだが、君の可愛さと、この道場のすごさで緊張しているようなんだ」

 まったく反応できていない僕をみかねて、父が女の子に声をかけてくれる。

「そう、なんだ。やっぱり見学希望だったのね? 私は天通美龍あまつみりよ。よろしくね? 今日は本家からの遣いとして、ここの支部を見に来たところだったから、あなたの案内はついでとして、とてもちょうどいいと思うわ」

「あ、あ、あ、ありが……とう」

 なんとかお礼の言葉を返した俺は、改めて目の前の女の子の姿を見直す。
 歳は多分、俺と同じか少し下。
 髪はとても長く、しかしそれゆえにとても綺麗だ。
 顔は年相応に可愛く、しかしその雰囲気は髪の雰囲気と合わさることで、どこか気高さを感じさせた。

「それじゃ、ついてきて。まずはここの支部長に会わせてあげる。そちらの……お父上は、ついてくるのですか?」

「それはありがとう。私も支部長さんには挨拶をしようと思っていたからね。案内よろしく頼むね」

「わかりました。では着いてきてください」

 そう言うと僕らの先へ行き、入り口の扉を押して開ける。
 すると、彼女には開けられるはずがないような重さを伴った音が響き、彼女のすごさを嫌でも理解させられる。

「どうぞ中へ。案内します」

 そうして彼女の先導で中を案内され、支部長のもとへとたどり着く。

「いらっしゃい。よく来てくれたね? 君の噂は聞いているよ」

 迎えてくれた支部長さんは父と同じくらいの年齢で、大木のようなイメージを受ける。

「そしてようこそお出でくださいました。天通美龍様。天通家直系の……それも次期当主候補の方にお出でいただき、大変嬉しく思います」

「ありがとう、天通陽木あまつようもく支部長。今日はこの支部の視察に来たのだけども、何か面白い物を見せていただけるとか?」

「えぇ、恐らくは。すべてはそこの彼次第……ではありますがね?」

 そう言うと支部長さんは俺を見つめ、天通美龍さんはその視線の先の僕を見て、驚いた顔をする。

「私は先程、彼は今日初めてこの道場を訪れた見学者だと聞いています。その彼が、私に面白い物を見せてくれると?」

「彼の噂が真実ならば、ですがね」

 どうやら支部長さんは、俺の才能を知っているらしい。
 しかし逆に美龍さんは知らないらしく、支部長と俺を疑うような目で見つめてくる。

「では道場へと移動しましょう。そしてそこで、君の力を見せてくれるね?」

「わかりました。最善を尽くします」

………………
…………
……

「さてさて、みんな集まっているな? 今日は見学者が一人と、視察のために本家より天通美龍様が来ておられる。見学者は最近この近くを賑わせている天才少年。天通美龍様は本家直系のお嬢様だ。皆、張り切るように。それでは鍛練を始めなさい」

「「「「よろしくお願いしますッ!!」」」」

 全員の大合唱が辺りに響き、それぞれの鍛練が始まる。
 俺はそれを片目で見つつ、もう片目で天通美龍さんと支部長さんの姿をとらえておく。
 どうやらまずは、基礎的な筋トレやストレッチから始まるようで、全員がペアになって動き出す。

「ここまではどこの道場も同じなんだな……」

 やはり技を鍛える前には、必ず事前準備をしっかりと行う。
 そして体をあたためてから、技の型稽古へとうつる。

「さてさて少年よ。君はたしか、数度見ただけで技を覚えられるほどの天才だと聞いている。それは事実なのかね?」

 片目で常にとらえていたからか、支部長さんの声にすぐに反応することができた。

「正確には、模倣に一度、習熟に一度、習得に一度の計三度ですね。一度目で見た相手の技を模倣できるようになり、二度目で自らの体で最適化。三度目で完璧に使えるようになります」

「ッ!?」

 その俺の言葉を聞いて、天通美龍さんが驚きからか立ち上がる。
 更には聞こえていたのか、一部の道場生までもがその手を止めて、こちらをみやる。

「ではもう1つ質問だが、その技を見る相手と言うのは、誰で良いのかな? やはり技術の高い者が見せる方が効率が良かったりはするのかい?」

「それは……わかりません。今まではどの道場でも、一番下から始めさせられましたし、上の人の技を見せてもらえる頃には、その人たちよりも上手く扱えるようになってましたから」

 それゆえに道場を転々とした。
 入ってからわずか一月から数月ほどで、その道場のすべての技を完全に覚えて使いこなしてしまう。
 それも俺のような子供ができてしまうことから、俺は天才ともてはやされつつも、同時に疎まれてもいた。

「では今日はせっかくだ。美龍様の技を見せていただくのはどうだろう? とても良い勉強になると思うのだが。よろしいでしょうか、美龍様?」

 支部長のその言葉で、ようやく驚きから戻ってきたらしい美龍さんは、1つ頷くと俺に声をかけてくる。

「では私が技を見せます。あなたが本当に、技を数度で覚えられると言うことを、私も知りたいですし」

 そして彼女は道場の中央に立つと、門下生が的となる人形などを用意する。

「私は現在、三指までを覚えています。ですが三指は天通流の者でないと感じることができない技です。なので一指と二指を続けて見せます。では、いきますよ?」

 そう言って彼女が構えると、周囲の空気が一変する。

天通流一指あまつりゅういっし指旋突しせんとつ

 彼女が剣を突き出すと、離れた場所の的が撃ち抜かれる。

天通流二指あまつりゅうにし示払しふつ


 続いて彼女が剣を横薙ぎにすると、前方に離れて並んだ的がすべて撃ち抜かれる。

「これが天通流の技です。いかがでしたか?」

「貸してください」

 俺は支部長さんに剣を貸してもらえるように頼むと、的を用意し直してもらって、先程の彼女と同じ場所に立つ。

天通流一指あまつりゅういっし指旋突しせんとつ

 俺が放ったその技は、彼女のように的の中心を撃ち抜くことはできなかったが、的をしっかりと射抜く。

天通流二指あまつりゅうにし示払しふつ

 続いて放った技は、彼女のようにすべての中心には当たらなかったが、確実に的を射抜いて見せた。

「そ、そんな……」

「これはこれは……」

 これには美龍さんも支部長さんも驚いたようで、二人とも声が裏返っている。

「少年。君のその才能は、正直予想以上だったよ。素晴らしいと思う」

 年の功からか、すぐに顔を引き締めて俺を誉めてくれる支部長さん。

「美龍様。彼は面白い物を見せてくれました。私はこのまま、彼を本家に送りたいと考えています」

「………………」

 支部長声が聞こえていないのか、反応を示さない美龍さん。

「仕方ないか。では少年よ。君はどうしたい? ここで……親の近くでゆっくりと学ぶか、親と離れて本家へ行き、そこで最強を目指すか」

「俺は……」

「あなたッ! 私の家へ来なさいッ!! 共に魔力騎士の頂点を目指しましょうッ!!」

 俺を誘う支部長の言葉に戸惑う俺を、美龍さんが目を輝かせて誘ってくる。

「どうだろう? 考えてみてくれないかい?」

「あなたとなら私、一緒にもっと上を目指せると思うのッ!! お願い。私と一緒に来てッ!!」

 二人の真剣な目を見た俺は、少し考えてから結論を出す。

「よろしくお願いします。両親の説得を手伝ってくれるなら……ですが」

「もちろんだよ。一緒に挨拶へと伺おう」

「それくらいなら何でもないです。今からでもいきましょう」

 こうして俺はこの日、正式に天通流の門下生となった。
 この後支部長さんと美龍さんと三人で両親に話をして、天通流の本家へと内弟子として迎え入れられたのだ。

「これからよろしくね? お兄さま」

「えっ、と。こちらこそ、よろしく頼むよ」

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「こうして僕は無事、天通流の一員となった。そしてこの一年後に婚約して天通限無の名前をもらった」

「そうだったのね」

 僕が話し終わる頃には、夕飯の時刻になっていた。

「それじゃ、また明日」

「えぇ。また明日ね」

 僕は彼女と挨拶をかわすと、部屋を出て自室へと向かった。

「今ごろどうしてるだろうか?」

 今日大和さんに話したからか、ふと美龍の事が気になった。

「今更……だよね」

 今の僕では、まだ天通家には戻れない。
 それに今は、大和さんがいてくれる。

「頑張らないとな」

 今年こそは、トーナメント本戦に残る。
 そうしてできることならば。

「大和さんと決勝で戦いたいな」

 意識と決意を新たにして、僕は帰り道を走って帰った。



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