欠陥魔力騎士の無限領域(インフィニティ)

inten

天通流無手の型 | 気力と魔力

欠陥魔力騎士4

天通流無手の型  気力と魔力

「気っていうと、魔力の主な元となる精神エネルギーとは逆に、肉体の持つ物質的なエネルギーのことよね? でもあれは……魔力に比べて脆弱だし、肉体的エネルギーである以上精神エネルギーである魔力よりも出力の最大上限が低いはずよ?」

 やはり大和さんは博識だ。
 「気」なんてものは、遥か昔に見限られたエネルギーであり、魔力が解明されて効率化される前の時代の遺物とされている。
 今では知っているのはよっぽどの物好きか、専門職の人たちのみと言えるだろう。

「その認識は正しくて間違っている。確かに『気』は物質的エネルギーなんだけど、物質的エネルギーであるがゆえに、この世の万物すべてに宿っているんだ」

「そんなバカな!? 万物すべてなんて、それこそ魔力なんかとは比べ物にならない規模よ!? そんな物が扱えるなら、魔力なんてサブにすらならないわよッ!!」

 その通り。
 古の達人たちが使っていた「気」という存在は、「自らの肉体から生じる物質的エネルギー」ではなく……「この世の万物すべてが宿している内在的エネルギー」のことだったのだ。
 それこそ、魔力という結局は自分一人から生じるエネルギーなんかとは、その総量も出力も桁が違う。

「ここで更に問題なのが……気は魔力ではないため、相手の防御を貫通できるんだ」

「何を言っている……の? 魔力と気だって、それがエネルギーという存在である以上、互いに干渉するはずでしょッ!? 実際過去の実験の結果として、魔力が気を弾いたという記録があるし、例えどんなに気の方が大きくても、魔力によって減衰できるはずッ!!」

 これもその通りだ。
 僕も「気」にたどり着いたときに調べたから、これらの実験結果を知っている。
 当時の最先端技術同士のぶつかり合い。
 その結果として「気」は「魔力」に負けている。

「昨日の僕の技を見ただろう? あれは『気』を使っていたんだ。だから相手の防御を貫通してクリティカル……一撃で勝敗が決まった」

「なる……ほど。納得できないけど、納得するしかないってことね。悔しいけど、確かにあれは未知の技だったわ」

 僕は「気」という技を見て覚え、それを現代の技で応用した。
 僕には「見ていない物を想像して達する」ことはできなかったが、「覚えているものを組み合わせて新しいものを作る」ことはできた。
 そうして僕自身が一人で作り上げた武術……それが「天通流無手の型」なのだ。
 そして僕はこの「気」の力を、「気力キリョク」と名付けた。

「僕はこの技を使って、数々の大会で圧勝できると考えていた。事実、この技を使った戦いでは負けたことがない」

 けれどそれは、僕の慢心だった。

「僕はその技を使った『戦い』では負けたことはない。けれど一度も、その技を使って『試合』に勝ったことはないんだ」

「どういう……ことなの?」

 この天通流無手の型は、「魔力」を用いない技だ。
 「気力」という未知の力を使っているこの技は、大会側から反則とされたんだ。

「僕は初めて大会でこの力を使ったとき、その試合は無効試合となった。『わけのわからない力』を使用した僕は大会運営に連れていかれて、そこで説明を求められたんだ」

 僕はここぞとばかりに、「気力」の凄さを語った。
 実演しても見せた。
 模擬試合ということで、非公式のフェーデも何回も行った。
 けれど、そのすべてを一瞬で終わらせてしまった僕は、観測機器さえも観測できない技術を使っているとして、この技を使用しないように通達された。

「これによって、僕は『天通流無手の型』を試合で使えなくなったわけだ」

 そして僕の悪夢は、これで終わりではなかった。

「僕は『天通流無手の型』を使えなくなったけど、それはつまり『気力』を使えなくなったというだけであって、『魔力』を使えなくなったわけではなかった」

 だから僕は、「魔力」を用いた「無手の型」を使おうとした。

「けれど、これは不可能だったんだ……」

 なぜなら、「フェーデ」に使用できる武器の中に無手」は存在しないからだ。

「『フェーデ』は基本的に、武器での戦いだ。防具をつけての真剣勝負。それゆえに、『防具としての籠手』はあっても、『武器としての籠手』は存在しない」

 だから僕は、「フェーデ」で「無手の型」を完全に使えなくなった。

「けれど、僕は『天通流皆伝』だ。『無手の型』は確かに強力無比だけど、『武器』を使えないわけじゃない」

 しかしこれも、この「無手の型」の力……つまりは「気力」によって使えなくなった。

「これは、改めて『魔力』を使って戦うことを決意して、『武器』を使って『普通の天通流』を使おうとした時にわかったんだけどね?」

「『気力』を覚えたことで、『魔力』を使えなくなったってこと?」

 確かにそれは最悪だろう。
 けれど、僕は「一度見たものはすべて覚えられる」し、それを忘れることなどあり得ない。
 つまりは「気力」を覚えたことで、「魔力」を忘れたわけでも、使えなくなったわけでもない。

「武器が……ね、僕の魔力に耐えられなかったんだ」

「そんなバカなッ!? いくら防具に比べて武器の魔力抵抗力が弱く設定されているといっても、それはあくまで『魔力伝導率』を上げるためであって、魔力を受け入れる容量そのものは、武器の方が上のはずッ!!」

 フェーデの武器とは、「魔力」を効率的に運用するための「技術の結晶」であり、それは長い歴史の中で積み重ねられた最適解だ。

「その『効率的な』という部分ゆえに……僕の『魔力』は武器のキャパシティを越えてしまった」

「どういうことなの?」

 この事は、僕もこうなって初めて知った。
 フェーデの武器に使われる「魔力」とは、「使用者のエネルギー」を「最大効率で取り出したもの」のことであり、ここには当然「気力」も含まれる。

「つまり僕は、この『気力』が強大過ぎるゆえに、必然的に『魔力』も強大になってしまった。それこそ、『魔力』を使用した数秒後に『武器』が壊れてしまうくらいに……ね?」

「そんな……!? なら貴方は現状、『魔力』も『気力』も使えないでフェーデをしているということ!?」

 そういうことだ。
 これこそが僕がこの学園で「留年」した理由であり、365戦0勝365敗の結果の根本的な原因だ。

「一応言い訳させてもらうと、この365敗はすべて、特殊ルールによる判定決着だよ。僕は魔力を使えないから、相手に有効打を与えられず、けれども相手からも勝負が決まる攻撃はくらっていない」

 けれども「判定」は有効打を与えたと言う結果だけで決まるため、僕は負け続けたといわけだ。

「僕は一応、前年度の首席入学だって自己紹介で言ったけど、あれは嘘じゃないよ。この学園の入学順位は、『受けた試験の中での最大成績』で決まる。当然僕は『魔力量』で二位以下と圧倒的な差を作った。だから前年度首席入学なんだよ……」

 そして去年、首席ということで期待され、更には史上最年少の天通流皆伝というネームバリューも合わさり、僕は普通の天通流で戦うしかなかった。
 こうして僕は「期待はずれ」の烙印を押され、けれども事情を知っている学園長などの一部の先生方の配慮によって「留年」となった。

「さて、と。これで全部だと思うよ。僕から話せることは……ね」

 大和さんを助けた時みたいな緊急事態なら、僕は遠慮なしに「無手の型」を……「気力」を使える。
 けれど、この学園を含めた「普通のフェーデ」では、僕はまったくその力を使えない。

「僕の話を聞いて、大和さんの知りたいことはわかったかな? 今日はそろそろ、解散としないかい?」

 結構長話になってしまった。
 内容も軽いだけではなかったし、いきなりこんな話を聞いて、大和さんは大丈夫なのだろうか?

「大和……さん?」

 僕は、問いかけに答えない大和さんを覗きこむ。

「…………決めたッ!! 天通限無。貴方、私の実験に付き合わないものにならない? かわりに貴方は、私に『気力』を教えるの!! 私の研究に付き合ったならものになったなら、私が貴方の武器をつくってあげる!!」

「…………はいぃッ!?」

 世界を変えるほどの大事件。
 そんな僕らの物語は、こんな会話から始まった。



「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く