欠陥魔力騎士の無限領域(インフィニティ)

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天通流 | 皆伝と免許皆伝

欠陥魔力騎士3

天通流  皆伝と免許皆伝

「さてと、まず何から聞きたい?」

 施設見学などいつでもできると言い、大和さんは僕をつれて中庭のベンチへとやってきた。

「最初から最後まで。全部よ? ぜ・ん・ぶ!」

 何故か機嫌が悪そうな大和さんは、僕に向かってぶつぶつと何かを呟きながら迫ってくる。

「全部と言われても……。うーん、何から話そうか?」

 いざ話すとなると、どこから話せば良いかわからなくなる。

「じゃあ、最初に質問なんだけど、大和さんは天通流について、どこまで知ってるかな?」

 迷った末に僕は、まずは知識の共有からすることにした。

「えーっと、第一回世界大会の優勝者がおこした流派で、今では世界中に支部がある大きな一門。ランキング上位の数割が天通流の皆伝で、世界最強の流派の1つに名前が上がっている……くらいかしら?」

 ふむ、無難なところだな。
 外に出してる情報のほとんどを知ってる感じか。

「さすが、博識だね。そこまで知ってるなら、最初に天通流の技について教えるね?」

 そうして僕は話し出す。
 天通流という流派の技と、それに伴う階級について。

「まず天通流には、一指から始まって十指までの十の技がある。この技を使える数がそのまま、天通流としての階級を表していて、九指までを扱えるようになった者を『天通流皆伝』と呼び、十指まで扱えるようになった者を『天通流免許皆伝』と呼ぶ訳なんだけど……」

 天通流はエネルギーをコントロールし、自由自在に肉体強化や体外放出を行う。
 これら一指から十指までの技は、基本にして奥義であり、極意にもなっている。

「僕はさっきの自己紹介の通り、九指まで扱える『天通流皆伝』で、もう一人の方は『天通流免許皆伝』と名乗っている以上、十指まで扱えるというわけ。……ここまではいい?」

 ここで一度切り、少し間を置く。
 ここから先の話は、僕自身の事も含んでいく。
 どうやら無意識に、僕は彼女に失望されたくないと思っているらしい。
 それほどに、ここから先の話はプライベートなのだ。

「実は僕は、天通家の血はひいていないんだよ」

「なん……ですって?」

 僕のその切り出しに、大和さんは初めてその顔を歪ませる。

「僕は生まれつき、『一度見たものは何でも再現できる』という特異能力を持っていて……。物心つく頃には、フェーデの試合でプロが使っている技すらも、再現できるくらいだった」

 一度見るというのは、直接間接関係なく。
 目の前で行われたことをできるようになるだけでなく、映像を見ただけでもその映像の通りに再現できた。

「これは天賦の才だって両親は喜んで、僕を近くの道場に通わせた。それが六歳くらいだったかな? そして僕は、一月もかからないでその道場の技をすべて覚えてしまった」

 見ただけでおぼえられる僕は、必然的に稽古を見たり型を見たりするだけで技を覚えられる。
 かかった時間=技を見せてもらうまでの時間であり、多分全部を見せてもらえたら、一日で覚えていただろう。

「最初はまわりも僕自身も、見て覚えられるというのではなく、剣の才能があるんだと思っていた。だからその道場からの紹介で別の道場へ行って、その道場の技をすべて覚える。それを繰り返していって、最後にたどり着いたのが天通流だった。十歳の頃だったかな……」

 そして当然のごとく、天通流の技も次々に覚えていった。
 天通流一指から九指までを半年もかからずにすべて覚え、僕は史上最年少で天通流皆伝をもらった。

「でも本当は、僕に剣の才能はなかった。あらゆる武器も技も、『見れば覚えられる』才能。これはつまり『見なければ覚えられない』ということでね? 僕はどうしても天通流十指『創解そうほどき』を使えなかった……」

 当時の僕は希代の天才剣士と呼ばれていて、天狗にもなっていた。
 実際体格差をものともせずに戦い、誰よりも……それこそ現当主の義父よりも九指までをうまく使えていた。
 当然十指の「創解」だってすぐに覚えられると思っていたし、その才能を認められて次の当主である「天通限無」を名乗ることも許された。

「天通家には直系の女の子がいてね? 彼女と婚約することで、僕は天通限無という名前をもらった」

 婚約したのが11歳の頃で、相手の娘は1つ下の10歳。
 年が近い事もあって、結構仲良くさせてもらっていたし、相手も僕のことを慕ってくれていた。

「けれど結局……それから一年たった12歳になっても、僕は十指を覚えられなかった。それまで挫折を知らなかった僕は、いつまでも使えない事に絶望し、家を飛び出してしまったんだ」

 それからしばらくは、天通流の家にも実家にも戻らず、各地を転々としていた。
 フェーデの大会に出ては「創解」を使えるようになるためのヒントを探し、大会の間は選手村で食いつないでまた別の場所へ。
 そうした戦いの日々の中で、僕は自分の才能が「コピー」だと気づいたんだ。

「一度見た技は完全に覚えられる。大会で相手が使う初めて見る技も、二回目には同じ技をより完成度を上げて使うことで、確実に勝てた」

 そのまま成長して一年。
 13歳になった頃に、僕は自分の能力に確信を持てた。
 どんなものがコピーできてできないのかを試して、僕の能力は「見た」ものを「コピー」することだとわかったんだ。
 ……実際、フェーデで使われる技以外にも、大道芸や乗り物の扱い方、手品や料理なんかもコピーできた。

「だから僕は思ったんだ。すべての技や技術を覚えれば、そのどれかが十指に届かせてくれるんじゃないか……? とね」

 それからはとにかくがむしゃらで、大会に出るだけじゃなく図書館にも行き、あらゆる武術の技を映像で見て覚えていった。

「そして大きな図書館で見つけた古い映像に、目を奪われたんだ」

 その映像では人が無手で戦っていて、無手同士だけでなく、無手で武器にも勝っていた。

「無手という今では考えられない方法で戦う達人たちに目を奪われた僕は、中央の大きな資料室などにも通ってあらゆる映像資料を覚えていった。そしてその中で、魔力とは似て非なるエネルギーである、『気』の存在にたどり着いたんだ」

 僕はこの力を知ったことで強くなった。
 いや……「強くなりすぎた」と言うべきか。
 それほどまでに、この「気」という力は強大だったのだ。

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