夏の想い出~メモリアルDAYS~

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俺と彼女とハッピーエンド

「あれから10年……か」

 約束の8月31日。
 市役所の前に立つ俺は、久しぶりに訪れた街の雰囲気を懐かしんでいた。

「なーに黄昏てんのよ、似合わないっつーの」

 聞き覚えのあるその声に振り向くと、きれいな女性が立っていた。

「湊……か?」

「何? 私の顔、見忘れちゃったの?」

 その反応がどこか懐かしく、俺は心があつくなる。

「久しぶり……だな。約束、覚えていてくれたんだ……」

「……あのさ? それ、いつまで続けるつもり?」

「何を言っているんだ? これが10年ぶりの再会なのに……」

「あーあーあー、そーゆことね。わかったわかった。そーゆー設定でやりたいのね?」

「湊……会いたかっ「バカじゃない?」ぐはっ」

 俺が湊に抱きつこうと歩み寄ると顔面を殴られた。

「何するんだっ。10年ぶりの再会なのに!」

「昨日も会ったじゃん。その設定恥ずかしすぎるよ?」

「…………湊さん。それは言ってはいけません。僕たちは今日、この約束の市役所で10年ぶりの再会を「私の事好きすぎて、お別れの翌日には電話してきたのに?」ぐはっ」

 仕方ないじゃないか、声が聞きたかったんだから。

「昔の湊なら、こういうシチュエーション大好きだっただろ?」

「えぇ確かに、10年前ならねっ」

 この10年、俺たちの仲は良い意味でも悪い意味でも変わらなかった。

「……まぁいいや。ここに来たってことは、約束を果たしてくれるんだよね?」

「いや、あんたがしつこいから仕方なくよ。仕方なく」

「湊ぉぉぉ」

「いやだってさ? 私たちもう一緒に暮らしてるじゃん」

 そうなのだ。
 俺は高校に入る時にこちらに戻ってきていて、その時点で両親公認の同棲を始めていた。


「け、けどさ? 一応節目として「肝心のこれを忘れていったのに?」ほへ?」

 そう言って顔の横で手を振る湊の手には、見覚えのある小さなケース。

「えっ、ちょっ、おまっ……それ、えっ?」

 俺は慌てて鞄を漁ると、中に肝心なそれが無いことに気づく。

「すみません、湊さん。それ、わたしてもらえますか?」

「あはははっ。やっぱりあんたには私が居ないといけないわね」

 ぐぅの音も出ないとはこの事だろう。
 10年前は尻にしいていた相手に、今は尻にしかれている。
 しかしそれがどこか心地よく、俺とあいつの関係はこのままずっと続いていくのだと確信できる。

「んじゃ改めまして」

「これからもよろしくね? 旦那様」

 こうして俺と彼女はハッピーエンドを迎えた。


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