転移先での国取り合戦

てんとう虫

第三章5話 負の感情

「国王同士の対談が終わったら、話の内容をロベルトさんに聞きに行こうと思う。」

宿のドアを開けながらそう言うと、発言したことを後悔した。そもそも聞いてくれる人がいなかった。

アリアとルーがまだ寝ていたので、ハンマー投げの要領で枕をぶつけることにした。遠心力で枕を投げるときの初速を上げ、至近距離かつ最高威力で枕をぶち当てた。

枕はそれなりに重量があったので、相当なダメージが入るはずだ。

だが両者とも起きるどころか、呻き声さえも出さなかった。

「やるなお前ら。次は容赦しないぞ。」

そういって俺は右腕を前に出し、フレイムの魔法を放った。

「熱っ!」

アリアが叫んで飛び起きる。ルーは無言で竜を呼んで飛んでいってしまった。

今考えれば火属性の魔法は良くなかったと思う。いつも俺達のパーティーが宿泊している宿は木造であり、室内の備品も全て可燃物だった。

さらにその日は晴天続きの延長線上にあり、カラッと乾燥した日だったのだ。

燃えないはずがない。炎さんにとって活動しやすい好条件が揃いに揃っているのだからな。

見事なほどに燃えた。こんなに大きな火は生まれて初めて見たとか言ってみたかったものだ。おれが当事者ではなく第三者の野次馬だったのならばな。





その翌日、建物の値段の高さを実感した。おおよそ所持金の9割を弁償代に奪われてしまった。

宿の店主は逆に喜んでいた。本当の値段の倍を請求できたそうだ。迷惑料込みで。

「おいアリア。お前が起きないからこんなことになんたんだぞ。」

「そもそも発想がおかしいですよ! 起こす必要がどこにあったんですか!」

確かに、すぐに起こす理由は特に無かった。やべぇ。

「私も同感です。あと、寝ている人を起こすのに魔法を使うのは冷酷です。人の痛みを知ってください。もしかして感情を持ち合わせていない系の人間ですか? 」

ルーが淡々と語る。そっちの方が感情無いだろって言いたくなるくらい、一定の声の大きさで一定の速度で一定のイントネーションで言ってくる。

「うるせぇ! 悪かったよ。俺に非があるのは認める。てか、最初から分かってたわ!」

とりあえず今日は野宿だな……

ふとそんなことを考えながら、焼け焦げた宿跡を後にした。





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