転移先での国取り合戦

てんとう虫

第二章 最終話 真意

  ――ピー、ピー、ピー、――

意識がはっきりしない中、電子音のようなものが聞こえる。その音が何なのかは全く把握出来ない。

水の中でフワフワ浮いているような感覚だ。深海の底からだんだんと浮上していっているように錯覚する。

意識がはっきりしてきた。脳の活動が始まったようだ。

大介は重い瞼を開いた。目の前には天井があり、木材の継ぎ目が見える。

  ――ピー、ピー、ピー、――

体を起こしてみると、電子音の正体がわかった。心拍計から出ている音のようだ。どうやらここは病院らしい。モニターを見てみると、安定した脈拍だった。医者の仕事に就いていたおかげで、専門用語や略の意味が読み取れた。

自分の体を見てみると患者衣を着せられており、蜂によってつけられた切り傷が多く見られた。

落ち着いてから周りを見てみると、隣でアリアとルーが眠っていた。俺より怪我がひどいらしく、患者衣だけの俺とは違い、酸素マスクやら点滴やらが繋がっていた。ちょっと焦ったが、命に別状は無さそうなので安心した。

「お目覚めですか。」

急に話しかけられ、驚いた。振り返ると、服装から考えて看護師が話しかけてきたようだ。

「あ、大丈夫です。」

「そうですか、いろいろ混乱してるとは思いますけど、今は安静にしておいてくださいね。」

そう言い残して、看護師さんは部屋からでていった。

聞きたいことが山ほどある。そうだ! 大介の聞くことリスト! パート2!


・そもそもこの病院はどこなのか。
・俺が意識を失った後どうなったのか。
・なぜ蜂が襲ってきたのか。
・結局戦争はどうなったのか。
・他の兵士達は無事か。


「くっそ、まだ体の節々が痛え。とりあえず二度寝するか……」

そう思ってベッドに戻ることにした。だが、ベッドの脇に置いてある小さなゴミ箱につまずき、俺は見事にこけた……。

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


  ――ガチャ

誰かが病室に入ってきた。結局眠ることが出来なかったので、すぐに気づいた。

「大介、無事でなによりだ。」

目の前にいたのは国王ロベルトだった。

「ロベルトさん!?」

「何をそんなに驚く? 私が嫌いか?」

「いや、そうじゃありませんけど。ていうか、聞きたいことがたくさんあるんですけど!」

「そうだろうな。私もそれを説明するためにここに来た。」

「じゃあお願いします。」

「まず、竜の国を滅ぼしたのは覚えているだろう。そのあとに蜂に奇襲されたのもだ。」

「もちろんです。」

「つまりだ。あの連合軍は偽りだった。」

「偽り?」

「うむ。本当の連合は神、蟲、霊の3か国だけで結ばれており、我々人の国と竜の国を倒すのが目的だった。まず4か国で同盟を組んだふりをして、竜の国を潰す。そして終わったと見せかけて、人の国に総攻撃を仕掛ける。それが狙いだった。」

「それじゃあ、人間はいいように利用されたってことですか?」

「その通りだ。だが私はその作戦に気づいた。情報の網を最大限張り巡らせたおかげだ。そこで、本来城に残すはずだった弓聖と魔聖を終戦直後に送りこんだ。」

「弓聖と魔聖ってなんですか?」

「三聖という言葉を聞いたことはないか? 三聖というのは、剣聖ヴォルテール、弓聖アーミン、魔聖レオナールの3人で構成されており、どいつも化け物じみた強さを持つ軍の最高機関だ。」

「確かに剣聖は化け物だったな。」

「話しを戻すが、その二人が間に合ったおかげで、蜂の大軍と、霊の国のゾンビ軍団は壊滅した。だが、いくら強くても3人しかいないのだ。神の国と戦っていた部分ではこちらに甚大な被害が及んだ。結局戦争に行って生き残ったのは、君たち3人と100人程度の兵士達だ。優秀な指揮官も多数失ってしまった。」

「結局戦争はどうなったんですか?」

「まぁ見ての通り、人の国は存続しておるが、力が大幅に減った。これからは勢力を戻すのに時間を費やさねばならない。」

「結構ヤバいな……まぁでも、アリアとルーが生きていて良かった。ちなみに俺達を助けてくれたのは魔聖レオナールさんですか?」

「いや違う。確か蜂の抹殺に向かったのは弓聖だった。」

「え、でも意識を失う直前にすごい炎が見えたんですが。絶対あれは上級の火属性魔法ですよ。」

「実は弓聖アーミンは魔法弓まほうきゅうの使い手なんだ。魔法を矢に込めて放つらしい。」

「それは反則だろ!」

「説明はこれで以上だ。鍛練は怠るなよ。」

「はい。」

ロベルトは病院を後にした。

説明によれば、竜の国は完全に滅んだっぽい。
後は神、蟲、霊か……。統一までの道のりは長そうだ。

再び隣を見る。アリアとルーが静かに眠っている。

  ――本当に生きてて良かった。――

窓の外を眺めながら、安心して泣いた。幸せの涙ってのはいいもんだな。と本気で思った。

涙は頬を伝わり顎に溜まり、大きな粒となって落ちた。全く音を立てず、静かに落ちた……。

という落ち着いた雰囲気の中、強い風が吹き、葉っぱが顔にぶつかった。まだ緑色の葉が風によってちぎられたようだ。顔から外して見てみると、美しいラインの平行脈だった。

  ――単子葉類か、ちょっとまでの俺みたいだな――

と、感傷に浸っていると……

  ――キーーッ!――

顔を上げると窓から大型の鳥が突っ込んできた。もちろん顔面に直撃し、クチバシが皮膚を切った。

「さっきから何なんだよ! 静かに2章を終わらさせろよ! この鳥がぁ!」

  ――キーーッ!――

大きすぎたため、頭しか入ってきていない。鳥が暴れて抵抗する。俺は必死に掴む。だがそこで異変を感じた。

「ん? 鱗?」

掴んだのは鱗だった。よく顔を見てみると竜だった。

「お前ルーの相棒だったのかよ! 安心しろルーは無事だ。」

  ――キーッ――

竜はルーの眠る姿を見ると、安心したのか静かに欠伸をするように唸った。


             第二章 完結







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