転移先での国取り合戦

てんとう虫

第二章9話 裏

洞窟をでると、日は沈みかけていたが眩しかった。洞窟の道中は明かりが全く無いため、この明暗差は目に負担がかかりそうだ。

「なぁルー。さっきの話の続きなんだけど、俺達のパーティーに入らないか? お前で3人目なんだ。」

「もちろんです。私はこう見えて戦闘には長けているので、きっと役に立つと思います。」

ルーはさっきまで泣いていたが、いつの間にか泣き止んでいた。

「よし決まりだな。とりあえず急ごうか。置いていかれたら大変だからな。」

「大介さんヤバいです! 馬車が出発しそうですよ!」

アリアは次々と馬車に乗り込む兵士達を見て、焦っていた。

遅れたらシャレにならないので、俺達3人はとにかく走った。

――ふぅ、ギリギリセーフだったぜ――

間一髪間に合った。魔力を使い切ったせいか、帰国の馬車に乗れて安心したせいか、どっと疲れが出てきた。

そのまま眠ってしまおうかと思ったが、途中の分かれ道で右に曲がるはずなのに、その馬車が右に曲がったため、一気に目が覚めた。

「運転手さん! 道間違ってませんか? あ!」

そこで大介は気づいた。その運転手のおじさんはラキュラ戦のときの馬車と同じ人だった。

「間違ってはいませんよ。ただ、来た道が土砂崩れになったらしくてね。仕方なく、霊の国の領土内を通ることになったんです。霧が深いですが、お気になさらず。」

「なるほど、ありがとう。」

何か違和感がする。ラキュラ戦のときもそうだった。大量の血にも動じなかったし、このおじさんからは武の匂いがする。

「おじさん、失礼だけどあんた何者だ?」

いかにも怪しい。いつでも剣を抜ける体勢を整えた。

「ほう、あんたいい目をしているな。その観察眼には頭が下がる。だが安心せい。私はお前達の味方だ。」

「どういう意味だ?」

「そのままだ。」

だんだんと霧が深くなってきた。もはや5m先も見えない。幽霊でも出てくるんじゃないかと思うと寒気がする。

とりあえず寝るか……

そこで事態は急変した。

「おい! 向こうから何か来るぞ!」

なぜかそのとき味方の声がよく通った。薄暗い森の中、緊張で皆が静かだったからだろうか……。

「とにかく全員構えろ!」

そんなことは俺にだって分かる。しかし、さっきから流れてくる霧のせいで視界が悪すぎる。

  ――くそ、何が来るっていうんだ!――

霧の中に揺らめく無数の影がかなり近くまで来たとき、それは姿を表した。

「なんだ、この蜂はぁーー!」

蟲の国の蜂軍をこんな間近で見たのは初めてだった。おそらく、他のソルジャー達も一緒だろう。

その巨大な蜂の大軍は、しっかりと隊列を組んで帰国中の馬車に襲いかかってきた。

――て、敵襲!!!

四方から叫び声が聞こえる。突然の奇襲だったため、兵士たちはことごとく殺されていった。

「くっ、まずい。状況の理解が追いつかねぇ! アリア、ルー、ここはひとまず逃げるぞ!」

3人は馬車から飛び降り、急いで逃げようとした。だが世の中そんなに甘くはない。既に囲まれていたのだ。

「どうやってこの場を切り抜けるんですか、リーダー?」

ルーの口調は落ち着いている。

「策が無いことはない。だが、この戦力差でやれるかどうかだが……やるしかねぇか。」

魔力は尽きた、疲労もピークに達している。なら、できることは1つしかない。

「アリア! 弓をぶっ放せ! ここが使いどころだぁー!」

最後の望みをアリアに託す。あの破壊力ならこの大軍も一掃できるかもしれない。

「あ、すみません。もう矢がないです。」

「さらっと絶望的なこというな! そういえば、蜂って熱に弱かったはずだな。くっ、せめて俺の魔力が残っていればフレイムが使えたのに。」

「なら私の出番ですね。パーティーに加入していきなり活躍の場ができるとは思ってませんでしたが……」

そういうとルーは服の中から笛を取り出した。
その唇をそっと吹き口に当て、美しい音色を奏でた。

一瞬間をあけてから、ルーのもとに一体の竜が飛んで来た。ルーは素早く竜の上に乗り、ブレス攻撃で蜂軍を翻弄した。

  ――すげぇ!

「ってちょっと待てよ! さっき竜は全滅したはずだぞ!」

「この子は私の相棒です。いつもあの洞窟の上で暮らしているので、戦場には行かなかったみたいです。」

蜂は竜の火炎ブレスによりジリジリと引き始めた。だが多勢に無勢、数が多すぎる。竜一体に対し、敵は1000匹以上はいる。

ルーの相棒も疲労してきた。全線はしだいに押し返され、まさに三分天下だった。

「リーダー、マズイです。このままだとやられますっ!」

  ――何か別の手はないのか!

必死に思考回路を動かす。だが焦りという障害のせいでうまく作動しない。

「あっ……」

後ろにいたアリアが声にならないものを発した。背後から巨大蜂の太い毒針を刺されていた。背中から腹を突き抜け、血と肉がこぼれでる。

「うっ!」

前ではルーとその竜が倒れた。かなりの傷を負っていて、大量の血が流れている。放っておけば絶対に死んでしまう状態である。

  ――ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい――

だが次の作戦を考える前に攻撃がくる。

  ――ガキーン!

なんとか剣で防ぐが、次々にくる猛攻を剣一本で防ぐのは至難の業である。自分1人の力では味方を助けることは愚か、自分の命さえも守れない。

孤軍奮闘しながら俺は本気で泣いた。戦いに負ける悔しさでは無く、1度に仲間を全て失うであろう覚悟の涙である。

だがその瞬間、燃え盛る業火と共に蜂の大軍は消滅した。

  ――何が起きたんだ?――

だが、その状況を把握するより先に中川大介は意識を失った。






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