転移先での国取り合戦

てんとう虫

第二章8話 竜と人と

最初は各国共に優勢だったが、竜陣営は亡国の危機にさらされているため、全く諦めていなかった。そのため、どの国も膠着状態となっていた。あの神の国でさえもだ。

「くそ、やられればやられるほど強くなってきやがる。」

俺を始め、通常の兵士達は目の前の竜を倒すのに精一杯という様子だった。

「うお〜! フレイム! フレイム! フレイム!」

近接攻撃は届かないため、とりあえず魔法で反撃するしかない。だが、魔法ばかり放っていれば魔力が無くなるのは必然である。

「くそっ、疲れた。おいアリア! 弓は届くか?」

「やってみましたが届きません! かなり高く飛んでいます。」

他の兵士達の表情にも疲労が表れており、魔力が尽きてきたようだ。

――このままじゃ、マズイな……

そのとき、人間陣営が動いた。

「ソルジャー達よ! 道を開けろ!」

振り返ると、かなり後方から一級コマンダーが指示をだしていた。

  ――一体なんだ?――

すると、開いた道の先に一人の男が立っていた。髪は黒く、遠くから見ても強さが実感できた。

――こいつ、強いな――

その男は剣を大きく振りかぶり、鋭く降り下ろした。

その瞬間、岩を吹き飛ばすような突風と斬撃がとび、交戦中の竜を真っ二つに切った。竜の亡骸は真っ逆さまに落ち、地面に強く叩きつけられた。それと同時に歓声が沸き起こった。

「大介さん、あれは剣聖ですよ! 三聖の1人、剣聖ヴォルテール! 噂でしか聞いたことがなかったので初めて見ました。めっちゃすごいですね! テンション上がりますよ!」

「剣聖か……この世界にもいるんだな。異世界のお約束ってやつだな。それにしてもすげぇな。一撃かよ……」

剣聖ヴォルテールの活躍により、人の国が受け持った竜は全滅した。

他の国の戦場を助けに行こうとしたが、どの国も丁度全滅させたところだった。もともと勢力が弱まっていたとはいえ、こちらにも多くの犠牲者を出した竜たちには敬意を払わねばならないと思った。

「そういえばアリア、今言うのもわるいんだが、お前の親友のことは気の毒だったな。」

「いえ、大丈夫です。たぶん死んでませんよ。」

「え? でも竜は全滅したはずだぞ。」

「だから竜じゃないって言ったじゃないですか。まぁ、せっかくなので案内しましょうか?」

「そいつの居場所分かるのか?」

「はい。では行きましょうよ。」

他の兵士達が勝利を祝って酒をのんでいるのをスルーし、アリアに連れられて荒野を進んだ。

「ここです。たしかですけど……」

「いや、ここまで来て自信無くされても困るんだが……」

そのとき目の前のあったのは、入り口の小さな洞窟だった。

「とりあえず進みましょう。」

アリアを先頭に洞窟の中に入っていった。乾燥して水溜まりの一つも無かった外の荒野とは違い、じめじめしていて天井から水が垂れてくる洞窟だった。

  ――ピチャン……

辺りは静寂に包まれていて、水の落ちる音が大きく聴こえる。

「本当にここにいるのか?」

「はい、たぶん……」

「こっちとしては疑う余地しかないんだけど……」

しばらく進んでいると、外からの光が届かないため真っ暗になった。それでも手探りで進むと、その先に明るい場所が見えた。

「大介さん、ここであってたみたいですよ。」

アリアはこっちを向いてキメ顔をしている。

「さっきまで自信無さそうにしてたのに、そのドヤ顔はなんだ。たまたまだろ! 絶対偶然だろ!」

「偶然も2度目は運命ですよ!」

「まだ1度目だろ!」

「もしかして、アリアですか?」

アリアと軽い口論をしていると、明るいほうから抑揚の無い声がした。

顔を上げて見ると、そこにはアリアより身長が低い、黒髪の女の子が立っていた。その子は眼帯で右目を隠しており、蒼い鱗と深い緑色の鱗を交ぜて編んだような服を着ていた。そのツートンカラーは竜を連想させる。

「あっ、ルーちゃん久しぶり! 半年ぶりだね!」

「おいアリア。やっぱり人間じゃねぇか。」

「どこがですか! 大介さんの目は節穴ですか?」

「うるさいわ! 悪口ばっかり言わないでくれよ。傷付くんだよ。」

「あの、喧嘩しているところ悪いんですが、私は竜でもなければ人でもありません。」

「じゃあ君は一体……」

「私は竜と人との間に生まれた竜人です。とても正気の沙汰とは思えませんが、父も母も尊敬できる方でした。」

「竜人って初めて聞いたんだけど。」

「信じられませんか? なら私が何歳にみえますか?」

このまま素直に見た目で判断すれば14歳ぐらいと答えるだろう。だがこんな質問をするということは、もっと長生きしているはずだ。

「う〜ん、500歳くらいかな。」

「ファイナルアンサー?」

いきなりそんなことを言われたので笑いそうになったが、シリアスな場面なので堪えた。

「ブッブー、はずれです。正確には分かりませんが、だいたい2600歳くらいです。」

「紀元前じゃねぇか。」

「紀元前ってなんですか?」

「あ、なんでもない。」

「そうですか、まぁつまり寿命は竜並みということです。これで信じてくれますか。」

「もちろんだ。で、アリアとはどこで知り合ったんだ?」

「それについては私が答えます! 先日竜陣営との戦争に行ったときに出会ったんです。父親の竜と母親が戦死して、1人になっていたところでした。それでちょっと会話してたら仲良くなったんです。」

「つまり、今日で2回目の出会いということです。」

「なるほど、状況は理解できた。よろしく、俺は大介!君の名前は?」

「ベルーダ・ドレイクです。ルーとでも呼んでください。」

「よし、じゃあルー。最後に一個聞きたいんだけど……」

「構いませんよ。」

「ルーっていつも何してるの?」

「私は竜の巫女です。毎日ここで祈りを捧げています。」

「もしかして、ずっとここにいるのか?」

「はい。食事もトイレもお風呂も完備されているので、最近外に行ったのはアリアと会ったときぐらいです。」

「それは大変だな。まぁいいや、とりあえずここから出よう。なんか湿度高くて気持ち悪いし……」

「人の家を否定しないでください。というか、さっきの話を聞いていなかったんですか? 私は毎日祈らなければならないんです。」

「その必要はねぇよ。もう竜の国はさっき滅んだ。だからアリアとの縁もあることだし、俺のパーティーに入れよ。3人寄れば文殊の知恵って言うしな。」

「…………」

「おい、どうした?」

そのときルーは返事をせずに泣いていた。ルーはほぼ人間だが、半分竜の血がながれているし、竜の国は祖国でもあるのだ。

「大介さん、空気読んで下さいよ。リーダーのくせに、相手の気持ちを考えられないんですか。リーダーのくせに……」

「2回言うな! まぁ、でも今のはよくなかった。すまん……」

滅んだとか軽々しく言って悪かったな、と強く反省した。

ルーは2600歳には似合わない、大粒の涙を流した。だがその涙は、左目からしか出ておらず、眼帯の下にある右目は動じていないようだった。








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