朝、流れ星を見たんだ

うみたけ

終わりは既に始まっていた

「修也ぁ~!」

 大翔がテニスラケットを放り投げ、修也にガバッと抱きつく。修也はそれを半ば乱暴に突き放したものの、その顔は珍しく生き生きとしていて、喜びに満ち溢れていた。

「やったね、これで俺たち、ダブルスで関東一位だよ!」

 相手がいなくなったコートの上で、大翔はぴょんぴょんと飛び跳ねている。その試合を見学していた人々は、見事に高校生男子の関東大会を優勝した二人に、盛大な拍手を送った。

「まさか、ここまで来れるなんてね。」
「だよねー。でも俺たちなら、全国優勝も夢じゃないかも!」
「そうだな。」

 どちらからともなく、二人はハイタッチを交わす。その直後、大翔は右手で口を抑えてコホコホと咳き込んだ。

「おい…大丈夫か?」

 小さな肩を揺らして咳をする大翔の背中を、修也が軽くさする。

「うん、へーきへーき。」

 大翔はその手をさっと後ろに回すと、ニコッと微笑んだ。成長しても、その笑顔はまだ無邪気な子供そのもので、きゅっと細めた目がなんとも言えずに愛らしい。
 しかし修也はまだ心配そうに、大翔の背中をさすっている。

「そうか? 最近咳が多い気が…。」
「えー、なんだろ? アレルギーか何かかな?」

 大翔が首をこくっとかしげた時、「表彰式を行いますので、選手のみなさんは三コートに集まってください。」というアナウンスが聞こえた。

「行くぞ。」
「えっ、俺トイレ行きたいんだけど。」
「なんで今なんだよ…早くして。」
「うん、先行ってて。」

 修也と大翔は、別々の方向へと走って行く。その時、修也は気づかなかった。大翔がさっき口を抑えた右手に、わずかな血が付いていることに――――。

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