【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む
幕間: アマリリスの涙
 わたくしは今、魔法学校のパーティー会場にいる。談笑が交わされる中、笑顔を振り撒きながらもわたくしは不安に押し潰されそうだった。
 本来ならわたくしは、婚約者であるサーストン様にエスコートしてもらうはず。
 なのに、なのに、あの方はわたくしの隣にはいらっしゃらない。
 そしてあの方の隣にいるのは、小柄な可愛らしい少女。わたくしようなきつい顔では無く、愛らしい顔つきだ。
『アマリリス・クリスト、お前との婚約は破棄させてもらう!!』
 記憶がフラッシュバックする。前世の記憶、サーストン様との記憶、魔法学校での記憶、泥棒猫のララティーナへの嫌がらせの記憶、ゲームの記憶。
 周りの景色がぐにゃりと歪む。と、思うと、今度は真っ暗になった。
 何も見えない世界に、誰かの笑い声が響く。
「あはは、あはははは!サーストン様は、わたしのものよ!!」
「はっ!はぁ、はぁ。ゆ、夢、なのね。」
 最悪の目覚めだ。背中が汗で、ぐっしょりと濡れている。
 飛び起きそうになって、外を見てみるとまだ真っ暗だった。
『大丈夫、アマリリス?』
「!?……あ、アイカですか。」
 昨日、初めて出会ったもう一人の私が心配そうな顔をしていた。
 アイカは、ウィンドール王国の一般的な人とは少し違う顔つきをしている。それもそのはず、彼女はニホンジンだ。
 少し茶色のかかった黒髪に、焦げ茶色の瞳。私とあまり年は変わらなそうだけど大人びている彼女は、私の額に手を当てて、『熱はないみたいだね』と笑顔を浮かべる。
 それを見て、なぜか私は嬉しさを感じていた。
『敬語じゃなくていいってば。────それより、大丈夫なの?うなされてたけど。』
「え、えぇ。」
 そう私を案じてくれるアイカの存在に、私は安堵していた。
 サーストン様に、第三王子に婚約破棄をされたのだ。王族からの、公衆の面前での断罪。
 私の居場所なんて、もうどこにも無いと思っていた。
 もともと私は、黒持ちということもあってか友達がいない。家族は優しく接してくれるが、魔法学校では私の"公爵令嬢"という肩書きに釣られてやってきた子女しかいなかった。もちろん彼らは大事な学友で信頼しているしされていた関係だが、互いに踏み込めるほど仲良くなった方は一人もいない。
 だから、何かを顧みずに自分の事を心配してくれる存在に、私は嬉しくなっている。
 ただ、なぜかわからないけれど、自分のそういう所を醜く思う気持ちもあった。
 まるで、人に嫌われたから、別の好いてくれる人を探しているみたい。
 そんな自分の行動に、嫌と叫びたくなる。
 嫌、嫌よ。これはわたくしじゃない、私じゃない、別の誰か────
「……ねぇ、アイカ。私は今、きっと最悪な人間なの。」
 気付けばそう口にしていた。
 せっかく自分に笑顔を向けてくれる人なのに、言いたくないはずなのに、何かが喋る事をやめさせてくれない。
「第三王子に婚約破棄をされて、自分を悲劇のヒロインだと思って、そして哀れんでくれるあなたの存在を都合良く思っているの。」
 話しながら、胸の奥にある、形容しがたい黒い気持ちが溢れてくる。
 俯くと、白いシーツが目に入った。その清潔な白が、今は目に痛い。
「そして、哀れんでくれるあなたに、もっと哀れんで、大切にして欲しいの。」
 寒かった。冷たかった。
 もう三月の下旬だと言うのに、暖かさは私の近くには、無い。
 思わず、自分の腕をぎゅっと掴んだ。爪が腕に食い込んで痛みを感じるが、それでも余計に力を入れてしまう。
「きっと私は、あなたという人の事を、ちゃんと見ていないわ。私が見ているのは、あなたがくれる、優しい哀れみ、だけな、の。」
 言葉が震え、涙が零れた。
 なんでかはわからない。ただただ、泣きたい衝動だけがある。
 何にも考えずに、この私の奥ある何かを吐き出すように、泣いてしまいたいと、心のどこかで強く思っていた。
「なんで、かしら。最悪な私には、泣く資格なんて無いのに……」
『アマリリス……いいんだよ、泣いて。』
 不意に、温かさを感じた。包み込むような、優しい温かさ。人の温かさ。
 私を抱き締めてくれているアイカが、背中をポンポンと叩く。
 涙がどんどん溢れてくる。堪らえようとしたのに、嗚咽が漏れた。
 泣いていると、不思議とさっきまでの感情が一緒に流れていくようだ。
『大丈夫。アマリリスは、別に最悪なやつじゃない。』
「うぅ、け、けど、私……」
『大丈夫。哀れみだって、私だもん。ちゃんと、私を見てくれてるよ、アマリリスは。』
「うっ、うぅ、アイカぁ。」
『うん。アイカだよ。────ほら、泣かない。美人が台無しだって。』
 アイカは優しい声で、こう続けた。
『生きてればさ、どうにかなるから。前を向いて。────私には、出来なかったから。』
 泣き疲れたのか、アマリリスはあの後ベッドに倒れてしまった。彼女の頬に残る涙の跡が、胸を貫くような痛みを与えてくる。
 今までずっと見てきた彼女は、時に苦しんで嘆いて、けれど人前で涙を流すことはなかった。
『アマリリス、ねぇ、あの記憶持ってる?』
 答えは無い。当たり前。だって、アマリリスは寝ているから。
 規則的に彼女の胸が上下しているから、もう深い眠りに入ったのだろう。
 安らかな息遣いが、私の耳に届く。
『持っていないでね、お願い。お願いだから、あれを覚えていないでね。』
 知っているのは、私だけでいい。
 アマリリスが苦しむ必要なんて、どこにも無いのだから。
 これからは、幕間も書きたいと思います。
 幕間の内容は、過去のエピソードが中心です。ちょっと遡ったりします。また、本編では入れられなかったけれど本編に影響するような話を入れたいと思っています。
 ちなみに、時系列で言うと、今回の話は6話と7話の間です。
 本来ならわたくしは、婚約者であるサーストン様にエスコートしてもらうはず。
 なのに、なのに、あの方はわたくしの隣にはいらっしゃらない。
 そしてあの方の隣にいるのは、小柄な可愛らしい少女。わたくしようなきつい顔では無く、愛らしい顔つきだ。
『アマリリス・クリスト、お前との婚約は破棄させてもらう!!』
 記憶がフラッシュバックする。前世の記憶、サーストン様との記憶、魔法学校での記憶、泥棒猫のララティーナへの嫌がらせの記憶、ゲームの記憶。
 周りの景色がぐにゃりと歪む。と、思うと、今度は真っ暗になった。
 何も見えない世界に、誰かの笑い声が響く。
「あはは、あはははは!サーストン様は、わたしのものよ!!」
「はっ!はぁ、はぁ。ゆ、夢、なのね。」
 最悪の目覚めだ。背中が汗で、ぐっしょりと濡れている。
 飛び起きそうになって、外を見てみるとまだ真っ暗だった。
『大丈夫、アマリリス?』
「!?……あ、アイカですか。」
 昨日、初めて出会ったもう一人の私が心配そうな顔をしていた。
 アイカは、ウィンドール王国の一般的な人とは少し違う顔つきをしている。それもそのはず、彼女はニホンジンだ。
 少し茶色のかかった黒髪に、焦げ茶色の瞳。私とあまり年は変わらなそうだけど大人びている彼女は、私の額に手を当てて、『熱はないみたいだね』と笑顔を浮かべる。
 それを見て、なぜか私は嬉しさを感じていた。
『敬語じゃなくていいってば。────それより、大丈夫なの?うなされてたけど。』
「え、えぇ。」
 そう私を案じてくれるアイカの存在に、私は安堵していた。
 サーストン様に、第三王子に婚約破棄をされたのだ。王族からの、公衆の面前での断罪。
 私の居場所なんて、もうどこにも無いと思っていた。
 もともと私は、黒持ちということもあってか友達がいない。家族は優しく接してくれるが、魔法学校では私の"公爵令嬢"という肩書きに釣られてやってきた子女しかいなかった。もちろん彼らは大事な学友で信頼しているしされていた関係だが、互いに踏み込めるほど仲良くなった方は一人もいない。
 だから、何かを顧みずに自分の事を心配してくれる存在に、私は嬉しくなっている。
 ただ、なぜかわからないけれど、自分のそういう所を醜く思う気持ちもあった。
 まるで、人に嫌われたから、別の好いてくれる人を探しているみたい。
 そんな自分の行動に、嫌と叫びたくなる。
 嫌、嫌よ。これはわたくしじゃない、私じゃない、別の誰か────
「……ねぇ、アイカ。私は今、きっと最悪な人間なの。」
 気付けばそう口にしていた。
 せっかく自分に笑顔を向けてくれる人なのに、言いたくないはずなのに、何かが喋る事をやめさせてくれない。
「第三王子に婚約破棄をされて、自分を悲劇のヒロインだと思って、そして哀れんでくれるあなたの存在を都合良く思っているの。」
 話しながら、胸の奥にある、形容しがたい黒い気持ちが溢れてくる。
 俯くと、白いシーツが目に入った。その清潔な白が、今は目に痛い。
「そして、哀れんでくれるあなたに、もっと哀れんで、大切にして欲しいの。」
 寒かった。冷たかった。
 もう三月の下旬だと言うのに、暖かさは私の近くには、無い。
 思わず、自分の腕をぎゅっと掴んだ。爪が腕に食い込んで痛みを感じるが、それでも余計に力を入れてしまう。
「きっと私は、あなたという人の事を、ちゃんと見ていないわ。私が見ているのは、あなたがくれる、優しい哀れみ、だけな、の。」
 言葉が震え、涙が零れた。
 なんでかはわからない。ただただ、泣きたい衝動だけがある。
 何にも考えずに、この私の奥ある何かを吐き出すように、泣いてしまいたいと、心のどこかで強く思っていた。
「なんで、かしら。最悪な私には、泣く資格なんて無いのに……」
『アマリリス……いいんだよ、泣いて。』
 不意に、温かさを感じた。包み込むような、優しい温かさ。人の温かさ。
 私を抱き締めてくれているアイカが、背中をポンポンと叩く。
 涙がどんどん溢れてくる。堪らえようとしたのに、嗚咽が漏れた。
 泣いていると、不思議とさっきまでの感情が一緒に流れていくようだ。
『大丈夫。アマリリスは、別に最悪なやつじゃない。』
「うぅ、け、けど、私……」
『大丈夫。哀れみだって、私だもん。ちゃんと、私を見てくれてるよ、アマリリスは。』
「うっ、うぅ、アイカぁ。」
『うん。アイカだよ。────ほら、泣かない。美人が台無しだって。』
 アイカは優しい声で、こう続けた。
『生きてればさ、どうにかなるから。前を向いて。────私には、出来なかったから。』
 泣き疲れたのか、アマリリスはあの後ベッドに倒れてしまった。彼女の頬に残る涙の跡が、胸を貫くような痛みを与えてくる。
 今までずっと見てきた彼女は、時に苦しんで嘆いて、けれど人前で涙を流すことはなかった。
『アマリリス、ねぇ、あの記憶持ってる?』
 答えは無い。当たり前。だって、アマリリスは寝ているから。
 規則的に彼女の胸が上下しているから、もう深い眠りに入ったのだろう。
 安らかな息遣いが、私の耳に届く。
『持っていないでね、お願い。お願いだから、あれを覚えていないでね。』
 知っているのは、私だけでいい。
 アマリリスが苦しむ必要なんて、どこにも無いのだから。
 これからは、幕間も書きたいと思います。
 幕間の内容は、過去のエピソードが中心です。ちょっと遡ったりします。また、本編では入れられなかったけれど本編に影響するような話を入れたいと思っています。
 ちなみに、時系列で言うと、今回の話は6話と7話の間です。
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