異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~
神眼
それから。
1時間ほど歩いたところで、カスールの森に到着した。
「無理ッスよ! この人数でコカトリスを討伐するなんて……不可能ッス!」
300万コルを返済する方法について話すとシエルは顔色を青くして反対意見を唱えていた。
「コカトリスと言ったら、自分たち鍛冶屋の間では有名な魔物ッス! このドラゴンが持っている強固なウロコは、王国の騎士が使う高級防具の材料として使われることがありますから。
けども! コカトリスは本来……熟練の冒険者が10人掛かりで戦わないと歯が立たない魔物ッスよ!?」
「……そう思うなら街で待っていれば良かったのに」
「そういうわけにもいかないでしょうに! これは自分と、自分の師匠の問題ですから。他人を巻き込んだ挙句に怪我をさせたら師匠に顔向けできないッス!」
「……なあ。さっきも思ったんだけど、どうしてシエルは1人で店を切り盛りしているんだ? その師匠っていうのは今、何処にいるんだよ?」
借金を残したまま店の仕事をシエルに押し付けて蒸発したのなら、こんなに酷い話はない。
「それは……正直なところ自分にも分からないッス。師匠は凄腕の鍛冶屋であるのと同時に凄腕の冒険者でもありました。2年前……魔族の討伐に向かったっきり音信不通の日々が続いています」
「そうだったのか……」
これ以上の追及は、ヤブの中からヘビを出してしまう気がするので止めておく。
彼女には彼女なりの事情があるのだろう。
「シエルが心配するのは分かった。けど、大丈夫だ! こう見えて実は俺、超強いからな! ドラゴンなんかには負けねえよ」
「えーっと……。なんというか……その、本当に大丈夫なんスか? こういう言い方は失礼かもしれないですが……とてもそうは見えないッスけど……」
「…………」
グハッ!
こう見えてステータスの数値はそれなりに高かったりするのだが、やっぱり俺は強そうに見えないのか……。
自覚はしていたわけだけど、改めて女の子に言われると傷つくな。
「シエルちゃんの言うことはもっともだわ! 外見だけで判断すると、ソータったら全く頼りにならなそうだもの! けれども、安心するといいわ。ソータにはこの愛と美の女神……アフロディーテが味方についているのですから!」
たわわに実った胸を張ってアフロディーテは、フフンと鼻を鳴らす。
「アフロディーテって……。まさかオリュンポスの十二神の!? いやいや、まさかそんなはずないッス。いくら自分が田舎者でも、こんなミエミエの嘘には引っ掛からないッスよ!」
キャロライナの時も思ったのだが、この世界におけるアフロディーテの知名度は凄まじいものがあるな。
「ふーん。信じられないというなら証拠を見せてあげるわ。どれどれ。へ~。なるほどねぇ。スリーサイズは上から86 58 83。もしかしてシエルちゃんは脱ぐと凄いタイプ? 身長の割にナイスバディなのね」
「なっ。ななな!? 何処でその情報を!?」
「ふふふ。神族だけが保有することを許される『神眼』のスキルを保持するアタシにかかれば何でもお見通しよ。
パンツの色は白なのね。同じ女性としてアドバイスすると、もう少し色気のある下着を身に着けた方がいいわよ?」
「ストップです! 信じます! 信じますからぁ! それ以上、ソータさんの前で自分の情報を話さないで欲しいッス!」
「…………」
シエルは涙目になりながらも全力でアフロディーテの口を封じにかかる。
「つーか、お前。地上に降りて来た時にかかった『呪い』の効果で有効なスキルは使えなかったんじゃなかったのかよ」
「ふふふ。たしかに言ったわ。けれども、こうも言ったでしょ? カプセルボールのヒーリング効果は『呪い』を癒す力があるのよ。実を言うと、この神眼のスキルはさっき戻ったばかりなのよね~」
ぐぬぬ!
スリーサイズに加えて、相手のパンツの色すらも見抜く《神眼》のスキル。
なんて羨まし過ぎる能力なのだろう。
「神眼のスキルはソータの持っている《鑑定眼》を強化した感じの効果を持っているの。
もしアタシのスキルを使いたくなったら、『アフロディーテ様。どうかその力を貸して下さい』と頼みながらアタシの靴の裏をペロペロ舐めるのなら考えてあげないこともないわよ?」
「……そうか。まあ機会があったらな」
クソッ!
本音を言うと今すぐにアフロディーテの前で土下座をしたい。
そして是非とも街を歩く美少女たちのパンツの色を片っ端から教えて欲しい。
けれども。
そんなことを頼めば、周囲の女性陣からドン引きされる未来が目に見えている。
「……ご主人さま。ちなみに私のパンツは黒ですよ?」
神眼のスキルが羨まし過ぎて嫉妬で狂いそうになったところ――。
気を効かせたキャロライナが後でこっそりと、パンツの色を教えてくれた。
彼女の優しさに助けられた俺は、なんとか一線を踏みとどまるのであった。
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