ラッセンの依頼

「おお～！　お久しぶりです。ラッセンさん！」


　ラッセンの姿を目にした悠斗のテンションは、瞬く間の内に回復していく。
　悠斗にとってラッセンの存在は、魅力的な異性であると同時に頼れる先輩冒険者だったのである。


「ギルドの中は見ての通り。ごらんの有様さ。キミのお眼鏡にかなう仕事はもうこのギルドの中には残っていないだろうね」


　それから。
　ラッセンはここ最近で起きた情勢の変化を事細かに説明してくれた。

　邪神の力を宿したブレイクモンスターの出現は、エクスペインの街に計り知れない影響を与えていた。

　ブレイクモンスターの出現エリアは、完全にランダムであり、出現する場所を選ばない。

　今から１０日ほど前の話である。
　駆け出しの冒険者が好んで通っていた初心者用のエリアに立て続けに出現した際には、多くの犠牲者を出すことになり――。

　結果、死の恐怖に駆られた冒険者たちが続々と休業に追いやられることになったらしい。


「まったく、何時になったらこの騒ぎは収まるのやら。現在、政府はブレイクモンスターの対策会議を開いているようだが、ギルドの機能が回復するのはまだまだ先の話になるだろうね」

「…………」


　そこまで聞いたところで悠斗は、拭い切れない不吉な予感を抱くことになった。

　果たして、この騒動が『終わり』を迎える日は来るのだろうか？

　もし仮に――。
　今までの騒動がこれから訪れる『最悪』の入口に過ぎないのだとしたら？

　ただただ、この世界で気楽に暮らしたい悠斗にとっては、新しい悩みの種となりそうであった。

　だがしかし。
　これ以上、『起こるかもしれない未来』に思考を巡らせていても仕方のないものがある。

　そう判断した悠斗は、思い切って話題の転換を図ることにした。


「それでラッセンさん。今日はどんな依頼を俺に？」

「ふふふ。流石はユート君だ。話が早い」


　持つべきものは顔の広い先輩である。
　ラッセンの持ってくる仕事には度々、煮え湯を飲まされてきた悠斗であったが、それ以上に魅力的なリターンを期待できるものが多かった。


「アタシの人脈とキミの腕力が合わされば、きっと最高の仕事ができるはずさ！」


　キラキラと目を￥マークに変えながらもラッセンは悠斗の肩をポンと叩く。

　どちらにせよ、親しくしている先輩冒険者からの依頼を無下にするのは難しい。

　こうして悠斗はラッセンから新しい仕事の詳細を聞いてみることにした。