異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

戦争の予感



 耳を澄ませば小鳥たちの囀る声が窓の外から聞こえてくる。

 それから。
 悠斗、スピカ、シルフィア、リリナ、サーニャという何時ものメンバーにサクラを加えた6人で朝食のテーブルに着くことになった。


「えっ。それじゃあ、サクラさんも昔、宿屋で働いていたことがあったんですか!?」

「はい。その辺の境遇はスピカさんと重なっていますよ。ルーゲンベルクの家でメイドとして働くためには、様々なスキルを身に着けておく必要がありましたからね。宿屋での仕事は修行の一環です」

「ふにゅ~。今日のジュースもパナいのです! おかわり!」

「サーニャさん。よろしければワタシが注ぎに行きますよ」


 悠斗にとって予想外のことであったたが、サクラは他の女子メンバーたちとの関係を無難に構築しているようだった。

 どうやらサクラの当たりが強くなるのは、基本的には悠斗に対してだけらしい。

 それ以外の人間と接する時は器用な立ち回りを見せており、サクラは瞬く間の内に他の女子メンバーの信頼を獲得していくことになった。


 ピチピジョン 脅威LV 1


 サクラが空になったグラスにジュースを注ぎ行こうとした直後だった。
 リビングの窓ガラス越しに見覚えのあるモンスターのシルエットが浮かび上がる。


「大丈夫です。ワタシが取りに行きますよ」


 この世界においてピチピジョンは、伝書鳩のような役割を果たしている。
 モンスターと心を通わせる《懐柔》のスキルがなくても手懐けることが可能なピチピジョンは、古来より人間にとって有益なモンスターとして、その名を知られていた。

 持っていたジュースをサーニャに手渡したサクラは、そのまま窓ガラスに向かって近づいていく。


「――――ッ!?」


 手紙を受け取ってからというものサクラの様子はおかしかった。

 先程までの和やかな雰囲気から一転。
 顔色を蒼白にしたサクラは小刻みに手足を震わせていた。


「……ん。どうかしたのか? サクラ?」


 不審に思ったシルフィアが内容を確認するが、驚いたことに手紙の中には白い紙が1枚挟まれているだけであり、内容を確認することができない。

 実のところこの手紙には、魔法を用いた隠し文字が使われており、政府の関係者以外は内容を見ることができない仕組みとなっていたのである。


「……お嬢さま。やはり今すぐにルーメルに帰りましょう」


 手紙の内容に目を通したサクラは、表情に影を落としながらもシルフィアに向かって提案する。


「くどいぞ。私は国に帰る気などサラサラないと言っているだろう」

「僭越ながらもそのセリフ……。これからルーメルで戦争が始まるのだとしても同じことが言えるでしょうか?」


 戦争という言葉を聞いた次の瞬間――。
 シルフィアの表情は途端に青ざめたものになっていく。

 気心の知れた仲間。最愛の家族。無二の親友。
 かつてルーメルで起きった戦争はシルフィカから多くの大切なものを奪って行った。


「シルフィアさん! 大丈夫ですか!?」


 心配して声をかけるスピカの声が次第に遠く聞こえていく。
 過去のトラウマをフラッシュバックさせたシルフィアの意識は、ゆっくりと暗転していくことになるのだった。


 ~~~~~~~~~~~~


 シルフィアを部屋に運んでからというもの1時間の時が過ぎた。


「……どういうことなんだ。戦争が起きるって」


 カチカチと時計が針を刻む音が部屋の中に流れている。
 シルフィアの容態が安定してきたタイミングを見計らって悠斗は、サクラから詳しい事情を聞くことにした。


「言葉の通りですよ。ルーメルの街では最近、ロードランドからの解放を目指す反乱軍が発足しているのです。
 このまま何も手を打たなければ反乱軍と政府が衝突することは必至。戦争は避けられないというわけです」


 その時、悠斗の脳裏に過ったのは昨日の夜にサクラから聞いた台詞であった。


『けれども、事情が変わりました。ルーメルの国は、お嬢さまの力に頼らなければならない状況に陥ってしまったのです』


 今にして考えてみるとサクラの言っていた『事情』というのは、『戦争』が起こるかもしれないという意味だったのだろう。

 それ以外にシルフィアが必要となるような事情を見つけることはできなかった。


「シルフィアを戦争に巻き込もうって言うのか?」

「……否定はできません。けれども、もしも戦争を止められる可能性があるのだとしたら……それはお嬢さまだけなのです」


 それからサクラは悠斗に対してルーメルの国を取り巻く事情を事細かく説明した。
 ルーメルの反乱軍のリーダーを務めるリズベルという女性は、先のロードランドとの戦争で女性騎士である。

 高潔でいて他者と関わることに対して消極的な、リズベルは政府との交渉の場に立とうとしない。
そこで白羽の矢が立ったのがシルフィアであった。

 リズベルは長年、剣の稽古をつけていたこともあって、唯一シルフィアに対してだけは心を許していたのである。


「……先程の手紙は部下からの報告がありました。反乱軍の動き活発化しているようです。おそらくこのまま何も手を打たなければ今後、数カ月の内に政府と反乱軍は戦争になるでしょう」


 悠斗は迷っていた。
 本音を言うとシルフィアを厄介事に巻き込みたくはないのだが、無理に家の中に留めておくのも気が引ける。

 何よりも奴隷の女の子たちの自主性を重んじるのが、悠斗の基本的なスタンスだったのである。


「……主君。行かせてくれ」


 もしかしたらそんな悠斗の迷いに気付いていたのかもしれない。
 目を覚ましたシルフィアはハッキリとそんな言葉を口にした。


「お嬢さま。よろしいのですか?」

「ああ。もちろん主君の許可が前提だが……。今回の騒動に先生が絡んでいるとは思ってもみなかった。私にとってはこれがルーメルに残った最後の未練になるだろう」


 シルフィアにとっては幼き日から剣の師匠として傍にいたリズベルは、家族も同然の存在であった。
師匠の暴走を止めるのが弟子の務め。

 故郷に残した恩師に対する想いが、シルフィアに重い腰を上げさせたのだった。


「分かった。ただし、シルフィアにばかり危険な目に合わせるわけにはいかない。俺も着いて行くのが条件だ」


 薄々とこうなるような予感はしていた。
 サクラがシルフィアのことを連れ戻しに来た時点で、おそらく運命は決まっていたのだろう。


「主君……! 恩に着る。この借りは必ず……!」


 悠斗の言葉を受けたシルフィアは、神妙な面持ちで頭を下げる。

 たまには王都から遠く離れた場所に遠征してみるのも悪くはない。
 自分が傍にいて目を離さなければ、シルフィアの身の安全はある程度保障されることになるだろう。

 こうして悠斗はシルフィアの故郷であるルーメルを目指すことを決意するのだった。

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