異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

新しい日常



 とある日の朝。
 窓の外から入ったうららかな日差しが、ベッドの上にいる1人の少年と2人の少女の顔を照らし出していた。

 少年の名前は近衛悠斗。
 つい先日まで、現代日本で暮らしていたごくごく普通の高校生である。

 悠斗は布団を捲り上げて、状態を起こすと両隣にいるネグリジェ姿の少女の方に目を向ける。

 右隣で寝ているのは犬耳の少女、スピカ。
 左隣で寝ているのは孤高の女騎士、シルフィア。

 昨晩は遅くまで魔法の訓練に付き合わせてしまったからだろう。

 スピカとシルフィアは主が起きたことに気付かずに熟睡していた。

(そろそろ起きる時間だけど。もう少しだけ……この幸せを味わっておくか)

 悠斗は両手を使いスピカとシルフィアを抱き寄せながらも、二度寝をすることを決意する。

 庭の木に止まった小鳥たちは、仲睦ましい様子でチュンチュンとさえずっていた。


 ~~~~~~~~~~~~


「お! ユート。やっと起きたのか」

「おはよう、なのです。お兄ちゃん」

 階段を降りて、1階の居間に脚を運ぶとそこには、既に見覚えのある猫耳の姉妹がいた。

 キッチンに入り朝食の準備をしているポニーテールの少女が、リリナ・フォレスティ。

 姉から受け取った料理をテーブルの上に運ぶツインテールの少女が、サーニャ・フォレスティ。

 つい先日。
 悠斗はこのケットシーの姉妹を屋敷の使用人として雇ったばかりであった。

「ユート。起きるのが遅いから先に料理の準備を始めちまったが、構わなかったか?」

「ああ。何も問題ないよ。ありがとう。さっそく熱心に仕事をしてくれているみたいだな」

「へへっ。良いってことよ。家事のことなら何でもオレに任せてくれ!」

 悠斗に褒められたリリナは、照れくさそうに頬を掻く。

 リリナ・フォレスティは男勝りな口調に似合わず、料理を始めとする家事スキルに優れた少女であった。

「そう言ってくれると心強いよ。どういう訳かウチの女性陣は、壊滅的に料理がダメダメだったからな……」

 悠斗が白い眼差しを送るとスピカ&シルフィアは、しどろもどろになる。

「ぬぅっ。悠斗殿。そのような目で見てくれるな! 騎士である私に女中の真似事など出来るはずがないだろうっ!」

「うぅっ。申し訳ありません。宿屋で働いていたころ、料理はずっと女将さんの仕事だったのです……」

 外見だけなら非の打ちどころのない美少女と言える初期メンバーの二人だが、意外なことに彼女たちの女子力は低かった。

 その代わり運動能力は異様に高いようで、冒険時には悠斗の陰で八面六臂の活躍を見せている。

(……まぁ、リリナのこともあるし、人は見かけによらないということなのだろう)

 悠斗は適当にそう結論付けると、朝食の並んだテーブルの席に腰を下ろすことにした。

「それで、ご主人さま。本日の予定は如何なされますか?」

 それから。
 悠斗、スピカ、シルフィア、リリナ、サーニャの5人は朝食のテーブルを囲んで本日の予定について話し合っていた。

「そうだな。特に何もなければ、討伐クエストに行こうかと考えているんだが。何か用事のある奴はいるか?」

「なあ。ユート。大した用でもないんだけど、オレから1つ提案しても良いか?」

 悠斗が尋ねると、リリナは遠慮がちに声を上げる。

「ああ。何でも言ってくれ」

「市場に行って色々と買い足したい食材があるんだ。今朝、初めてこの家の食糧庫の中を見たんだが。なんというか、その……」

「確かに。ウチの食糧庫にはロクなものが入っていないからな……」

 今まではどうせ料理をする人間がいないからと、即席で食べることの出来る、乾パンや干し肉などの保存の利く食材ばかりを購入していた。

 せっかく立派な食糧庫があるのに宝の持ち腐れという感じである。

 けれども、せっかく優秀な家政婦を雇ったのだ。
 これからは積極的に食糧事情を改善して行くべきだろう。

「よし。分かった。なら今日は俺とリリナの二人で市場に行くことにしよう」

「……ふ、二人でか!?」

「ああ。そのつもりだったんだが、もしかして嫌だったか?」

 悠斗がリリナと二人で出かけることを決めた理由は、あまりゾロゾロと女の子を連れて街の中を歩くべきではないと考えていたからだ。

 何か直接的に損をするというわけではないのだが、可能な限り悪目立ちをするような行動は控えた方が良いだろう。

「べ、別に。嫌というわけじゃないんだが」

「お姉ちゃんとお兄ちゃんが二人でお出かけ! それってなんだかデートみた……」

「シャラップ!」

「ふにゅ~。ふぐぐぐ!」

 サーニャが何かを言いかける寸前。
 リリナは妹の口の中にテーブルの上のパンを突っ込んだ。

「? どうしたんだ。リリナ」

「いやいや。何でもないんだ! ユートは気にしないでくれ!」

 妹の体を羽交い絞めにしながらもリリナは不自然な作り笑いを浮かべる。


(デート。オレとユートが二人きりでデートか……)


 火が出るように顔が熱い。
 なるべく意識しないようにしていたのだが、妹の発言により自然と悠斗のことを考えてしまう。

 リリナにとって悠斗は、自らの主人であり、命の恩人であり、初めて憧れを抱いた異性であったのだ。

 それからというもの――。
 リリナは暫く、緊張で味のしなくなったトーストをモグモグと口の中に運ぶことになるのであった。



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