失恋物語《ストラテジー》

美浜

第3話  幼なじみとの登校

〈翌日の朝〉


 俺たちは互いに無言のまま、通学路を歩いている。
 普段より早い時間に寮を出たために、通りに人影はなく、逃げ場のない濃密な静寂が広がっていた。

 この学校は希望すれば寮に入ることができる。
 俺と詩織の実家は学校から遠く離れた田舎なので、どちらも寮に入ることを希望した。

 男子寮と女子寮は別々に別れていて、最初から一緒になれるわけではないけど、途中で会うこともよくある話。

 そういうわけで俺は偶然・・出会った詩織と一緒に登校している。


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 私達はお互いに無言で歩いている。

 昨日のことでちょっと気まずくて、なかなか話しかけられていない。 

 じゃあなんで一緒に歩いているかというと、偶然・・出会ったからだ。

(ほ、本当だからね? 別に優人と一緒に登校したくて朝早くに起きてずっと待ってたとかそんなことはないからね?)

 
「うぅぅ~~」

 
 頬が熱くなるのを感じて思わず顔を隠してしまう。
 いけない、いけない。

 ダメよ詩織
 この感情はもうとっくに割り切ったはず。

 でも、最近の私はどこかおかしい。
 今までは気にしていなかった、優人の告白の返事が気になるようになってきた。

 それで、断ったことを知ると嬉しくなっている自分がいる。

 あのとき・・・・のことがあって以来、心の奥底に押し込んでいた気持ちが、今になって再熱し始めているのだ。

 なんでなのかはわからない。
 それでも、高校2年生となった今、私は再び優人に対して恋心を抱くようになってしまった。


 でも......


 絶対にこの気持ちを表に出してはいけない。
 優人に悟られてはいけない。
 だってこれが私が見つけた優人の側にいられる唯一の方法なんだもの。


「んっ? どうしたんだ? 熱でもあるのか? 顔が赤いぞ」


 思わず考え込んでしまっていた。

 グッと、優人の顔が近づいてくる。
 これじゃあ、私の体温が上がってしまうのはしょうがない。 
 

「ち、ちち違うわよ! これはあれよ。イチゴのジャムがほっぺに付いてるだけよ!」


 我ながらにひどい。
 苦し紛れの言い訳でももっとましなのはなかったのかしら。
 でも、朝ごはんにイチゴジャムをつけたトーストを食べたのは事実なのよね。


「いや、拭けよ。······やっぱり熱があるんじゃないのか?」


 冷静なツッコミの後に、また顔を近づけてくる。


「だから違うって言ってるでしょ! わっ、顔近づけるな! 恥ずか嬉しくて、嬉しくなっちゃうじゃない!」

「嬉しい······のか?」

「はっ! ち、違うわよ! 優人の顔って格好いいよな·····とかそんなこと思ってないからね!」


 いけない!
 つい、本音が漏れてしまった。
 でも、鈍感主人公野郎の優人は微塵も気づいてないわよね?


「はいはい、ありがとな」


 なんともあっけない返事。
 なんかこう、もっと違う反応とかないのかしら?
 例えば·········


『か、かっこいい? お世辞なんか入らねえよ』

『お世辞なんかじゃないわ。私は本当に優人のことを······』 

『詩織······』

『優人······』


 そこで二人の距離がだんだんと縮まって......

 きゃー(≧▽≦) 
 なに考えてるの私。
 なんかキュンときたけど。


「大丈夫か?」


 妄想の世界に入っていて、周りのことが見えていなかった。


「だ、大丈夫よ。別に優人とキスする妄想なんかしてないんだからね!」 


 私は恥ずかしくてつい、小走りになった。


「んっ?? あ、ストップ! 詩織、前、前!」

「えっ?」


 言われた通りに前を見たけど間に合わなかった。

 ゴツン! と電柱に思い切りぶつかってしまう。


「いったー!?」

「大丈夫か!?」


 優人が駆け寄ってくれる。
 ちゃんと私のことを心配してくれるなんて、優人ってやっぱり優しいわね。

 そこでふと思い付いた。
 なんとなく、さっきの醜態の意越返しいしゅがえしをしたくなった。


「優人·········私、もうダメみたい......」

「下らないことやってるんじゃねえよ。
立てるか?」


 私の渾身の演技は一発で見破られてしまった。

  
「あっ」


 そういえば今日はあの事を伝えるために待ってたんだ。


「ところで話が変わるんだけどさ」


 一息ついたところで今日のメインを話始める。


「よっと······。 実は後輩に私の知り合いがいるんだけどね、その子が優人に会いたいって言うのよ」
 

 優人の手を借りて立ち上がりながら、昨日のことを話した。


「本当に話が変わったな······で、告白なのか?」 


 妙に視線をそらしながら話しているけど、なにかあったのかしら。


「告白······そうね、そんな感じじゃないかしら?」


 ルナのあれは告白ではない気がするけど、広い意味ではあれも一種の告白だと思う。


「曖昧だな」

「会えば分かるわよ」

「そうか···今日の放課後でいいか?」

「ええ、大丈夫なはずよ。後で伝えておくわ」

「了解。そうだ、保健室行くか? 女の子なんだから、痕が残ったりしたら嫌だろ?」

「えっ? それくらいいいわよ。問題ないわ」

「そうか? じゃあ、ジャムでも拭いてやろうか?」

「んーーー! い、いいわよ、自分で拭く!」


 ハンカチを出して頬を拭くフリをする。

 優人に拭いてもらえば、また顔を近づけれるかな、と思ったのは秘密だ。

 だから少し長い間、顔を隠すように頬を拭くフリをしていた。





〈優人〉


(詩織が転んだ時にパンツが見えたとか言ったらやっぱり怒られるよな...)


 うん、黙っておこう。

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