強大すぎる死神は静かに暮らしたい

犬飼ゆかり

死神は魔王と戦う


魔族の土地は荒れて枯れて果てている
可哀想と思われて殺される為に造られた生き物達

魔族

そしてそれを統べる魔王

魔族の国に入る前に向こうから転移魔法によって魔王城まで連れていかれた
魔王は転移魔法を使えるほどに強いらしい

転移されたと気付いた勇者が確認する

「お、お前が魔王か…」

目の前には僕達に背を向けている女の人がいる

後ろ姿で分かる、僕をここに連れてきた意味が
神のしたかった事が、魔王の正体が







血の匂いは何時だって吐き気催す

「ねえサフィア、僕は何をしている?」

血塗れの僕が勇者に問う

「魔王を殺した…ラトさんが…」

「そうだ、僕は魔王を殺した、神に従ってね」

勇者が唇を噛む

「でも」

「でも、じゃないさ、魔王を殺したんだ、僕は」

勇者は僕の為に涙を頬に見せてくれる

「こんなの、神のする事じゃないよ…」

「勇者はそう想うからこそ、勇者なんだよ」







魔王はこちらへ振り返る
勇者ちゃんが緊張の汗を垂らす

ああ、やっぱり
そんな感想しか出ない

長い赤髪に紅い眼、いつも見てた、見てきた
懐かしい雰囲気、魂の色、響き

同じだ

「余はアリス、勇者を殺す為に、世界を魔で染めるために、余は生まれた」

同じだ、名前までもが

「余はアリス、魔の王であり、道化者だ」

魔王は自己紹介を終えると瞬間的に距離を詰めてきた

勇者が聖剣を振るいそれを阻止する

「ラトさん!どうしたの!?しっかりしてよ!」

その言葉に僕は気付く
ああ、ここは戦場だったね

「じゃあ勇者ちゃん、交代ね」

僕は軽く魔力を練って飛ばす

「ッ!!」

右腕が吹き飛び魔王が苦悶の顔を浮かべる

「ねえアリス、覚えてる?、いや、覚えてないよね、だって『知恵』は僕が『持ってる』もんね」

「チッ、腕を片方奪ったとていい気になるな!」

確かにね、魔王の魔法は強力だ
勇者ならまともに食らえば死ぬくらいには
しかし彼女の魔法は闇じゃない、光だ
そこに僕は納得しかない、故に

「知ってるよ、その魔法、腕を生やす魔法だ、ガリウに使った時は吃驚したよ、あはは」

「…何を言っている…!」

続けて飛んでくる光の弾を手を払って消す

「それも知ってる、魔王の右腕ヘルムにトドメを刺した魔法だ、あいつの闇の結界を突破できるのは君の魔法だけだった、あはは」

「貴様!何者なんだ!勇者より強いではないか!」

「僕は勇者だよ、あれ?死神だった、違う勇者だよ、僕は勇者ライト」

あ、もしかして、箱が、開いてる?、いや、ここで箱が開くのは最適だろう

「神よ、魔の王に相応しきつるぎを今此処に」

「神よ、いさましき者に相応しきつるぎを今此処に」

これは聖剣を呼び出す時の詠唱だ
魔王にもあるらしい、魔剣召喚魔法?

「アリス、君に剣は似合わないよ」

「うるさい!私は剣を握り!民の前に立ち!闘い!勝ち取るために生まれてきた!」

とても被る、あの時の君と

でも、もういい

今は幸せだけど

次は殺し合いで

その後は憂鬱だ

大切な人を死なす時は何時だってそうだ

「アリス、此処に生まれたのは僕のせいだ、ごめんね」

「何を謝っている!まだ戦いは終わっていない!」

いいや終わっているさ、この世界は神が作ったんだ
魔族やられ役は負けるのが仕事だ

聖剣を振るう

魔剣が応える

だけど僕の魔力を灯した聖剣は容易く魔剣を断ち切る
魔剣の先にあるモノも断ち切る
ゴトッと重い物が落ちる音がする
バタッと生き物が倒れる音がする

ソコは斬りやすいんだ、細いし、斬れば確実に死ぬ
重いソレを拾う、ああ、髪まで切ってしまったね、悪い事をした

僕はソレを抱きしめる
勇者の箱が開いてるからね
仕方が無いんだ、涙が止まらないのは

僕は勇者の箱を閉じる

最後に勇者の箱がちゃんと閉じているか確認をする


「ねえ、サフィア、僕は何をしている?」

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