怠惰の主

足立韋護

礎の上

 マニュアルに目を通すことに躍起にやり過ぎてしまい、気がつけばあれよあれよと言う間に、他の生徒らが乗っているであろうマキナらとコロシアムに立っていた。前進と旋回の操作だけなんとか付け焼き刃で覚えたが、これではまさにゴキブリのそれである。

 この多種多様なマキナの形状は、選定に何か基準があるのだろうか。であればイクリプスはつまるところ、この時代にカサカサと侵入した害虫という意味が込められていそうなものだ。
 そんな下らない卑屈を並べているうちに、見覚えのあるマキナが目の前で静かに降り立った。郡山のマキナ、グロリアであった。

 突如、コックピットに郡山の顔面が映し出された。気づいてなかろうと指で小突いてやったら「創ちゃん、授業中!」とむくれてきた。全員の姿が見えているのか。

「みんな、特殊戦技の授業だよ。予習復習はしてきたね? 一昨日は僕との、いわゆるサシを体験してもらったけれど、そこでのフィードバックはしっかり見ているからね」

 郡山の実力はいかほどのものなのだろうか。というよりまずは、マキナ同士の戦闘の感覚がわからん。どんな感じなのだろうか。ロボアニメで見るような、人間のように動く、というわけにもいかんだろうし。なにより今の俺は、前進と旋回しかできないゴキブリ走行なのだ。素直にやられて負けにでもしておこう。

「今日は生徒同士で戦ってもらうよ。相手を殺めない程度なら、いくらでもやっちゃって構わないからね」

 その後、クラスメイトが二名ずつ読み上げられ、そいつと戦うことになった。対戦相手との回線がオンになった。俺の相手は────

五条ごじょうだ。よろしく頼む、編入生」

「あ、ああ、よろしく」

 堂前とは真逆の、黒縁メガネをかけた優等生がそこにはいた。堂前のように髪は染めておらず、黒く短くしている。その端整な顔立ちの爽やかな雰囲気は、男でも緊張してしまいそうである。
 やはりエリート校なだけあって、カースト上位に君臨する猛者だけが登場してしまう故に対比として俺が見劣りしてしまうことになる。迷惑極まりない話だ。
 あと爽やかな視線を俺に送り続けるな。気色悪い。

「では今日のステージは────ここだ!」

 郡山が景気良く言い放つと、白い空間の床からみるみるうちにビルや交差点が生えてきた。
 驚いた。まるでこの空間だけが市街にいるようである。他のマキナが生えきったビルに触れると、ビルの一部が欠け、地面へと落下した。

「創ちゃんもいるから復習するね。これは通称、RMP。リアルマテリアルプロジェクターだよ。映像を映し出すだけだった以前の技術から更に発展。あらかじめ設定した映像の、物質自体を作り出すことができるんだ。ここテスト出るからね、気をつけるんだよ〜」

 マキナもそうだが、これが日本の未来なのだとすれば、俺の時代で皆が足掻きながらもやっていることは、無駄にはなっていないのかもしれない、そんな不思議な感覚に襲われた。

「じゃあまず一戦目は、五条アンド創ちゃんペアの対戦。両者前へ!」

「な、に……?」

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