怠惰の主
マキナ:イクリプス
堂前と他愛もない話をしているうちに正午を過ぎた。彼らはこんなのびのびとした学生生活で良いのだろうか。
堂前に郡山との約束がある旨を伝えて別れ、教室へと急ぎ足で向かった。教室に入ると、そこには郡山一人が窓から外を眺めていた。郡山がこちらに気付くと、楽しげに歩み寄ってきた。
「さあ行くよ」
「一体どこへ」
「格納庫さ」
────連れられてきたのは、コロシアムに隣接している建物であった。
中に入ってみるも事務所や部屋があるのみで、何か格納されている様子はない。郡山と迷路のように入り組んだ廊下を抜け、いくつもあるエレベーターの一つへと乗り込んだ。
「格納庫は地下にあるのか」
「その通り」
エレベーターが開いた先は、巨大な空間が広がっていた。灰黒く、まるで建設現場のように様々な足場が組まれていた。その両端には多種多様なマキナが等間隔に並べられている。数え切れないほどの作業員達が右から左から行き交っている。
よく見ると、マキナ胸部のコックピットに学生が乗り込んでおり、何やら作業員らと何か相談をしているようであった。
「あれは自分のマキナの担当者と、マキナの動きの具合とか調整をしているんだよ」
「そんなことまで……」
至極面倒である。せめて自分のマキナだけでもメンテナンスフリーになってもらいたいものだ。
「そしてあれが、創ちゃんのマキナ、『イクリプス』だよ」
「俺の、マキナ」
その機体は、周囲の光を吸収するように見えるほど、漆黒の塗装に覆われたものであった。ただ、郡山のグロリアのように、光輪がついているわけでもなく、ただただ黒いだけである。イクリプス専属の担当者と共にイクリプスのコックピットへと足を運んだ。
輝きのない人生を送ってきたつもりだったが、今は少しだけ、緊張と言いようのない高揚感に見舞われている。やはりロボットは男の子の夢なのである。
ところでどうやって動かすんだ。
「まさか……お前さんマキナの扱い方を知らないのか」
コックピット内であたふたしている俺を見た担当者のオヤジは目を丸くし、困ったようにして郡山に視線をやった。郡山はオヤジに頷くのみである。
オヤジは深々とため息をつきながら、俺に画面つきの端末を手渡してきた。そこに表示されていたのは、およそマキナの操縦マニュアルと思しき内容であった。画面はびっしりと文字と図で埋められている。
ふと画面をスライドしてみると、同じような画面が画面横から現れた。
「これ見て勉強せい」
「これ何ページ分あるんだ」
「五百ページだ」
「ご、ごひゃ!」
嘘だろう。このデカブツゴキブリメカを動かすのにそんな知識量がいるのか。それに画面の言葉は、言語こそ分かるものの意味不明な単語ばかりが並べられている。
訛りのひどい地方に迷い込んでしまったような、古文の時代にタイムスリップしたような、そんな不安なことこの上ないスタートを切ったのである。
堂前に郡山との約束がある旨を伝えて別れ、教室へと急ぎ足で向かった。教室に入ると、そこには郡山一人が窓から外を眺めていた。郡山がこちらに気付くと、楽しげに歩み寄ってきた。
「さあ行くよ」
「一体どこへ」
「格納庫さ」
────連れられてきたのは、コロシアムに隣接している建物であった。
中に入ってみるも事務所や部屋があるのみで、何か格納されている様子はない。郡山と迷路のように入り組んだ廊下を抜け、いくつもあるエレベーターの一つへと乗り込んだ。
「格納庫は地下にあるのか」
「その通り」
エレベーターが開いた先は、巨大な空間が広がっていた。灰黒く、まるで建設現場のように様々な足場が組まれていた。その両端には多種多様なマキナが等間隔に並べられている。数え切れないほどの作業員達が右から左から行き交っている。
よく見ると、マキナ胸部のコックピットに学生が乗り込んでおり、何やら作業員らと何か相談をしているようであった。
「あれは自分のマキナの担当者と、マキナの動きの具合とか調整をしているんだよ」
「そんなことまで……」
至極面倒である。せめて自分のマキナだけでもメンテナンスフリーになってもらいたいものだ。
「そしてあれが、創ちゃんのマキナ、『イクリプス』だよ」
「俺の、マキナ」
その機体は、周囲の光を吸収するように見えるほど、漆黒の塗装に覆われたものであった。ただ、郡山のグロリアのように、光輪がついているわけでもなく、ただただ黒いだけである。イクリプス専属の担当者と共にイクリプスのコックピットへと足を運んだ。
輝きのない人生を送ってきたつもりだったが、今は少しだけ、緊張と言いようのない高揚感に見舞われている。やはりロボットは男の子の夢なのである。
ところでどうやって動かすんだ。
「まさか……お前さんマキナの扱い方を知らないのか」
コックピット内であたふたしている俺を見た担当者のオヤジは目を丸くし、困ったようにして郡山に視線をやった。郡山はオヤジに頷くのみである。
オヤジは深々とため息をつきながら、俺に画面つきの端末を手渡してきた。そこに表示されていたのは、およそマキナの操縦マニュアルと思しき内容であった。画面はびっしりと文字と図で埋められている。
ふと画面をスライドしてみると、同じような画面が画面横から現れた。
「これ見て勉強せい」
「これ何ページ分あるんだ」
「五百ページだ」
「ご、ごひゃ!」
嘘だろう。このデカブツゴキブリメカを動かすのにそんな知識量がいるのか。それに画面の言葉は、言語こそ分かるものの意味不明な単語ばかりが並べられている。
訛りのひどい地方に迷い込んでしまったような、古文の時代にタイムスリップしたような、そんな不安なことこの上ないスタートを切ったのである。
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